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彼女の旅路~Load of memories  作者: きのじ
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第十二話『酒場での話』

第十二話『酒場での話』


 古い城壁のそびえる王都『アルトヘイム』

 魔王軍と人間による戦争の人類の砦であり最前線。

 冒険者の活動は殆どがギルドにより管理されており、フリーの生き憎い国ではある。

 そんな中”熟練”を名乗る冒険者アランは頭を抱えていた。

 彼がこうなっている理由はこの前の一件からだ。

 自分がノリで弟子にした冒険者の活躍を聞き、思わず酒場の全員に酒を振舞うという暴挙に出てしまったが故に、金が心もとない。

 おまけにギルドに属していない彼にとってはここでの仕事にも中々巡り合えず貧困に喘いでいる。

 中央国出身のアランにとって酒は水のようなものだが、物価の高さと金が心元ないので我慢せざるをえない。ただ、これだけ仕事に巡り合えないと飲みたい気分になる。

 ため息をついていると、不意に昔の同僚が俺に声を掛けてきた。

 件の…というより噂好きの同僚だ。

「よお、アラン!どうした?」

「頭痛ぇんだよ」

「飲み過ぎか?」

 飲んでないからだ、とは言えない。仕事もないのに何でこいつはこんなに楽観的なんだ。

「仕事ねぇか?」と俺が聞くと、

「あるぜ」

 と笑顔を見せる。一瞬、聞き間違えたかと思ったが同僚は小さく笑い、

「傭兵稼業とかどうだ?」

 笑えない。確かに、俺達フリーの殆どはその仕事についてはいるが。

「俺は何かに束縛されんのが一番嫌いなんだよ」

 俺は自由を愛するが故に傭兵は嫌いだ。それに俺は冒険者だ。戦争なんかに加担してたまるか。

「はは!まぁ、お前ならそうだろうな!」と同僚は笑いだす始末だ。

 なんでこいつは…と愚痴が漏れそうになるのを必死に堪える。

「お前さ…なんかないのか?」

 俺の言葉に同僚はパチンと指を鳴らし、

「そんなお前に新しい新人の噂を仕入れてきたぜ」

「お!」と思わず声を上げてしまう。

 またあいつの活躍が聞けるのか、と小躍りする。

 俺としては…コボルト退治なんかが聞きたい。

 慣れれば苦はないが、俊敏な動きと確かな膂力で新人にはきつい相手だ。

 その分頭が悪いから、単調な一撃を躱し一撃で倒す…とかあいつが出来たら嬉しい。

 まぁ、出来なくても転げ回るだけ…とかでも微笑ましいが。

 同僚は笑顔を浮かべ、

「その代わり…一杯奢ってくれよ!」

 その言葉にげんなりする。

 なんだよ、こいつも金がねぇのかよ。

 というよりかつての同僚から毟ってタカリで生きていくのはどうかと思うぞ。

「金がねぇんだよ!」

 俺が怒鳴るもこいつは俺の性格を知っている。俺が金に関しては小心者で守銭奴なところを。

「おいおい、二つ名持ちだろ?頼むよ。とびっきりいいのだからよ!」

 『二つ名持ち』とは言っても俺のは悪名だ…とは言わない。言ってて情けなくなるからだ。だから”熟練”を名乗っている。こっちも嘘ではないからだ。

「仕方ねぇな」と俺が隠し財産に手を伸ばすと、同僚は嬉しそうに小躍りし。

「話が分かるな!」

 そう言ってきた同僚を思わずぶん殴りたくなる。

 ついでにお前も『二つ名持ち』だろと叱咤したくなる。


 酒場について軽く酒とつまみを頼み、乾杯をする。

 酒を口に含むと思わず胃が喜びで打ち震える。

 やっぱこれだよな。中央国の酒程旨くはないが、最高だ。酒というだけで嬉しくなる。

「で、どんな話だ」

