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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
全てを映す魔鏡編
31/47

第7話「再会と決意」

 固まったデボラ達3人は、目の焦点が合っていない。

 心、ここに在らずという雰囲気である。


 頃合いだと見たのだろうか?

 バルバはにやりと笑い、ピンと指を鳴らした。


 すると、デボラ達の目がパッと開いた。

 

 3人とも、すぐ周囲をきょろきょろ見る。

 そして大きくため息をついた。

 

 とりあえず助かったという……

 ホッとしたような、怯えた表情である。


「ふふふ、何とか生きて帰って来たか?」


 バルバの言葉を聞き、デボラ達はびくっと身体を震わせた。

 

 そして……

 不思議な事に3人の態度が一変していた。

 今迄の堂々とした振舞いがどこへやら、表情は恐怖に染まり、身体はガタガタ震えていた。


 おどおどした眼差しで、バルバとオリヴィアを見つめているのだ。

 何か、縋るような許しを請うような雰囲気である。


「お前達、これにサインして貰おう」


 いつの間にか、バルバの左手には何か細々した事が記された契約書が乗っていた。

 何と、漆黒の羽が付いたペンまでが用意されている。


「それは?」


 え? という顔でオリヴィアが聞くと、バルバは平然と言う。


「ああ、今後一切この家に干渉しないという契約書だ。少し特別な魔法がかかっている。ちなみにラウルス王国の正式な契約書ではないがな」


「そ、そうなんですか」


 驚くオリヴィアの目の前で……


 バルバが差し出す契約書に進んでマチューがサインした。

 そしてまだふらふらする妻デボラを抱えて、脱兎の如く部屋を出てしまったのである。

 慌てた娘のサンドラが、マチュー達の後を追う。


 唖然としながらも、オリヴィアは急ぎ商会の店員へ命じて、3人を外へ送らせたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 どうやら、遺産相続の問題は解決したようだ。


 というか、デボラ達は自分達から権利主張するのをとりやめたからである。

 目の前には、マチューがサインしたあの『契約書』があった。

 バルバの言う通りならば、デボラ達はもう二度と難癖をつける事はないだろう。


「でもどうして?」


「簡単だ。奴等は自分達が犯した罪への報い、すなわち自分達が裁きを受けるのを経験した」


「裁き?」


「ああ、俺が嘘を付かない、付いていないという話をしたのは覚えているな?」


 オリヴィアは頷いた。

 確かにバルバは、念を押すようにデボラ達の証言を取っていた。


「あのやりとり自体が契約だ。思い出せ、嘘をついたら子供の頃、何と言われたかな?」


 確か……物心ついた子供の頃からずっと言い聞かされていた。

 父は勿論、創世神教会の司祭からも……


「嘘をつけば……天国にはいけない、怖ろしい冥界へ堕ちると……」


「……そういう事だ。ただでさえ奴等は嘘をつき、冥界行きへ片足をかけている。いや奴らは既に重罪を犯した……もう冥界行きが確定だ」


「え? め、冥界?」


「ああ、冥界において一番の重罪は裏切りだ。裏切りの罪を犯した者は嘆きの川に沈められ、未来永劫、氷漬けにされる」


「…………」


「そしてこの魔法契約書がある。もしも奴らが反した行動をすれば即座に死ぬ。否応なく冥界行きだ」


「…………」


 デボラ達は犯した罪により、冥界で裁かれる姿を見た?

 まさか!?


 呆然とするオリヴィアに、バルバは片目を瞑る。


「さて、あんな屑どもの話は終わりだ。それよりオリヴィア……最初、お前には言ったが……まだ、お楽しみが残っている」


「え? お楽しみ?」


「この部屋は俺の魔道具、反魂香の力で充分に魔力が高まっている。だから異界へすぐに繋がる……」


「反魂香? 異界へ繋がる?」


 バルバが使った魔道具、反魂香……

 東方に伝わる魔道具で、焚けば死者の魂を蘇らせるという香である。

 反魂とはつまり魂を返す、戻すという意味なのだ。


「お前の事が心残りだったのだろう。魂の残滓ざんしとなっても、お前の傍で見守っていた父親の居る世界へな」


「バ、バルバさん! い、一体どういう意味?」


 オリヴィアが、バルバへ尋ねた瞬間であった。

 部屋の片隅に、何か影のような姿が立ち昇る。

 見れば、60歳近い男性のようである。


 徐々にはっきりと形になって行く男の姿。

 男を見たオリヴィアは息を呑む。

 それは何と!

 急死した父ジョエルであった……


『オリヴィア!』


 手を伸ばし、オリヴィアの心へ呼びかける父ジョエル。

 愛する娘が心配で堪らないという表情である。


「おおお、お父さん!? 心の中にお父さんの声がっ!? え、えええ? バ、バルバさん、どどど、どうしてぇ!?」


 思わずバルバを見て、目を見開くオリヴィア。

 そんなオリヴィアへ、バルバは手を横に振る。


「今のお前に俺と話している暇などない。反魂香によって呼び戻した魂が現世うつしよに存在する時間は限られている。さあ、思う存分、亡き父と話せ」


 それまで傲岸ともいえる態度を取っていたバルバ。

 一転、目が細められ、冷たい表情は温かく柔らかい。

 鋭かった眼差しは、オリヴィアへの慈愛に満ちていた。


「は、はいっ!」


 不思議な魔道具により、現れたのは父の亡霊かもしれない。

 しかしオリヴィアは、全く恐怖を感じなかった。


 何故なら自分を心配する、父の深い思いが温かく心へ伝わって来たからだ。

 オリヴィアは駆け寄って、父を抱き締めようとした。


 しかし父の身体は霧のようなもので出来ており、掴む事は不可能であった。

 だが……やがてその霧がオリヴィアをそっと包む……


『私の可愛いオリヴィア。お前には悪い事をした。苦労を掛けた……もう私は見守る事しか出来ないが……遠くからお前の母さんと共に幸せを祈っている……』


『お、お父さんっ! 今迄ありがとうっ! お母さんを愛して私を生んでくれてっ! 今迄育ててくれてっ、本当にありがとうっ!』


 オリヴィアは伝えられなかった事を、心の中で思いっ切り父に投げかけていた。

 幼き日、母が死に……そして父も逝った。

 大切な人を失った悲しみは、オリヴィアの心の底に残っている。

 一生……消える事はないだろう。


 しかし、オリヴィアは泣きながらも微笑んでいる。

 何故か、不思議な力が湧き出て来るのだ。


 私は強くなれる!

 亡き父と母の想いを継いで……私は必ず幸せになる!


 喪失感と悲しみに満ちていた商会の女主人は、今しっかりと前を向いていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

※『全てを映す魔鏡編 』は、これで終了です。

次パートへ向けて執筆中です。

今後とも、宜しくお願い致します。

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