第5話「お前を選ぶ!」
コスティは、改めて間近で人形の女性を見た。
ちなみにアールヴは、基本的に民族主義である。
世界で一番優れた種族は、絶対アールヴという考えだ。
知能は勿論、その美しい容姿も全て……
しかしコスティの目の前に立つ、人間女性を模した人形は、単に美しいという領域を超えていた。
遥かに遥かに……超えていた。
彼女の身長は、すらりとして170㎝近い。
一般的にアールヴは人間よりやや小柄なので、身長160㎝半ばのコスティが少し見上げるくらいだ。
鼻筋が通って整った端麗な顔立ちだが、表情はとても柔らかで、底知れぬ癒しを感じさせる。
瞳は魅惑的なダークブラウンで、切れ長の目に涼やかに収まっていた。
唇は、小さく薄い桜色。
今にも動き、コスティへ語り掛けて来るような錯覚にとらわれる。
柔らかな栗色の髪は、なみなみと背中の真ん中まで伸びていた。
胸を見れば……
ほど良い大きさの乳房はうわ向きで、つい甘えたくなるような母性に満ちている。
腰から尻にかけての曲線は信じられないくらいに美しく、滅多に見れない芸術品と言い切れる。
コスティは、口をポカンと開け、つい見とれてしまう。
女性がどんな材質で出来ているのか、彼には分からなかった。
何故そんな事を考えるのか?
将来のソウェルとして修業を積むコスティは、錬金術の嗜みもあるからだ。
しかし、彼に思いあたる素材はない。
このように美しく神々しい素材は、見た事も聞いた事もないのである。
透明に近い、光り輝く白……
コスティは何回か躊躇った後、おずおずと手を伸ばした。
女性の腕にそっと触ってみると……相変わらず正体不明の素材だが……
適度に固い素材であり、程よい弾力を返して来る。
抜群の触り心地だ。
「おお、す、す、素晴らしいっ」
感動したコスティは、女性をそっとそっと触る。
愛おしく、優しく……まるで大事な宝物のように……
「あ!?」
コスティは、吃驚して手を引っ込めた。
触っていた女性の皮膚に、微妙な変化が起こったのだ。
「な、何故? 温かいっ」
人形である女性の皮膚からは、ほのかにぬくもりが感じられる。
コスティが、触っていたからではない。
試しに触っていない箇所へそっと手を当てると……間違いない。
温かい!
これは、間違いなく生きている者の体温だ。
と、その時。
女性の唇が僅かに動く。
造り物の人形なのに……ありえない事だが確かに動くと……言葉まで発したのである。
「私だけを……」
「な、何?」
「私だけを愛して……」
甘く囁く声も、コスティには堪らない。
まるで、心を鷲づかみにするようだ。
コスティの心は、どんどん、がんじがらめに縛られて行く。
「お、お前だけをっ! お、俺が愛するのか? 愛して……良いのか? か、構わないのかっ!?」
「は……い……他の女などは捨てて……私……だけを……愛して……下さい……そうしたら私は……貴方だけの……モノ」
女の声は、媚薬のような効果があるのだろうか?
コスティの目は、もう焦点が合ってはいない……
もうひとつの考えに、コスティは囚われつつあった。
そうだ!
他の女など要らない……
一切不要!!!
うん!
あんなフレデリカなど、捨てる。
目の前の、この女だけを愛する。
そうすれば、自分が世界一素晴らしい女を独占出来る。
激しい高揚感を覚える……
コスティにとっては、生まれて初めての経験である。
思わず、コスティは叫ぶ。
美しい雌に選ばれた、雄の喜びに打ち震えて。
「おお、おおおっ」
「うふ、約束……して下さい……貴方の……『魂』を懸けてでも……」
相変わらず、コスティへ甘く囁く女。
……さりげなく魔法による魂の契約が、言葉の中に仕込まれているのを、コスティは気が付かない。
「や、約束するっ! おお、お前だけを愛するっ! 他の女など捨てるっ、婚約者とも別れるっ!」
「うふふ……必ず……ですよ……約束」
「ああ、約束するっ! お、お前は素晴らしいっ! お前の美しさに比べればフレデリカなどっ! あいつはもう要らんっ!」
「うふふふ……」
「名を! 頼むっ! お前の名前を教えてくれっ! これからどう呼べば良いっ」
「ガラテア……」
「おお、ガラテアかっ! ガラテアっ! 俺はコスティ・カントラだっ! ガラテア、お前を一生放さないぞっ!」
言い放った瞬間、コスティは何者かに囚われる感覚に捉われた。
しかし構わずに跪き、ガラテアの綺麗な足に誓いのキスをしていたのであった。
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