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あの頃は幸せだった。  作者: 戸和もか
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卒業式

 夏休みは終わり、あっという間に年が明け、私たちは六年生になっていた。

 ここに来るまでにいろんなことがあった。


 まず、夏休みの間に夏の誕生日があった。みんなで夏を祝い、その後、私と夏の二人で裏山の秘密の場所に行った。夏休みが終わってすぐにグループ学習の発表会があった。私たちの発表が意外と好評で、『春夏秋冬』というグループ名をクラスのみんなも気に入ってくれたらしい。先生にも褒められたので、いつも怒られてばかりの春之はすごく嬉しそうだった。

 十月の私の誕生日は、三人がサプライズパーティーを開いてくれた。あのときは本気で泣きそうになってしまった。

 クリスマスには人生初のプレゼント交換もしたし、お正月は一緒に凧揚げをして冬馬の誕生日会もした。


 六年生になって、四月の春之の誕生日会は春之の家の定食屋『ひまわり食堂』でやった。私と冬馬は来たことあるけど、夏は初めてだった。この町いちばんといわれるその料理の味は夏にもハマったらしく、とても満足して帰っていった。

 宿泊学習では大したところには連れて行ってもらえなかったが、友達がいるだけでとても楽しい思い出となった。


 そんなこんなで、卒業式の日がやってきた。この六年間はあっという間だった。入学式の日ことはいまでも覚えているのに。先生や保護者、そして六年間を一緒に過ごした三十名のクラスメイトが一斉に体育館に集まっている。

 私は卒業生代表の挨拶を任されていた。出番が近づいてきた。緊張で手に汗が出てきた。その手をそっと握られた。横を見ると、夏がいる。夏が私を励ますようにニコッと笑った。


「続いては、生徒代表挨拶です。」


進行役のアナウンスで立ち上がり、舞台へ向かう。


 足がふるえるのを深呼吸で落ち着かせる。演台の前に立ってフロアを見渡した。お父さんとお母さんの姿が見えた。二人とも仕事が忙しいはずなのに今日は休みをとってくれたのだ。また緊張の波が襲ってきた。

 そのとき、夏と目があった。夏が私よりも緊張したような顔でこちらを見つめる。その姿がおかしくて、私の緊張はどこかへ飛んでいってしまった。


 マイクの高さを調整して、口を開いた。


「ついに、この日がやってきました。」


必死に考えて練習してきたセリフを思い出そうと顔をしかめる。


「この六年間はあっという間でしたね。長かった小学校生活が今日で終わってしまうのが信じられない人は、私だけじゃないはずです。この学校は生徒数が少ない分、六年間を共にすごしたクラスメイトとの絆は深いものだと思います。私もこの小学校生活の中でかけがえのない仲間を見つけることができました。」


夏が涙目で聞いている。春之が珍しく真剣な顔をしている。静かに微笑む冬馬の姿が目に入る。私も泣きそうになって、グッと涙をこらえた。


「卒業すれば四月から中学生です。不安な人、楽しみな人、その心境はそれぞれ違うと思います。ですが、中学生になってしまうという事実だけは変わりません。みなさんはほとんどの人が同じ中学校に進学すると思いますが、今隣に座っている友達と必ずしも同じクラスになれるとは限りません。中学校にいけば、新しい出会いがあります。小学校でできた友達と離れてしまうのは悲しいことです。それでも、前に進んでください。これからも上手くいかないことはきっとたくさんあるでしょう。大切なのは、つまずいても起き上がり、前を向くことです。小学校で学んだこと、経験したことを忘れず、それを活かして皆さんが自分の夢に向かっていくことを私は信じています。卒業生代表、篠原千秋。」


     *     *     *


 「ちーちゃん良かったよ〜!」

卒業式が終わったとたん、涙と鼻水でぐしょぐしょになった夏が抱きついてきた。そんなに泣かれると私までもらい泣きしちゃいそう。

 運動場には生徒や先生、それぞれのお父さん、お母さんが集まって差し入れや写真撮影などをしていた。私も自分の両親を見つけて思いっきり手を振った。

 お母さんが「あら夏ちゃん、こんにちは」と話しかける。夏も笑顔で「こんにちは」と返す。お父さんが

「千秋、卒業おめでとう。立派に成長してくれて嬉しいよ。」

と言ってくれた。それをきいてまた泣きそうになる。私こそ、ここまで育ててくれてありがとうと言いたいのに、それを言えば涙が止まらなくなりそうで言えなかった。


 その後は夏と一緒に写真を撮ったり、小学校生活で楽しかったことを語ったり、中学生となることへの期待や不安について話し合ったり。私はふと、夏の親がいないことに気がついた。それもそのはず、夏の両親は離婚しているのだから、来ていなくて当然なのだ。お父さんは東京に残って再婚、今一緒に住んでいるお母さんは精神を病んでいて家から出ることはあまりないらしい。

 気にしてはいけないと思っても、気になってしまう。夏は私が家族といるのを見て何を感じているのだろうか。私の言動で夏を傷つけてしまってるんじゃないか。もしかしたら夏は、そんな私の心の中を見抜いたのかもしれない。

「私、そろそろ帰ろうかな。」

いつもの笑顔でそう言った。私は平静を装って、

「そっか。じゃあ、またね。」

と言ってみた。私もこのあとは家族で遊びに行く予定だ。夏もそこを気遣ってくれたのだろう。


 夏を見送ったあと、私は両親の元へ戻り、車に乗ってランチを予約しているレストランへ向かった。家族でご飯を食べに行くのは久しぶりだ。ボーッとしながら車に揺られて移動している間に、夏のことを考えるのは忘れていた。


     *     *     *

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