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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
全てを映す魔鏡編
30/47

第6話「冥界巡り」

「デボラっ」


 夫のマチューが駆け寄り、倒れ込んだ妻を抱き起した。

 何がどう影響したのか、デボラは完全に気を失っていた。

 愛する妻の仇とばかりに、マチューはキッとバルバを見つめる。


「わ、私の妻に何をするっ!」


 怒りに満ちたマチューの視線。

 だがバルバは、全く気に留めない。

 それどこから、冷徹な表情でマチューを睨みつける。


「それはこちらの台詞セリフだ。俺の大切な魔道具を、嘘つき女が壊して貰っては困る。とても高価なモノだからな」


「な、何おっ!」


 言い返すマチューであるが、バルバは腕組みをしたまま静かに問いかける。


「わめくな、男……」


「は!?」


「お前にも聞こう……正直に答えろ」


「な、何がだ?」


「お前がこのオリヴィアへ告げた事は、嘘をついていないと誓えるな?」


「そ、そ、そ、そうさ! う、う、嘘などついていない」


 マチューは、デボラよりずっと小心のようだ。

 バルバに問い質されると、言葉を噛んだ挙句、俯いてしまった。


 次にバルバは、自らオリヴィアの『姉』と称するサンドラを見る。

 サンドラは両親の醜態に驚きながら、必死に平静さを保とうとしていた。


「最後は娘だ、お前も、けして嘘をついていないな?」


「そ、そうよ! 私は正直よっ」


「ははははは、嘘付きどもめ! ならば……お前達の行き先はここだ」


 バルバは高らかに笑い、またもピンと指を鳴らした。

 意識を失っているデボラは勿論、マチュー、サンドラの身体がびしっと硬直したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「え? ここはどこ?」

「な、何だ、何が起こった!」

「う、嘘でしょ!」


 気が付いたら……

 デボラ、マチュー、サンドラの親子3人は肩寄せあって立っていた。


 見回すと……周囲の景色が変わっている。

 ベルジェ商会の応接室ではない……見ず知らずの荒野である。

 草木も殆ど無い砂漠が続き、赤茶けた岩があちこちに転がる肌寒い雰囲気であった。

 3人の目の前に大きく広がる空は、白い雲など一切無く、濃い紫一色である。

 砂漠にはところどころ、巨大な岩山があった。


「ひひひ、どこかと聞かれれば、ここは異界……お前達が冥界と呼んでいる場所だ」


 いきなり、デボラ達へ背後から声が掛かった。

 全く、聞き慣れぬ声であった。

 老人のような、はたまた少年のような、人間離れした奇妙な声である。


「は、わぁ!?」

「だ、誰だ!」

「め、冥界!?」


 3人は叫び、思わず振り向いた。

 すると、そこに居たのは……ひとりの異形であった。


 身長は小柄で、150㎝くらい。

 山羊のような二本の角を生やし、とがった耳が左右に付いていた。

 吊り上がった大きな目と、鷲鼻が厳めしい雰囲気を醸し出す。

 全身は真っ黒な剛毛で覆われており、衣服は身に着けていない。

 そして、何か、槍のような武器を抱えている。


「「「ぎゃあああっ!!!」」」


 デボラ達は同時に悲鳴をあげた。

 退治されて死体となった、猿のようなゴブリンを王都で見た事くらいはあるが……

 今迄3人は、このような未知の異形に会った事はない。

 驚愕し、怖れるのは当然の反応であった。


 一方、異形は平然としていた。

 そして、


「お前達は、デボラ、マチュー、サンドラの3名で間違いないな?」


 いきなり3人の名を呼んだのである。


「ひぃぃ………」

「あううううう」


 デボラとサンドラは、恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。

 かろうじて持ちこたえたマチューが、異形へ指をさし、震える声で問い質す。


「き、き、貴様! ななな、何者だぁ!」


 マチューの問い掛けに対し、異形は自らを指さす。


「俺か? 俺は悪魔ベリアス。ある御方の眷属だ。お前達を案内するよう命じられている」


 悪魔!?

