第37話 弁当とファミレス
翌日の昼休み。孝也はいつものように鞄から弁当を取り出し、蓋を外したところで弁当に影がかかる。どうやら目の前に誰かがやってきたようだ。
「おい、ちょっと来い」
声からして男だが、晴翔ではなかった。では一体誰なのか。顔を上げるとそこには昨日星野に絡んでいたやつだった。
どうでもいいことは全く覚えない孝也はこの男の名前を相変わらず記憶していなかった。名乗っていたのは覚えているのだが。
「掃除いや障子、じゃなくて……なんだったか」
一向に名前を思い出さない孝也に男は怒号をとばす。
「東海林廉だ! 昨日も言っただろ!」
東海林の大声が響き渡り、教室で談笑していた他の人たちが一斉にこちらを見る。
「それで、なんのようだ? 大したことじゃないなら昼飯を食いたいんだが」
注目されることが嫌いな孝也は苛立ちを露わにする。もちろんそう見えるようにしているだけで本当に苛ついているわけではない。ただ周りから視線を浴びるこの状況を早く終わらせたかった。
「いいから来い」
そう言って孝也の弁当を掴むとそのまま教室から出て行ってしまった。予想外の行動に唖然としていたがすぐに気を取り直して東海林を追いかける。
しばらく廊下を小走りで駆ける。反対側の棟までやってくると東海林はドアを開けて教室に入って行った。
彼が入って行った教室の前までやってくる。なぜか丁寧にドアが閉められていた。
なんの気の迷いもなくドアを開けるとそこには案の定、東海林しかいなかった。彼は机の上に足を組んで座っている。
「弁当、返してくれ」
教室に入ってすぐに手を出して孝也は言った。ただその態度が気に入らなかった東海林は孝也の昼飯を自分の膝の上に置いたまま、眉間に皺を寄せている。
「お前が俺の言うことを聞いたらな」
「わかった、わかった。聞いてやるから弁当を返してくれ」
別に彼が何を言おうと孝也にはどうでもよかった。
自分の言葉で他人を支配できるなんて思ってる奴は馬鹿でしかない。そういう考えの孝也には彼が何を言おうが興味ない。
孝也の返事を聞いて東海林は不敵な笑みを浮かべた。
「それじゃ、星乃さんに近づくな。彼女は俺のものだ」
孝也を指差しながら東海林は言う。突然、意味のわからないことを言う目の前の男に孝也は怪訝な目を向ける。
あまりにも彼の言葉には傲慢さを感じた。
「わかった。俺からは近づかないようにしよう。だから早く弁当を返してくれ。昼休みがあと15分しかない」
備え付けられている時計を見ながら急かす。
「ほら、返してやるよ」
そう言って東海林は弁当を放り投げる。
「なっ……」
宙を舞う弁当を掴むために孝也は今までに見せたことないほど機敏に動く。そして、かろうじて蓋が開き切る前になんとかキャッチすることができた。
仮に弁当の蓋が開き、中身が飛び出していたと思うと冷や汗が止まらない。そんな心臓に悪いことをした東海林に孝也は少しだけ苛立ちと嫌悪感を覚えていた。
しかしやり返す間もなく、東海林はいつの間にかいなくなっていた。
1人空き教室に残された孝也は時間もないので、そこで弁当を急いで食べていった。
チャイムが鳴り、放課後がやってきた。
昼間のことがあり、疲れていた孝也は机の上に突っ伏していると誰かが頭を軽く叩いてきた。
煩わしさを感じながら顔をあげると晴翔と遙が腕を組んだ状態でにこやかに立っていた。顔を顰めて不機嫌さを表すが気にも止めずに口を開く。
「それじゃ、俺たちは先に行ってるからな。ちゃんと来いよ」
「待ってるからね!」
それだけを言い残すと2人は教室から出て行った。気怠さを吐き出すかのような重いため息を吐いているとスマホ振動する。ポケットから取り出し、画面を見ると星乃からメッセージが着ていた。
『ちゃんと図書館に来てくださいね』
昨日行ったことを覚えていたらしく、釘を刺された。既読をつけないようにそのまま電源を切った。
もう1人何か言って来そうなやつがいるので警戒の意味を込めて周りを見渡すが、姿はなかった。どうやら松原は先に行ったようだ。そしてよくよく見れば教室には孝也しかいなかった。
「めんどくさいな……」
誰にも聞いてもらえることのない不満を呟く。ただ言っているだけでは意味がない。仕方なく席から立ち上がり、鞄を持って図書館へと向かう。
行かなかったら次の日に何を言われるかわかったもんじゃないからな。
廊下を1人で歩いていると図書館の前で4人ほど人が固まっているのが見えた。孝也はそんなに目がいい方ではないが誰なのかは大体予想がついた。
「何してるんだ?」
近づきながら声をかけると星乃が教えてくれた。
「どうやら今日は図書館のレイアウトを変えているようで入れないみたいなんです」
残念そうに声色が下がっている。それとは対照的に孝也はどこか声の調子が嬉しそうだった。
「そうか。それじゃ、今日はなしってことで」
そう言って踵を返して歩き出そうとすると遙が肩を掴んで制止する。振り返ると目の中に複数の星が見える。
「図書館がダメでもファミレスがあるじゃん!」
「はるちゃん、ナイスアイデア! やっぱ、勉強会といったらファミレスだよね〜」
最初に晴翔が賛同した。
多分、こいつの場合は遙が言うことなら大抵は賛成するだろう。
「確かにファミレスもいいかも」
「……そうですね。たまには違う場所でやるのもいいかもしれないですね」
松原と星乃は少し考えた上で遙の言ってることに賛成していた。
「じゃあ、5人中4人が賛成ってことでけって〜い!」
あっという間に決まってしまったことで孝也が何かを言えるタイミングがなくなってしまい、ただ立ち尽くしていた。
「おい孝也。なにぼーっとしてんだ? 早くいくぞ」
晴翔は硬直している孝也の肩をガッチリ掴むとそのまま引きずって行った。
第37話を読んでいただきありがとうございます。作者の霊璽です。
更新がだいぶ遅くなってしまい、すんません。次回はファミレスの話をします。
そして少し話を構想する力が衰えてきたのでちょっと更新する日を変更しますね〜
ひとまず月、金で。たまに水曜日に更新するかもなので私のTwitterを確認してくださいね〜
長くなりましたが
それではまた次回、お会いしましょう




