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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
裸の王子様編
32/47

第1話「滅びた王国」

 時刻は真夜中、日付が少し前に変わった。

 そんな真っ暗闇の中……


 いきなり!

 「ぽっ」と、小さな光の塊が浮かび上がる。

  まるでジャックオーランタンと呼ばれる、亡者の魂のような、人間の心を異界へと誘うような妖しい光だ……

 真っ当な人間が使わない、闇の魔法の力で呼び出された、半永久的に効果が持つ魔法灯である。


 その、ゆらゆら揺れる魔法灯を先導させ、ふたりの男女が歩いている。

 法衣をまとった長身の男とメイド服姿の小柄な少女……バルバとツェツィリアである……

 

 バルバ達は、音も立てず歩いていた。

 良く見れば、ふたりの足は地についていない。

 どうやら特殊な魔法を使っているらしい。


 ゆっくり進むバルバ達の周囲は、「しん」として静まり返り、ひとけは全くない。

 魔法灯りが淡く照らし出す光景は、見渡す限り瓦礫の山、山、山である。

 建物は完全に焼け崩れて崩壊し、廃墟を化していた。


 廃墟は、最近出来たものではない。

 風雨にさらされ、もう長い年月が経っていた。

 そう、ここは遥か昔に滅びた王国の都跡なのである……


 ツェツィリアが軽く息を吐き、言い放つ。


「あ~あ、寂しい景色、み~んな死んじゃったんだよね……」


「ふん、そうだな。生きている人間は居ない」


 鼻を鳴らしたバルバは、辺りを睥睨した。

 長身のバルバに思いっきりしなだれかかり、ツェツィリアが甘える。


「ねぇ~、バルバ、これって自業自得?」


 ツェツィリアの質問を聞いて、バルバはにやりと笑う。


「ふむ、自業自得か…… そうだな、確かに自業自得だ。この国は愚かだった王により自滅した、すなわち、これがもうひとつのラウルス王国の成れの果て……だな。くくくくく」


「うん! 人間の運命なんて、ホント呆気ないね、うふふふふ」


 寂しい気配に反し、バルバとツェツィリアは面白そうに笑った。

 どうやらこの廃墟は、ふたりが普段店を構える、ラウルス王国王都の跡らしい。

 しかし何故、王国が滅びてしまったのかは……謎である。


 しかし、ここは死の都。

 ふたりが明るい口調で会話をするのに反して、周囲にはおぞましい瘴気が立ち上っていた。

 無残に殺された人々の魂が、怨念という妄執に縛られ、魂の残滓となって残っているのだ。

 すなわち、亡霊の中でも凶悪な怨霊である。


 怨霊共は相手が何者なのかなどと考えず、バルバ達へ襲い掛かり、恨みを晴らそうとした。


「もう、うっとうしいっ!」


 ツェツィリアが顔をしかめ、「さっ」と手を振る。

 何故か亡霊の表情が苦痛に歪む。

 立ち昇っていた、魂の残滓は煙のように消え去った。

 

 夢魔のツェツィリアが行使したのは、創世神教の司祭が使う葬送魔法とはまた違う、解呪ディスペルの魔法だ。

 現世と魂のつながりを断ち切り、地の底である冥界へ、残滓を容赦なく送り込む魔法なのである。


「む? あそこに女が居るな」


 バルバが顎である方向をしゃくった。

 

「へぇ? あれって、嘆きの妖精(バンシー)?」


 ツェツィリアは、興味深そうに眼を細めた。

 ふたりの視線の先には、ひとりの女が瓦礫に座っていた。

 俯き、元気がなさそうに座る姿はいかにも儚げで元気がない。


「いや、嘆きの妖精(バンシー)ではない。単なる迷い彷徨う亡霊だ、つまらん、放っておけ……」


「でもバルバ、あの服装、多分王族よ。ちょっとからかって来よう」


 バルバの声を無視し、ツェツィリアは女の亡霊に向かい、すたすた歩いて行く。

 魔法灯もふたつに分離し、ひとつが歩むツェツィリアを「ほわっ」と照らしている。


 もしも女の亡霊が怨霊であれば、人間など簡単に憑りつかれ、即座に殺されてしまう……

 しかし、ツェツィリアの歩みは全く躊躇がなかった。

 亡霊のすぐ傍まで来て、


「ねぇ、お姉さん、どうしたの?」


 ツェツィリアはニッと笑い、遠慮なく亡霊の顔を覗き込んだ。

 亡霊は、ツェツィリアの言う通り王族女性らしい。

 手の込んだ豪奢な衣装を身にまとっていた。


 顔立ちは整っており美しく、品もある。

 年齢は30歳手前といったところであろうか。

 しかし頬がこけ、酷くやつれていた。


「…………」


 ツェツィリアが話し掛けても、王族の亡霊は……言葉を発さなかった。

 黙って、ツェツィリアを見たのみである。


「うふふ、お姉さん、名前はクラリスって言うんだ。でもさ、貴女って、そんなにこの世に未練があるの?」


 ツェツィリアの問いかけにも、亡霊は反応せず黙っていた。

 表情に、何の感情も籠っていない。


「…………」


「今のままでいると、クラリス。あんたは良くて首なしの女騎士(デュラハン)、もしくは|嘆きの妖精(バンシー)くらいにしかなれないわ」


 ツェツィリアのいうデュラハン、バンシーとも人間の死を報せるという女人外である。

 彼女達の正体は誰も知らないが、ツェツィリアには心当たりがあるらしい。

 何らかの条件を満たせば、目の前の亡霊は化身するのであろう。


「…………」


 相変わらず、亡霊は言葉を発しない。

 しかし、夢魔であるツェツィリアとは意思疎通が出来ているようだ。


「へぇ! クラリスったら、そんなに心配なの? もうとっくの昔に済んだ話じゃない?」


 ツェツィリアは面白そうに問う。

 魔法灯に照らされたルビー色の瞳が、きらりと光った。


「…………」


「ふうん、事情はよ~く分かったわ。可哀そうだから、同じ女として力になってあげる」


「…………」


 無表情の亡霊は、僅かに微笑んだように見えた。

 そして、最後まで無言で、そのまま「すうっ」と姿を消してしまったのである。


 一方、少し離れた場所で、バルバは目を閉じて立ち尽くしていた。

 腕組みをし、全く身じろぎをしない。


 いきなり!

 「ぶわっ」と、ツェツィリアの小柄な身体が凄まじい速度で10mほど飛んだ。

 そしてバルバの傍らに、音もなく降り立った。

 

 だが、バルバは何事もなかったかのように言う。

 目は、閉じたままである。


「あの女にちょっかいを出せば、運命が変わる」


「いいじゃない、ちょっとだけ手助けするくらいなら、後は本人次第だから。だったら運命神も怒らないでしょ?」


「……さあな」


「もし神様が怒っても平気。いざとなれば、バルバが守ってくれるもん」


「……ふん、物好きな事だ」


 バルバは目を閉じたまま、吐き捨てるように言った。

 しかし、ツェツィリアは怒る気配を見せない。

 却って嬉しそうである。


「へぇ、物好きって……それ、私への誉め言葉?」


「…………」


「物好きなら上等。変人の婚約者ですもの、私」


「…………」


「結局、私達は似た者同士ね、そう思わない?」


「…………」


 バルバは、先ほどの亡霊のように答えない。

 会話が不毛になるからか、万が一照れているのかは、彼の心の内は不明だ。


 ツェツィリアはそんなバルバを見て、悪戯っぽく笑ったのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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