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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
99/130

96_お嬢様と新たな商案


 エルモンド領フーリェを出立したロディマス一行だが、その旅路には何の問題もなく、無事にペントラルへと辿り着いていた。


 そして早速エルフたちとバイバラを会わせたが、特に波乱もなくすんなりと話は進み、三名のエルフを残して、この三日後にはネメル含めたエルフたち45名は傭兵たちに護衛されながら、北にあるベルナント領アーカインを目指して出発した。



「ここまでの苦労が何だったのかと思うほど、拍子抜けな展開だったな」


 懐かしの自室にて、己以外に誰もいないためにロディマスは気が緩んでいる。

 思わずと言った調子で普段は心に留めておくような言葉も漏れ、そう呟いていたが、その口調とは裏腹に気分はさっぱりとしていた。

 身内同士で揉めるかと思ったエルフたちは、誰もが里を勝手に出たバイバラを責めることはなかったのである。それどころか抱き合い喜んでいたので、イヤな思いをせずに済んだと安心したのである。



 ちなみにバイバラは、いつの間にか父バッカスから委託権を譲渡され、正式にレバノン商会の一員、つまりロディマスの部下となっていた。

 聞いてないんだが?とライルに詰め寄ったロディマスだったが、バッカスからの命令だったと言われれば反論する事などできなかった。


「本当に、あの二人にも困ったものだ」


 己に先んじて何でも次々にコトをこなしていくバッカスとライルの手早さに呆れつつも、頼りになる大人に囲まれた自分は恵まれていると感じていた。



 なお、ドミンゴに関しては未だに父バッカスの管理下に置かれているが、これに関してはロディマスも口を挟むことをしなかった。

 本当はドミンゴも傘下に加えたいのだが、それには父バッカスのあるものが問題となった。

 普段は流通を牛耳っている大商会の商会長だが、バッカスの代で急激に拡大したアボート商会には、当然のように裏の顔があったと判明したからである。


「死の商人、か」


 武器防具を扱う商人で、その為に戦いのある世界を望む、平穏に憧れるロディマスとは正反対に位置する存在。


 15年前、バッカスが台頭してきた頃に起こった、神聖国の更に南の小国群であった戦争。

 その戦争が起こった原因が、バッカスによる誘導だと言う話を思い出し、ロディマスは頭を抱えた。


「父上が暗殺される理由の一つはそれだろうな」


 未来の記憶において、大体バッカスは暗殺されている。

 そして未来のロディマスは真相を調査する前に揉め事に巻き込まれていたので、心当たりの多いバッカス暗殺については今まで深く考えていなかったが、冷静になって考えてみるとこれは異常な事態であった。


