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幼馴染は夢を見る。  作者: 甲光一念
プロローグ
4/5

4、心に刺さる

 有言実行とは私のためにある言葉だ。学校の最寄り駅から家の最寄り駅まで何事もなく戻ってきた私はそう思う。確かに学校の近くの方が告白に適したスポットは山のようにあるが、色々考えた結果、私が告白をそこまで極彩色に彩る必要はないのではないかと思った。思い出というのは勝手に色付くものだ。それが本当に大事な記憶ならば、ゴテゴテと飾り立てる必要はない。


 私たちは騒がしいのが好きな性格ではない。ならばこそ、ここで重要視すべきはむしろ静けさ。いかに静かな環境で想いを伝え、それを聞き逃させないようにするか。漫画の難聴系主人公ではないが、聞こえなかったからもう一回告白するというのは可能な限り避けたい事態だ。逃げ場をなくす。退路を断つ。私だけでなく、夜色の方も。有耶無耶にさせないのが最も優先すべき事項。


 はいかいいえ以外の返事は求めていない。長引かせる余裕などない。隣の改札から出る夜色をどの方向に誘導すべきは、もう電車の中、夜色の隣に座っている時に決めた。後は適当な会話で夜色とそこに向かい、そして――告白する。まさか今から告白されるだなんて思ってもいないんだろう夜色は、横目で見られていたことに気付いたらしく私の方に首ごと顔を向ける。


「……なんでさっきから俺の方チラチラ見てんの?」


「あれ、気付いてたの? 何の反応も無いからてっきり目が前しか向いてないのかと思ってた」


 目が前しか向いてないって何だろう。そりゃ目は前しか向いてないだろうよ。下手に今後の予定を頭の中で決め込んだせいで不測の事態に混乱しすぎている。今朝から常時足下がふわふわしているせいでもう夜色の私を見る目が過去に見たことがないほど怪訝なものになっている。思い返せば私が最後に体調を崩したのは一体いつになるのか。


「普段なんかあったら正面から取り繕わずに言ってくる奴が目線だけこっち向けてんだから気になるに決まってんだろ。やっぱ朝からなんか変だぞ? 風邪か?」


「うーん……、本当はもうちょっと私が作った流れで言うつもりだったんだけど、まいっか。夜色今から暇? ちょっと私事に付き合ってくれない?」


 もうこうなったら下手に言葉をこねくり回すよりも素直に誘ってしまった方が手っ取り早い。というか、もう一回仕切り直しとか御免だ。夜色に心配されるというのも悪くない、というか快いけれど、これ以上に具合が悪い説の信憑性を深めて、帰宅を促されても困る。表情だけならば取り繕えている自信があるので、もう勢いで畳みかけるしかない。


「……寄り道したくて朝からなんか変だったのか? まさかお前、俺になんか奢らせようってつもりじゃないだろうな。金なら無いからな」


「そんな最悪な誘い方あるわけないでしょ。ていうかそこまで警戒されるほど奢らせた記憶ないけど。大体いっつも合意の上でのじゃんけんじゃん」


 私がそう言うと夜色の顔が露骨に顰められる。そんな顔をされても。私の独断でごちそうになりますなんて言い逃げした覚えはないし、当然私も五分のリスクを背負っているのだ。負けが込んでいるからってそんな恨みがましそうに見られても困る。とは言え改めて思い返せば、好感など抱かれようもないくらいに勝敗が決まった後には容赦の欠片も無かった気はするけど。


「お前のじゃんけんの勝率が異常なんだよ。なんで俺八割方負けんだよ。そこまでわかりやすい表情筋じゃないつもりなんだけど」


「しょうがないじゃん。だって私、神様に愛されてるし。絶対に勝ち負けが決まる二分の一程度の賭け、勝てないようなら神様に勝ちなんて無いね。紙様だね。いや、紙にしか出来ないこともたくさんあるけど」


「誰への言い訳だ。……怪しげなぼったくり店とかに連れてったら恨むからな」


「逆に何で私そこまで警戒されてんの? そんな悪質な騙し討ちしたことないよね?」


「いや、珍しく丁寧に頼み事されたから逆に怪しくて。いつももっと横暴じゃん」


「むかつく疑われ方だなー……。とにかくついてきて。そんなに遠くないから」


 まさか告白に適した場所に誘おうとしたら、犯罪の片棒を担ぐ気なんじゃないかと疑われるとは思わなかった。それでも私が歩き始めればついてきてくれる辺り、保証された最低限の信頼はあるのだろうけど。声色からして、私の言葉を怪しんでいるのは半分ほど本心だろう。それがぼったくりへの疑いなのか、今日の私の様子を見ての疑いなのかはわからないけど、連れ込んでしまえば私の勝ちのようなものだ。


 連れ込むというほど閉鎖的な場所に行くつもりはないが、人気のない場所には行こうとしているのだから夜色の警戒は的中していると言えばしている。最悪、告白をお断りされたらその場で既成事実でも作ってやろうか。いや、やめた方がいいな。むしろそこから徐々に私のことを意識させてお断りしたことを後悔させてというプランを考えておくべきだろう。どうせ私の意気地ではそんなこと不可能なのだから前向きに行け。


 じゃんけんの勝率が偏っているのは、多分私が強いんじゃなくて夜色が弱いんだと思う。七星家の中だとケーキ争奪戦で一番弱いのは私で、お父さん、弧縁、お母さん、という順番が何度じゃんけんしても変わらない不動の順位。弧縁と基本的に好みが似通っている私は、結構長いこと本当に欲しいケーキを食べられた記憶がない。で、そういう皺寄せが付き合わされた夜色に降りかかっている。


