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傘から始まる恋物語  作者: 霊璽
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第51話 水と注意

 「ご馳走様」

 星乃が作ってくれたうどんを完食し、孝也の腹と気持ちは満たされていた。久しぶりに誰かが作ってくれたご飯を食べた気がしていた。

 「満足していただけたようでよかったです」

 そう言いながら星乃は表情を崩して笑っていた。それを見ていた孝也も無意識につられて、口の端がわずかに上がっていた。

 孝也がイスから立ち上がり、食器を持って行こうとすると星乃は孝也が使った食器も持って行ってしまった。

 「おい、それくらい自分でも運べるぞ」

 「いいえ、だめです。いくら元気とはいえ、三河さんはまだ病み上がりなんですからじっとしていてください。それと薬も忘れずに飲んでくださいね」

 星乃がキッチンカウンター越しから見せる表情は眉間にシワが薄くついていた。怒っているのかと思ったが声色が子供を叱るような、優しさが感じられた。

 孝也は気づかれないように苦笑していた。

 流れる水と僅かな食器のぶつかる音、そして微かに彼女の鼻歌が聞こえる。

 することがない孝也はソファに移動して真っ暗な画面のテレビを眺めていた。

 星乃が食器の洗い物を終えてコップを2つ持って隣に座ってきた。一つは孝也の前に置かれた。

 コップを手に取ると中に何が入っているのか確認もせずに飲むと味がしなかった。

 「これ、水か?」

 孝也は怪訝な表情を浮かべて星乃に問いかけると眉一つ動かさずに彼女はじっと見つめてくる。

 「そうですよ? 薬を飲むために入れてきたんですから」

 「そういうことか……」

 てっきりお茶か何かかと思っていた孝也は内心がっかりしていた。まあ星乃がせっかく気を使って入れてくれたのだ。感謝しながら薬を飲もう、と思った。

 薬は昼の時に片付けずにそのままだったので机の上に出してあった。それを用法用量通りに服用した。

 コップの水を一気に飲み干していると時計が視界に入った。時刻は19時30分を示そうとしていた。

 「そろそろいい時間だし、お前も帰ったほうがいいんじゃないか? 親も心配しているだろ」

 孝也の一言を聞いた星乃はなぜかしたり顔をしている。

 「いえその点は大丈夫です。私は一人暮らしですから」

 「そうなのか。でもな、日が沈んで外も暗くなってるし何より風邪がうつったらお前に悪い」

 「確かにそうですね、今日は帰ります。それと私が帰ったらちゃんと寝てくださいね? 明日も学校に来なかったらまた看病しにきますから」

 この発言、クラスいや学校中の男子が聞いたら発狂して喜ぶのだろう。お金を払ってでも風邪になりたがるだろうな。

 「ははは……早く治せるように頑張る」

 彼は誰かが来てくれて看病してくれるのは心の寂しさが紛れて嬉しい。それが学校一の美少女なら尚更だろう。

 しかし、可能性は低いがもし誰かが星乃が自分の家に入っていくのを目撃していたら? 孝也の平穏な学校生活は確実に失われるだろう。

 そう言ったことを考えてしまう孝也は苦笑いしか出てこなかった。

 ただ孝也は気がついていない。勉強会を開いた時点で彼の平穏な生活は失われ、さまざまな憶測が飛び交っていることに。

 ましてや今日学校を休んだことでクラスでは孝也に真相を聞くことができないままの噂があらぬ方向に行っていた。

 そんなことは翌日学校に行かないと知ることができない2人は玄関にいた。

 「早く部屋に戻って休んでください」

 「いや、見送りぐらいさせろ。あとお前が出て行ったあとに家の鍵も閉めないといけないだろ」

 普段の顔色に戻りつつある孝也は顔色と同じくらいいつもの雰囲気に戻っていた。彼女がドアを開けると外の熱気が家の中に押し寄せてきた。

 「それでは、明日は学校に来れるといいですね」

 星乃が家のドアを開けてこちらに向き直り、孝也をまっすぐ見る。孝也は外の蒸し暑さに一瞬、顔が歪んだがすぐさま笑顔になっていた。

 「そうだな。星乃も気をつけて帰れよ」

 「はい、ありがとうございます。さようなら」

 「ああ、今日は助かった。ありがとうな」

 柔和な笑顔を見せたまま星乃がドアを閉めた。

 その1分後、ようやく孝也ドアの鍵を閉めて部屋へと戻っていった。

第51話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。

今回は投稿が大変遅れてしまい申し訳ございません! 諸事情により金曜日土曜日の両方が潰れました。

この穴埋めはお盆の時期になんとかしようかと思っています。そして五十話を超えているのにテスト期間が明けてませんでした。当初の計画よりだいぶ追加しているのでやばいですね。これが終わるのはいつになることやら……

こんなところですが

それではまた次回、お会いしましょう

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