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彼女の旅路~Load of memories  作者: きのじ
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閑話『きねずみとこうもり』


閑話『きねずみとこうもり』


 雨の中、軒を求めるように少年のような赤髪の冒険者が木の下へと走る。

 木には小さな洞があり、そこには小さな木鼠と蝙蝠が入っていた。

 二匹は体をお互いに温まるように寄り添いながら、

「ここ入ってもいい?」

 赤い髪の冒険者がお願いするように伝えると、木鼠と蝙蝠は冒険者に一瞥をくれる。

「いいよ。どうぞ」

 木鼠が喉を鳴らす。蝙蝠は静かに羽根をはためかせ。

「寒くない?こっちおいで」

 小さな洞にはその二匹分しか入れる余地はない。

「あはは。ありがとう。入れないし、ここでいいよ」

「寒いでしょ?」と蝙蝠が羽根を折りたたむ。

「うーん…寒いな。雨が冷たいし」

 赤い髪の冒険者はゆっくりと腰を折るように、二匹を見つめる。

「ねぇねぇ、人間は危害を加えるかな?」

 木鼠が欠伸をしながら蝙蝠にもたれかかる。木鼠は慌てて、離れようとするものの、蝙蝠が肩を貸すようにし。

「気にしないでいいよ。こっちを見てるけどね、何?」

 赤い髪の冒険者は懐から木のみを取り出し、二匹に差し出す。

 まるで宿代のように。

「これ食べるかな?」

 そんなことを言いながら木の実を二匹に渡す。

「お、木の実くれるんだ」と木鼠が木の実を受け取り齧り始める。

「ありがとうね。人間」

 蝙蝠は口を開けて軽く羽根を動かしてみせてから、二人で分け合うように木の実を齧り始めた。

「美味しい。美味しい」と木鼠。

「うん。美味しいね」と蝙蝠。

 二匹が木の実を頬張りながら、雨を眺め、

「雨だね」と赤い髪の冒険者に語りかける。

 赤い髪の冒険者は笑顔で二匹が木の実を齧る姿を見つめている。

「人間、聞こえてる?」

 不意に蝙蝠が口を開き、尋ねる。その頃には木の実は食べ終わってしまっていた。

 赤い髪の冒険者は食べ終わったのを確認したのか、のんびりと木に背中を預け。

「止まないね」とポツリと溢した。

「そうだねー」

 木鼠が欠伸をしながら答え、その温かそうな毛皮に蝙蝠を抱き寄せる。

「寒くないの?」

 蝙蝠は赤い髪の冒険者の恰好に首を傾げながらも、温かな毛皮に包まれ目を細める。

「君達は温かそうだよね」

 赤い髪の冒険者の言葉に木鼠は目を細めながら小さく頷く。

「温かいよー」

「温かいね」

 蝙蝠は気持ちよさそうに目を細め、木鼠に体を預ける。

 赤い髪の冒険者は欠伸をし、ゆっくりと眠たそうに眼をトロンとさせ。

「さてと、疲れたし、ちょっと休もうかな」

 そう言いながら、赤い髪の冒険者は口ずさむように、優しい歌を口ずさみ始めた。

 歌はきっと子守唄だ。その歌を聞きながら、木鼠と蝙蝠は眠たそうに眼を閉じ始める。

 暫くすると、赤い髪の冒険者から歌が途切れ、ゆっくりと眠っていた。

「お休み、人間」と木鼠。

「お休みなさい」と蝙蝠が。

 二匹は欠伸をしながら、赤い髪の冒険者に眠りの挨拶をする。

 二匹で暖を取りながら、ふと赤い髪の冒険者が小さな咳をした。

 その声で小さく目を開けながら、木鼠が蝙蝠に。

「ねぇねぇ、人間は聞こえてるかな?」

 蝙蝠は木鼠の言葉に目を閉じたまま。

「そうだね。聞こえてるといいね」

 諭すように、それでもそれが希望のように伝える。

 蝙蝠の言葉に木鼠は小さく笑い、洞から首を出す。振り返り蝙蝠の方を向くと。

