第六話 初めてのダンジョン生活②
地上に上がる前にノコギリとバールは懐中電灯と一緒に階段横に置き、剣は何かあった時の護身用として持ち出す事にした
銃刀法違反?こんなモンスターがいつ何処から出てくるかも分からない緊急事態で守るわけにはいかないのだ!笑
予備の布団等も持って行ってなかったので早見一家用の布団も持って降りないといけないと後で気付き、どちみち二往復はしないといけない
美優と詩音ちゃんにも頑張ってもらわないとな
二人には家中のクッションを大きなゴミ袋に入れて集めてもらい、俺は一階の客室から予備の布団カバーに入れてある掛け敷き布団2セットを運び出し玄関前に置いた
他に何か必要な物が無いか話し合っていた途中で美優と詩音ちゃんは何かに気付き、俺にここで待っとくように言って二人して家の中へ入って行った
ボーッとつっ立っているが外は何もなかったかのように静かなものだ
地震が起きた初日から消防や救急の車両が走るサイレンの音も何も聞こえていない
道路も駄目になってしまっているのだろうか?
一人になるとなんとも不安になってくるな…っと考えていたところで二人が戻って来た
薬局のグレー色の大きな袋を持って来ているが何が入っているのか分からなかったので特に気にせず皆で手分けして荷物を持ち、車庫内の地下倉庫に降りた
レベルアップの影響なのか俺の筋力と体力が明らかに上がっているのを感じる
やっぱりレベルを上げておいてよかった!と自分の選択を自画自賛しつつダンジョンの入り口に荷物を置いて二人を軽く休憩させ、詩音ちゃんに「他に家から持ち運びたい物とかあったら速水家から持って来るけど何かない?」と聞くとタオルやバスマット、化粧品etc…え?詩音ちゃん化粧してたのか!?と内心ビックリしながら聞いていると最後に恥ずかしそうに俯きながら生理用品が欲しいと言った
なるほど、さっき二人が持ってきていた薬局の大きな袋はそれだったのか…
そりゃ男の俺にこんなの頼むんだから恥ずかしいよなと思いながら、返事を返して一人地上に上がり、自転車に乗って早見一家が住んでいたマンションへと向かう
一人で急いで向かったお陰か先程よりも早くマンションに着いた。余り二人を待たせ過ぎると悪いので階段を駆け足で上がり部屋に入った
何処に何があるかも分からないので手当り次第に探したせいで部屋も泥棒が入った後の様にかなり荒れてしまった。すまん…
心の中で謝罪を済ませ、大きめのボストンバッグに買い物袋に入れた生理用品他、シャンプー等のボトルに詰め替え用も全部放り込み、他にも必要かと思われる缶詰等の保存の効く食料に数が足りてなかったクッションにタオルなど様々な物をギュウギュウに詰め込んで部屋を出て家に向かう
時間がある時にでも他の家の物も集めたいな…でも、人が居る家だと強盗になってしまい申し訳ない。やっぱりコンビニとかスーパーに行くのが一番かな…
モヤモヤした気持ちを抑えつつ自転車をめいっぱい押して走って家に帰った
荷物を持って車庫の階段を駆け下りて二人と合流したが……さて、ここからが問題だ
二人にも戦ってもらって更にレベルを上げてもらわないといけないのだから
突撃〜!
