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ブサイクでも天下を取る!

 下駄箱を出ると、門のところで春香が待っているに気づき思わず舌打ちをしてしまう。


「どうしたの?」イラつきから、強く言いたかったが、結局やめる。強く言ったところで、怖がるだけで何も伝わらないだろう。

「ごめん。学校内じゃ一緒にいちゃダメな決まりだったよね」春香は小さく頭を下げ、うわ目使いでこちらを見つめる。その表情からたいして悪いと思っていないことは良くわかる。

「決まりってほど厳しいもんじゃないよ」俺は笑顔で言った。確かに決まりってほどのものでもない。昔付き合っていた彼女が休み時間も給食の時間もいっつも付きまとってきて学校生活に支障をきたしたことがあったから、付き合う女の子には、学校内で話しかけるのは止めようと伝えているのだ。

「そうだよね。それに門の外だったら、もう学校内じゃないもんね」そう言って春香は門から一歩外に出て、笑顔で言った。「これで大丈夫!」


「テスト勉強はかどってる?」隣を歩く春香は俺を見上げて言う。身長148センチの春香と歩くと、185センチの自分は巨人にでもなったような気がする。

「ヤバい、全然勉強してない」

「そんなこと言って、また学年で10位以内に入ったりするんだよね。嫌味だねー」

「本当に今回は全然勉強してないんだって」

「前回もそれ言ってたよ」

「そーだっけ」俺は苦笑いしながら答える。「まぁ、英語をほとんど勉強する必要がないのは大きいかも」

「そうだよねー、あー、帰国子女って本当に羨ましい」春香は半ば叫ぶように言った。


 確かに帰国子女で良かったと俺自身もよく思う。分厚い英単語帳やら文法書を理解しようと何十時間も勉強したり、英会話の授業でアタフタしているクラスメイトの姿を見ていると、中学生までニューヨークで育ててくれた両親には感謝しかない。もちろん、帰国子女は帰国子女でハードなこともあったのだが、いちいち説明はしない。

「今回のテストで失敗したら、希望校の推薦とれなさそうなんだよー」春香は頭を抱えながら言う。

「大丈夫だよ」

「また無責任なこと言うー!でも、アキラは大学どうするの?受験するの?推薦?」

「うーん、まだ決めてないんだよね。色々考えてるところ」

「でも、アキラなら何でも決め放題だよね。てか、大学でもバスケ続けるんでしょ?」

「続けないよ」

「えー、どうして!」小さな悲鳴を春香は上げる。「インターハイも出てたし、すっごい活躍してたじゃん」

「インターハイ出てる奴なんすげーいっぱいいるんだよ。全然意味ないよ。それに、大学のレベルは高校とは比較にならないしさ。だから、大学入ったら、まぁ、バスケはサークルとかで楽しくできたらいいなくらいに思ってるよ」

「もったいないなー」

「もったいなくないよ」


 その後も、俺と春香は学校やテレビ、映画の話など明日になったら、何一つ思い出せないような内容のない話を延々として、それぞれに家に方向へ別れた。正直、春香が俺の家に寄りたがっているのにはわかっていたが、あえて気づかないフリをした。あとで、ラインでそれとなくフォローしておけば大丈夫だろう。


 俺は家には帰らず、駅前のコンビニ行くと、ペットボトルのコーヒーを三本と、菓子パンを三つ買う。そして、そこから少し歩いた三階建ての雑居ビルに入る。古いビルでエレベーターは故障が多いため、目的地である三階の部屋までは階段で行くこととなる。階段を歩きながら、ラインを送る。「もう着きます」すぐに返事が来る。「ドア開いてるから、入っていいよ」

 ”ドリームス”と書かれたプレートがある部屋まで行くと、ためらわずにドアを開ける。中は小さなワンフロアが広がっていて、中央に大きなテーブルがあり、数名の社員は各々パソコンで作業をしている。


 これが今俺が最も夢中になっていることだ。部活を引退して特にやることがなかったときに、知り合いからこの会社の存在を教えてもらったのだ。プログラミングが少しできるってことが大きかったようで、現在はアルバイトとして雇ってもらっている。ただ、少数精鋭の会社のため、アルバイトでも様々プロジェクトに関わらせてもらって、いろいろなことを学ぶ機会をもらっている。しかも、コンビニやスーパーでバイトしている同級生たちの2倍近くの時給をもらっている。


 パソコンを立ち上げながら、今取り組んでいるプロジェクトをどう進めるかアイデアを考える。すごく楽しい瞬間だ。こういう時に同級生たちのバイトへの不満を言う姿も何故だか思い出される。世の中には、こんなに楽しい仕事もあるのに、どうして不満しか出ない仕事をあいつら続けるのだろう。ちょっと勉強して、知識を身につければ様々なことに挑戦できる機会が与えられるのに。そして、パソコンが完全に立ち上がると、もう余計なことは一切考えることなく、プロジェクトに取り掛かった。


 仕事が予想以上にはかどったせいか、家に帰ったのは十一時過ぎになっていた。夕食も会社で済ましてた。こんな状況だが、両親が文句をいう事はない。これが教育方針だからか、単純に成績は落ちていないからかはわからないが、こちらとしては自由にさせてもらって助かっている。お風呂から上がると、すぐに布団についた。そして、頭が疲れていたせいか、すぐに強烈な眠気が俺を襲ってきた。


 錆びた金具が擦れるような不快な音がして、俺は目を覚ました。何が起こっているのかわからない。音のする方に頭を向けると、年季の入った目覚まし時計がある。こんな物見たことがない。これが原因だったのか?とりあえず、ベルのところのボタンを押すと、音は止む。そして、すぐにおかしな感覚を覚える。ここは俺の部屋じゃない・・・。部屋をぐるりと見回すが、全く見覚えがない。家具の位置を変えたとかそういう問題じゃない。構造自体が変わっている。それに、何故か全体がぼやけていて見辛い。ここはどこだ?部屋に窓があることに気づき、そこに向かおうと、ベットから立ち上がると強烈な違和感を感じた。視野が低い。自分の足をみる。短くなってる・・・というよりも、俺の足じゃない。心臓が激しく動く。すぐそばの机に鏡があるのに気づくと、それで俺の顔を見た。そこには、知らない顔がいた。絶望的にブサイクな知らない顔がいた。


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