第十五話 ホームセンターから帰還したのに何でだよ!?
それから上位種の魔導石だけを回収して火の粉とスプリンクラーの水を避けるように奥へ走って予備の寝具やクッション、枕を母さんが確保し、奥の非常階段から降りようと向かっていたところで、展示されていたベッドの上に女の子の全裸死体?が二体転がっていた
「…酷い…ゴブリンが繁殖する為にやられたのかもな…」
「………え…?……そうゆうのってオークが定番なんじゃないの?」
「いや、話によってはゴブリンも…って話があるから…」
光と詩音ちゃんの会話を聞きながら俺も光の呟きから可能性はあると思う
「……その可能性はあるだろうな」
「……酷いわ……この子達はアイテムボックスに入れて運んであげましょ…」
「そうね…こんなゴブリン臭い所で火葬されて燃えてくなんて絶対に嫌だと思うわ…」
母さんと早見おばさんの意見には俺も賛成だ…
二人が誰かは身元の分かる物が無いので分からないが、回収して詩音ちゃんに火魔法でいらない布団などを纏めて大量に燃やしてもらう。
気の毒に思いながらも俺達は非常階段を降りて二階の反対側に向かって走った!
カートを回収して持ち上げ、エスカレーターを降りたら出口は近くだ!
どれぐらいで火が回るのかは分からないが悪目立ちする訳にはいかないので、気を病みながらも出来るだけ静かに速やかに撤退をしようとホームセンターを出て車のある場所に向かって移動を始める
すると道路を挟んだ民家から人が物陰からこちらを覗き見ている影が見えたと早見おばさんが気付き小声で俺達に知らせてくれたので、子ゴブリンを隠してそっちを警戒しながら車に荷物を載せていると、向こうが両手を上げて諦めたのかの様に姿を現した
戦う意図はないという意味かな?
出てきたのは20代前半くらいの男一人に女三人の四人だ
「待ってくれ!…警戒させて済まない。…そこのホームセンターに俺たちの友達の女の子二人がゴブリンに捕まってしまって、様子を見ながら時々攻撃を仕掛けていただけだったんだ」
「……あぁ、あれをやったのはアンタ達だったんだ?」
「う、うん。それで女の子二人は見かけなかった?」
俺の質問に答えたのは仲間の女性だった
「…知ってるわよ。この子達よね…?」
母さんはアイテムボックスを使い二人の死体を出したのに一瞬ビックリした様だが、それどころではないみたいだ
「私たちが見かけたのはこの子達だけよ。
一応、合ってるか確認してもらえるかしら?」
「あ、あぁぁぁ…そんな……!?……………………うぅ…あ…あの、裸なのは何で…ですか?」
母さんに声をかけられた他の女性がボロボロと涙を流しながら、裸という異変に即座に気付いて聞いてきた
「うちの子達の話だと、漫画やアニメではオーク以外にもゴブリンも人間の女の子を襲って繁殖?する様ななんかの話もあるから、それで繁殖する為かもって…話だったんだが、以前に俺と息子が見た時よりもここのゴブリンの数が明らかに増えている状況からして恐らくはそうなんだろうなという話をしていたんだ。
ただ、短時間でこんなに子を産むなんておかしな話だし、仲間を増やしただけと言うのが俺達の予想なんだけどな」
「そ…そんな…クソォ!」ダンッ!
……え、コンクリートの地面殴って痛くないのかよ!?
そんなの本当にやる人初めて見たよ!!
「それで、その子達はあなた達が引き取る?」
「……はい、そうさ…せて…下さい」
早見おばさんに背中をさすられながら声をかけられた女性は自分達で引き取ると言う
「分かりました。ホームセンターは燃えてるから、中にはもう入らない様にした方が良いですよ。まだこの辺にモンスターも居るかもしれないから気を付けて下さいね」
「あ、あぁ…ありがとう…また会うことがあったら必ずお礼はさせてもらうよ…」
そう言い残して別れた彼等は先程隠れていた民家へと戻り、俺たちは歩きながら家路を急いだ
気分の悪い物を見せられて全員の雰囲気が暗いな
…まぁ、それは俺もなんだけどね…
時々、襲いかかって来る雑魚モンスターに当たり散らす様に殺して、死体を蹴飛ばして道を進む
また、この先も必ずあんなのを目にするような事があるんだろうななどと考えると更に憂鬱になり、皆、会話もないまま家に帰った
地下倉庫に向かう前に
「…今日はまだ時間あるけど、どうする?
