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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
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第6話「内緒の幸福」

 目を細め、芳醇な紅茶の香りを楽しむシャルルへ、ツェツィリアは言う。


「今回、私とする旅は、シャルルにとって大変有意義な体験になると思うわ。……今飲んでいる紅茶はその第一歩よ」


「ああ、そうかも……しれない」


 シャルルはわくわくしそうになる気持ちを、無理やり抑えながら答えた。

 美味い紅茶で気分が良くなっている上、改めて見ても、やはりツェツィリアは可愛いからだ。


 それに夢魔、すなわち自分は魔族だと名乗ったが……

 先ほど街中で、シャルルを庇ってくれた事もあって、目の前のツェツィリアには全く恐怖を感じない。


 さて、そろそろツェツィリアの話は、本題に入るようである。


「じゃあ、シャルル。これから内緒の話をするから念話に切り替えるわ。吃驚して大声出さないでね」


「わ、分かった」


 シャルルが返事をするや否や、心の中へツェツィリアの声が響く。


『じゃあ、早速』


 この街へ来る前に、王宮の部屋で念話により話したとはいえ……

 あまり経験した事のない独特な感覚に、シャルルは戸惑う。


『うお!』


 心の中とはいえ、思わず叫んだシャルルに、ツェツィリアは笑う。


『うふふ、驚いちゃ駄目って、言ったでしょ』


『そうだな……頑張って、念話とやらに慣れるようにしよう』


『うん、その意気! ええっと、話を戻すとね、今、私達が居るこの街は、正確には貴方の住むラウルス王国の王都エードラムじゃないのよ』


 ツェツィリアから告げられた衝撃の事実。


『そ、そうなのか? 街の雰囲気はとても良く似ているが』


『ええ、確かに良く似てはいるわ。でも、ここは異世界。私の特別な魔法で来た少しだけ違う街なの』


『少しだけ違う……街』


『ええ、一応街を造ったのは、シャルルのご先祖様ヴィクトル・ラウルスだけど……』


『え? どういう意味だ……よく分からないぞ。それに恐れ多くもヴィクトル様を呼び捨てにしないでくれ』


『うふ、了解。そのヴィクトル様はね、この世界では違う女性と結婚したの……それでその後の未来が少し変わったのよ』


『違う女性と結婚して、未来が変わる?』


『ええ、じゃあ試してみる』 


『試す?』


 首を傾げるシャルルは、まだツェツィリアの説明を、ちゃんと理解していないらしい。


 ツェツィリアは「にこっ」と笑うと、挙手をして、カフェの店員を呼んだ。

 シャルルが聞いていると、ケーキを追加で注文したようである。


『この店のケーキは、とても美味しいのよ。シャルルは甘い物、大好きでしょ』


『ああ、大好きだ』


 やはりツェツィリアは、シャルルの全てを熟知している。

 性格どころか、嗜好まで把握しているのだ。


 やがてケーキがふたつ運ばれて来た。

 真っ白な生クリームをふんだんにつかったものと、焼き菓子に綺麗な色をしたフルーツを乗せた2種類のケーキだ。

 

 ごくりとシャルルの喉がなる。

 しかし!


『まだ、食べちゃ駄目』


 ツェツィリアから「待った」が掛かった。


『え? 駄目? そんな!』


 お預けを喰った犬のように、シャルルは切ない目をした。

 そんなシャルルを見て、ツェツィリアは悪戯っぽく笑い……


『あ~ん』


『え?』


 シャルルは、吃驚してしまった。

 何とツェツィリアは、ケーキの欠片をフォークに刺し、手を伸ばしてシャルルへ差し出しているのだ。

 削られたケーキの欠片から、クリームの良い香りが漂う。

 しかし良い年をした、王子で騎士たる男が……

 女子に、甘々な雰囲気でケーキを食べさせて貰う?


 そんな事は絶対……

 否、断れなかった。

 シャルルは、思わず「あ~ん」と、口を大きく開けていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ツェツィリアの言う通り、このカフェのケーキは凄く美味しかった。


 それも単に美味しいだけではない。

 恋人のように振舞う、ツェツィリアのような可愛い少女から、優しく食べさせて貰ったから尚更美味しく感じる。


 その上、「私も同じようにして」と、ツェツィリアからは『お返し』を求められた。

 なので、シャルルも「あ~ん」と言って、ツェツィリアへケーキを食べさせてあげたのである。

 今迄の人生で、全く経験した事がない。

 はっきり言って、シャルルの中では生まれて初めての『大事件』であった。

 

 気分が良くなったシャルルは、希望に満ちた自分の将来を語った。

 初代ヴィクトルのような、父ジェロームのような王となり、立派に国を治めて国民から慕われる。

 ラウルス王国において、王とは同時に勇敢な騎士の長でもある。

 だから、シャルルは心技体が揃う優れた騎士となり、家臣の模範にもなると。


 満足そうな笑顔のシャルルを見る、ツェツィリアも優しく笑っている。


『うふふ、幸せそうね』


『ああ、とても幸せだ』


『ところで……』


『な、何だい、ツェツィリア』


『私にあ~んして貰った事、ロドネアの王女様には内緒にしておいてあげるね』


 いきなり来た、ツェツィリアの口撃。

 シャルルはつい、うろたえてしまう。


『あぐ!』


『うふふ、シャルルったら、本当に可愛いわ。じゃあ話をまた戻すわね……私がケーキを頼まなかったらどうなった? シャルル、想像してみて』


 シャルルは、目の前の皿を見た。

 ケーキは、ふたりであっという間に食べてしまったので、皿の上には何もなかった。

 なので、想像してみる。


 ツェツィリアの言う通り、ケーキを注文せずに出ていたら……

 たぶんまだ喋っているか、店を出て街を歩いているかもしれない。

 今体験した素晴らしい出来事は、絶対に起こっていなかっただろう。


『今、シャルルが思った通りよ。もしケーキを注文しなかったら、私達の運命は違っていた。きっと違う時間軸へ進んでいたわよね』


『ああ、な、成る程……』


 シャルルは、今の例え話で理解出来た。

 今、彼が居るラウルス王国は、初代王ヴィクトルが別の相手と結婚した為に違う時間軸へ進んだ国。

 ヴィクトルが打ち建てたから、あくまでもラウルスという国名は変わらないが、歩んで来た道が少し違っているのだ。


『この国にシャルルが王子である事を知る人は居ない。だから自由気ままに振舞えるわ』


『おお、で、では!』


『シャルルの居た世界と時間軸は違うけど、私が知る限り文化などはそう変わらない。全てが一緒ではないけれど、この国へ直接触れる事は、シャルルにとって凄く良い経験になると思うわ』


 シャルルは納得して、大きく頷いた。

 彼は今、置かれている状況と、ツェツィリアの意図が漸く見えたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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