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悪魔☆道具  作者: 東導 号 
全てを映す魔鏡編
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第4話「謎めいた魔道具」

 オリヴィアがバルバの店、放浪ストレイアラへ訪問してから1週間後……


 遺産の分配を要求する者達が、ベルジェ商会へやって来る。

 バルバのアドバイスにより、オリヴィアは改めてデボラ一家と話し合いをする事になったのだ。


 話し合いの場所は、ベルジェ商会の応接室が用意された。

 しかしいつもの部屋とは、雰囲気が大幅に変わっている。


 まず部屋中に、独特な香りが満ちていた。


 テーブルの上には、独特な形と渋い鉄紺の色合いをした、小さな金属製の器が置かれている。

 器の表面には、見た事もない幾何学的な文字と模様がびっしりと刻まれていた。

 この器は、いわゆる香を焚く際に使う香炉こうろであった。


 そもそも香とは、基本的に固体状の香料である。

 熱を加えて、成分を発散させて使うものだ。

 そして香炉とは、その香を用いる際に使う器の事なのである。


 今、目の前の香炉には用途通り、何かの香が焚かれ、淡い煙と共に独特な香りを放っている。


 オリヴィアは物珍しそうに、煙を吐く香炉を眺めていた。

 ラウルス王国にも香炉自体はあり、良く使われてはいる。

 だが『振り香炉』と呼ばれるものが主で、目の前のものは形状や使い方が全く違っていた。


 「くんくん」と香りをかいだオリヴィア。

 傍らに立つバルバへ尋ねる。


「変わった形の香炉ですね……そして嗅いだ事のない不思議な香り……何故か懐かしくなるような」


 そう……オリヴィアの言う通り。

 室内に満ちた香りは、郷愁を誘う何か懐かしいものなのだ。


 バルバはニッと笑う。

 自分の使う魔道具がしっかり理解されているという、満足げな笑いだ。


「ああ、その表現は言い得て妙だ。後で良い事があるからな」


「良い事?」


「ああ、良い事だ、以上!」


 オリヴィアは、バルバの言う『良い事』とは何なのかが、とても気になった。

 しかし、追及を許さぬバルバの態度を察して、鎮座している円形の鏡の方へ目をやった。


 置いてある鏡は、素晴らしいものであった。

 だが、いつこのようなものを商会へ運び込んだのか、誰も気付かなかった。


 鏡自体は、とても大きい。


 見上げるような高さであり、多分直径2mは楽にあるだろう。

 元々は鏡の数倍ある、巨大で透明な石を磨いて作ったと思われる。

 周囲には、東方風の精巧な彫刻が施されていた。


 鏡の威容に圧倒されるよう、オリヴィアは言う。


「……こ、この鏡も……凄いですね! とっても素晴らしいわ……材質は水晶か何かで作られているのかしら?」


「うむ、さすが名だたる商会の女主人だな。お前の言う通り、確かに水晶製だ」


「綺麗……」


 感嘆の声をあげたオリヴィア。

 先程の香炉の時同様、バルバは満足そうに笑う。


「だろう? これは浄玻璃鏡じょうはりきょうという。残念ながらオリジナルではなく複製品レプリカだがな」


 これが複製品レプリカ!?

 意外な事実を聞いて、オリヴィアはつい聞いてしまう。


 オリヴィアは知らない……

 浄玻璃鏡じょうはりきょうとは東方の冥界——地獄で閻魔大王が死者の裁判を行う為に、生前の行いを調べる魔道具である事を。

 

「とっても美しくて見事なのに……これで複製品レプリカなのですか?」


「ああ、事情があって本物オリジナルは絶対に手に入らない。というか売りに出ないし持ち出す事も不可能だ」


「そうなんですか?」


「うむ、これは俺が莫大な金を支払って、所有者へ特別に頼んで作らせた複製品レプリカなのだ。実際に使われるのを見たが、どうしても欲しくなってな……良く地獄の沙汰も金次第というではないか」


 何か、わけの分からないことわざを言うバルバ。

 オリヴィアは、少し可笑しくなった。


 そういえば、店に居たツェツィリアは言っていた。

 バルバには、たまにうんざりする。

 普段は寡黙でカッコイイおじさんなのに、魔道具の事となるとウンチクをしつこく語る。

 そして、たまにわけが分からない事を言うのが玉に瑕だと。


 実は……

 バルバと話した後、ツェツィリアはオリヴィアの愚痴をいろいろと聞いてくれた。

 しかし今日、ツェツィリアはバルバに同行してはいない。

 折角仲良くなったのに、今日は運悪く店番だという。

 少し……残念だ。


 そんな事を考えながら、オリヴィアはバルバに調子を合わせる。


「地獄の沙汰も何とやらですか? 確かにそういう事は言いますよね」


「うむ、今回は両方の魔道具とも遥か東方から取り寄せた。それ故、お前への貸し出し料が高くついた」


「…………」


 バルバの物言いで、オリヴィアはふと対価の事を思い出した。

 目の前にある鏡は見事だし、香炉からは良い香りがするが金貨1,000枚とはどうなのだろう?

 このふたつが、これからやりとりする遺産相続のトラブルを解決する役に立つのだろうか?


 そんな疑問を持ったオリヴィア。

 彼女の胸中が分かるかのように、バルバは言う。


「ふふふ、お前も利に聡い商会の主だ。さすがに貸すだけで金貨1,000枚は高すぎると思っただろう? しかし俺のコレクションは絶対に客を満足させるから大丈夫だ」


「き、期待していますよ」


 オリヴィアがやや噛んで答えた、その時。

 商会の店員が来客を報せて来た。


「会頭! デボラ・ピトル様とそのお連れ様がいらっしゃいました」


「……こちらへご案内をするように」


 オリヴィアは強張った表情でそう命じると、バルバへ説明する。


「先日お話しした、父の前妻デボラと現夫、そして私の姉と称するふたりの間の子……の3人ですわ」


 オリヴィアがバルバへ説明した相手がとうとうやって来た。

 しかしバルバの返事は素っ気ない。


「そうか?」


 やがて……デボラ達は店員に案内されてやって来た。

 デボラは昔はスタイル抜群の美人だったらしいが、今やビール樽のような体型をした50代半ばの女性である。


 嫌らしく、「にたにた」笑っている。


「ごきげんよう、オリヴィア。そろそろ私達へどう遺産を渡すか決めて貰えるかしら」


 一緒に居るのは、デボラより身長の低い薄ら笑いを受かべる彼女の再婚した夫マチュー。

 そしてマチューによく似た平凡な顔立ちの娘サンドラである。

 マチューはデボラと同じくらいの年齢、サンドラは姉と言う通りオリヴィアより少し年上という雰囲気であった。


 オリヴィアに対して馬鹿丁寧に一礼したマチューは無言、そしてサンドラは馴れ馴れしい態度で手を挙げた。


「オリヴィア、元気?」


「……ようこそ、ピトル様」


 オリヴィアが淡々と返すと、デボラは大袈裟な物腰で驚いたふりをする。


「あらぁ、ピトル様なんて他人行儀な呼び方はやめてよ。私達は家族でしょ! サンドラは血の繋がった貴女の姉なのだからねぇ」


 特に家族を強調したところに、デボラの悪意が見える。

 

 思わず顔を顰めるオリヴィア。

 彼女の傍らに立つバルバは、まるで汚物でも見るようにデボラを一瞥したのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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