 相手の怖ろしい正体を聞いた3人は絶叫する。


「「「ぎゃああああっ!!!」」」


 再び大声で叫んだデボラ達は、完全に固まってしまった。

 悪魔ベリアスは3人を見て、眉を顰めると、大袈裟に肩を竦めた。


「うるせ~な。いちいち騒ぐなよ。お前達は生きたまま、死後に堕ちる冥界へ行くのだぞ」


「あわわ………」

「おおお………」

「ひぃ…………」


「ふん! 重罪人でありながら、お前達は恵まれている。冥界でどのような罰を受けるか、死ぬ前に実地で体験する事が出来るんだ。これはな、ある御方からの特別な取り計らいなのだぞ」 


 ベリアスは「にいっ」と笑うと、話を続ける。


「面倒だから、お前達から悲鳴を含めた言葉を取り上げる。俺の言う事を黙って聞くが良いや」


 ピンと指を鳴らしたベリアスは、更に大きく口を開けた。

 口の中は真っ赤であり、無数の鋭い牙がびっしりと生えている。


「ぎゃは! 判決を申し渡す! お前達は邪淫、貪欲、離間の罪を犯している。肉欲に溺れ、不和分裂の種を蒔いたのだ」


「…………」

「…………」

「…………」


 デボラ達は大きく目を見開いたまま、身動きが出来ない。

 ベリアスの魔法で身体の自由と言葉を奪われているのだ。

 ただ一方的に、ベリアスの言葉を聞くしかない。


「そしてお前達がやった最大の罪は裏切り。この冥界において最も重い罪なのだぁ」


「…………」

「…………」

「…………」


「ふひひひ、これから全て体験させてやるぜ。まずは邪淫か、対象はっと……おお全員じゃね~か。デボラとマチューは不倫、娘のサンドラも妻子ある男と不倫しているな。お前達はみだらな肉欲に溺れた罪で暴風に放り込まれ、身体が何度もバラバラになるんだ。肉はぶっ千切れ、骨も粉々。当然、すっげぇ痛い、これお約束」


「…………」

「…………」

「…………」


「おっとぉ、心配するなよ、また身体がすぐ元通りになって、またもバラバラ……ず~っと未来永劫、激痛の繰り返しだからな」 


「…………」

「…………」

「…………」


「次の貪欲は悪徳を積んだ罪。これも全員だ。お前達は超重い金貨袋を転がしながら、互いに罵り合う。ふんころがしみたいな事やりながら、大声で怒鳴り合うのもおつなもんだ」


「…………」

「…………」

「…………」


「その次は離間だ。身に覚えがあるよな、マチュー。お前は夫あるデボラを誘い、バッチリ仲たがいさせただろう? 応じたデボラも同罪! おいおい、サンドラもかよ。さっすがふたりの娘、血は争えねぇ。火遊びが、いずれ本妻にばれて相手の家庭は大騒動、家族崩壊。それを結構楽しみに待ってるじゃねぇか」


「…………」

「…………」

「…………」


「離間の罰もえぐいぜ。俺達悪魔が、お前らの身体を好き勝手に裂き、切り刻み、内臓を露出する。人間は皆、痛みで絶叫する。これが阿鼻叫喚って奴?」


「…………」

「…………」

「…………」


「そして最後はお待ちかねの裏切り者への大罰だ。信じられないくらい冷た~い、即座に身も凍る嘆きの川(コキュートス)に沈められ、永久にガチガチな氷漬けだ。すっげぇ楽しみだろ?」


「…………」

「…………」

「…………」


「以上で俺の説明は終わり! 論より証拠! さあさあ、ご機嫌な冥界巡りへと繰り出そうじゃねぇかぁ!」


 無言で、恐怖におののくデボラ達を見て……

 満足そうに笑ったベリアスは、蛇のような舌を出して、ぺろっと唇を舐めた。

 そしてまたピンと指を鳴らす。


 瞬間!


 ベリアスと、デボラ達の姿はかき消すように居なくなったのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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