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ぽっと出のチャラ男君に幼馴染を取られた俺は饒舌少女に絡まれた

作者: 芝鳥 青

 文化祭が近づいてきた高一の秋、俺の幼馴染の吉住千秋(よしずみちあき)がバンドでボーカルをやってみたいと言い出した。千秋は好奇心旺盛というか我が儘というか、自分がこれをやりたいと決めたらいうことを聞かなくなってしまうのだ。いくつか例をあげるとしたら、中学生の時急にキャンプがしたいと言い出し、俺にキャンプの知識を詰め込んでくるよう要求してきて、一週間で一人サバイバルできるほどの知識を俺が蓄えることになったり、またある時は急に科学者になりたいと言い出し、中学生なのに俺が高校生の化学と物理を勉強する羽目になったりとむちゃくちゃなのだ。ただ、俺はそんな幼馴染が好きで千秋のためならなんだってできてしまうのだ。今回のバンドだって急にドラムをやれと言ってきたが、家に帰っても学校にいても俺は常にドラムの音程や手捌きを練習していたおかげで今ではある程度ドラムとしての役割を果たしている。


「雄也〜、練習しに行こ」

「おう」


 俺の名前は藤谷雄也(ふじたにゆうや)、千秋のわがままのおかげで知識が豊富にある高一だ。千秋とは教室が違うため毎日放課後になると迎えにきてくれるのだ。


「よ、じゃあ今日も練習するべ」

「そうだな」


 軽音室に着くとそこにはベースのチャラ男君がいた。なんというか髪が少し明るく染められているのだ。とはいえ、その腕は確かだった。


「千秋ちゃん本当に歌上手いよね」

「そう?よかったわ。これなら文化祭までに仕上げられそうね」

「いやぁ、このままボーカルとして続けてほしいわ」


 見た目通りにちゃんとチャラ男なのはやめてほしい。千秋は熱しやすく冷めやすいのだ。多分このボーカルもやり終えたらすぐに飽きるだろうしそれまでの辛抱だな。


「雄也く〜ん、大丈夫かぁい?俺のベースにドラムが追いついてないように思うけどなぁ」

「まだ初めて三日なんだ、多めにみてくれ」

「え、たった三日でこれ?才能あんじゃん、すげぇ」


 まぁチャラ男君も根はいい人なので何もいえないのだ。文化祭まであと一週間、とりあえず形にはしたいなぁ。

 ドラムの腕も上達し、明日が文化祭本番だといことで練習も今日が最後だ。珍しく千秋が俺のことを迎えに来なかったのでそのまま軽音室にむかう。

 ちゃんとした防音室なので外から中は見れず、音も聞こえないが、何か違和感を感じたためドアを少ししか開けなかった。


「千秋ちゃん、ほんとかわいいねぇ」

「そうかな」

「かわいいよ。なんで雄也くんはこんないい子をほっといてるんだろーね」

「それはいいよ、別に」

「ま、今となっちゃ俺の彼女だもんなぁ?」


 俺は自分の耳を信じることができなかった。俺は今まで幼馴染のために行動をしてきていた。なのにその全ての想いは幼馴染に伝わっておらず、その幼馴染自身も俺になんの感情も抱いていなかったとわかってしまったのだ。

 俺はそっとドアを閉じ、その場を後にした。


「なんでだよ…、なんなんだよ…」


 学校の屋上、本来は立ち入り禁止だが鍵が壊れていて生徒でも自由に出入りができてしまう。

 肌寒さを感じながら俺は雲一つない空を見上げていた。俺の目からは涙が溢れてくるが、空は雨なんか降る気配はない。小説などでは主人公が暗い心情になれば天気も悪くなるものだが、そうなる気配はない。きっと俺ではなく、あのぽっと出のチャラ男が主人公だったのだ。ベースがうまく、顔もそこそこ、性格も別に悪いわけではない主人公にピッタシな人物だ。屋上の床は冷たく、空よりも俺の心情を表現してくれている。


