表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔☆道具  作者: 東導 号 
大地を砕く魔剣編
5/47

第4話「魔剣」

「ジャン、お前にこれを貸してやろう」


 自分が提げていた、鞘に入ったままの剣を、バルバは突き出した。

 面白そうに、にやりと笑う。

 片や、ジャンは呆気に取られたままだ。

 バルバの意図が、全く読めないのだ。


「か、貸す? 剣を? な、何故?」


「うむ、お前は今、難儀しているのだろう? この迷宮で」


「あ、ああ……そうです。いきなり罠のせいでここまで飛ばされ、オーガに襲われ、心も身体もボロボロです」


「成る程」


「……あ、貴方の話を聞きながらも……どんどん気が遠くなって今にも死にそうな状況……です」


「ふむ! ならば……この剣は役立つ筈だ。何せ俺のコレクションの中でもとびきりの剣、カラドボルグだからな」


「カ、カラドボルグ? ……ど、どんな剣ですか、それ……」


 ジャンの反応を見たバルバは、今迄のジャンのようにぽかんと、呆気に取られた。

 そして、厳しい非難の眼差しを向けると、いきなりジャンの肩を掴んだのである。

 バルバの力の籠った手が「ぐっ」と、容赦なくジャンの肩の肉へ食い込む。

 オーガに受けた傷だけではなく、肩への激痛で、ジャンはもう意識が朦朧となっている。

 しかしバルバは容赦しない。

 ジャンを、思いっきりゆさぶりながら、詰問する。


「おいっ! お前は一応冒険者だろうが! この素晴らしき魔剣を知らんのか? カラドボルグとはな……」 


 いにしえの英雄が愛用したとか、古代の言葉で『稲妻の剣』と呼ばれたとか。

 なんたらかんたら…………

 結局、バルバの一方的なウンチクは10分以上にも及んだ。


「使い方はこうだ、ん?」


「…………」


 熱く語ったバルバが、ふと気が付けば、ジャンは白目をむいていた。

 バルバの話を聞いているうち、出血が酷くなり気を失ってしまったらしい。

 ツェツィリアは苦笑して、バルバのわき腹を突く。


「バルバ、貴方の話はいっつも長すぎるのよ。……ところで、この子、そろそろヤバくない?」


「おお、カラドボルグの素晴らしさを語ったら、こいつの怪我の事をすっかり忘れていた。ふむ、出血が酷かったのだな?」


 バルバは「にやり」と笑い、無造作にピンと指を鳴らした。

 周囲に強烈な魔力が満ちた。

 瞬間、不思議な感覚が、ジャンを包んだ。

 

 するとジャンの顔色に赤みがさす。

 萎えようとしていた気力がみなぎり、全身を襲っていた痛みと倦怠感、そして身体の腫れがあっという間に引いて行く。


 バルバが無詠唱で発動した、恐るべき治癒魔法であった。

 復調したジャンの目が僅かに動き、閉じていた唇が少しだけ開かれた。


「あ……う?」


「ははは、ジャン、気が付いたか? 起きろ」


 むくりと起き上がったジャンは、何が起こっているのか分からないらしい。

 きょろきょろ、周囲を見ていた。


「しっかりしろ。もう体調は万全だろう? ならば、俺を見よ」


「あ、は、はい……」


「ほら、剣の使い方はこうだ」


 バルバは剣を抜き、少し離れた場所にあるオーガのしかばねを見た。

 多分、バルバが倒したのだろう。

 迷宮のあちこちに、黒い塊が斃れていた。

 

 バルバはおもむろに、片手で持った屍へ剣を向ける。

 治癒魔法により意識がしっかりしたジャンは、「何をする気なのか?」と訝し気に見守っている。


「ふっ」


 剣を屍へ向け、狙いをつけたような格好でバルバが軽く息を吐く。

 すると!

 一個の肉塊として横たわっていた、オーガの屍は瞬時に粉々となり吹っ飛んだ。


「え?」


 何だ?

 何が起こったのか?

