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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
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第3話「密接距離」

 「ふわっ」と、ツェツィリアの甘い息がシャルルにかかる。

 今迄は全く眠れなかったのに、何故かすっと意識が遠くなる。

 凄まじい睡魔が、シャルルへ襲って来ているのだ。

 気をしっかり持たなければ、永久に眠ってしまいそうな不思議な感覚であった。


『うふふ、こういうのって密接距離って言うんでしょ?』


『み、密接距離だと?』


 若い女子と、ここまで顔を突き合わせたことなどない。

 緊張するシャルルの顔のすぐ真上には、にっこり笑ったツェツィリアの顔がある。

 ちょうど、真っ逆さまに落ちて行くのが、途中でぴたりと止まった形である。

 ……よく頭に血が上らないものだと、シャルルは思ってしまう。

 

 そして、シャルルの目の前にあるのは……

 

 鼻筋がぴっと通った端麗な顔立ち、陶器のような白い肌。

 改めて見れば、ツェツィリアは人間離れした美しさであった。

 綺麗なルビー色の瞳に、強張るシャルルの顔が鮮明に映っている。


『お、おい! み、密接距離とは何だ?』


『ええ、一番と言って良い親しい人にだけ許される空間よ。嫌いな人が傍に居るのは嫌……いいえ、絶対に耐えられないでしょう?』


『ま、まあ……そうだな……一理ある』


 シャルルは、少しだけ納得した。

 確かに人間とは、生理的に嫌いな人に傍へなど来て欲しくない。

 多分、そういう事だろう。

 だが、シャルルは完全に納得などはしない。


『だがな! 一番親しいって、それは間違っているぞ……お前と私は初対面だろう?』


『あら、今日昼間会ったじゃない。もう初対面じゃないわ』


 ツェツィリアの反論。

 

 しかしと、シャルルは思う。

 あのパレードで、視線が合っただけで、果たして会ったと言えるのか?

 それに、凄い目付きで睨んでいたし……

 だから、ついシャルルも反論したくなる。


『い、いや、そ、それは……』


 だが、シャルルの言葉を強引に遮り、ツェツィリアは言う。


『シャルル王子! 男の子は細かい事を気にしない。それより、このままじゃ動けないわね。束縛の魔法を解きましょうか?』


『え? 魔法を解くだと』 


 シャルルはハッとした。

 先ほどから、身体が全く動かない不可解な金縛り……これはツェツィリアの魔法が原因だったのだ。


『魔法が解ければ、この近さなら……私をきゅっと抱き締めようと思えば出来るじゃない?』


『はぁ!? だ、抱き締めるって!』


『うふ、健康な男の子なら、目の前の女の子をそうしたいでしょ? どうする?』


『ど、どうするって……』


 まるで挑発するようなツェツィリアの物言いに、シャルルはどきどきする。

 目の前にある、ツェツィリアの真っ赤な唇はしっとり濡れたように艶めかしい。


 しかしツェツィリアは、シャルルにためらいがあるのを見抜いている。


『な~んて、無理ね、シャルル。貴方には婚約者が居る……お隣の国でも才媛と評判の、とっても可愛い王女様なんですってね』


『…………』


 何故?

 まだ秘している筈の婚約者の事を、ツェツィリアは知っているのだろう?

 王子シャルルと隣国ロドネアの王女との婚約の儀は、昨日の夜、極秘のうちに決まったばかり。

 

 一般の国民には、まだ全然報せてはいない。

 

 シャルルの『婚約決定』を知っているのは、父ジェロームと、実際に動いてくれた『じいや』と呼ぶ宰相ふたりだけの筈だ。

 父とじいやのふたりとも、特別な『記念日』に公式発表する事が出来なくて、凄く残念がっていたが……

 

 再び驚き、大きく目を見開くシャルル。 

 そんなシャルルに、ツェツィリアは続けて言う。

 相変わらず、笑みを絶やさない。


『貴方は誠実だし、敵に対してはとても勇敢だけど……女の子にしては勇気がなくて超奥手な男の子……だからこそ気に入ったんだけどね』


『…………』


 シャルルは、言葉を返さない。

 いや返せないのだ。

 何故なら、ツェツィリアの指摘が全て図星だから。


『改めて名乗るわ、私は夢魔ツェツィリア。時と次元の狭間で生きているの』


『む、夢魔だと! おいおい、お前、ま、魔族じゃないかっ』


『うふ、そうよ、私ツェツィリアは夢魔』


『う、ううう……』


『これからはお前じゃなく、私を名前で呼んで、シャルル』


 凛とした声で、きっぱりと言い放つツェツィリア。

 加えてツェツィリアの……表情が変わっていた。

 真剣な、厳しい顔付きになっていた。

 

 ツェツィリアの目の中で、ルビー色の瞳がきらりと輝く。

 まるで彼女には、選ばれたような気高い王族の気品がある。

 自分がれっきとした王族なのに、シャルルは気圧されたように、了解してしまう。


『わ、分かった! ツェツィリア……』


『よし、合格!』


 一転、笑顔を見せたツェツィリアは、逆さになった状態から、くるりと身体を回転させた。

 そして、シャルルが寝ているベッドに座ったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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