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あの頃は幸せだった。  作者: 戸和もか
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プロローグ

 今日も蒸し暑いだけのつまらない一日が始まる。教室から窓の外を眺めると見慣れた風景が目に入った。何もないのが特徴の田舎町に一つだけある小学校の五年生のクラスでは、来週から始まるグループ学習の班決めが行われていた。セミの鳴き声と教室のざわめきはどちらも良い勝負だった。


「今年のグループ学習のテーマは『自然』だ。この町の自然について調べてくれ。班決めはくじ引きで行う。窓側の席から来てくじを引きなさい。」

あ、窓側の席って私もか。席を立ち上がって教卓に向かう。箱の中から一枚紙を取って席に戻り、中身が見えないように折り曲げられてあるそれを開くと『3』という数字が書かれていた。


「三班の人ー!こっちきて!」

その声がする方に行くと、

「お、千秋じゃん。千秋がいるなら、お前が班長でいいよな?」

と春之に言われた。他のメンバーもそのことに異論は無いらしいから、私は班長を引き受けた。

 先生から配られたプリントに、メンバーの名前を書く。


 篠原千秋しのはらちあき 安藤春之あんどうはるゆき 稲葉冬馬いなばとうま 鈴木夏すずきなつ


「グループ名、考えたんだけどさ、『ウルトラ☆フォース』とかどう?」

自身ありげに変なグループ名を提案してきたのは安藤春之。私の両親と彼の両親は仲がよく、小さい頃はよく一緒に遊んでいた。いわゆる幼なじみというやつだ。まあ、この町にいれば大抵の人は幼い頃からの知り合いなのだが。


「ダサい、却下。」

春之の提案をバサッと切り捨てたのは稲葉冬馬。彼は勉強も運動もできるタイプでおまけに顔が良いからモテる。しかし、口が悪いのが玉にキズだ。

 すると、プリントを眺めていた鈴木夏が口を開いた。


「私達、四人合わせて春夏秋冬だね!」

他の三人が一斉に夏の方を向いた。


 彼女は今年この町に転校してきた。可愛くて、おしゃれで、明るい都会っ子。それが彼女に抱いた第一印象だった。実際、私の思った通りだった。この町に来て間もないのに、いつの間にかクラスの中心人物になっていた夏は、すっかりこの町に馴染んでいた。私自身はそこまで夏と関わってこなかったが、確かに彼女と話しているときは楽しく感じた。


「ほら、みんな名前に季節の漢字が入っているでしょ?それがちょうど春夏秋冬なの」改めて見てみると、この四人の名前にはそれぞれ季節に関する字が使われていた。物凄い偶然だ。後から思えば、これは運命でもあったのかもしれない。


「ホントだ。夏、お前すげぇな!」

春之が興奮したように言う。

「まあ…春之が考えたやつに比べたら百倍マシなんじゃない?」

ぶっきらぼうな言い方だが、辛口の冬馬が何かを褒めると言うことはあまりない。

「私もそれでいいよ。他に良い案無いし。」

そう言う私も、実は結構気に入っていた。プリントのグループ名の欄に『春夏秋冬』と書き入れる。

 今年の夏は、少しだけ楽しくなりそうな気がした。

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