第14話「真実」
「だ、誰だ?」
ツェツィリアから呼び掛けられた王は、驚いた様子で振り返った。
目が真ん丸になっていた。
信じられないという面持ちだ。
そんな王へ、ツェツィリアは妖艶に笑いかける。
「私よ、シャルル」
名乗ったツェツィリアを見て、王は驚く。
そして、
「ま、まさか! お、お、お、お前はぁ! ……ツ、ツェツィリアァァ!」
王は……何と!
ツェツィリアを知っていた。
それも反応を見れば、単に知り合いという雰囲気ではない。
「久しぶりね、シャルル。元気そうじゃない……というか、だいぶ雰囲気が変わったわねぇ……一気に荒んだって感じよ」
「ぬうううう」
「それにしても、お盛んねぇ、これって酒池肉林って奴? きゃははははっ」
王は質問に答えず……ツェツィリアを睨んでいる。
殺意が……籠っていた。
一方、魂となったシャルルは、ツェツィリアと王、ふたりのやりとりを固唾を飲んで見守っていた。
全く、わけが分からない。
自分と同じ名前の、あの『王』は一体、誰なのだろう。
しかし、シャルルは思い出した。
こんな時は、冷静に、冷静になれ……
そして状況をしっかり見て聞いて、分析し……その上で考えなくては……
ツェツィリアは、そう教えてくれた。
怒りに燃える王……は、絞り出すような声で言う。
殺意が……違う感情へと変わって行く。
「どうして去った? 私の前から」
「うふ、どうしてかしらねぇ」
「ふ、ふざけるな! あれだけ引き止めたのにっ!」
「あらあら、甘えん坊、さびしん坊のシャルルったら……あんなに将来への夢を熱く語っていたのに、どうしたの? このありさまはぁ」
「くううう」
「初代様のような、そして父のような立派な王になる、勇ましい騎士になるぞって、目を輝かせて、私に言っていたじゃない?」
見ているシャルルは吃驚する。
王の語っていた夢は、自分が熱く話していた夢と全く同じだったから。
だが、指摘された王は叫ぶ。
そんな夢は、とうに壊れてしまったと。
「う、うるさいっ! 全てお前が悪いんだっ」
「へぇ、私が? 全部悪いの?」
「そうだっ! お前は私の前に現れ、誘惑し、虜にした」
え?
ツェツィリアが現れ、誘惑、虜になる……
あの王が?
シャルルは吃驚すると同時に、自分の事を重ねてみた。
そして、行いを責められたツェツィリアは……敢えて否定はしない。
「うふ、仕方がないわ、可愛いものね、私」
「だ、黙れっ!」
「お、お前は! あの夜いきなり現れ、私に愛と世間を教えてくれた!」
笑顔のツェツィリアと、怒る王を見やるシャルルは頷く。
納得する、その通りだと。
ツェツィリアは、確かに愛と世間を、自分へ教えてくれたのだ。
「うん、確かに。でも、ちょっとだけよ、教えたの」
「違う! お前にとってはちょっとだけでも、私には凄く大きかった。迷っていた私の心の窓を思いっきり開け放ってくれたっ」
「ええっ、それって大袈裟よぉ」
「全然大袈裟じゃないっ! だ、だから! お前が一生必要だと思った! なのに!」
「…………」
「お前はすぐに去ってしまった! 私は光を失った! だから、こうなったのはお前のせいなのだっ」
「あははははっ、ちょっと可哀そうだと思って、話を聞いてあげたら、これ? 呆れたぁ」
「な、何だとぉ!」
「その調子だと……昔、教えた事もすっかり忘れてしまったようね。今、私がこうして現れた意味も全く理解していない、いえ、考えようともしないくらい腐ってしまった」
「ふざけるな!」
「いいえ、ふざけているのは貴方よ、シャルル」
「なんだとぉ!」
「聞きなさい、シャルル。貴方はね、滅びへの道を確実に歩いている」
「な! ほ、滅びだとぉ! 言うに事を欠いてっ! く、くそ! 殺してやるっ! 殺してやるぞっ、ツェツィリア」
王は裸のまま、手を伸ばして、ツェツィリアに掴みかかる。
背後ではさっきから、女達が面白そうに笑っていた。
闖入者であるツェツィリアを見ても怯えも、訝しがりもせず。
邪悪な魔法が、奴隷と化した女達を完全に狂わせているのだ。
呆れたように、ツェツィリアは笑う。
少し寂しそうに……
「あ~あ、今の貴方って本当に最低の馬鹿、さよなら~」
向かって来る王を見ながら、ツェツィリアはピンと指を鳴らす。
空間が歪んで行く。
驚くシャルルの視界が暗転し、ツェツィリアと王の姿、そして王の間が全て消えた。
そのまま!
シャルルは、意識を手放したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ?」
……シャルルは、目を覚ました。
真上には……見慣れた自室の天井が、大きく広がっていた。
「こ、ここは?」
『貴方のお部屋。……異世界から帰って来たのよ、シャルル』
心にいきなり声が響く。
今や、聞き慣れた念話の声。
ツェツィリアの声だ。
慌てて半身を起こした、シャルルは周囲を見渡す。
しかし、ツェツィリアの姿は、部屋のどこにもなかった。
ただ、真っ暗な闇が部屋いっぱいに広がっているだけだ。
「ツェツィリア! どこだ? い、いや、ここで大きな声を出すのはまずい……念話で話すべきだな」
シャルルは旅立つ前と比べ、確実に変わっていた。
今の対処にも、成長の証が見て取れる。
そして、シャルルには感じた。
ツェツィリアが喜びの波動を放っているのを。
『うふふ、偉いわ。あの愚かなシャルルと違って、貴方は冷静ね』
『愚かなシャルル……やはり、そうか』
今の会話でシャルルは答えを出した。
彼の答えを引き出そうと、ツェツィリアは問う。
『分かった?』
『ああ、いろいろ考えたら、何とか分かった。今迄居たのは異世界などではない。……違う時間軸の私が居る世界、すなわち、これから訪れる私の未来だ』
はっきり言い切ったシャルル。
表情は……当然暗い。
無理もない。
あのような暴君が、未来の自分の姿だと、非情な現実を突きつけられたのだから。
『へぇ! 正解だわ。よく分かったわね……本当に偉いわ、シャルル』
『私は……偉くなどない。あのように、とんでもない愚か者だ』
『確かにね……だけど、貴方はもう大丈夫。困難だし、一筋縄ではいかないけれど、努力すれば未来は変える事が出来るわ』
ツェツィリアが励ます言葉を聞いて……
シャルルにはほんのわずかではあるが、前を向こうという気持ちが湧いて来たのであった。
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