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161:再臨


ご無沙汰りす。

【本話煽り文】漫画版で絶賛無双中のアイツが、今夜まさかの復活!?


「――潜伏場所が判明した」とスドウ。「ここから南東にある小さな隠しメトロだ」


 ギラン奪還作戦はこの日の深夜に決行されることになった。参加するのはノアたち「都知事のお遣い」組、菌玉とハクオウ、そしてスドウたちナカノの里警備団の精鋭メンバー(一部カーバンクル含む)だ。


「隠しメトロ?」とクレ。

「少しシンジュク寄りで里の者もほとんど近づかなったせいで、近年まで誰にも気づかれなかったのさ。過去に賊の被害が頻発した際に根城にしていたようなんだが……」


 ノアがふと目を向けると、警備団員が怒りを堪えるように肩を震わせていた。


「うちの部下が捜索したところ、そのメトロに人が出入りして間もない痕跡があった。定期的にチェックしていたポイントだからまず間違いないだろう。その連中がどうやってあんな辺鄙な場所を知っていたのかは疑問だが」

「その、昔の賊というのは? なにか事情がありそうですけど」

「……八年ほど前、カーバンクルが里の外で相次いで失踪する事案が発生した。目撃者の証言から外部の人間による組織的な拉致だと判明し、取締と警備の態勢を強化したものの、状況は一向に改善されず……それがきっかけで、ワンダ様や俺たち都庁組がここに派遣されることになったのさ」


 里長たちが言っていた「人間の無法者によるカーバンクル拉致事件」のことか。


「俺たちが到着して間もなく、それ以上の被害者は出なくなったものの、拉致されたカーバンクルは結局帰ってはこなかった……奴隷売買目的の誘拐が疑われたが、都庁の調べではそれらしい金や人の動きは確認されず、犯人を捕まえることも叶わなかった」


 カーバンクルたちが悔しげにうつむき、警備団の男たちは拳を握りしめて震えていた。


「拉致事件が終息したのち、俺たちはそのメトロを発見した。そこにはメトロ獣はほとんどおらず、複数の人間が潜伏していたと思われる痕跡が残っていた。俺たちはそこが事件の犯人の根城だと断定し、以来ずっと監視を行ってきた。犯人がいつかまた戻ってくるかもしれない、とな」

「まさか、その件も〝越境旅団〟と関係が?」

「さあ、どうだかな。ただ……事件が始まったのは、あのイケブクロのクーデターから少し経った頃だった。その団長とやらがクーデターと関係していたとすると、タイミング的に果たして偶然と言えるのか……」


 クレとヨシツネが、そろって嫌悪を示すように顔をしかめた。それを見てノアも、遅れながらその可能性に気づいた。目が合って首をかしげるタミコから、思わず顔をそむけずにはいられなかった。


 あの自称ツルハシ・ミナトは、胞子嚢を食べることで相手の能力をコピーすることができる。ヨシツネの【不壊刀】をそうしたように。


 ――ああ、俺も持ってんだわ、【看破】。

 あの男と最初に対峙したとき、確かにそう言っていた。


 帰ってこなかったカーバンクルの失踪者……犯人の根城に帰ってきたあの男……。

 事件の真相が推測のとおりなら、なんとおぞましいことか。


「――で、実際どうするの?」とハクオウ。「相手がメトロに潜り込んでるなら、出口をかためとくのがセオリーだけど」

「モタモタすんのは性に合わん」と菌玉。「時を置いてまた逃げられでもしたらどうする? 儂はこれ以上野郎のケツなぞ追わんぞ」

「かと言って、正面切って乗り込むわけにもいかないでしょう? 地の利は向こうにあるし、というかあの火傷男ヤバすぎでしょ。どんな罠を仕掛けてくるか想像もつかないわ」

「二手に分かれましょう」とスドウ。「正面からの陽動部隊と、裏口からの救出部隊だ」

「裏口?」とヨシツネ。

「やつらの隠れ家は地下五階にあるんだが、こんなこともあろうかと、その階層まで直通の裏口を掘っておいたんだ。地上側の入り口も五階の出口も容易には見破られんようにうまく隠してある。直近でチェックしたのが先月だったか。それからメトロの変動が起こってなけりゃ、今回使えるはずだ」

「ずいぶん用意周到ですね」

「忘れてないってことさ。この里の連中は、あのときの恨みを」


 うなずいた彼らの目は、強い怒りと決意の色に満ちていた。彼らには彼らの戦う動機ができたのだ。


「我々ナカノの人間としても、その団長とやらには訊きたいことがある。さあ、準備にとりかかろう」

 

 

    ***

 

 

 陽動部隊は〝凛として菌玉〟、クレとヨシツネ、そしてスドウとナカノの精鋭数名。役割的に戦闘は避けられないため、武闘派のメンツでかためられた。


 救出部隊はハクオウ・マリア、ノアとタミコとアオモト、そしてクマガイやカーバンクルら案内役のナカノ勢。陽動部隊との連携は菌玉の菌糸玉を一つ預かることで可能になる。ちなみに女性陣が携帯を拒否したためクマガイに押しつけられた。


 一同は日付が変わる前に里を出て、息を潜めてメトロへと向かった。


「タミコ、お前のその頭巾ナウいじゃねえか!」

「さすがは〝鈍愚裏戦線〟初代総長の娘だぜ!」


 カーバンクルたちに黒頭巾を誉められたタミコは「にんにん!」とご満悦。


「カーバンクルさんたちのハチマキもカッコいいですね」とノア。

「だろ!? カチコミ行くならこれが俺らの正装よ!」

「シマ荒らされて日和ってるやついる!? いねえよな!?」


 夜間任務の際、ナカノのカーバンクルたちは頭の宝石の反射を防ぐためにハチマキや目出し帽を使用するらしい。図らずもタミコの黒頭巾は彼らのトレンドに合致していたわけだ。


