3’承諾
「へぇ?」
不意をつかれたような声が出てしまった。
「どういう事だよ。仕事って何だよ。俺を釈放してくれるようなことを言っていただろ」
「なんの事だ。私がいつお前を釈放すると言った。あと、監獄を出る条件を監察人だけを付けるなんて一言も言っていないぞ。勘違いするなよ」
汛の言い分を論破するように北見さんは言い返した。確かに、今までの会話を思い出してみると一言も釈放の条件として私を付ける事だけとは一言も言っていない。
「そういう事なら俺はここからは出ないぜ。このままお前の思い通りになるのも気に食わないからな」
そう言い放った汛は檻の中に戻た。
「仕事を達成したらお前の懲役を減らしてやると、言ったらどうする」
汛の足取りが止まり、振り返ってこちらを見てる。私はというと、目を見開いて北見さんを見ていた。それはそうだろう。懲役を減らす。その言葉には、仕事を達成したら罪が無くなっていくのと同じなのだから。
「懲役を減すだ?なかなかおもしろい事を言ってるな。仮にもそんなことが出来るのか?」
「可能だ。この決定には、上層部の人達も賛成している人が多い。それに、これはお前にとって美味しい話しだと思うがな。どうする、出てこないのか?」
右手を口元に当てながら考えている。
考えた末に出た答えが‥‥‥
「分かった」
短い一言だった。
しかし、納得がいかない。何故仕事をし、達成しただけで懲役を減らすのだろう。そう考えていると反射的に口が動いた。
「何故ですか?私が監察人になるのは百歩譲って分かりました。ですが、仕事をしたら懲役が減る。そんなのはおかしすぎます!」
懲役が減るという事は、犯した罪も無くなっていくという事。そんな事はあってはならない。
こいつが犯した罪でどれだけの人が悲しんでいるか分からない以上そんな条件で出すわけにはいかない。
「5723年だ」
「へぇ?」
突如北見さんの口から出た意外な数字。何だこの数字は?
「この数字は汛、真狩汛の懲役年数だ」
なんの数字かを聞いて分かった。とてもありえない数字。
「だったら尚更そんな条件を出すわけにはいきません!それだけの懲役年数、相当の罪を犯して来ているはずです!」
「初山、お前の主張も分かる。だがな、ここは海底監獄の最下層。地上の日も浴びる事が無いとされている奴らがが投獄されているところだ。そんな奴らとって仕事をしただけで懲役年数を減らせるなんて受ける以外にない」
「し、しかし‥‥‥」
「それにな、仕事と言ってもやってもらうのは、咎人の処理や重要人物の護衛など、危険が伴う仕事だ」
聞いた途端、上の人達がの考えが分かった。
汚れ仕事を押し付けようとしているのだ。
「任務中に異端を使う者が現れたら、こいつに任せればいい。一応異端を使える」
「一応ってなんだよ、俺は正真正銘異端を使えるからな」
異端に対抗する為に異端を用いるというのは分かる。しかし、まだ納得が出来ない。
「懲役年数を減らすんだ。それなりの仕事をしてもらわないといけないんだ。改めて汛、お前はこの条件でここから出てくれるか?」
真剣な顔で問いかけた。少し考えた後に出た答えが、
「ああ、分かった。その条件でここから出てやるよ」