 

 ジャンには全くわけが分からなかった。

 そもそも先程からジャンは、驚きっ放しである。

 迷宮の闇を照らした魔法の灯りを見ても、ふたりのどちらかが魔法使いという事は分かった。

 しかし剣を向けただけで、離れた標的がいきなり吹っ飛ぶなど……

 いくら戦士のジャンでも、そんな奇跡は今迄見た事も聞いた事もない。

 混乱するジャンの前で、バルバはゆっくり剣を鞘へ収めた。


「えええっ? あ、あんた、い、今? な、何をした? 何が起こった?」


 ジャンから問われたバルバは、平然と答える。

 

「どうという事はない。魔剣の力を使っただけだ」


「ま、魔剣?」


「そうだ! このカラドボルグは並みの魔剣ではないぞ」


「並みの魔剣じゃないって……あれ、オーガに何か仕込んだ手品か、なんかかい?」


「何を言っている、手品などではない。カラドボルグの秘めたる力だ。この剣はな、普通に戦っても抜群の切れ味を誇るが、一番の利点はこうして離れた所から魔力波オーラで敵を攻撃出来るのだ」


魔力波オーラで攻撃?」


「お前もいっぱしの冒険者なら、魔力波オーラを知っているだろう?」


魔力波オーラ? な、何だよ、それ?」


「ったく、嘆かわしいな……知らぬのか? 魔力を様々な力に変換させたものが魔法。そして魔法を発動する際に発するのが魔力波オーラだ」


「そ、そういえば……聞いた事があるような」


「馬鹿者が! この魔剣はな。魔力を魔力波オーラの一種である念動力へ変える力を持っている」


 どうやら、バルバは相手に『うんちく』を含めた説明をするのが好きなようだ。

 先程話した内容に、更に輪を掛けて話し出す。

 手ぶりも入れて、またも熱く語るバルバ。

 それを見たツェツィリアは、肩を竦め苦笑している。


 しかしジャンにとって、バルバの説明はチンプンカンプンである。


「ね、念動力? なんでぇ、それ? でも俺は魔法を使えない……魔法使いじゃねぇ。だから魔力なんか持ってねぇよ」


 ジャンは言う通り戦士であり、魔法など使えない。

 というか、知識もからきしだ。

 魔法に関しては、今迄全てを一緒に組んだ魔法使いに任せていた。


 しかしバルバは、首を横に振った。


「安心しろ。神の子である人間は生まれた時から全て魔力を有している。ただ充分な量があるか、もしくは上手く使えるか、使えないかの違いだ」


「で、でもさ、やっぱり俺には魔剣なんか使えないよ」


 魔法と全く縁がないジャンは、魔剣と聞いただけで腰が引けていた。

 しかし、バルバは再び首を振る。


「いや、カラドボルグは人間の魔法発動の巧拙は関係ない。魔力を持つ誰もが念動力を使う事が出来る」


「な、なぁ! さっきから気になっているんだけどよ。そ、その念動力って一体何だ?」


「念動力とは、魔力を物理的な攻撃に変える力だ。そもそも古文書にはこう記されておる。カラドボルグを振るえば、虹の端から端まで長く伸びる……とな」


「へ? な、何それ? 大袈裟な」


「まだあるぞ。一回振っただけで、大きな丘を3つも切り取ってしまうとかな」


「でかい丘を3つもだと? う、嘘だろ?」


「満更嘘ではない。俺がオーガをあっさり粉砕したのを見ただろう。あれが魔剣カラドボルグが放つ念動力だ。伝説では刃がどこまでも伸びるなどと言われていたらしいがな、くくくくく」


「はぁ、そうなのか……確かにさっきの威力はす、すげぇ……」


「だろう? さあ、ジャン……俺と同じようにやってみせろ」


「え? お、俺がやるの? あれを?」


「そうだ! ほら、受け取れ」


 バルバはそう言うと、ジャンへ強引にカラドボルグを渡した。

 「有無を言わさない」という態度である。

 ジャンが断るなど、到底不可能だ。


 仕方ない……

 ジャンは小刻みに震える手で、恐る恐るカラドボルグを受け取ったのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