「ったく、こんな僻地で小動物と小娘のお守りをやらされるとはね。それもこれもあのクソオオカミのせいだわ」

「まあそう言わずに、ハクオウ氏。終わったら姉君と二人でゆっくり温泉にでも浸かるといい」

「……あら、急にやる気が出てきたわ」


 鼻血も出てきたハクオウ。ともあれほどなくして目的地に到着。


 土に埋められた鉄板の扉を持ち上げると、そこに縦穴があった。周囲の痕跡を見るに、賊たちに発見されてはいないようだ。


「……あ、振動がありました。二回です」


 クマガイの手には菌玉の菌糸玉が握られていた。作戦はすべて陽動部隊の先導で行なわれる、菌糸玉の振動二回は「メトロに入るぞ」の合図だ。


「よし――」とアオモト。「じゃあ我々も行くか。ここからは敵地だ、みんな準備はいいか?」

「にっす!」

「混ざってるぞタミコ氏」

 

 

 

 救出部隊の隠し口から数百メートル離れたところ、岩陰の目立たない隙間に、人一人が通れそうな穴がある。これが隠しメトロの出入り口らしい。


 中は狭くて薄暗い。迷宮というより自然にできた洞窟のような雰囲気だ。スドウの先導で進んでいくと、十分も経たないうちに階段に突き当たる。五階まではほとんど一本道で、何事もなければ一時間もかからないという。


「外もここまでも、見張りはゼロか」とクレ。「まあ、想像はしてたけどね。向こうには常識が通用しない、侵入したことはバレてると思ったほうがいい」


 ふと振り向くと、ヨシツネが「こふ、こふ」と口を押さえて軽く咳をしていた。


「だいじょぶ? もしかして君、それが『メトロに入れない理由』ってやつ?」

「……アベさんと話してたの、聞いてたんですね。そうです、メトロに入るとこのとおり、咳がね」

「メトロ喘息、ってやつか」


 〝菌糸硬化症〟と並ぶ治療困難とされる奇病だ。メトロ内の大気を吸うと気管支に炎症が起こり、呼吸困難などの症状が出るという。メトロに近づかなければ生活に支障は生じないが、発作がひどくなれば命に関わる。根本的な治療法は確立されていない。


「難儀だね、狩人にはつらい病気だ。君のレベルについても合点がいったよ」


 不思議に思っていた。高レベルで生まれた菌才のヨシツネが、それなのに二十一歳でまだレベル57なのかと。それにナカノまでの道中、積極的に胞子嚢をほしがっていたのもこれが理由か。


「そうですね、みなさんのように気軽に狩りに出向くとか無理ですから」


 惜しいことだ。それがなければ今頃はランキングにも載っていたかもしれないのに。ましてやその頂点にいるのが実の兄と。


「まあ、こういうのって世の中うまくバランスとられてるってことですかね。しょうがないです、やれることをやるしかない」


 生まれたときからの付き合いだからか、本人はあっけらかんとしてものだ。


「無理しなくていいんじゃないかい? 君が外で見張りをしてくれるなら、挟撃の心配も減って助かるけど」

「いや、半日くらいならちょっと咳が出るくらいで済むんで。足は引っ張りませんから、仲間外れにしないでくださいよ」


 そう言ってヨシツネはギラリと笑った。身体の心配より仇敵へのリベンジか、どこまでもこの男らしい。


 そのまま何事もなく三階から四階へ下りて、間もなく少し開けた場所へ出たところで、


「――待て」


 菌玉の鋭い声で一行はぴたりと足を止めた。


「……いるね」


 同時にクレたちも身構えた。

 かすかな気配を感じたのも束の間、それらは無数に数を増して一行をぐるりと囲っていた。


 ずず、ずず、と衣擦れにも似た音があちこちで小さく響き、ホタルゴケの淡い光にそれらの身体がぬらぬらと反射した。


「おいデカブツ」と菌玉。「メトロ獣はいない、と言っておらなんだか?」

「そうですね」とスドウ。「ここで、というかナカノで、こいつらを見るのは初めてです」


 床や壁や石柱にべたりと貼りついた、泥色の不定形の流動体。


 ――スライムだ。


(これも自称ツルハシが生み出したのか?)


 メトロの変動によって、それまでいなかった獣が突然湧いて出てくる、ということは稀に起こりうる。だが、このタイミングでそんな偶然が――?


 ずしん、と部屋が揺れた。

 ずる、ずる、と奥の暗闇から、巨体を引きずるような音が響いてくる。


「――……ははっ……」


 クレは引きつった笑みを浮かべた。そうせずにはいられなかった。


(ここにシュウくんがいたら)

(なんて言ったかな?)


 暗がりからのそりと姿を現したのは、

 天井にまで届かんばかりに膨れ上がった巨大な泥水の塊だった。


コミックファイアにて漫画版10話が公開されました。

試されるアベシューとタミコの絆!そしてユニおの漢気!ぜひご一読くださいませ。


ニコニコ漫画でも9話まで公開中です。ボススライムへの挑戦がアツい!アプリでサクッと読めますのでこちらもぜひぜひ。


日に日に大変になっていく世の中ですが、皆様どうかご無事でおすごしください。ラーメン食いてー!

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[良い点] マイキーならぬリスキーがいるw [一言] 更新おつです コロナ怖いお。。。
[気になる点] >女性陣が携帯を拒否したためクマガイに押しつけられた。 タミコなら喜んで……頬袋に入れそうでヤバいな……。 [一言] >黒頭巾 鉢金も作ったと思ったから影の軍団が出来る。 「我が身…
[一言] スライムは任せろー(バリバリ
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