「そこで何してんの?」

「…」

「もしもーし、聞こえてる?」

「聞こえてるよ…」

「そう、ならよかった。あんた同じクラスの藤谷だよね?」


 ずっと下を俯いていたが、俺の名前が出たところで思わず顔を上げてしまった。


「お、泣いてんの。もしかして失恋でもした?文化祭前だからって急いてはダメだよぉ〜。どうせ無謀な告白でもしたんじゃないの?」

「まったく逆だよ、失恋はしたけど…」

「逆?あ!告白せずにフラれたんだ!もしかしてその相手って吉住千秋でしょ?いっつも教室来てたのに今日来なかったもんね」

「デリカシーないね、君は」

「君って…、私は花崎菫(はなさきすみれ)って名前があんの。それで?藤谷はどうすんの?」

「どうするって…何を?」

「だーかーらー、こういうのってお決まりのアレでしょ?幼馴染が俺以外のやつと付き合い始めたから見返してやりますっていうやつ」

「…それはイケメンだからできるやつだろ、俺はイメチェンしようと一般人だぞ」

「はぁ…これだから恋絶えた少年は夢も見れない」

「なんだよ、俺ら話すの初めてだよな」

「馴れ馴れしいかい?仕方ないだろ、私は生粋のギャルっ子だ。見た目こそ普通の黒髪清楚で可憐な少女だが、性格は陽気で誰とでも仲良くしたいタイプのチーマーギャルだ」


 チーマーって…。今日日(きょうび)聞かない死語じゃないか。そもそも俺は心に傷を負っているのだ。こんな無駄話に付き合うつもりなんかない。


「今嫌な顔をしたね?」

「してない」

「いんや、私のこの鑑識眼を出し抜けていなかったよ。藤谷は確かに今、一瞬醜いものを見る目で私をみていたね?」

「はぁ…うざい、一旦黙ってくれ」

「ふむ、うざいと…直接的な表現を使うようになってきたね。でも藤谷も気になるだろう?なんで私がここにいるのかを」

「気にならん、早く帰ってくれ」

「私が帰る時、それは藤谷が帰る時だよ。覚えておいてくれ」

「なんで俺に構う、幼馴染に彼氏ができてて十年以上の恋が終わりました。はい、これが全部だ。つまらん話だからこれ以上言えることもない、興味本位なら帰ってくれ」

「まだだ、その話にはまだ続きがある」

「続きはない、これでおしまいだ」

「幼馴染が自分以外の彼氏を作ってしまい、恋に敗れ打ちひしがれた主人公は幼馴染に後悔をさせてやろうと燃えるのです。自らの容姿も性格も変え、磨き上げたその姿で学校の一躍人気者に。幼馴染は逃した魚の美味しさにそこでやっと気づき、こういうのです『私が間違ってた…本当は幼馴染のあなたが好きだったの…』とね」

「はぁ…どうでもいいが、千秋のことを言ってるなら間違いだぞ。あいつは後悔をあんましない性格なんだ」

「ふむ、ならば変えよう。主人公自身が磨き上げられた結果、多くの女性から好かれよりどりみどりな…」

「ハーレムものか?俺は好かないね」

「なるほど。藤谷は案外好き嫌いが激しいのかもな」

「あのな…さっきも言ったが、俺は今お前と話す気はない。これ以上話しかけてくるな」

「そうかい、わかったよ。お手上げだ。私は大人しく帰ることにしよう」


 やっと静かになった屋上の床をまた見つめていた。


「おっと、言い忘れていた。明日は文化祭だが来たくなければ来なければいい。ただ、もし来たなら私の相談部に来るといい。なんでも話に乗ってあげれるからね」

「うるさい、帰れ」

「いいね、私はどちらかといえばMなのかもしれない。ではまた」


 本当に静かになった屋上でぼっーとしていたら、携帯が揺れた。千秋からの連絡だ。


「『どこにいるの?』か…」


 ここでお前への恋が終わったからドラムする理由も無くなったって言えればどんだけ楽なんだろうか…。はぁ、学校にいてもなんも意味ないから家帰るか。

 連絡に既読はつけず、無視することにした。数日ぐらいは千秋と顔を合わせられる自信がない。もちろん会話も、連絡だろうと心理的にきついものがある。

 はぁ…明日の文化祭いくのやだなぁ。学校では千秋がドラムをやっていた俺を探しているだろうし、文化祭に行く気にはなれない。花崎の相談部か…って、なんでこんなの思い出すんだ。いや、今の俺は誰かと一緒にいたほうがいいんじゃないか?失恋の傷を一人で治すなど無謀にも程がある気がする。他人の温もりで埋め合わせる方が合理的だ。いや、あいつの相談部がいいとか言っているのではない。花崎のやつに温もりを感じられないだろうけど…、とりあえず文化祭は行っておくか。