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 悪戯っぽく木鼠が笑い、蝙蝠の羽根に手を伸ばす。

「何するの?」と蝙蝠は言いながらも洞から体を乗り出す。

「いいから」と木鼠が手を引き、二匹は外へと出る。


 眠ってからどれくらい経ったのだろうか。

 多分、まだ1時間も経っていないと思う。だけど、妙にお腹の部分が温かくて目を覚ましてしまった。

 視線を落とすと、私の膝の上には木鼠と蝙蝠がお互いで暖を取るように眠っていた。

 そんな小さな二匹を見ていると自然と嬉しさがこみ上げてきた。

「ふふ、温かいね」

 軽く撫でてみると二匹は欠伸をするように口を開けていた。何かを言っているようにも見えるけれど、何を言っているのかさっぱり分からない。

「おやすみなさい」

 私が二匹に伝え、雨に濡れないように手で包みこむと、二匹から小さな鳴き声が上がった。嫌がっているよりも、まるで「温かい」と言っているようだった。

「おやすみ、人間」と二匹が言っているような、少し長い鳴き声が聞こえた。

 話しが通じるなんてことはないのだけど、それでも想像してしまう。

 完全に相手のことを分かることは出来ない。

 チョコレートの理論だったか、それかチョコラータの理論と誰かが言っていた。

 ビターのチョコレートを食べて、「これが美味しい」と言っている人と同じ物を食べたところで、同じく美味しいと言えるかどうかは分からない。

 その人の味覚次第、というではなく、本当にお互いが同じ味を感じているのかすら分からない、ということらしい。

 だから、「分かった」のではなく「分かろうとしている」に過ぎなく、それは想像でしかない。その奥底の心理まで読み取ることも確認も出来ないのだから。

 確認の出来ない事柄は、分かろうとするから間違える。

 想像の範疇でしかないから決めつけられない。決めつけてはいけない。

 害意があるのか、それとも純粋な優しさかも、相手の真理が見えない以上分からない。

 言葉の裏だけ見ればビターのチョコレートを美味しいとだけいってみせて、食べさせてみる、と捉えれば、たちまち世界は暗くなる。それが正しいかどうかを判断するのは、判断する側にゆだねられている。

 嫌いな人からの言葉なら、正論でも諭す言葉であっても、正しい行動でも否定し、泥を投げつける。

 好きな人からの言葉なら、盲目的に捉え、失敗であってもそれを愛する程までに真実へとたどり着こうとしない。

 それがこの理論らしい。

 それが嫌なら、好きも嫌いもなしに、ただ無感動に生きればいい、とも言われた。

 大衆から下種と言われる人にも過去があるし、そう呼ばれるに至った行動にも意味と情動がある。

 逆に聖人と言われる人間にも考えがあるし、思いがある。

 それらが本当に正しいか、正しくないかを判断するのなら、その人達を見ずに人間性と感情を捨てないといけないらしい。

 バカバカしいと思いながらも、今の私がしていることがまさにそうだ。

 この子達が可愛らしいから、勝手に優しくしてくれていると、妄想しているに過ぎない。

 だけど、そう思っていたい。

 私は世界的に言っても愚者だから、世界から都合のいい部分を抜き出そうとしている。

 私は二匹が「人間も温かいね」とそんなことを言っているんじゃないかと思うと、小さく笑ってしまう。

 この小さな体で、私のことを温めてくれているこの二匹が愛おしく思えて仕方ない。

 雨はやまない。

 街道がすぐ近くに見え、もう少しで取り合えずの目的地であるアルトヘイムに着くのだけれど、いつも通りのんびりと先に進んでいこう。

 こうやって、他の命に触れながら、その温かみを感じながら。

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