表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
40/47

第9話「視察開始」

 シャルルは呆然としていた。

 

 彼の目の前を何人もの人々が通り過ぎて行く。

 そう、予想とは反して、何も大騒ぎにはなっていないのだ。


 最初は、おずおずと……

 次は、少しずつ……

 そして、最後は大胆に踏み込んで、シャルルは強引に人ごみを突っ切った。

 ど真ん中から!


 しかし、ツェツィリアの言う通りであった。

 人々にぶつかって口汚く罵倒されるどころか、何事も起こらず、シャルルの身体はすり抜けてしまったのだ。

 何とも、不思議な感覚だった。


『今の私は魂だけ? ……これはもしかして亡霊って奴か?』


 シャルルは自分の身体を見直した。

 相変わらず腕を触れば、確かな質感が伝わってくるのに……


『うふふ、似ているけど違うわ。亡霊とは魂の残滓に過ぎない。残滓とはすなわちほんの一部って事。本来の魂ではないから、物事を理知的に考えられず、本能で行動する。だから真っ当な人に憑りついたりするのよ』


『そうか! 亡霊とはそうやって罪もない人々を害した行いから、正義と平和を愛する創世神教の司祭に解呪され、天に召されるのだな』


『うふふ、シャルルったら、それは英雄を描いた冒険譚小説の読み過ぎ。本当は違うのよ。真実がどうなのか、話せば長くなるから今は言わないけれど』


『そうなのか……先ほどからツェツィリアに教えられてばかりだな……やはり私は何も知らない愚か者なのだ……』


 シャルルはがっくりと俯いてしまった。

 情けない……

 自分の身体全体に、劣等感が満ちて来る。

 

 と、その時。

 ツェツィリアは、シャルルを叱咤激励する。


『シャルル! 大丈夫よ、顔を上げ、前を向きなさい。貴方は王宮という籠の中に押し込められた鳥。そんな王子様なら世間を知らなくて当然なの。だけど自分の無知を潔く受け入れ反省し、堂々と穏やかに学んで行けば問題など全くないわ』


 ツェツィリアの言葉は不思議だ。

 まるで鞭のように、シャルルの心に食い込んで来る。


 普通に聞いたら絶対に反発しそうな言葉もある。

 だが悪意を感じない……

 あからさまな嘘もないから、素直に聞く事が出来る。

 そして自分が到らないと正直な気持ちになれるのだ。


『さあ、未来の王として、街の視察に行きましょう』


『ああ、楽しみだ』


 普段は王宮の窓から眺める王都。

 パレードなどで外に出ても、周囲が御付きの騎士による厳重な警戒の中、馬上から手を振るくらいの国民。

 果たして、真の王都の姿は?

 庶民の暮らしは?


 シャルルはわくわくして、ツェツィリアと共に出発したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『まずは、ここね』


『ここは……』


 ツェツィリアとシャルルはこの王都の中央広場へとやって来た。

 先程のカフェ近くの通りから、あっという間の移動であった。

 自分の足で街を歩いてみて、シャルルには新たな発見と収穫が数え切れないほどあった。

 街の勝手は勿論、人々の暮らしぶりを直接見る事が出来たのである。

 

 シャルルがふと気が付けば、まだ辺りは薄暗い。

 真昼間の筈が、いつの間に、夜になったのだろうか?

 しかし、徐々に周囲は明るくなっていた。

 ……様子が、変だ。


 シャルルが見やれば、御多分に漏れず、広場には『市』が立っている。

 市場は、既にオープンしていた。

 人々の声が飛び交っている。


 簡単な造りの木の台がたくさんあった。

 台の上には、様々な商品が並んでいる。

 食材、衣服、そして雑貨がそれぞれ区画ごとに……

 いわゆる、屋台であった。

 何も並べず、職人らしき人間が立っている屋台もあった。


『ここは市場よ。市が立たない時はただの広場。つまり何もない空間……でもそんな事はなく、ほぼ毎日、市が立っているけどね』


『市場?』


 市場って、一体何だろうか?

 シャルルは、穏やかに笑いかける。


『申し訳ない、ツェツィリア。市場とは何なのか、教えて貰えないか?』


『了解! 教えてあげるわ、シャルル。市場とは人々が集い、商う場所よ』


『商う…………』


『うふ、商売をするって事。さっきお金の話をしたでしょ?』


『お金? ああ、確かに聞いた』


 シャルルは先ほど、ツェツィリアから聞いた話を思い出した。

 紅茶もケーキも、そしてシャルルが飲んで食べるまで、全てに労働が発生していると。


『そう……物事には全てにおいて因果関係がある』


『因果関係?』


『そうよ、シャルル、因果関係。今の話の流れでいえば……人は働く、って何故だか分かる?』


『…………』


『うふ、あまり哲学的に考えなくても良いわ。具体的に考えて……いろいろな理由を持ち、人は働いている。だけど突き詰めれば……生きて行く為なのよ』


『人が……生きて行く為に……働く』


『そうよ! さっき話したわね。労働の対価としてお金を介在させる。それは手段だけど……例外的なごく一部の人を除いて、人は生きる、すなわち生活する為に働いているの』


『生活…………』


『そして、この市場には食べる、着る、住むという、人が生活する為に必要なものが、ほぼ揃っているわ』


『…………』


 シャルルは再び、屋台を見た。

 確かにツェツィリアの言う通りだ。

 生活、すなわち暮らして行く為に必要なモノが、屋台の上には並んでいた。


 それから、ツェツィリアとシャルルは、市場を見て回る。

 分からない事に関して、疑問が出た場合、シャルルはもう臆さずに聞く。

 貧弱な知識しかないが、自分でもいろいろ考えて、ツェツィリアへ質問もする。

 

 論より証拠……

 短い時間ではあるが、ある程度市場に関して学ぶ事が出来た。

 正直、王宮での『勉強』より数倍楽しい。


 やがて……朝陽が昇って来た。

 シャルルは吃驚してしまう。


『え? さっきはお昼過ぎだったのに? どどど、どうしてっ!?』


『うふふ、私がここへ来る途中で時間軸を少し変えておいたわ。今はもう翌朝、市場が一番にぎわう時間なの』


『え? で、でも……』


 シャルルは周囲を見る。

 最初から感じていたが……

 市場は……閑散としていた。

 客はまばらである。

 所々で、大きな声があがっているが、殆どが店の人間が呼び込みをする声ばかりだ。


『うふふ、み~んな暇そうね』


『…………』


『どうしてなのか、いずれ分かるわ。……さあ、次の場所へ行きましょう』


 ツェツィリアはそう言うと、悪戯っぽく笑ったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