 俺は朝早くに家を出て、千秋に会わないように隠れながら相談部の相談室に向かった。


「やぁやぁ、来てくれたんだね」

「乗り気ではなかったけどね」

「でも君はここ、相談部にいる」

「サンタクロースからプレゼントをもらうためにはどこにいるかを明確にした方がいいだろ?学校にいるはずの今、サンタが家に来てくれるとは思えないからね」

「遠いねぇ、遠回しだ。つまり藤谷は私がサンタだって言いたいわけだね?かわいい例えをするもんだ」

「はぁ、花崎と話してると調子狂うよ」

「おっと、私は相談部の一員だ。話の主導権は握らせてもらわなければ困るからね」

「通りでよく口の回るやつだと思ったよ。教室では清楚気取って無口な癖にな」

「基底状態になるのは重要なことじゃないか?全ての物質はエネルギーが小さく安定した方に向かうのと同じように、人間も何も行動しない方が楽なのだよ」

「ならお前はチーマーでもなんでもないな。常に友達が周りにいて、ぎゃーぎゃー騒げるタイプじゃないってことだろ?」

「そもそも私は渋谷に行かない。チーマーなんて適当に言っただけさ」

「適当かよ…」

「それで?藤谷は昨日よりもちゃんとした受け答えができるようになっているが、吹っ切れたのかい?」

「そんなわけない。吹っ切れてるんだったら俺はここにいない」

「おや?私がサンタなら君がここにいるのは必然。サンタは子供に夢を与えるがいい子にしかあげないのは有名な話だろう?」

「何が言いたい?」

「何、私のいう通りにしてくれるんだったら藤谷に踏ん切りをつけさせてあげようと思ってね」

「はぁ…遠回しな会話は実は嫌いなんだ。はっきりと言ってくれないか」

「ふむ、学年一位を取っている頭だからどのように話しても通じると思っていたが…やはり、藤谷は自分自身を吉住千秋に合わせているんだね」

「言いたいことがあるならはっきりいえ。相談部に来て相談事を増やされるのはおかしいと思うが」

「ははは、それは失礼。ただ、私は藤谷…君に興味があるんだ」

「そりゃそうだろうな。じゃなきゃここまで俺に構う必要性がない」

「そもそも私がこれほどまでに話し続けているのは極度の緊張からきている物でもあるのだ。例えば、遠足を楽しみにしすぎて寝れない前日の夜のように…私は今、君を前にして楽しんでいるんだよ」


 長い。こいつとの会話は長すぎる。本題に行くまでの間に俺たちはいくつ例え話をしなければいけないのだ?サンタに遠足前、基底状態にどうでもいいチーマーの話…。サンタなんて俺が言い出したことなのに花崎に例えとして奪われたしな。とりあえずこいつが単にお喋りなだけじゃなく、頭もいいってことだけは理解したよ。


「藤谷は考え事をすると下を俯くようだね」

「癖の把握までしたいのか?」

「はぁ、まるで私をストーカーのようにいうね」

「実際昨日もたまたま屋上にいて、俺のことを観察するような会話と目の挙動…ストーカーだろ」

「それは面白い考えだ。間違えているという致命的な欠陥がなければの話だがね」

「じゃあなんで昨日は屋上にいた」

「その話はいずれしよう。それは全てのオチに繋がるからね」

「オチ…?」

「そうだ。物語というのは起から始まり、結で終わるがそんな単純な物ではないのだ。起から始まったように見えてその前…物語に描かれていない他の要因がまた別にある物なんだよ。起にもまた起がある、その起は果たして承転結のどこで回収されるのか…」

「今回は結で花崎が勝手に回収してくれるって話か?」

「そうだ。やはり私の次に現代文の点数が高いだけはあるね」

「俺の国語が晩年二位の理由を今初めて知ったよ」

「いいじゃないか、他の教科では一位取っているんだから」

「それもそうだが…」

「その勉強してる理由もどうせ吉住千秋絡みだろう?」


 違うと言いたいが、正解だ。千秋が何でもかんでも興味を持ち、俺に言ってくるせいで俺は勉学も完璧になってしまった。クラスでもパッとしないような隅にいる俺が学年一位っていうのはよく驚かれる。


