第三十八話『戦禍の兆し』
第三十八話『戦禍の兆し』
アルトヘイム王城の王の私室で、臆病を名乗る王ランスローは顔をしかめていた。
事情を知らなかった兵士にひっ捕らえられる形で『岩蜥蜴』が突き出され、報告を受けた。そして闖入者がかつての英雄である『宵闇の担い手』であったことには驚きを隠せなかった。
『岩蜥蜴』はひとまず形だけ投獄という刑にし、今は治療中だ。明日には保釈金を肩代わりし、その時に今回の報酬も渡すつもりだ。
それでも彼の報告の内容は一人で考えても答えは出ず、結局、老騎士フェルディナントを呼ぶことになった。
「…これはどう見ればいいのかな?」
ランスローが尋ねるものの、フェルディナントも答えに窮していた。
「そうですね。なんとも言いにく物です」
『宵闇の担い手』が何のつもりで戦争を煽るようなことをしているのか皆目見当がつかない。それどころか、『宵闇の担い手』が目標として目指しているのが魔王軍ではなく、中央国というのも俄かには信じがたい。
アルトヘイムを守る為、とも言っていたらしいが、それが今のアルトヘイムなのか、かつてのアルトヘイムなのかも判断しきれない。
そして、もう一つの問題が…
「それより中央国の書状はどうされますか?」
フェルディナントの言葉にランスローはため息をつく。
「そうだねぇ…一応、協力はする姿勢は見せておくよ」
中央国からの書状。これが現状一番の問題ではある。
フェルディナントもこめかみを押さえながら、
「英雄戦争の生き残りが…まさかアイリスの放蕩騎士とは」
「何とか保護出来ないものかな?」
ランスローの言葉にフェルディナントは同意ではあるようなものの、首を振り。
「考えてみますが、恐らく不可能でしょう。下手な手を打つと王の尽力されている外交努力が無駄になります」
フェルディナントの言葉にランスローも肩を落としながらも「そうだよねぇ」と諦めるように呟く。
「討伐隊はどうされますか?」
「『金翼』以外にはないと思うけど?」
ランスローの言う通りなのかもしれないが、フェルディナントは少し考えるそぶりを見せ、
「『青き風』にも助力を願った方が宜しいのでは?彼の力を侮るのは危険です」
ランスローは困ったように眉をひそめながらも、矢張り首を振り。
「それでも、アイリスの放蕩騎士だと分かると厄介事になりそうだしね、今回は王命で『金翼』だけにしよう」
ランスローがそう言い切るとフェルディナントも一礼をし、それ以上は何も言わなかった。
「お父様!?」
静寂に包まれそうになった王の私室に怒号が飛ぶ。
声の主は…といよりもこんなことをするのは一人しかいない。
「イセリナ?」
その名前の主はずかずかと私室に入ると、ランスローの前に立ち、
「どういうことですか!」
声を荒げ指を突き出す。
さっきの話を聞かれたかと思いランスロー達は気が気でないといった様子であったが、話を逸らすように。
「え、えーと…侵入者のことかい?酔っぱらって入っちゃったみたいだよ。ちょっとケガが酷いから…」
「そのことです!」
イセリナの言葉に安堵しそうになるのを必死に抑え、ランスローは「どうかした」と何とか言葉を絞り出す。
イセリナは腕を組み、ランスローを睨み付け、
「あの方はもう保釈して差し上げました!それよりも、あの方が侵入者を見つけて撃退したと兵から聞きました!なのに投獄とはどういうお考えですか!?」
その言葉にランスローは目を丸くする。
イセリナはまっすぐにランスローを見据え、力強く拳を握りしめると、
「彼には取り合えず、こちらの不手際の口止め料として中級回復薬と迷惑料を支払っておきましたが、聞けば彼は中央国の非道を嫌い冒険者となったと聞きました。そんな者がこの国の一大事に尽力をなされたということは栄誉あることです!このことを大々的に発表し国民に伝えるべきではありませんか!そして、彼には救国の徒として騎士職への取り立ても考えるべきです!」
悦に浸るような言い方ではあるものの、イセリナは直情的な少女だ。
物事の側面を考えず、真に面と向かって考えるという母親の面影を色濃く受けている。
そして、父であるランスローは…
「ええ!?」
と驚きしか口に出来なかった。自分の立てていた計画が水泡と帰し、殆どパニックに近い状態であった。
計画し用意周到に物事を進める父とは正反対の娘の行動に困惑する。
その姿に、フェルディナントは小さく吹き出し、
「イセリナ姫らしいですな」
「笑いごとじゃないよぅ…」
ランスローの情けない声の後にイセリナの詰問が始まったのは言うまでもない。
PC壊れて半年が経ってしまいましたが、ようやく復旧(精神面)出来ましたので、また細々と投稿しています。