 別に四個も五個も食べているわけではないので、私の笑顔を見れたという役得と合わせて相殺してほしい。それを役得だと思える思考があればこうも長いこと私たちの中が停滞することもなかっただろうけど。いや、それを停滞というのは違うかもしれない。無意識のうちではあるが、深化させていたのだと、私は言いたい。

その場から動かなくとも、足元はずぶずぶだったと。言い方悪いな。


「……なあ、こっちって」


「あ、覚えてるんだ。まあ想像通りだと思うけど、とりあえずついてきてよ」


 目的地に二人で最後に訪れたのは何年前だったか。中学生の頃には主な遊び場が家になってしまったこともあって、足が遠くなってしまったけど、それでもたまに一人で見に行っては、まだそこにそれが存在することにノスタルジックな気分になったりもした。


 好奇心に溢れた子供から、恐怖心に負けた大人になったという側面もあったのかもしれないけど、思い返してみれば遊びに行くには確かにリスキーと言うか、当時の私を今の私が見たら、やめておいた方がいいんじゃないと言ってしまうような蛮行ではあった。勇敢と無謀の違いであり、臆病と無知の違い。


 そこから十五分ほど歩いて到着したのは、町外れ、というほどではないが、用が無ければこちらには来ないという程度には縁が無い土地。人気が無く、思い入れという点で告白に適していると思ったのだけど、いざ数年ぶりに来てみると結構圧されるものがある。ここで遊んでいた小学生の時分は本当に怖いもの知らずだ。


「……まだ壊されてないんだな。とっくに更地になってるかと思ってた」


「何回かそういう話もあったみたいだけど、どこからもお金が出なかったらしいよ。老朽化で崩落とかの心配もまだなさそうだし、急ぐ必要もないんでしょ、多分」


 祖杜垣病院跡地。よりおどろおどろしい言い方をすると、廃病院だ。建物の大きさに反比例して敷地面積が広い。手入れが行き届いていた名残か何かなのか、中庭的な広場は今も草の浸食を受けておらず、割れた窓ガラスなどが見えなければギリギリ今も病院として機能しているのではないかと思える。鉄門の蝶番がまだ動くところを見ると、今も出入りしている子供はいるのだろう。子供とも限らないけど。


 私と夜色はここで産まれて、私達が九歳の頃に、経営不振であっけなく潰れた。


「夜色、最後ここに来たのいつ?」


「えーと、あれだ、小六の冬に雪合戦やっただろ。あの時に俺が投げた雪玉が窓ガラス一枚割って、怖くなって来なくなった。どの窓だったかな……」


「あったねそんなこと。同級生が十五人くらい来てたけど、ガラスの割れる音が思ったよりも大きくて、ビビって全員で逃げた記憶あるわ」


「少しの間、警察に捕まるんじゃないかって本気でビクビクしてたから記憶に残ってんだよな……」


 聞きはしたけど、当然私もその時のことは鮮明に覚えている。特にあの冬は、私の人生で一番の大雪が降り積もったというイベントがあったのでより記憶が強い。雪合戦を企画したのは私だったはずだ。学校の校庭はかなりベチャベチャだったので、人に踏み荒らされていないであろう病院跡地を提案したのもおそらく私。そもそも、この病院跡地に最初に不法侵入したのが確か私だった。


 思いの外、深いところまで記憶が蘇ってきたので結構余計なことも思い出してしまったのだけど、夜色が窓ガラスを割ったときに投げた雪玉を握ったの私だったな、そういえば。石とか入れてはなかったけど、雪合戦の戦局が結構不利で、全力で力を込めて握ったカチカチの雪玉を夜色に渡した記憶がある。夜色も今更、私が悪いとは言わないだろうけど、なんとなくこのことは私の心だけに秘めておこうと思う。


「そっちはあれ以降来たの? さっきもなんか、随分慣れた感じでするっと入ってたけど」


「うん、三回だけ気が向いたときにね。誘った方が良かった?」


「いや、うーん、まあ誘われてれば付いてきたかもしれないけど、来たいとは思ってないしな……」


 話を引き延ばしているつもりはないが、タイミングを計りかねている。どうしたら違和感のないスムーズな流れで告白フェイズに移行できるのだろう。ここは間違いなく私が求めていた必要なシチュエーションが全て揃っていて、緊張もここまでの道程で払拭できているつもりだ。いや、違う。これは言い訳だ。


 私は黙る。合わせて夜色も黙る。気まずさはない。風が吹き、草が揺れて、まだ青い空が落ちてきそうだ。緊張を払拭できたなんて嘘だ。むしろ失敗した時のことを考えれば、成功するまで私は緊張を解くべきじゃない。数分の沈黙。夜色が口を開く。何のためにここに来たか。夜色はそれを聞いてくる。


「それで、なんでここに連れてきたんだ? 朝から様子がおかしいのと関係あるって言ってたけど、こんな廃墟と関係ある用事ってなんだよ。俺の想像力じゃ全部が不穏なんだけど」


 私は一回の深呼吸の後、夜色の目を見つめる。


 夜色はきっと、私が今から何を言おうとしてるかなんて欠片も予想できていないだろう。そりゃそうだ。逆の立場だったら私だってハテナが脳内を埋め尽くしているに違いない。けど、だから、それでこそ。


 こうして直球ど真ん中が、きっと突き刺さるのだと、そう信じる。


「夜色」


「うん?」


「好きだから、付き合って。私の彼氏になって。私の、恋人になって。ダメ?」

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