最初に戦うのは妹の美優でノコギリを渡す
二人のステータスじゃまだ鉄の剣を持ち上げられなかった
荷物を置いた三人はそれぞれの配置に付く
俺と詩音ちゃんでバールをかまして扉を抑えつつ正面に陣取った美優に攻撃をしてもらう
ネズミよりゴブリンの方がレベルが上がりやすいのかなど、まだまだ情報が足りないし、これから俺の能力が生かされる情報収集とレベルアップもやっていかないとな
怯え、躊躇しながらも大ネズミを攻撃して倒し終えた疲労のみえる美優を休ませ、そして先へ進む
次はレベルを上げていない詩音ちゃんだから俺も手伝ってあげないとな………………………………戦闘を終え、無事レベルアップを果たした詩音ちゃんを美優が支えてあげながら部屋に入り、ここでも休憩を挟む事にした
詩音ちゃんもだけど、美優も疲れているのだ
優しい兄らしく可愛い二人を今だけはとことん甘やかしてあげるとしよう
俺みたいなモテないフツメンは遠目から美少女を眺めて、時々でもこうして話しかけてもらえるだけでも癒される
十分な休憩もとり終え、会話が途切れた所で俺から話しかけて出発する事にした
ふぅ…やっと一回目の荷物運びが終わったー!あと、二回は往復しないといけない位あるから頑張らないとな!!
戻って来た俺たちにW母さん(ウチと早見さん)が労いの言葉を掛けてもらい、水を飲んで少し休憩したらまた出発だ
一時間ほどかけて二往復し、ようやく荷物を運び終えた俺たちは作業をしている皆から離れて三人湖の傍でコップに注いだ水を飲みながら喋って休憩をしていたのだが…
そんな時、美優がとんでもない昔の話をしだしやがった
「そういえば小さい頃に詩音ちゃん達の家族と私達みんなでキャンプに行った時、お兄ちゃん、詩音ちゃんに好きだって言ってた事あったよね?」
「………………………………………………。」
なぜ今それを…!?
「あ、私も覚えてる!あの時は確か康ちゃんって呼んでたね。また昔みたいに康ちゃんって呼んで良い?」
イヤイヤ、詩音さん何を言い出すんだよ!?
「……………………………………………………。」
「ねぇ、お兄ちゃん今でも詩音ちゃんのこと好きなのかな??」
「………………………………………………。」
康介は秘奥義ポーカーフェイスを発動した!
だが常時発動中の為、何の効果もなくただ沈黙が続いた!
俺は今までにそうゆう経験もなく、どう答えれば良いのかも分からなかった俺は一か八か伝説の呪文を唱えた!
「俺は世界中の皆の事が好きだぞ」
「わーお兄ちゃん逃げたよ」
「でも、そんな事を普通に言える康ちゃん凄いよね。
私なら恥ずかしくて言えないよ。笑」
ふっ…詩音ちゃん、こんなセリフ俺だって恥ずかしくて言わなくていいなら言いたくなんかないよ!
だが…なんか分からんが危機は回避出来た様だな
ホッとした俺は心が落ち着きを取り戻し水を飲もうとコップを口に運んだ時だった
「私はずっと康ちゃんのこと好きなんだけどなぁ」
ブッ!フガッ!?グッッ!クソっ!ヤバい!危うく吹き出しそうになってしまった!!動揺を見せるな!そう自分に言い聞かせて何とか水を飲み込み耐えてみせた!
フッ…俺はどんな口撃も跳ね返す最強の要塞なのだ!これくらいで動じてたまるか!
「やっぱりお兄ちゃんは手強いね…これが一番効くと思ったのになぁ」
「康ちゃん、私たちに全然弱点とか弱味になるようなこと教えてくれないよね〜」
やっぱり企んでいたか…!
可愛い顔してなんて恐ろしいことしやがる!!
だが、それでは俺の牙城は崩せんぞ!
「やっぱりそうゆう事だったか。だと思った。
話のもっていき方が多少無理矢理な感じがあったし、雑なんだよ」
……とりあえずこれで暫くは問題ないだろう
それからは大人しく他の話で二人は盛り上がっていたが俺は一切話に入ろうとはしなかった
もう嫌だ…おうちに帰りたい!
あ、ここが我が家だったか!
暫く休んだ俺は穴掘り作業へと戻れず、母さん達に三段ボックス(本棚)を幾つか持ってきてもらいたいと頼まれたので光を呼ぼうとしたら、まだ近くに居た美優と詩音ちゃんが自分達が行くとか言い出しやがった!