「理由が絞り切れん以上、打てる手立てが少ないのがこれまた気持ち悪いな。・・・だが、待てよ?プレリーは武器もロクに回ってこないと言っていたが・・・、まさか」


 エルモンド領フーリェの防衛副長であるプレリーが、必要な武器防具が回ってこないと密かに伝えて来ていたのを、ロディマスは思い出していた。


 なお、国境沿いの領主には国からの武器防具の支給はない。

 つまりプレリーらは民間から格安で大量に武器防具を購入しないといけないが、それが回ってこない理由など、アボート商会が回していなかった以外に理由がなかった。


「その理由も、利益が上がらないからなのだが・・・」


 現地を見に行って良く分かったが、確かにあの領地は貧乏だった。

 穀倉地帯もあり、森が近いのでそれなりに収益はあるものの、領地防衛の防衛費がかなり嵩んでいる。

 確かに情報だけを見たら、父バッカスの食指が動かないのも無理はないと、ロディマスは溜息を吐いた。


「こうして考えてみると、父上にしても商売人としては穴だらけなのだな。兄上は貴族中心だし、俺のレバノン商会が庶民にターゲットを絞っているのは、正解か」


 そしてその都合もあり、例の砲丸を生産できるドミンゴを内に抱え込むのを辞めたのだが、思ったよりも闇の深い話に繋がっていた今回の件に身震いをした。


 もしかすると未来で父バッカスを殺したのは、満足に装備を整えられずに街一つを壊滅させてしまったエルモンドの連中の逆恨みが原因かもしれない。

 彼らであれば、父バッカスを含むアボート商会の精鋭たちを圧倒できる。特に覚醒した『勇者』が相手では、いかにバッカスであっても歯が立たないだろう。



 そうなると、今回の遠征で父バッカスの死亡フラグの一つが折れたのではないかと考えたその時、ドアがノックされた。


「誰だ、入れ」


 丁度思考が深みに嵌まりそうだったのでいいタイミングだと、来訪者を快く受け入れる姿勢を取ったロディマスだが、入ってきた人物と、その人物の恰好を見て固まった。


「久しぶりね、あなた」


 そう言って入ってきたのは、メイド服を着たアリシアだった。



〇〇〇


「あなたね、帰ってきたのならまず真っ先に挨拶に来なさいよ」


 そう言って、フリフリで白黒のメイド服を着たアリシアがプリプリと怒っていた。

 何故公爵家のご令嬢がメイド服を着ているのか分からないロディマスは、上半身の力を失いそのまま倒れこみ、机で顔面を強打した。


「痛い・・・、夢でも幻覚でもないのか・・・」


「何よ、幻覚って」


「こちらの話だ」


「それで、どう?似合う?」


 机を睨んだまま上体を起こそうとしないロディマスに対して、アリシアはそう問いかけてきた。

 そのロディマスの答えは、こうだった。


「見た目だけなら悪くはないが、身分と性格がダメだ。と言うよりも、何故そのような格好をしているのだ!?」


 相変わらずアリシアを直視できないロディマスが、机に顔を向けたまま叫び、ストレスのあまり額を何度も机に打ち付け始めた。

 その様子を見て怯んだアリシアは、大層狼狽えていた。


「ちょっと、大丈夫なの?すごい音がしたんだけど。それと、褒めるならちゃんと褒めなさいよ!?」


「公爵家のお嬢様が使用人の恰好をしているのだ!!褒めるも何も、あるか!!」


 普段はそのようなことを全く気にしていないロディマスにそう言われ、最初はけげんな表情を浮かべていたアリシアは、途端に何かを理解した表情となり、次には得意げな顔となっていた。


「ええー、いいじゃない。これ、可愛いわよね。本当に。前から着てみたかったのよね」


「ならば俺のいない所でやれ!!」


「それって、照れて私を見れないからかしら?」


「んぐっ!?」


 ずばり、図星を刺されたロディマスは息を詰まらせた。


 そう、そうなのである。

 金髪のお嬢様アリシアは、驚くほどメイド服が似合っていたのである。

 正確には可愛らしいフリフリの衣装が似合っているのだが、それを告げるにはロディマスの精神状況が宜しくなかった。


「あなたを困らせたかった訳じゃないけど、何か一言、きちんと褒めて欲しいわ」


「ん、んぐ・・・クッ。少し待て。【コールドブロウ】」


 不意打ちを食らった為に動揺した己の心を鎮める為に、ロディマスは頭に冷風を吹かせる【コールドブロウ】を使い、物理的に頭と顔を冷やした。


 そしてアリシアを見る事無く立ち上がり、振り返って窓の外を眺める。


 空は秋晴れ。

 澄んだ青とわずかな白い雲が見える、緩やかな良い天気。

 眼下に広がるは、厚手の服を着始めた人々と、相変わらず熱心に訓練をしているミーシャと傭兵たち。


「実に平和な光景だな・・・」


「ちょっと、何いきなり現実逃避しているのよ」


 相変わらず短気できつい性格をしているアリシアの鋭い突っ込みにもめげず、ロディマスは思いを他に寄せた。


 ベリス工房は今日も盛況なようで、元傭兵や元騎士のみならず、最近では街の一般市民にも受け入れられているようである。

 総菜パン第一号であるミンチ肉を乗せたハンバーグパンに、コスト削減の為に練った芋をふんだんに乗せて嵩増しさせた芋パンは大変に好評で、この度新作としてベリスが開発したパン・イン・ザ・パン(仮名)は、試食させた傭兵たちにも受けが良かった。