「ほんと藤谷は吉住中心主義だね。いや、だった…かな?」

「過去形にするな」

「おや、早めに過去は過去、未来は未来と区別した方が心にいいんじゃないのかい?」

「人間には最も偉大で最も邪魔な感情という機械では再現できない機能が搭載されているんだ」

「理屈ではわかっていてもというやつだね。ならば話は早い」

「なんだよ」

「天正10年」

「なんだ…?」

「天正10年だ」

「本能寺の変でも話そうとしてるのか?それとこれとでなんの繋がりが…」

「それだよ!まさにこの理解力が私にとって嬉しいんだ」

「嬉しいって、普通に会話してるだけだろ」

「1582といえば本能寺の変に繋がる人はもちろん多い」

「そりゃまぁ…日本史についても勉強させられたからな」

「藤谷!」

「なんだよ、急に大声出すなよ」

「私と付き合う気はないか?」

「もしかしてそれをいうためだけに昨日と今日でこんな準備したのか?」

「準備とは失礼な。私は藤谷のことを思って昨日も今日も動いたんだぞ」

「すまないが、俺は一日たった今でも幼馴染のことで頭がいっぱいなんだ」

「いっぱい…か。それで?無視しているメールに何故既読すらもつけなんだい」

「それもお見通しかよ」

「私は子供の頃探偵を目指していてね、軽いノリでなろうとしたんだが案外これが性分にあってね。今でも目指してみようかと時々思うことがあるんだ」


 通知を切っていた携帯を今日初めて見ると、新しく2通の連絡が来ていた。今どこにいるのという連絡と大丈夫?と俺の身を案じている連絡だった。


「ふぅん、なるほど。藤谷は例え文面だけの会話だろうとできないほどに傷ついているわけだ」

「そうだよ。昨日今日の会話で気づけなかったか?」

「気づけないわけがない。だから私は動いたよ」

「動いた?」

「ちゃんと私の言いつけ通りに相談部に来てくれたいい子にはプレゼントあげなきゃね…私はサンタのようだし、一度席を外すよ」

「は?おいっ」


 そういう時花崎は徐に席を立ち、この部屋から出て行ってしまった。少し時間が経ち、扉の開く音が聞こえた。


「おい、花崎。何して…」

「私のメール返さないなんて初めてね」

「…花崎に呼ばれたのか?」

「そうだけどそうじゃないわ」

「どういうことだよ」

「はぁ…雄也ってほんとどうしようもないわよね」

「は…?」

「私、今まで結構アピールしてたと思うんだけど」

「なんのアピールだよ」

「雄也に好意を示していること」


 は?何を言っているんだ千秋は…。だって昨日こいつはチャラ男と付き合ってるって…。


「私がぽっと出のチャラ男と付き合っただけで諦めちゃうんだなって思っただけよ」

「1から10までの説明を求める」

「わかんないのね」

「残念ながら俺は国語は学年二位の成績しかないんだ」

「何?花崎さんに負けてるから読解力ないとか言いたいわけ?」

「そうだ」

「ならあなたの下にいる私たちその他大勢は日本語を母国語として主張しちゃいけないってことね」

「そこまでは言っていないだろ」

「いいましたー」

「いってない…って、本題に入れないだろ」

「話を逸らしたのは雄也、私は何も悪くない」

「そうですか、はいはい」

「何その如何にも私に興味なさそうなフリしてるの」

「早く言え。どうせお前と花崎がなんか企んでるってことだろ」

「惜しいわ」

「は…?」

「私に花崎さんと花崎さんの幼馴染であるチャラ男君の三人で計画したの」

「けい…かく?」

「えぇ」


 ここまで言われれば流石にわかってしまう。昨日の付き合っていた発言は嘘ってことだ。そして嘘をついたのは千秋にいつまでも告白しない俺に焦燥感を与えるため…。


「はぁ…。流石にそれは気づけるわけがない」

「それで?私は雄也のことが好きだけど?」

「俺も好きだよ…、転校してやろうかって思ったぐらいには昨日ことはショックだったからな」

「ふふ。それならよかった」

「それで…つまりは誰とも付き合ってなかったってことでいいんだよな?」

「そうよ。私は付き合ったふりをしてもらっただけ、付き合ってないわ」

「よかったぁ」

「えぇ、私もその反応が見れてよかったわ」


 口元に手を当てふふっと笑う彼女はやはり可愛かった。それにこれってもう…俺たち、恋人になったってことでいいんだよな?


