第13話「衝撃」
シャルルが踏み込んだ、『王の間』の内部は彼の記憶の部屋とは……一変していた。
壁の色が、シャルルの目に鋭く突き刺さる。
何と!
王の間の壁の色は、ど派手なピンクに塗られていた。
そして、意味もなく華美な装飾が施された家具の数々が置かれている……
シャルルの住む王宮の、王の間は違う。
全く違う。
極めて地味な、白壁なのだから。
初代ラウルス王ヴィクトル以来……
先祖代々受け継ぎ、現在は父のジェロームが使っている筈の王の間。
初代ヴィクトルを尊敬し、目標とする父。
普段から質実剛健を謳う父は、けしてこんな内装にはしない。
部屋の明かりも、極端に抑えられていた。
やけに薄暗いのだ。
ほんのりと、淡い魔導灯が僅かに室内を照らしていた。
その淡い灯りがピンクの壁を照らし、王の間をより淫靡な雰囲気に染めていた。
視覚だけではない。
奇妙な香りがする。
いや、するどころではない。独特な香りが部屋中に満ちていた。
部屋には、シャルルの知らない香がたかれているらしい。
そして、違う匂いも混ざっている……
これは……何か酒の匂いだ。
シャルルが部屋を見渡すと少し離れた場所に、ツェツィリアは立っていた。
笑顔で手招きをするツェツィリアを見て、シャルルはふらふらと近付いた。
傍まで行くと、ツェツィリアはいきなり聞いて来る。
『どう? シャルル、感想は?』
『ツェツィリア! な、何だ? この部屋は? 酷い! 本当にこれが王の間なのか?』
急に感想と言われても、シャルルには到底答えられない。
つい質問に対して、質問で返してしまった。
呆然とするシャルルの中で、今迄学んだ王のイメージが音を立てて崩れて行く……
ツェツィリアは……シャルルの質問に答えてくれる。
『この部屋が、この国の王の間に間違いはないわ』
『でも! 違う! こんな部屋は断じて我がラウルス王家の部屋ではないっ! いくら時間軸が違っても!』
『シャルル、良いから見なさい、あれが王様よ』
『あ、あれが!』
ツェツィリアの示した方向を見たシャルル。
王の間の一番奥……
男がひとり、女がひとり……否、3、5、8、10人も……居る!
王宮を歩いている時に認識したが、まだ時間は昼間である。
窓からは燦々と陽が射していたのだから。
「ひゃははははぁ! ほれほれほれぇ~」
「いやぁん」
「ふわっははは、お前のおっぱい、もませろ~」
「えへへ、どうぞぉ、ぼい~ん」
「おお、最高だぁ!」
シャルルは、ぎょっとして、息を呑んだ。
戯れる男と10人の女達は……まったく衣服を着けていない。
全員、すっぽんぽんの全裸である。
男のべたつくような嫌らしい声と、対する女の媚びた甘ったるい声が交錯していた。
目を背けるような痴態を見ても、澄ました顔で、ツェツィリアは問う。
『うふふ、シャルルはあの姿を見て、どう思う?』
『ど、どうって……』
シャルルは改めて、王らしい男を眺めた。
年齢は20代半ばだろう。
髪の色は暗い灯りのせいで微妙だが……多分、シャルルと同じ栗色だ。
憎しみ、否、殺意が湧いて来る。
ここは自分の『ラウルス王国』ではないのに……
直接は、関係ないのに……
だが……
シャルルの真っすぐな正義感は、目の前の男を許せない。
王としての責任をあっさり放棄するどころか、悪政で散々国民を苦しめるこの男が……
こうしている間にも王都の民は飢え、砦の兵士は魔物に喰われているのだ。
怒りに燃え、拳をぶるぶる握り締めるシャルル。
しかし、ツェツィリアは相変わらずクールなのである。
『ちなみに……女達は皆、奴隷よ……ここに居るのは自分の意思ではない。魔法で、王の思う通りにさせられているわ』
『な! という事は!』
『そう、彼女達はさっき犯されていた子の成れの果て……取り巻きへの賄賂は性奴隷に変えられて王へ献上されている』
シャルルの怒りは、もう頂点に達している。
噛み合う歯が、ぎりぎりと鳴っていた。
『く、くそ! あいつが憎い! あいつを! 殺してやりたいっ!』
しかし、ツェツィリアは含み笑いをしている。
『うふ、シャルル……』
『な、何だ!』
『今の貴方は純粋で真っすぐだわ。私は貴方のそんなところが好き……その気持ちを絶対に忘れてはいけないわ』
『え? ど、どういう意味だ』
『初心忘るべからずって事』
『???』
謎めいた言葉を告げるツェツィリア。
シャルルは怒りを忘れるくらい、拍子抜けをしてしまう。
そしてツェツィリアの謎かけは……止まらない……
『シャルル、良いかしら? これから面白いショーを見せてあげる』
『な、何だ、さっきから意味が分からないぞ』
『こうよ!』
ツェツィリアは、いきなりピンと指を鳴らした。
すると!
何とツェツィリアは実体化した。
シルバープラチナ髪の美少女が、生身の身体で王の間に立っていたのである。
『見ていて、私がこれから、あの王様と話すから』
『え?』
『まず、私が王様の名前を呼ぶわ』
『王の名?』
『そうよ!』
ツェツィリアは口に手を当てる。
大きな声で……叫ぶ気だ。
「は~いっ! シャルル・ラウルス陛下ぁ!」
『ええええええっ!!!』
シャルルは驚愕してしまう。
ツェツィリアが呼んだこの部屋の主。
怒りに燃えたシャルルが、殺したいくらい憎んだ暴君の名は、何と!
驚くシャルルの名前と、全く同じだったのである。
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