 酒の余韻も程ほどに話を切り出すと、同僚はつまみの肉を摘まみながら、

「おいおい、切り出すの早すぎだろ?」と酒を煽る。

「うるせぇな。俺はもう手持ちが少ねぇのに、奢ってるんだぞ」

 と俺も一応つまみに手を伸ばす。

 干し肉だ。ここの干し肉は相変わらず不味い。

 つまみが不味い以上、俺のつまみはこいつの持ってくる話だけだ。

「まずはジャブから…」と同僚が言うが。

「でかいの一発目にくれよ」

 嗤って見せると、同僚は不服そうな顔をしたものの、咳払いをした。

「はぁー、まぁいいけどよ。ほら、新人のドランって知ってるだろ?」

 ドラン…そう聞いただけであのうざい顔が思い浮かぶ。

「知らね」

「新規の凄腕だよ!なんで知らねぇんだよ?」

 驚かれたが、勿論知っている。

 俺は興味がない素振りを見せ、

「はん!この辺で俺が一目置いてる冒険者は『金翼』のいけすかねぇ奴と、『青風』のギルマスと、女騎士様だけだよ」

 これは本心からそう言っている。付け足すとしてもこの同僚だけだ。

 そして気にかけている新人…になっているかも分からないが”あいつ”だけだ。

「お前レベルで見るなよ。そんなレベルの新規さんなんかただの化物だろ?」

 確かにそうだな。あんな歴戦の猛者と同等に肩を並べられるヤツなんて。

「それか『神のチート』持ちだろうな」

 その言葉と共に歯がゆさが押し寄せる。

 一度だけ剣を交えたことがある。

 とある村の依頼を受け、その報酬を受け取ろうとした俺を薄汚い冒険者として一方的に攻撃し、得意げに「良いことした」等と言った糞野郎だ。

 確かに法外な値段だったが、それでも了承したのは向こうだってのに、あんな暴力で俺の命懸けの冒険を汚された。

 思い出しただけでも腹が立つ。

 明日を生きる為に俺達がどんなに苦労しているかもしらねぇ癖に。

 俺達がどれだけの努力を重ね、死線を乗り越えてきたのかも分からねぇような奴に。

「理不尽な”力”持ちねぇ。そんなヤツはすぐに中央国か、聖王国に行くからどうでもいいだろ?」

 そう割り切れるのはお前だけだよ。

 あんな奴を、異世界から来た本物の『勇者』と祀り上げるんだからな。

 中央国も聖王国も腐ってるとしか言いようがない。

 俺はため息を吐き。

「まぁな。あんな奴らは冒険者ですらねぇ。俺に言わせりゃ『神の恩寵ギフト』持ちの勇者も似たようなもんだ」

 『勇者』は二通りいる。どういう違いか分からないが、『神の恩寵ギフト』を持っていない奴と、持っている奴。

 もっと言えば使えるような『神の恩寵ギフト』を持っている奴とも分けられる。

 この前会った勇者に至っては『私は草花の名前が分かるのです。ええ全てです!最高です。神に感謝を!』と大声で言っていた。

 あいつはマジで頭狂ってんのかと思ったが。

 まぁ、そういう勇者は嫌いじゃない。大体が生きることに前向きだったり、努力を積み重ねたりする。

 だが、生まれつきオーガ以上の腕力を持っていたりする勇者や、月見の丘で会った死なない勇者…いやあれもどうでもいいな。何か気持ち悪いだけだし。

 思い出しても碌な広義の勇者がいない。大体どいつもこいつも頭のおかしいヤツばかりだ。

「とにかく…才能だけで戦っているのが気に喰わねぇ」

 俺の言葉に同僚はニヤニヤと笑い。

「やっかみだな」

「うるせぇよ」

 分かってるよ。俺にはそういう才能がない。

 『戦技』も使えなければ、『魔術』の適正も低い。『奇跡』なんて持っての他だ。だが、それでもここまで登り詰めたんだ。

 同僚はつまみを噛みながら、

「まぁ、聞けよ。そのドランがな、どうやら一人でオーガを倒したらしいぜ。小柄なオーガだがその首を持って昨日凱旋してぜ」

 オーガをあのガキが倒した?

