表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔☆道具  作者: 東導 号 
奇跡の救援者編
13/47

第4話「懇願」

 遥か遠い北方砦に赴任したベルナールの下には……

 愛する妻クローディーヌから、頻繁に手紙が来た。

 

 内容は普段の事を報せる以外には、かつての愛人ウジェーヌから、度々復縁の誘いが来ているという予想通りのものであった……

 しかし妻は、そのみだらな誘いが来る都度、きっぱり断っているようだった。

 ベルナールはホッと安心ながら、「自分は必ず生きて帰還する」と返事を出し続けたのである。


 そんな中、今回の『事件』が起こった。

 ウジェーヌは、絶好の機会と考えたに違いない。

 ベルナールが『名誉の戦死』を遂げてしまえば、こちらのもの。

 悲しみと孤独にうちひしがれたクローディーヌの弱みに、一気に付け込んでしまおうと。


 その為、王国軍を率いた指揮官ウジェーヌは、北方砦の救援に赴かないのである。

 どうしようもない理由であるが、過去にも私怨からこのような行動はあった。

 公務に、はっきりとした私情を持ち込む……

 普通なら絶対に許されないが、概して王国貴族とはそんなものなのだ。


 ベルナールは考える。

 自分が死んだ後、クローディーヌは一体どうなってしまうのかと……

 見方を変えれば、そこまで妻への愛が深いのなら……

 ウジェーヌへ託しても良いのかと、一瞬でも思ってもしまう。


 ベルナールが、己の人生を諦めた瞬間。

 昨日聞いた渋い声が、心の中に響いて来た。

 

『いかんな……それでは。ウジェーヌとかいうクサレ野郎の思う壺だ』


 慌てて、周囲を見渡すベルナール。

 しかし部屋には、誰も居ない……


「な、何だ?」


『俺さ、バルバだ、男爵。これは念話だ、俺は今、異界に居て、あんたの心へ直接話し掛けている』


『な!?』


『ふふふ、俺はあんたの特別な事情を全て知っている』


『何だとぉ!』


『怒鳴るな、男爵。実はな、事前に契約は完了している。あんたの奥さんクローディーヌとな』


 バルバが発した、それは衝撃の発言であった。

 この正体不明の男が、自分より先に妻クローディーヌと契約をしている。

 ベルナールは、再度聞き直さずにはいられない。


『私の妻!? クローディーヌとか!? バ、バルバっ!』


『ふむ、何だ? いきなり慌てて』


 しれっと落ち着き払うバルバであるが、ベルナールは気が動転してしまっている。


『慌てるぞ! 当然だっ! も、も、もしや! き、貴様! つ、妻の魂を奪うのか!』


『奪う? 人聞きが悪いぞ、全く違う。それに、俺に対する言葉遣いに気をつけろ』


『な!?』


 目の前に居ない筈のバルバから、怒りの波動を感じて、ベルナールは息を呑む。

 身体がびしっと硬直する。

 大きく目を見開いたベルナールへ、バルバはあっさり言う。


『もしも俺が見捨てたら、お前達夫婦は共に死ぬぞ』


『え? 私達ふたりが両方死ぬ!?』


『ああ、そうさ。まずは話を聞け、俺は先にあんたの奥さんとも会った』


『な!?』


『そして、今のあんたの状況を話したら、ぜひにと頼まれた。男爵……あんたをどんな手を使っても助けろと……その代償に、俺が奥さんの魂を貰う約束だ』


 バルバの衝撃発言を聞いて、ベルナールは目を丸くする。

 気が遠くなりそうだ。

 そして己を犠牲にしても、ベルナールを助けたいと、妻が言い切ったと聞いて……

 妻に対する深い愛が、水量豊かな泉のように、こんこんと止めどもなく湧いて来るのだ。


 だからベルナールは言い放つ。

 きっぱりと、迷う事無く。


『ば、馬鹿なっ! それでは私が助かったとしても、なんの意味もないっ! 私はクローディーヌが幸せに生きる為に死ぬ覚悟を決めたのに!』


 しかしバルバには、そんなベルナールの思いは届いていないようだ。

 大きな声で、面白そうに笑い飛ばす。


『ははははは! あんたの奥さんも同じ事を考えているようだ。自分を犠牲にしてでも、あんたを助けたいとな……もしあんたが死んだら、ためらわず後を追うだろう』


『くううっ!』


 ベルナールは嬉しい!

 妻がここまで自分を愛してくれていたとは。

 同時に、凄くもどかしい。

 もう死ぬしかない、過酷な運命を背負った自分の身が。

 生きて、何とか生きて王都へ戻り、愛する妻を抱きしめたい……そう、ベルナールは願うのに。


 悔しがるベルナールをどこかで見ているかのように、バルバは皮肉たっぷりに言う。


『夫婦それぞれ思いはひとつなのに……こうも上手く行かぬとは……人間とは皮肉なものだ』


 バルバの突き放すような言葉に、ベルナールは目の色を変えて懇願する。

 やはり、妻を犠牲にするなど出来ない。

 ならば、いっそ!

 ベルナールはもう妻の為に、なりふり構わずという感じだ。


『そ、そんなっ! た、頼むっ! わ、私の魂と取り換えてくれっ! 妻との契約を破棄し、私とし直してくれっ!』


『ふふふ、必死だな。妻をそこまで愛しているのか?』


『愛している! クローディーヌは私の命! 否、命以上の存在なんだっ』 


 ベルナールは言い切った。

 心の底から思う。

 自分がどうなろうと、妻だけは生きて幸せに暮らして欲しいと。


 あまりにも真剣な口調に、バルバも思うところがあったらしい。


『ほう! 感心した、そこまで言うのか?』


『言うさ! 本心だ! 嘘偽りなど全くないっ!』


『……分かった。考えてやらぬ事もない』


『ほ、ほ、本当かっ! では、ぜひ! 私の魂を! 我が妻の、命の対価にしてくれっ!』


 更に熱くプッシュするベルナールの懇願に……とうとうバルバは折れた。


『うむ、ならば、お前の魂を貰う事にしようか』


『ああ、ありがたいっ! お、お、恩に着るっ! 改めて分かったぞ! お前は、多分人智を超えた存在――悪魔なのだろう? とてつもない力を持っているのだろうっ!』


 ズバリ、ベルナールが指摘したバルバの正体……

 だが、バルバは、


『ふふふ』


 肯定も否定もせず、軽く笑っただけで答えなかった。

 しかし……ここまで来たら、ベルナールは全く臆さない。

 どうせ、もう……自分は「悪魔へ魂を売った」のだ。

 毒を食らわば皿まで……である。


『た、頼みがある。どんな形でも良いっ! バルバ! お、お前の力でっ! 私が亡き後、つ、妻を絶対幸せにしてやってくれっ、こ、この通りだっ』


 ベルナールは、床に膝を突いた。

 そして手も床へ、べったり突いた。


『…………』


 深々と、頭を下げるベルナール。

 堅い床に頭が「ごつん」と当たる。

 何度も、何度も。

 ベルナールは……愛する妻の幸福の為に……姿が見えぬバルバへ……懸命に土下座をしていたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