「じゃ、これから私たちは恋人ってことでいいわよね?」

「う、うん。よろしく…」

「よろしくね。何が変わるわけじゃないけど、これまで以上に雄也に甘えちゃうかもだから覚悟しなさいよ」

「覚悟…ね」


 付き合えないと思っていた千秋と付き合えた。これ以上ないサプライズを付き合う前にされたわけで、そう簡単にその衝撃を超えることはこの先ないだろう。覚悟だっていくらでもしてやるさ。


「いやぁ、おめでたいね」

「あ、花崎さん!」

「ふむ、やはり二人は二人の方がお似合いのようだ」

「あ、ありがとう…」

「何を照れることがあるんだい?吉住はもう藤谷と恋人同士なんだ。これからは藤谷を今まで以上に好き放題できるんだぞ?楽しみで仕方ないだろう」

「そうね。雄也、よろしくね!」

「あぁ!」


 作戦は成功したのか俺と千秋が付き合った。とはいえ、ちゃんと自分の思ってることを口にしなければ実際に昨日の悪夢…のような出来事が起こるかもしれない。千秋への気持ちはちゃんと言葉にしなきゃなぁ。




「これでよかったのか?」

「これが最善の手だ」

「ふぅーん、俺そんな頭よくねーしギター以外できないからなんもいえねーけどな」


 私は彼のことが好きだった。頭がよく、一人の女性を一途に想える彼は私にはとても理想的な男性像に見えた。


「起承転結とはよく言うが、起が違くとも結は彼らのように同じことはあるが…。どうやら私は彼らとは陰と陽の関係だったようだ」

「お前なんでこの計画乗ったの?元々俺と吉住だけの計画だったのにさ」

「ふむ、私も最初はただのチャンスだと思ったんだ。運良く吉住千秋がまさか藤谷以外の男性と付き合ったのだから、私にもツキがまわったのかと興奮したものさ」


 藤谷が落ち込んだ瞬間に私はたまたま出くわした。話しかけようかと思ったがその勇気もなく、彼が屋上に着いたところで声をかけた。まさか自殺でもするんじゃないだろうかと最悪の場合を考えたら声をかけるほかなかったのだ。


「でも気づいたんだ。ちゃんと話してみて、彼と一緒にいる幼馴染が他の男性と付き合うような愚かな行為をできるわけがないと…。彼と話せばそんなのすぐにわかったさ。彼は優しく、彼は理解してくれるんだ。私がこんな回りくどく、めんどくさい話し方をしようと…わざわざ調子を合わせてくれた。それが何よりも嬉しかったんだ」

「ふぅん。それで俺のとこに来て手伝うことにしたと…」

「あぁ。刀が元々収まっていた鞘に戻るように、彼らは切れぬ縁で結ばれているからね」

「難しいことはわかんねぇよ。とりあえずお腹空いたからご飯でも食べに行くべ」

「君にはそれぐらいの能天気さがあっているよ…。今日は回転寿司が食べたい気分だ、乾いたネタを提供しない美味しい回転寿司屋が近くにあっただろ?」

「おう、あそこか?行くべ行くべ、奢ってやるよ」

「ふふ。なんとも頼もしい幼馴染だな、ギターの講座動画で収益でも得ているのかい?」

「よく分かったな。お前に勧められて動画投稿してみたら案外反響よくてお小遣い程度には収入得たんだよ」

「アドバイス料金として今日の寿司は奢ってもらおう。貸借りはなるべくしたくない性分でね」

「それでいいならそれでいいよ。寿司食べるべ」

「あぁ。ツキは回ってこない私だけれど、ネタは回ってくるからね。丁度いいよ」


 私の起は物語の前に始まり、結は物語の後に終わる。なんともモブらしい終わり方だ。物語の中で回収されることのなかった私の物語は…果たしてどこが終着点になるのだろうか?

こんなお喋りな少女が僕は好きですね。でも、彼女はあくまでもサブキャラでしかないんです。起も結も用意されないような、主人公とヒロインの当て馬的存在でしかないんです。こんなキャラ、気にしていないだけでたくさんいるんですよね。そんなキャラに焦点を当ててみた物語です。

楽しんでいただけたでしょうか?

お喋りな少女いいね!って思っていただければ幸いです。

では、またどこかでお会いしましょう。お相手は芝鳥青でした〜。

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