「なんだよその顔?」

 同僚が聞いてきた。多分、俺は小ばかにするような表情をしていたのだろう。

「嘘臭ぇ」と一言で切り捨てる。

「ドランってあれだろ?『魔術武具マジックウェポン』を持ってるボンボンだろ?」

 俺がそう口に出すと、同僚は驚いた様子も見せずに。

「知ってたのかよ」

 とまるで分っていたという素振りを見せた。

「気に喰わねぇからな」とは言っておく。

 あいつも強い武器を振り回しているだけだ。やっていることも小さい。

 まぁ、それを努力と認めてやらんでもないが、新人で俺と同じことをやっているのが鼻につく。まだあるだろう、と諫めるべきなのかもしれんが。

「お前の『片手半剣バスタードソード』もそろそろ代えたらどうだ?」

「俺にそんな金はない」

 こいつもそろそろ折れそうだ。確かに代え時なのかもしれん。

「まぁ、今じゃそのドランの話題が一番沸騰しているな」

 大声で笑い始める同僚がワザとらしい。

 確かに新人がオーガを一人で倒したとなれば沸くだろうが、お前が言うか?

「お前から見てどうだ?」

 俺が聞くと、同僚は嗤い。

「あん?面白い話じゃねぇか」

 こいつ分かってやってるな。

「『岩蜥蜴』とも言われたお前がか?」

 こいつの『二つ名』は『岩蜥蜴』。デブだが隠密のスキルに長けており、冒険者でありながら暗殺稼業までこなせるような奴だ。

 年を理由に暗殺は辞めたらしいがどうなんだか。

「はは、まぁ、そうだよな。だからこの話にしたのさ」

 大体言いたいことが分かってしまう。本当に腐れ縁だな。

「オーガ程凶悪な魔物を一人で倒せるなんて…この辺のフリーじゃお前くらいだろ?」

「言い過ぎた。褒めてもなんも出ないぞ」

 言葉通りに言い過ぎだ。俺の知る限りこの酒場に来るヤツの中でオーガを一人で狩れるのは俺と、この噂好きの同僚以外にもあと数人はいる。

「酒は出てるじゃねぇか?」

「ははは、ぶちのめすぞ」

 憎まれ口が得意だな。そうやって情報を抜き出したりもするのだろう。

 俺みたいな不器用な奴には到底無理だ。

「先に言っておくが面倒には首を突っ込まんぞ」

 あらかじめそう伝えると同僚はため息を吐いた。

「そうかよ」

 と少し残念そうだ。

 こいつも頭がおかしくなっちまったんだろうな。

 暗殺なんかをずっとしていて良心が耐えられなくなり、今じゃただのお節介だ。

 それでもこうやって俺には悪態をついているのは、まだ自分を持っているのだろうな。

「他には?」

 俺が催促すると、

「ああ、あとは…領内でスルスト族を見たとか?」

 知らんな。

「なんだそりゃ?エルフの一種か?」

「知らねぇのかよ。あれだよ、魔族の…」

 魔族を見た…と言われてもな。珍しいものでもない。

「魔族なんて砦の外に腐る程いるだろ」

「興味ねぇのかよ」と同僚は口を尖らせた。

 魔族に興味と言われてもな。確かに『魔術武具マジックウェポン』の祖だけあり、優秀な武器を持っているが、それも人間と中立を表明した魔族の『吸血侯』のおかげで価値も下がっている。

「あとは、ほらカリデの村に新たなアイリスの放蕩騎士様が出たってさ」

「興味ないな。なんだよその放蕩騎士って」

 騎士様が出たからなんだよ?もしかして亡霊か?