予備はあっても困らないだろうし、早見さんの家にまだ残ってる物とか運ぶ?」
「ん?んー、早見さんどうします?」
俺の質問に父さんは一瞬ビクッとなりながらも早見おばさんに話を振る
「残ってるのはそんな必要な物は無かったと思います。あなた達二人はどう?」
「…私は大丈夫だよ」
「…うん、私も大丈夫…」
早見家は特にもう無いそうだ
「…なら近所の家から物持ってくる?」
「空き巣じゃないの!それは絶対に駄目よ!」
母さんに怒られちまったよ
「それならやっぱりスーパーとかから他の物を持ってこない?時間はあるんだしさ。……俺もだけど、あんなの見た後なんだから何かして気を紛らわさないと気が沈むと思うよ?」
「…それは!……うん、確かにそうだよね…でも、あの会田ってゆう人が言ってたけど、避難所は人が多くてどこでも物資は必要だと思うし、取り過ぎたら向こうの人達が困るんじゃないかな?」
「詩音ちゃんの言う通りだね。…うん、確かにそれはそうだ…それならお米だけとかは?電気もガスも止まっててご飯を炊ける様な状態じゃないだろうからウチで貰わない?」
「…米だけなら大丈夫なのかな?」
「はぁ、仕方ないな…なら車で行こう。カセットコンロ用のガスも欲しいし母さんと光、頼めるか?」
光が父さんの方に様子を伺う様に聞くと、父さんも悩みながら仕方なくといった感じで賛成してくれた
「ええ、分かったわ」
「うん、行こう!」
母さんと光も何かをしていたかったのか、すぐに出掛ける用意を始めた
「それじゃあ康介、留守番を頼むぞ?
早見さんもよろしくお願いします」
俺たちは頷いて応え、母さんのアイテムボックスの中に入っている物を車庫の前に下ろしてから車に乗り込み、出発して行く父さん達を見送った
「……さて、コッチは荷物と子ゴブリンを運んでどうするかだな」
「お兄ちゃん、まだ何かやるの?」
「ねぇ、康介君。凄い量なんだし、この荷物を運び込んでる間に夕方にはなるんじゃないかな?」
美優や早見おばさんから声をかけられて冷静に周りを見ると車庫付近にとてつもない量の荷物が運び込まれているのが分かる
「んー、そうですね…とりあえず運んじゃいましょうか。
あー、母さんに何処かからカートでも台車でも幾つか持って帰って来てもらいたいな…」
手分けして荷物を一度ダンジョンの入り口まで運び入れた俺たちは、美優のアイディアで警備にあたってるオーク二体にも手伝ってもらおうという話になったのだが、ダンジョンから出られないという新事実が発覚して、手間取りながらもダンジョンの中に物資を運び入れて、オーク達に渡して引き継ぎながら湖部屋に運んでもらった
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一方、米の回収に向かった晴夫達はスーパーに着き、三人で懐中電灯を照らしながら美由紀のアイテムボックスに売り場の米の残りを全て入れてもらいバックヤードに回って米の他にカレーなどのルーや調味料まで入手する事に成功していた
「母さんのアイテムボックスってやっぱすげえ量が入るんだな!」
「本当にな。大したもんだよ」
「私もビックリよ。康介、良く気付いたわよね」
和気あいあいと喋りながら車に乗り込んでいる所で、歩いてこちらに近付いて来る人の集団が見えた晴夫はある種の危険感を感じ、急いで車を出して遠回りをして逃げる羽目になり、モンスター以外に人にも警戒しながら家に向かうはめになった
ーあの連中の中にバイクとか持ってる奴が居たらつけられる!
それは絶対に避けないと駄目だ!!ー
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何かが起ころうとしているとは露知らず、康介達はのんびりと喋りながら荷物を運んでいた
特に、明るい話でもないのだが話でもしていないと皆は不安に駆られてしまうのだ
少し暗くなりだし、残りも少なくなってきた所で物資を取りに地上へ上がった玲奈ちゃんが離れた所からガラスの割れる様な不穏な音を微かに聞き取った
嫌な予感を募らせながら、音のした方へ静かに壁から顔を出して見てみると…金属バット等を持った強面の人達が民家に続々と入って行っているのが見えたのだ!
これは危ないと思い、急ぎ康介に知らせて皆は慌てながらも静かに荷物をダンジョンに運び迎撃をする為の作戦会議を始めるのだった
こんな時にスマホが使い物にならないことを歯がゆく思いながらグリードやオーク二体にも指示を出して警戒をさせておく
…DPは残り4100P……ここで使うべきか悩みながら、ここに居る皆と相談してオークを更に三体(750P)に棍棒を三本(600P)使ってオーク部屋に配置した!
こちらには棍棒持ちのオーク五体とグリードも居るんだ!
みんなを信じて戦おう!
俺、美優、早見おばさん、詩音ちゃん、玲奈ちゃんはオークの部屋と湖の部屋の間の通路に待機し、侵入者がオーク達に気を取られている隙を突いて俺たちが一斉に攻撃を仕掛ける作戦だ
母さんが居ないから相手のレベルが分からないのは不安だが今は仕方がない
それと子ゴブリンは危ないので湖部屋に避難させておく
上の様子は分からないが玲奈ちゃんによると見えた限りでは「12人くらいは居たと思う」と言っていた
人数は多いけど、負ける訳にはいかない!精一杯戦おう!
