第4話「美しき訪問者」
同じアトランティアル大陸内ではあるが……
あの『魔境』とはまた方向が違う、ラウルス王国から遥かに離れた北方の地……ここにアールヴの国イエーラがある。
イエーラの都はフェフと呼ばれる街であり、ソウェルと呼ばれる長が住まい国を治めていた。
ソウェルとは王家のような世襲ではなく役職であり、心技体に優れた者がその知識と技を受け継ぐ事となっている。
今回バルバの店、記憶へ訪れたフレデリカ・リンドロースはこのソウェルの数多居る後継者候補のひとりでもある。
そしてアールヴでも有数の貴族、リンドロース家のひとり娘でもあった。
貴族というのは、人間もアールヴも変わらない。
まずは、血筋及び家の存続を優先させる傾向がある。
フレデリカは生まれた時、既に親の取り決めで婚約者が決まっていたのだ。
その婚約者を、フレデリカはどうしても好きになれなかった。
否、好きになれないという言葉では収まらない。
婚約者と一緒に、居るだけでも耐えられない。
同じ空気も吸いたくないというくらい、心底嫌いであった。
しかし敢えて嫌いな理由は?
と聞かれると、感情的、生理的なものだから具体的には表現出来ないのである。
フェフの街は、人間の街同様、職業別に街区が分かれていた。
その貴族街区にフレデリカの婚約者コスティ・カントラも住んでいる。
概して嫌われている人間は、自分がそう思われていると感じない。
はっきりいって、気が付かない。
コスティも同じである。
彼はフレデリカのよそよそしい態度が、単に奥ゆかしいとしか見えていなかったのである。
フレデリカがラウルス王国へ逃げ出したのも、表向きの口実である『研修』だと信じて疑わなかった。
予定では、あと2週間もすればフレデリカは帰国する予定である。
時刻は、もう深夜……
だがコスティは眠れなかった。
本当にラッキーだと思っていた。
親の決めた事とはいえ、いずれあの美しいフレデリカを妻にして毎晩抱けるのだから。
「おお、フレデリカ、お前の胸、腰……ああ、堪らない」
コスティはぺろりと舌を出し、嫌らしく唇を舐めた。
「ぐひひ、お前の可愛い顔をべろべろ舐めまわして、俺の唾液でべとべとにしてやる。普段のツンと取り澄ましたお前が俺によりみだらに開発されて、一匹の牝となり、従順になる……堪らんな」
両手を伸ばしたコスティは、「がばっ」と何もない空間を抱き締めた。
妄想がどんどんエスカレートしていって、どうにも歯止めがきかない。
「くうう、早く帰って来い、フレデリカ。もう我慢出来ない、どうせ結婚するんだ。今度ふたりきりになった時に無理矢理押し倒して……犯してやるっ」
コスティはベッドに伏して、暫く妄想に耽っていた。
そして……いつの間にかうたた寝をしてしまう……
だが、ふと目が覚めて……
「いかん、ちゃんと寝よう。明日も……いや、もう今日か……公務とソウェルの修行が山積みだ」
コスティが壁に掛かった魔導時計を見ると、既に短針は12時を回っていた。
寝落ちした間に、日付が変わっていたのである。
頭をポンと叩いたコスティは、苦笑して寝る準備に入った。
そもそも普段のコスティは、至ってまともなアールヴ貴族である。
しかし酷い妄想癖がある事、それをつい口に出す事という、ふたつの悪癖があった。
加えてフレデリカへ対して異常な執着を見せる性癖が、婚約者の彼女を大いに引かせる原因となっていたのだ。
「ん? 何だ?」
コスティは、自室を見渡し、奇妙な違和感を覚える。
しかし違和感の理由は、すぐ判明した。
今迄無かったモノが、いきなり部屋の片隅に出現していたのだ。
「だ、誰だ?」
コスティが目を凝らすと、それは抜けるように真っ白な肌をした人間の女性であった。
しかも、一糸纏わぬ裸で立っていたのである。
「おい! 一体、誰だ!? お前はっ」
実はこのコスティ、人間の女性も大好きである。
アールヴと人間との決定的な違い……それは胸、すなわちおっぱいである。
概してアールヴ女性は全員が貧乳……いや微乳なのである。
極度のおっぱい好きのコスティは、将来ソウェルになったら、ぜひ人間女性を側室として迎えたいと考えていた。
正妻になったフレデリカが、いかに反対しようとも構わない。
イエーラの国で、一番偉いソウェル様には逆らわせない。
実はこのアールヴの国イエーラも、ラウルス王国同様、一夫多妻制を認めているのだ。
「おいっ、お前、返事をしろっ」
コスティはまず呼び掛けてみた。
相手は、
「…………」
何も喋らない。
それどころか、全く反応がない。
コスティは、ムッとした。
彼は、貴族だけあってプライドが高い。
相手から無視されると、尚更である。
「何だ、無視するのかっ」
再び呼び掛けたコスティであったが、
「…………」
やはり、相手は無反応だ。
もう我慢出来ない。
コスティはふと征服欲にかられ、ぽつりと呟く。
「ああ、丁度良い……フレデリカの代わりにお前を愛でてやる」
何が、丁度良いのか全く分からないが……
コスティは、ふらふらと女性へ近付いて行った。
相手が、何故返事をしないのか?
その理由は、すぐ分かった。
立っていたのは、人間女性なのは間違いがなかったが、相手は生きてはいない。
そして生身でもない。
女性は、何者かによって精巧に造られた『人形』……だったのである。
いつもお読み頂きありがとうございます。




