第12話「王宮」
いつもの事だが……
ツェツィリアと共に魔法で移動する際、シャルルは一瞬意識が遠くなる。
自分が一体どこに居るのか、全くわからなくなるのだ。
シャルルは、軽く左右に頭を振った。
おぼろげだった目の焦点が、徐々に合って来る。
周囲をゆっくり見渡す。
景色に、見覚えがある。
……住み慣れた、王宮の景色だ。
『ここは?』
『うふふ、この国の王様に会いに来たから当たり前だけど……ここは貴方にとって、見慣れた場所……王宮よ』
やはり、王宮?
ツェツィリアに言われ、シャルルは再び周囲を見た。
確かに普段暮らしているラウルス王国王都エードラムの王宮である。
『ああ、確かに……王宮だ。だが不思議だな』
『不思議? 何が』
聞き直すツェツィリアへ、シャルルは首を傾げる。
上手く言えないが、自分が暮らしている王宮の雰囲気に近いものを感じるのだ。
『だって時間軸が違うのに……』
『…………』
『初代ラウルス王ヴィクトル様が違う女性と結婚し、次代の王は全く違う人物となった筈』
『確かに……そうね』
『王宮だってそうじゃないか? 治める王によって、造りが全く変わると思うが……』
『うふふ、良いわね。早速冷静に分析しているわ。私の言いつけを守るいい子よ、シャルルは。偉い、偉い』
『うう、子供のように褒めるな。私を馬鹿にしているのか?』
『いいえ、違うわ。真面目に褒めているのよ。でも、貴方の住む王宮に似てるの? ……じゃあ、王の間へ行きましょうか。貴方がそこまで言うのだったら、勝手は分かるでしょ』
『あ、ああ……』
『たまには貴方が案内してくれる? さあ先頭に立って歩いて』
『わ、分かった』
こうして……
ツェツィリアとシャルルは歩きだした。
この国の王が居る筈の部屋、王の間へ。
歩きだしてから、シャルルは感じていた。
街に居た時も、奴隷商人の館でも、そして北の砦でも……
そしてこの王宮もそうであったが、行きかう誰も自分を見ない。
護衛役の騎士も、侍女も、使用人も全員が……
やはり今の自分は、魂だけの状態。
他人からは、全く見えない存在であるのだと。
シャルルは、更に考える。
やはりこの王宮は、時間軸の違うラウルス王国なのだと。
何故ならば、普段自分が住まう王宮にそっくりだからである。
しかし、決定的に違う事があった。
王宮内に居る人間の表情が皆、暗いのだ。
誰も彼も浮かない表情をしており、何かに怯えるようにおどおどしている。
今迄、この国を巡ったシャルルにはピンと来る。
悪辣で横暴な王が、王宮の雰囲気さえも悪くしていると。
赤く柔らかい絨毯が敷かれた、長い長い廊下を歩いて……
遂にツェツィリアとシャルルは、王の間にたどり着いた。
だが王の間だけ、シャルルの見慣れた景色とは違う。
ふたりの目の前。
屈強な警護の騎士が、入り口の左右に、直立不動で詰めているのは変わらない。
だが、王の間の入口には、とんでもないものが据え付けられていた。
据え付けられていたのは、シャルルが見慣れた木の扉ではなく、頑丈な鋼鉄製の巨大な扉だったのである。
シャルルは吃驚し、目を丸くする。
『一体、何だ? この扉は?』
しかし、ツェツィリアはわざとらしく驚くだけで、動じない。
『凄い扉ね。どうせ絶対に見られちゃいけない事を、中でやっているんでしょ』
訪問者を一切拒むような鋼鉄の扉だが……
ツェツィリアは「ふっ」と笑う。
『でも……今の私達には無駄、足止めにもならないわ』
『え?』
『思い出してよ、シャルル。街で人ごみを通ったでしょ?』
『あ!』
シャルルの脳裏には、大勢の人ごみをすり抜けたツェツィリアの姿。
そして、同じ事をした自分の姿が浮かんだ。
ツェツィリアはくいっと指を動かす。
部屋へ入ろうと、誘っているのだ。
『さあ、行きましょう。この部屋の中に真実があるわ』
『え? し、真実? ツェツィリア、どういう意味だ?』
シャルルの問いかけに対し、何故かツェツィリアは答えなかった。
くるりと背を向け、躊躇なく、扉へと向かう。
先程、街中で人ごみへ突っ込んだように。
結果は……全く同じであった。
ツェツィリアの小柄で華奢な身体は、鋼鉄の扉などないように、スッと消えてしまったのである。
『ああ、ツェツィリア!』
ひとり置いて行かれたシャルルは叫んだ。
しかし、ツェツィリアの返事は……ない。
ツェツィリアは、再び告げているのだ。
状況を冷静に分析し、己の判断で行動しろと。
シャルルは、じっと考える。
短い時間ではあったが、熟考出来た。
結論は……出た。
ここまで来て、危険は多分ない……
それよりも『真実』とやらを知りたい。
シャルルも、一歩を踏み出し、ツェツィリアの後に続く。
勇気を振り絞り、手を伸ばす。
常識では考えられないので、少し臆する。
おずおずと、おっかなびっくりで。
手が扉へ触れると、ぐいっと身体が吸い込まれた。
こうして……シャルルは王の間へと足を踏み入れたのであった。
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