閑話 矢野 徹という男
先程、話した通り矢野は俺の放った打ち上げ花火の犠牲になり背中に消えることのない火傷傷を負いました
あ、もちろん俺は矢野のおじさんに謝ったよ?
でも、そこでおじさんは「徹の自業自得だ」って言って俺は責められる事もなく、矢野はそのまま家で簡単な治療をおじさんから受けた後に翌朝に病院へ行ったんだ
その時に診察した医師にはおじさんの虐待を疑われたらしいんだけど、矢野が正直にどんな状況でその傷を負ったのか話をしたらしい
で、二学期が始まった。当然だけど学校の体育の授業では体操着に着替えるよね?
そこで他の男子たちに背中を見られて大騒ぎになってしまったんだ
「矢野がどこかのヤバい奴と大立ち回りをしたらしいぞ!」って。笑
本人はそれを否定したんだけど、周りの連中はそれを信じてくれなくてさ…
それから矢野は周りから一目置かれる様になったんだけど、とんだ勘違いだっていうのに誰も気付かないし、信じなかったんだよ
まぁ、俺と永野以外は誰もその場に居なかったんだから仕方ないんだけどさ
当時から矢野と仲の良かった俺たち二人も何故かそんな目で見られる様になって矢野と同類にされてしまったんだよな…
それからだったかな…会田が俺にちょっかい出してきだしたのは
会田本人曰く、二学期の中間テストで全教科で俺に負けたのが気に入らなかったかららしいけど、まぁそんな話はどうでもいい
それから矢野はとにかく目立ちまくってたよ
今でこそ、こんなに前髪を伸ばして全てにおいてオタクキャラ全開の姿になったけど
そんな事になる前までは普通に誰とでも仲が良くなれる陽キャだったんだ
でも、その傷がバレてから周りに一線を引かれる様になってしまい、次第に三人で居る事が多くなって俺と永野に影響され、漫画やアニメ、更にコミケに連れて行けば同人誌やラノベにまでどっぷりと面白いようにハマっていったんだよ。笑
それからはずっと二次元の美少女キャラしか愛せない可哀想な男になってしまったんだよね
だけど、そんな矢野も遂に運命の人と出会いを果たす事になるんだ!
それが翌年、中三の夏休みに三人で室内プールへ遊びに行った時の出来事だ
俺たち三人は水着に着替えたんだけど、矢野だけは上のTシャツを断固として脱ごうとはしなかった
皆も知っての通り背中の火傷傷が原因でね…
それから矢野は一人ベンチに座って待ってると何度も言うから俺と永野は仕方なく二人で流水プールやウォータースライダー等で遊びつつも影から矢野の様子を観察していたんだ
そしたら急にベンチから立ち上がってトイレに走って行くもんだから当然トイレに向かっただけだろ?って皆も思うよね?
けど、矢野はただ用を足しに行った訳じゃなかったんだよ
矢野自身も自分がそれなりに顔立ちが良くて評判だった事を知っていたから、髪の毛を水で濡らして、長く伸びた前髪も分けて軽くセットをしてトイレから出てきたんだ……普段の穏やかな目つきから狩人の目つきに変わってね
何をしようとしているのかは誰の目にも明らかでキョロキョロと女の子を物色していたんだけど、数分後に一つのグループに目をつけた
向こうは四人組だったんだけど、矢野がクラスカースト上位に居た頃の能力を発揮すれば何事も問題はないだろうと思った俺たちは安心して見ていたんだ
そして目論見通り矢野は見事ナンパに成功して四人と仲良く喋りながらジュースを買って飲んでたんだ
大体それぐらいの頃だったかな…気配を消した俺たちが移動して矢野達の居る所から5mくらいの場所にあったベンチに座ってメンチ切っていたのは。笑
あっ!おい永野、思い出し笑いやめろよ!
それに気付いた矢野の反応は面白かったよなぁ
バカみたいに慌てふためいてさぁ。笑
でも、急に挙動不審になった矢野の様子を四人の女の子は面白がって、矢野もそれに乗っかってはしゃいでいたんだけど、そこで一人の女の子が「流水プールに泳ぎに行こうよっ!」
急にそう言いだしたんだ
だけど、矢野としては背中の傷をこんな公の場で晒したくはなかったのだろう
「自分はカナヅチで全く泳げないから」
と抵抗を見せてたんだ
だが「プールは飛び込み以外は全て足が底に着くくらいの深さしかないから大丈夫だよ」
って別の子に言われ、それに「泳げないのに何で一人でプールに来ているの?」と更に質問が続き、段々と雲行きが怪しくなっていったんだ
そろそろヤバいんじゃないかなって思いだしたでしょ?
え?俺たち?二人とも移動して既に流水プールに入ってスタンバイしてたよ。笑
追い込まれた矢野はヤケになってTシャツをロッカーに仕舞ってプールに戻ったんだけどさ、四人の女の子は「なんだぁ、タトゥーでも入れてるのかと思ってたぁ」などと話していたよ
中学生でタトゥー入れてる奴って居るのかな?笑
この時、俺たち2人は四人の女の子達との距離50cmくらいだったかな?