なので俺は「それならどっちか一人で充分だ」と言って二人を引き離しにかかっってやった。笑
それを聞いた二人は悔しそうな顔をしながら話し合い、詩音ちゃんが来る事になったのだ
武器を持った俺たちは無言のまま地上へと上がり家の中へと入って行く
三段ボックスが置いてあるのは俺、光、美優の部屋だけなので二階へと階段を上がり、一番手前の光の部屋で本を全て取り出し、部屋の外に出て廊下に置こうとした所で詩音ちゃんがドアの前でまさかの通せんぼを仕掛けてきた!
「ねえ、康ちゃん。さっき私が康ちゃんのこと好きって言ったの嘘じゃないよ?」
……ななななん……だと!?
あ、これはアカンやつや…弟の部屋でまさか…い、一線を越えるえてしまおうというのか!?
グッ!!耐えろ!そ、そんな事はありえない!
三段ボックスを盾にして何とか押し通ろうとするが、詩音ちゃんが「うぅぅん!」とめいっぱい俺の持つ三段ボックスを押してこの場に留めようとする
これ何てラブコメだよ!?
アレだな…ドラマのシーンで旦那(俺)が嫁(詩音ちゃん)の財布を持ってパチンコに行こうとするのを嫁が涙ながらに「お願い!そのお金は今月の生活費なの!」って必死に訴えて抑えようとするシーンに似てるな…笑
でも、実際にあんな事を俺にやれと言われても出来ないだろうな
仕方ないから話くらいは聞いてやるとするか…そう思って押す力を抜いて三段ボックスを床に置いてやると、詩音ちゃんはホッとした表情で俺に語りかけた
「あの時、私も康ちゃんのこと好きって言ったの覚えてない?」
「………覚えてるけど」
やっばっっい!忘れてたの今思い出した!
間が空きすぎてるし怪しまれてるか!?
正面から俺を少し見上げる様に見つめている詩音ちゃんは何を考えているのだろうかその表情からは分からない
こんな時こそ平常心だろう俺っ!
「康ちゃん今付き合ってる人居ないよね?」
「何でそう言いきれるんだ?」
今というか年齢=彼女いない歴ですがなにか?
「美優ちゃん情報から…だから…康ちゃんが誰かに取られる前に…と思って…あの……私と付き合って下さい!」
…………なんてこったい。どうするか…って答えなんか一つしかないだろう!!初恋の子にここまでさせているんだ!頑張れ俺!
「………い、いいよ」
「……え?い、今いいよって言ったの?」
「あぁ、そう言ったけど?断れば良かったか?」
「あ、いや!断らないで!!康ちゃん、こ、こ、これから宜しくお願いします!」
「…そんなかしこまって言わなくても…どうしたの?苦笑」
顔を赤くしながら少し俯く詩音ちゃんに話しかけて次の言葉を待つ
「ま、まさか付き合ってもらえるなんて思ってなかったんだもん…康ちゃん、普段から余り表情に出さないから何考えてるのか分からなくて、凄く不安で…」
まさかのポーカーフェイスが逆効果になってそんな風に周りの人から見えてたとは!!!!
「…それは、悪かったね…」
「本当だよ!もう!!」
詩音ちゃんがそう言いながらほっぺをプクッと膨らませながら俺の薄い胸板をポカポカ叩きだした
そして詩音ちゃんが赤くなった顔を勢いよく上げると不意に見つめ合ってしまい、雰囲気に流されるように二人の距離はグッと近付き自然とキスをしてしまった
……弟の部屋で。笑
雰囲気と流れに身を任せてたら失敗すると友達から言われた事があるが、これは失敗なのだろうか?
どう考えても成功してるようにしか思えないのだが?
顔を離し詩音ちゃんを見ると「えへへ、しちゃったね」とはにかんでいるではないか!
これは…アレだ。間違いなく失敗ではない!
そう思いたいですはい
少しの間、二人は抱き締め合っていたが余り遅くなると怪しまれると詩音ちゃんが言うので渋々離れ急いでもう一つの三段ボックスを空けて下に降り地下倉庫に向かった