自殺-死にゆく世界-
自殺とは死だけが自分を愛する光と確信する至天の宇宙。
肉体から魂が解放され因果律より解き放たれる悠久の刻。
自殺は衝動でも何でも無い。
無に近い人間に見えるモノはただの闇。
ただ、目の前が暗過ぎて灯りが見えない。
失った光を求めた行動の先が死というだけ。
目の前の暗闇の水位が上がり、溺れ、もがき、助かる為の行動の先にあるものでもある。
心が無になり、叫び、肉体が停止するのが一連の流れ。
死に意識を重力のように引きずられた瞬間から人の魂は無になり、自殺という行動に出る。その結果は運だ。
結果的に死ねなかったとしても、その魂は一度死んでいる。故に強く、儚く、枯れ葉よりも脆い。しかし、達観して悟りを開くような者も現れ、柔軟性を持った心によって対応力が上がり成功者になれる可能性がある。
だが、富や名声を得ても魂の渇きは増すばかり。
成功者は成功者の悩みがある。
裕福になれば人間が求めるモノの最大は愛。
愛する者を持たぬ者は死を愛するしか無くなり、死を愛して自殺する。
目に見えない、手に触れられない「愛」こそが、人の求める至高天のモノなのだろう。それがあれば自殺する可能性は減る。
自殺の無い世界は幸福な世界だろう。
人間は歴史と共に豊かさ、便利さを手にし、それを謳歌して誰もが幸福になれると信じて歴史を歩んだ。しかし、それは人を必要としない世界となり、平等という名の不平等を生み、格差は拡大し、人々の対立は同じ人種間での戦争状態になる。
その未来は人間の滅亡よりも先に、地球の終わりが来るであろう。
人間に必要な活動の全てが地球そのものを破滅へ追いやる劇薬であるからだ。
地球とは人間全ての母だ。
地球は恐竜のように争いしか生まぬ生物を氷河期によって排除し、生き残った人間の生活を観察し、そこに愛という感情を感じていた。
この母なる地球は知的生命体である人間をコントロールしていたのだ。
観察者として人間を愛でようとしていた地球は、人間の歴史の進化と共に人間の知力に驚愕する。身体機能は弱いが、想像力豊かな知力により恐竜だけでなく、地球すら滅ぼす人間の無垢な欲望に自分が殺されるのを近代になり察したのだ。
その時――地球は人間をコントロールする力のほとんどを失っている事に気が付いた。
すでに地球環境はコレラ、天然痘、インフルエンザ、コロナなど様々な病魔を人間に与えて来たがその全てに人間は対応してしまっている。それだけでは人が滅びる事は無いのだ。
人間に施されたコンクリートに化粧され、肌の水分も黒く汚される地球は絶望している。
地球は自分で自殺出来ないので、地球が人間に殺される前に人類そのものを地球から追い出したいのが最終目標だ。
母なる地球から見捨てられた人類は地球からすれば業の深き生物で有り、地球の意志は人間が戦国時代あたりの生活水準に戻れなければ人類全てに自殺して欲しいという事だ。
だが、それは当然不可能である。
だからこそ、地球は人間を災害や疫病で試しながら、人間達の進化の先を見定める愉悦に溺れ、数多の人間が織りなす死の晩餐――人間美を娯楽にしているのだ。
そして、地球の意思とは関係無く、人間は死に美を感じる傾向も存在する。
人の歴史において、自殺の少ない幸福な時代とはいつの事だったのだろう。そして、それは今後訪れるのだろうか?
人類は環境破壊から終局に向かう地球から親離れし、無限の闇である宇宙へと移民を進め、新たなるステージに立つ事によって解決の糸口が生まれるかも知れない。
危険と常に隣り合わせの宇宙にて、他者を思いやれる心が肥大化すれば今よりももっと他人の変化に気付く事が出来る。それは普段の忙しさで忘れがちな誰かのSOSを受信する余裕が生まれたという事だ。
未だ使われていない人間の脳の中にある可能性は同じ人間の為に使われるべきものである。それを私利私欲に使った場合、人間の進化はそこで完全な崩壊へのカオスルートになる。
それは自殺の連鎖する暗く、美しいとさえ言われる歪な世界だろう。
正気が狂気――狂気が正気。
今は絶対少数でも、今後の世界は圧倒的にそういう人間が増えるだろう。
狂の一文字あるのみ――。
それは自身を一本の剣として世界を貫く刃となる。同時に死を受け入れ突き進む死兵にもなる。その剣が折れれば、その者の心は折れ、自殺に至るであろう。
死は終わりに向けて儚く切ない花束。
生きる事への足掻きは醜く狂い咲く徒花。
どちらも美しくはあるだろうが、人の心をより深く切り裂く刃は生きる事への足掻きだろう。
多くの人間が宇宙へ出るにも、まだ時間がかかる。その間、鬱屈し窒息する地球において環境の進化に対応出来ぬ、退化を続ける人類の自殺者は増える一方だろう。
これを止めるのは地球の意思でも、政府の政策でも、自殺を防止する有象無象の団体でも無い。
答えは人間だ。
自殺を止めるのは、その人間の側に寄り添い肩をかせる隣人でしかないのだから。