それから、どれだけの時間が経ったのか分からないがグリードが鼻を鳴らす。匂いで何かを察知した様だ
その様子を見た俺たち、オークたちも一層気を引き締めて奴等が来るのを待った
……ゾロゾロ……ガヤガヤ…………来たか!
俺は後ろを向き皆の顔を見ると緊張しているのが見て取れたが、俺は力強く頷いてみせた。俺がしっかりしないといけないんだ!!!
殺らないと殺られる…!それが分かっているから絶対に容赦はしない!
「…備は……か?」
扉の向こうから微かに声を聞いたオーク達も棍棒を持つ手に力が篭もる
ギ…ギィ……ギィィ…扉がゆっくりと開いた!
オーク達は先手必勝とばかりに扉へ張り付いていた個体達が体当たりをして「ぶごぁぁぁっ!!」と声を上げながら扉を力ずくで開き、侵入者に対して一斉に攻撃を仕掛けて行った!
そこにグリードも続く!
通路での戦闘になったので、事前の打ち合わせ通りに奴等の視界へ入らないようにしながら静かに部屋の中へ入り、奴らの視界に入らない所から戦闘音や声を聞いて様子を探る
「化け物が全然居ないと思ったらいきなりかよ!?
チッ!…クソッタレェ!!」ブォン!
「ぶ、ぐもぉぉっ!」ドンッ!ドガッ!
「がぁっ!?」バタン…
「なん…だよ!こいつら……強いぞ!!」ブォン!
どうやら上手くいっているようだな……それじゃ俺たちも行くとしようか!
俺は鉄の剣を持ち、短剣、ボウガンを玲奈ちゃんに渡した
詩音ちゃんはいつもの杖にローブを装備しているから装備に不安があるのだ!
早見おばさんは玲奈ちゃんと最後方で更に追撃をしてもらう為に今はまだ待機だ
俺は詩音ちゃんと目を合わせて合図を送り、一緒に攻撃を加えて行った
最初にターゲットにしたのは俺達に背を向けて鉄パイプを構えてオークの隙を突こうとしている男だ!
俺は一気に背中を切りつけようと袈裟斬り一閃!ブォン!
「ぐあぁぁ!」
しかし、相手がジリジリと僅かに横に動いていたせいで攻撃がズレてしまい、一太刀で殺す事が出来なかった!
だが、打ち合わせ通りに俺が殺し損ねた敵には詩音ちゃんの火魔法が当たり男は燃え出す
「ぎゃ、ぎゃああああ!?…た、助け…て…くれ!」
「なっ!?お、お前ら何しやがる!?」
かなり動揺してくれてはいるみたいだな…よし!
「お前らが勝手に人の家に侵入して物を漁ってるのは知ってるんだぞ!それにな、この洞窟の上は俺の家だ!!」ブォン!
「なにっ!?……っちぃ!」がぁん!
「お前らは絶対に逃がさないからな!」ザクッ!
「ぐはっ!……」バタン…
「ぐるるる……わん!」シュンっ!…ザクッ!
「え…あ……」バタン…コロコロ……
グリードの風魔法が炸裂し、敵の首を切り落とした!
これには相手も堪らず怯んで後退り……逃げようと後ろを振り向いたのだが、そこにはオークが既に回り込んでおり、棍棒を斜めに振り下ろそうとしている所だった
そして…ブォン!…グシャッ……!
追い討ちをかけるように早見おばさんと玲奈ちゃんも参戦して来て、敵の数も少しずつ減って流れがコチラに完全に傾いた時だった
家に帰った父さん達が地上の異変を感じ取ったのか、スーパーから戻ったそのままの足で走って来るのが見える!
ウチの家族三人も武器を構えつつ駆け付けて来てくれた様だ!!
ナイスタイミング!!
「おい、康介!こいつらは何だ!?敵か!?」グサッ!
「ぐ、はっ!?」
父さんは参戦して早々、挟み撃ちになってテンパっている一人に対して喉に短槍を突き刺して倒しながら声をかけてきた
「近所の家が荒らされてるの見た!?やったのコイツらだよ!敵だから殺すぞっ!」
「分かったわ!全く…ガラの悪い、明らかな悪人顔よね!」シュンッ!
「い、ぎゃあ!!!」
母さんも明らかに怒っている様子で人間相手に短剣を振り回して攻撃する
「勝手に人の家を荒らしに来てんじゃねえぞ!!」ザクッ!
「い、いでえっ!」
両親に続く光も苛立っているのか、いつもより雑な攻撃だが短剣を腹に突き刺しているのが見えた
「に、逃げるぞぉ!」
リーダーぽい金髪坊主の男が堪らず撤退しようとするがそうはいかない!
「この状況で逃がす訳がないだうが!!」
ブォン!
「ガハッ……!」バタン…
「えいっ!」ボゥッ!
「…え?あ、熱うっっ!?」
詩音ちゃんの火魔法で服が燃えだし、残った敵は更なる混乱状態に陥った
父さん達が合流したことで大事なく侵入者を全滅させる事に成功した俺たちだが、この後の出来事に更に驚くことになるのだった