それから四人に対して背中を向ける様にしながら矢野がプールに入ろうとした時、背後を歩いてたカップルの視線が矢野の背中に向いたんだ
「お、おいアイツの背中…見ろよすげぇ傷だな…」
「うん、凄い痛そうだねー」
確か、そんな話をしながら立ち去って行った
で、当然その話し声は女の子達にも聞こえていて、矢野は四人に囲まれて無理矢理に背中を見られちゃったんだ
実はその四人、俺たちの住む地域の隣の中学校に通っていた同い年の子達だったんだ
え?あー、後から調べたんだよ
その四人は仲良しらしくて、良く一緒に居るって話だったね
でさ、その四人と知り合いの子が俺たちの通う中学校に居たらしくて、矢野の話はもう既に隣の地域の中学校にも知れ渡ってしまっていたんだ。笑
当然、その四人も噂の矢野とは初対面ではあったから、その傷を見ないと気付かなかったんだけど、遂に知ってしまったって訳さ
それから四人は他の人達同様に「ゴメンね〜」って離れて行ってしまったよ
そして矢野は一人、プールから上がって、泣きながらトイレの方に走り出してしまったんだ
俺たちも心配になって矢野にバレない様に静かに、ゆっくりと後を追いかけてトイレのある方に向かうとトイレの横で座りヘタレ込んでたんだ。
だけど、すぐ側にはどう見ても小学六年生くらいの…多分ハーフ?の金髪の美少女が居て、矢野はその子に頭を撫でられながら慰められていたんだ。笑
トイレの裏に回り込んだ俺たちは会話を盗み聞きしてたんだけど、二人の会話からその女の子はどうやら同い年らしかった
矢野の背中の傷も別に気にしてもなさそうな感じでもあったね
暫くして、泣き止んだ矢野はシャワーを浴びて服を着てから、その子とベンチに座って楽しそうに喋ってたんだけど、別れの時は急にやって来てしまったんだ
係員の人で俺たちが三人で行動してたのを偶然にも見てて覚えていた人が現れてさ
「そちらのお子さんは迷子ですか?」
って見当違いの質問しやがったから、俺たちは少し離れた所で笑ってしまったよ
で、二人して否定してたんだけどさ、どうもその係員の人は疑り深い性格らしくてさ…誘拐と勘違いして応援を呼ばれて、係員の人達に囲まれてしまってさ
遂にはインフォメーションセンター裏にある事務所へ連行されて行ったんだ。笑
その後に館内放送で呼び出されてた女の子の連れが来て、俺たちも仕方なく迎えに行ってやったんだけど、小学生と勘違いされた子はぷりぷりと可愛らしく怒ってるし、矢野は「俺は誘拐なんかしようともしてなかったんだぞっ!」と係員にブチ切れて怒ってたし……俺たちも女の子の連れの子達も、この状況をどうしたものかと思ったよ
それから俺たち三人と女の子たち四人で少しだけ話をして別れて、シャワー浴びて帰ったんだけど、矢野はそれからロリコンに目覚めた様でね…「その小さな美少女の情報を調査して欲しい」って俺たちに依頼して来たんだ
その子は少し離れた地域に住んでる女の子で地元の中学校でもマスコットキャラクター的な存在で結構有名だったから調べるのはさほど時間はかからなかった
今回の依頼に関しては、友人が合法ロリに目覚めた記念として、俺たちも張り切って情報を集めまくったよ。笑
郵便番号、住所、氏名、生年月日、男の子の好み、携帯・家の固定電話の番号、メールアドレス、パソコンのアドレス、LINEのID・Twitterのアカウント等、趣味、特技、苦手・好きな物、嫌いな物、普段の行動や弱味までね…………なのに、手に入れた情報を渡したら「張り切り過ぎだっ!」って怒られちゃったよ…
まぁ、あの日の出来事を集約するとだ
矢野はたったの一日で
人生初のナンパをする
しかも一人で複数人を相手に成功だ
そして後に逃げられる
更にショックからトイレ横で泣き崩れて
見た目が小学六年生くらいの合法ロリ美少女に慰められる
誘拐犯と勘違いされてスタッフにより事務所へ連行される
人生初と言っても良いくらいに本気で怒る
ロリコンに目覚める
初恋の相手が出来た
これだけの事を一日で経験することが出来るとんでもない人間なんだよ、矢野という男はね…
こんな奴、全世界を探して何人居るか…笑
どう思った?ある意味凄いでしょ?
ナンパ成功して上がって
逃げられて落とされる
そして合法ロリに慰められて上がって
誘拐犯に勘違いされて落とされる
初恋の相手が見つかり上がる
こんな浮き沈みの激しい一日のせいで矢野は後日から熱を出して三日間学校を休んでたよ。笑
「翔、これが貴様の兄貴の生き様だぁっ!」
「そんなイタイ奴が俺の兄貴とか絶対に嫌だぁ!」
「お前ら……絶対にぶっ殺すっっ…!!!」