「アイリスの放蕩騎士…知らないのか?」

「知らん。アイリス皇国は知ってるが」

 変わりものの国だ。俺も一度だけ行った事はあるが、その辺に魔女や魔術師が歩いているのに聖職者がそれらと仲良く話しているそんな国だ。

「お前さ、少しは書物も読めよ」

「お前とは戦う土俵が違うんだよ」

 全く、俺にはそういう才能がないっての。それに本を読むより俺は外に出て冒険する方が楽しいんだよ。

「はいはい…まぁ、こんなもんだよ」

 同僚は目を伏せ、酒を飲む。

「そうか…これは金払った分の価値なかったな」

 俺はそんな同僚を嘲笑うように言って見せてから不味いつまみに手を伸ばす。

「おいおい。ドランが心配じゃないのか?」

 慌てて俺に声を掛けてくるが、俺には関係ない。

「いずれどっかでくたばるだろ。腕前もないのに俺みたいなことをやっていたらな」

 どうせ、ドランは手柄を横取りをしているのだろう。

 あいつみたいな奴がいかに高級な武器を使っていたとしてもオーガには勝てない。

 オーガは力だけじゃない。知能もあり、人も騙す。そんな厄介な相手あんな小僧じゃ無理だ。

 そうなると、むしろ誰がオーガを倒したのにも関わらず報告をしていないかの方が気になる。

 もしかするとさっきの魔族か、それともアイリス放蕩騎士様か…だな。

「はいはいっと…お前ならあの鼻っぱしを折ってくれると思ったんだがな」

「優しすぎんだよ。金さえくれればやるがな」

 俺が笑って見せると同僚は一瞬、懐に手を伸ばした。俺はそれを手で制する。

「らしくねぇぞ」と声を掛けると同僚も照れたように頭を掻いた。

 同僚は酒を一気に飲み干し、

「後は、サイクロプスが現れたくらいだな」

 その言葉にはさすがに驚いた。

「”歩く災害”か」

 単眼の巨人。4メートルを超える巨躯に。そして、暴力としか言いようが出来ない抗えない力。

 知能こそ高くないが、戦闘には特化しており、こちらの攻撃を防いだり、ゴブリンやホブを群れで引き連れて村や砦を襲う魔物。

 あれは俺でもきついな。せめて腕の立つ冒険者が十数人いれば…いやそれでも無理だな。

 まぁ、何処かの人間の村に接近すれば『金翼』も動くだろうし、『青風』との共闘も見れるだろう。そして俺みたいな奴にも働き口は出来る、か。

 こんなのが一番いいニュースってのもホトホト呆れたくなる。

 もっと明るい話が欲しいものだ。

「はーあ、5年前にエルフの村がサイクロプスに滅ぼされて、アルトヘイムがバラバラになってから本当にいいニュースがねぇな」

 5年前の災厄。

 エルフの村をサイクロプスが襲い、村のエルフ達がこれに対抗し壊滅した話だ。

 魔王軍の進軍とも重なり、アルトヘイムとしては最後の同盟を結んでいたエルフの村を救いに行きたかったものの、結局は援軍は出せず村のエルフは殆どが死に絶えた。

 村の生き残ったエルフは裏切りとも言える人間の行為を、その恨みからダークエルフとなり魔王軍へと下ったり、そうならなくても人を嫌い何処かに消えたらしい。

 かつてはこのアルトヘイムにもエルフはよく来ていたらしいのにな。

「アイリスの放蕩騎士様も20人以上くたばっちまったし、もうその意志を継いだ赤い髪の少年に任せるしかねぇか」

 赤い髪の少年?

「おい待て。その話はなんだ?」

 思わず聞き返してしまう。

「あ?さっきのカリデの村の話だよ」

「詳しく」と俺がずいと顔を近づける。

 同僚は困った顔をしながら。

「なんでもアイリスの放蕩騎士の意志を継いだ、赤い髪の少年が村を襲っていたリザードマンを倒したって話だけど…」

「名前は?」

「知らねぇよ。グラディウスと円盾を持っていたらしいけど…」

 赤い髪。少年。グラディウスと円盾…それは…

「始めからそれを話しやがれ!」

 思わず声を荒げてしまう。

 にしても恐れ入った。コボルトより凶悪なリザードマンを倒したとはな。

「お、おう…」と同僚は目を丸くしながらも俺の目を見て笑って見せた。

「やっぱその目だよな、お前は」と俺の目を見て何故か満足そうだった。

 俺は同僚の話を聞きながら、心が躍った。

―なんだよ。いい話持ってるじゃねぇか、と同僚に感謝し。

―にしても何やってんだよあいつ。多分困ってるんだろうな。

 そう思うと思わず俺も笑みがこぼれる。

 そして、冒険者になったんだな、と嬉しくなってしまった。

 今度、シノの村へ行こう。そして、マリアのチビ助に謝っておくか。

 その道すがらあいつと会えたら、なんて言ってやろうとかな?

 そう思うと仕事こそないがまた楽しい冒険が出来そうだ。

 こうでなくちゃな。冒険者は!

 胸の高鳴りを忘れて、何かに縛られるんじゃ、何にも楽しめねぇよ!

 自由な鳥のように好きなよう、目的は作って何処まで行くのが冒険者だ。



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