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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
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第4話「悩みと誘い」

 暫しの会話の末、魔法を解除して貰ったシャルルは、起き上がりベッドに座っていた。

 傍らには、ツェツィリアが座っている。

 シャルルは「ちらっ」とツェツィリアの横顔を見て、すぐ目をそらす。

 何故か、ドキドキしてしまう。


 ツェツィリアが、単に美しいからだけではない。

 初めて見た時から冷たい雰囲気があるとは思っていたが、反面どことなく温かいのだ。

 そしてツェツィリアからは、王宮の女性達が付ける強い香水とは全く違う、爽やかな良い香りがして来る。


『ねぇ、シャルル、何故私が貴方へ会いに来たか分かる?』


『…………』


 時間は深夜……

 シャルルの部屋の外には、宿直の騎士が寝ずの番をしている。

 ツェツィリアの来訪を悟られないよう、ふたりの会話は相変わらず念話である。


 そして、ツェツィリアの質問に対するシャルルの答えはない。

というか、答えられなかった。

 目の前の謎めいた少女、それも怖ろしい夢魔が何故自分を訪ねてくるのかなど分かる筈もない。

 はっきり言えるのは、ツェツィリアにはシャルルを害する意思がない事だ。


 シャルルは思う。

 警戒厳重な王宮、それも王子である自分の部屋へあっさり入り込むとは……

 多分、やろうと思えば、簡単に自分を殺せた筈だ。


 複雑な表情を浮かべるシャルルを見て、ツェツィリアは悪戯っぽく笑っている。


『うふふ、さすがに分からないわよね』


『……ああ、分からない』


『うふ、じゃあ、教えてあげる』


 ごくり、シャルルの喉が鳴る。

 どのような答えが聞けるのか、期待と不安に、15歳になった少年の胸は高鳴っている。

 そんなシャルルへ、ツェツィリアは言い放つ。


『貴方には迷いがある』


『え? 迷い?』


『ええ、迷いよ……王となる貴方の将来についてね』


『…………』


 シャルルは、再び黙り込んだ。

 またも図星だからである。

 どうして? と思う。

 まるでツェツィリアは、自分の心の内をすっかり見通しているようだ。


『シャルル。貴方は王ジェローム唯一の子供。父である王を尊敬もしている。だから跡を継ぐべく戴冠する覚悟はしている。だけど……このまま外の世界を何も知らないで、この国の王となって良いのか、日々自問自答しているのよ』


『…………』


『何故ならば、貴方はこの国の真の姿を知らない。自分が将来治める領土がどうなっていて、支えてくれる国民が何を考えているか、どのように暮らしているのか?』


『…………』


『まあ貴方は……今迄大事に、大事に育てられた室内庭園の花みたいなもの。風雨や害虫が一切存在しない環境で暮らして来たでしょう?』 


『…………』


『まあ仕方がないわね、それが王子という身分だから。でも、あまりにも過保護だとさすがに自分でも感じている。それは皮肉にも勉強の為に読んだ小説が原因でね』


 ツェツィリアに言われ、「きゅっ」とシャルルは唇を噛み締めた。

 またもや彼女の指摘が、またもや図星であったからだ。


 この世界で英雄と呼ばれる人物の冒険譚が、シャルルは好きである。

 メインの教育係である『じいや』からも、たくさんの本を読むように推奨されていた。


 じいやの言う通り、多くの冒険譚からは強敵と戦う勇気、挫けぬ心など確かに学ぶべき事は多かった。

 しかしシャルルは多くの話に、違和感を覚えていた。

 英雄の行為を否定するわけではない。

 大抵が血もにじむような苦労をして、立派に大成した者が多かったから。


 反面、敵側である悪辣な暴君達は、子供の頃、何の苦労もせず王になった者が大半だった。

 国を支える民を全く顧みず、実情を無視した非道な政治をした挙句、最後には倒されると相場が決まっていたのだ。

 今の自分がどっちかというと……苦労知らずな悪役ではないかと、シャルルは悩んでいたのである。


 しかし『じいや』に、国民の事を知りたいと申し出ても、却下されてしまった。

 シャルルを溺愛するじいやの考えでは、王は治世の方向だけを考え、細かい実務は臣下達に任せておけば良いと言うのである。


 実際今日も、国民は沿道から大きな声援を送ってくれた。

 王家に対して、悪印象や反感は持っていない筈である。

 だが、シャルルは何故か引っかかるのだ。


『…………』


 つらつらと考えるシャルルは、ずっと無言を続けていた。


『このまま王になったら……苦労を知らない貴方は何かあったら、困難に直面したら、簡単に心が折れてしまう……だから、私が手を貸してあげようと思って』


 ツェツィリアが、シャルルの下へ来た目的は分かった。

 シャルルの悩みをしっかり見抜いている。

 だが、こちらも先ほどの悩み同様、ツェツィリアの答えがしっくりとは来ないのだ。


 なので、シャルルは改めて問いかける。


『ツェツィリア』


『何?』


『その答えは満点ではない。何故、私に会いに来たのかという真の理由を聞きたい。頼むから根本的な事を答えてくれ』


『あはは、さすが次期国王、鋭いわね! じゃあ教えるわ。最初に言ったけど、私がシャルル、貴方を気に入ったからなのよ』


『そ、そうか!』


『うふ、宜しくね、シャルル』


 気に入ったというのは……

 シャルルが期待していた、ズバリな回答ではなかったが……

 可愛い女子から気に入ったと言われて、喜ばない男子など居ない。

 当然ながら、シャルルは、心の底から嬉しそうに笑った。


 ツェツィリアも同様に笑う。

 そして笑顔のまま、いきなりとんでもない提案を申し出たのである。


『というわけで、シャルル、これから旅に出ましょうか、私と』


『た、旅!? ど、どこへ!?』


『もうひとつのラウルス王国よ』


 ツェツィリアはそう言うと、いかにも面白いという表情で、「ぺろっ」と舌を出したのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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