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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
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第7話「罵倒」

『さあ、そろそろ行きましょう』


 ツェツィリアが、店からの退出を促した。

 シャルルは「きょとん」とし、そして残念そうな表情になる。

 彼の本音として、もう少しツェツィリアとの『甘い雰囲気』を楽しみたかったからだ。


『行くって? どこへ?』


『街に出るのよ。この店にはいつまでも居られない、ほら、待っている人があんなに』


『え?』


 ツェツィリアが、入口の方を指さす。

 シャルルが見やれば、入り口付近に置かれた椅子に結構な男女が座っていた。

 どうやら、席が空くのを待っているようだ。


『わ、分かった!』


 同意したシャルルが見ていると……

 ツェツィリアは手を挙げ、給仕担当の少女を呼んだ。

 何か、小さく光る金属を渡しているようだ。


『ツェツィリア、それはもしかして金貨か? 一体何をしている?』


『何って、お金を払っているのよ』


『金? おいおいツェツィリア。こうやって食事をするのに金がかかるのか?』


 シャルルは吃驚した。

 彼は王宮でしか食事を摂った事がなく、当然金など払った事はない。

 「ぽかん」としたシャルルを見たツェツィリア。

 悪戯っぽく笑う。


『ええ、貴方が住む王宮の外ではこれが常識。すなわち労働に見合う対価をやりとりして暮らしを成り立たせている。その対価の仲介をする象徴シンボルがお金……』


『労働に見合う対価?』


 シャルルは、思いっきり首を傾げてしまった。

 ツェツィリアの話が、全く理解不能なのだ。


『ええ、貴方と私はこの店に来てお茶を飲み、ケーキを食べた。全ては誰かが働き生み出されたものじゃない?』


『???』


 ?マークを飛ばしまくるシャルル。

 ツェツィリアは微笑み、ゆっくり説明してくれた。


『うふふ、お茶は茶畑の茶葉。ケーキは農場の小麦や牛乳。厨房の調理人がお茶を淹れ、ケーキを焼く……そして給仕担当が私達の席まで持って来る。全てが労働の賜物たまものよ……もっと想像してイメージを巡らせなさい』


 最後は諭すように教えられ、漸くシャルルも納得した。

 ツェツィリアの言葉と共に、大好きな冒険譚小説に農場のシーンが登場していた事。また、王宮の厨房を覗いた時、料理長を始めとした料理人達が忙しく立ち働いているのを見た記憶が甦ったからである。


『あ、あああ……そ、そうだな。茶もケーキも、何もせずパッと自然に生まれるものじゃない、確かにそうだ』


『うふふ、宜しい! そしてもうひとつ、貴方の暮らしは税金で成り立っているのよ』


『税金?』


 何と!

 シャルルは、税金さえも知らなかった。

 家庭教師は数多居ても、誰からも教えて貰った事がない。

 しかし、『こちら』もツェツィリアが教えてくれた。


『税金とは、様々な規則によって定め、王国が徴収するお金の事。この国で暮らす人々から手数料という形で受け取るのよ』


『手数料?』


『ええ、税金は人々が王国で暮らす権利と引き換えに払うお金。王様の、上から目線で言えば、俺の国に住まわせてやっているのだから、お前ら義務として金を払えって事ね』


『住まわせてやっている……』


『うふふ、そんな事も知らない貴方は無知。途方もなくね……世の中の仕組みも、人々の暮らしも含めてね』


『そうか……私は……無知……なのか』


 改めて、自分の世間知らずさを知ったシャルルは、茫然自失となってしまう。

 だが、ツェツィリアは容赦しない。


『そうよ! 貴方は全然世間知らず。どうせ、爺や達取り巻き連中が、雑務は任せておけっていったんでしょ。その言葉に甘え、貴方は武道にばかり熱中して、肝心な事は何も学ぼうともしなかった』


 ツェツィリアはまた図星をついた。

 シャルルは、遂に言葉が出なくなってしまう。


『…………』


『言っておくけど、私が説明した事は雑務ではない。貴方が直接仕事はしないかもしれないけど大事なものよ』


『…………』


『シャルル、いい? 無知で愚鈍な王様は、その国の民にとって害悪でしかないわ』


 あまりにも激しいツェツィリアの罵倒。

 シャルルは、何とか反撃を試みる。


『む、無知で愚鈍? が、害悪?』


『そうよ、無知で愚鈍な貴方はまるで寄生虫ね』


『き、き、寄生虫だと!』


 よりによって!

 とうとう最悪な……名称が出た。


 シャルルは王族であり、騎士である。

 何よりも誇りを大事にしたい。

 下手をすれば、命よりも尊びたいと考えてもいた。

 寄生虫などと呼ばれ、到底容認など出来ない。


 激高したシャルルをスルーして、ツェツィリアは駄目押しする。


『怒った? でも私は間違っていない』


『え?』


 ツェツィリアを睨み付けたシャルルは……ハッとした。

 彼を見つめる、ツェツィリアのルビー色の瞳が、深い哀しみに彩られていたからだ。


 この瞳は……どこかで見た事がある。

 確かシャルルがまだ幼い日の事だ。

 見つめられ、優しく自分の名を呼んでくれた人と同じ……


 しかし、はっきりとは思い出せない。


 敢えて罵倒し、鞭をふるうツェツィリア。

 彼女の気持ちが分かったような気がして、シャルルの怒りのボルテージは下がって行った……


『私は……寄生虫……なのか』


『今のままではね。でも、貴方は変われるわ。私が見込んだ男の子だから』


『私が……変われる? そうなのか?』


 ツェツィリアの言葉が心に染みる。

 何故か、懐かしい気持ちになって来た。

 そんなシャルルの耳へ、囁くように、ツェツィリアの言葉が入る。


『ええ……だ・か・ら、頑張って勉強しましょ、私とね』


『勉強……』


『そう! 世の中の仕組みも、国民の暮らしも……そして私みたいな女の扱い方も……ね、うふふ』


 ツェツィリアの……言う通りだ。

 シャルルは思う。

 もっと学ばなくてはならない事が、自分にはたくさんあると。


 だから叫ぶ。

 宣言する。

 ツェツィリアへ、決意よ、届けと。


『ううう、わ、分かった! 勉強だなっ! 私は頑張るぞ!』


『シャルル、じゃあ、行くわよ』


『了解!』


 ツェツィリアから、散々罵倒されたのに……

 シャルルは自分でも不思議なくらい、素直に返事をする事が出来たのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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