表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔☆道具  作者: 東導 号 
奇跡の救援者編
12/47

第3話「特別な事情」

 結局……

 ベルナールは悩んだが、バルバの提案を受け入れざるを得なかった。


 堅く閉め切った部屋にいきなり現れた、人間とも思えぬ正体不明の男。

 そして、人間の魂をあれだけ欲しがるとは……正体はもう分かりきっている……


 契約を遂行してくれる保証はない。

 どんな方法で砦と守備隊を救うのか、ろくに説明さえもなかった。 


 だが……

 守備隊が助かる為、他に選択肢は全くない。

 すっかり万策尽きて、追い詰められたベルナールは、わらにも縋る気持ちだったのだ。


 その夜……

 ベルナールは、一睡も出来なかった。

 提案を受け入れてから、ふと気が付けば、部屋の中には自分ひとりだけ……

 バルバの姿は……どこにもなかった。

 現れた時同様、忽然と消えてしまったのだ。


 まんじりともしない夜が明け……いよいよ今日は最後の戦い……

 バルバが契約を果たすにしろ、そうでないにしろ……

 ベルナールは、運命の日であろうと覚悟を決めた。

 革鎧をしっかりと着直して、守備隊長執務室で待機するベルナール。

 扉がノックされ、ベルナールが答えると、副隊長のロック・ケーリオが来たようである。


 入室を許可すると、ロックは扉を開けて「さっ」と入り、すかさず敬礼をした。

 傭兵隊長上がりのロックはベルナールより10歳以上年上で、既に40代半ばを過ぎていた。

 王国に雇われた立場であったが、ベルナールの人柄に惚れ込み忠実に仕えていたのである。


「隊長! 現在、生き残りは98名……我々を入れて100名、全員が死ぬ覚悟を決めています」


「ロック、す、済まぬ。この様子では救援は来ない……」


 ベルナールは済まなそうに頭を下げた。

 ロックは微笑みながら、首を振る。


「いいえ、どうせ我々は半端者の集まり……隊長と共にこの砦で過ごした2年間はとても充実しておりました。戦死した者達も……同じ思いでしょう」


 部下たちは、薄々感づいていた。

 ベルナールと、王国軍の中枢とは何かの『事情』がある事を。


 しかしベルナールは戦いの際には、毎回先頭に立って、兵士達を鼓舞し戦った。

 時には自ら盾となるベルナールを見て、部下達は彼に心酔していたのである。


「ありがとう……我が隊は1時間後には出撃する。……多分最後の戦いになるだろう」


「そうですね! では……隊長、後程のちほど……お互いに悔いなき戦いを!」


 ロックはそう言うと、直立不動となりびしっと敬礼した。

 部下の敬礼を見たベルナールも、すっくと立ちあがった。


 そうだ!

 ロックの言う通り……悔いなき戦いを……


 クローディーヌ……どうやら私は……ここまでのようだ。

 お前は生きて……必ず幸せになってくれ……


 ベルナールは、王都で待つ愛する妻の事を思い出していた。

 隊長として責任を取り、戦いの先頭に立ち、部下に先立って殉じようと覚悟を決めても……

 家で自分の生還を信じて待つ妻の事を考えると、胸が締め付けられる思いだった。

 しかし任務を放棄して、信頼してくれる部下達を無責任に見捨てるわけにはいかない。


 5年前……

 30歳になったばかりのベルナールは妻となるクローディーヌを紹介された。

 紹介したのは、上席となるウジェーヌ・ドラポール侯爵である。

 クローディーヌは素晴らしい美貌の持ち主で当時26歳……

 性格も穏やかで、優しい心の持ち主だった。


 お互いに結婚を前提とした紹介だったので、話はスムーズに進んだ。

 そして、ふたりは……まもなく結婚した。

 ベルナールは騎士となってから地方勤務が多かった為、王都に戻ってから結婚しようと思っていた。

 なので、貴族としては珍しく晩婚となる。


 実直な騎士ベルナールと、美貌の優しい妻。

 普通なら、誰もが祝う筈の結婚であった。

 しかし口さがない貴族達は陰で笑っていた。


 クローディーヌはウジェーヌ・ドラポール侯爵の愛人として有名であったから……

 ウジェーヌが3年間手放さなかった愛人を手放したのは、正室からの厳しい申し入れによるものだ。

 そもそもラウルス王国は、一夫多妻制を認めている。

 それなのにクローディーヌが単なる愛人だったのは、ウジェーヌが婿養子だった事が大きい。

 ドラポール家の家付き娘であった正室はクローディーヌが妻となる事を認めなかった。

 そして遂に、クローディーヌを屋敷から追い出す事を夫へ談判したのだ。

 元々ウジェーヌは、気が強い妻に頭が上がらなかった。

 遂には押し切られ、部下へ嫁としてクローディーヌを譲る事で、妻の了解を得たのである。


 しかし、2年前に状況が変わった。


 ウジェーヌの正室が、呆気なく病死したのだ。

 ある者は、ウジェーヌが病死に見せかけて、妻を殺したのではとも噂した。

 

 やがて、その理由を納得させるような事が起こった。

 ウジェーヌは、ずうずうしくもベルナールへ申し入れをしたのである。

 何と、クローディーヌと離婚をするようにと……


 部下へ離婚を強要する、ウジェーヌの魂胆は見え見えであった。

 再びクローディーヌを『我がモノ』とするつもりなのだ。


 しかし既にベルナールとクローディーヌは愛し合い、仲睦まじい夫婦となっていた。

 ベルナールは妻の意思確認をした上で、ウジェーヌへ断りを入れたのだ。

 するとウジェーヌは卑劣にも職権を乱用して、ベルナールを王都からこの最果ての砦へ単身赴任を命じた。

 

 つまりベルナールを、愛妻クローディーヌから遠ざける為に左遷したのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