 なお、パン・イン・ザ・パンは、外側がクッキー生地で中が普通のパン生地の、言うなれば甘くないメロンパンである。


「砂糖が大量に入れば普通にメロンパンも作れるのだがなぁ」


「砂糖?あんな高級なものを使うなんて、さすがにどうかと思うわよ。それとこっち向きなさいよ」


「確かに採算も取れぬだろうし、仕方があるまい。だが、あれを応用すれば様々に工夫が出来るし、菓子パンと言う概念の生まれる日もそう遠くはないだろう。今後が実に楽しみだ」


 多少はパンについて語って聞かせてはいたものの、何気ないロディマスの発言の数々からメロンパンもどきに辿り着いたベリスの意外な才能に驚きつつも、今後は何が出てくるのかと期待した。


「そう言えば、ちくわパンも好きだったな」


「チクワパン?」


「む、いや、何でもない。と、ああ!!」


「な、なによ!!」


「思い出したぞ。しまった、そうだ。おいアリシア!!」


「え、え?何なの?」


「ちくわだ、ちくわを作るぞ!!」


「ちょっと、いきなり肩を掴まないでよ!!まず先に、褒めなさいよ!!」


「そんな事はどうでもいい!!今すぐにベルナントのモンタナに連絡をする!!」


「どうでもいいって・・・、もう!!何なのよーーー!!」


 突然意味不明な事を叫び出したロディマスに、同じく叫んで講義をしたアリシアだったが、ロディマスの前世の心に火が付いた以上、それを止めることは叶わなかった。



〇〇〇


 ライルにチクワを含む魚の練り物の簡単な作り方を書いた書面を渡してから、ホクホク顔で戻ったロディマスを待ち受けていたのは、ロディマスのベッドでむくれて不貞寝をしているアリシアだった。


「う、うむ・・・。なんというか、悪かったな」


「・・・、フン!!」


 非常に面倒な事になったとロディマスは頭を掻いた。

 そして同時に思い出す。


「しまった。エリスやベリスの機嫌も損ねていたのだった」


 フーリェから戻って翌日、ロディマスは傭兵の一部を連れてベリス工房へと赴いていた。

 例のご褒美を傭兵たちに与える為である。

 勿論、アーンなどと言う行為は一切許さなかったが、それでもエリスやベリスから手渡されたパンを嬉しそうに頬張っていた傭兵たちを見て、己はいい事をしたと思っていた。

 事実、傭兵たちにとっては良い事だったが、そうとは思わない者たちが約2名いたのである。

 

「ねぇ、ロディ君。もっとほら、あるよね?」


「ロデ坊ちゃんさ。さすがにこれはないんじゃないかねぇ」


 二人の冷たい言葉と冷たい視線を思い出して、ロディマスは頭が痛くなってきた。

 傭兵たちへの接待に、思っていた以上に難色を示した彼女らを強引に従事させたのが非常によろしくなかったのである。

 よって、二人の機嫌を取らなければならない。

 ついでに、今不貞寝しているアリシアの機嫌もどうにかしなければならない。


 そう考え、ふと、先ほどのアリシアの恰好を思い出した。


 そして、ロディマスは閃いた。



「よし、もうこうなったらアレを作るか」


「・・・、アレって何よ。また妙な事を企んでいるの?」


 普段であれば無視しておくが、ロディマスには今、とある事が気になっており、アリシアを無碍にする気が起きないでいた。


 ある事とは、ちょっとばかり心を病んでいる風な黒髪の少女の事である。

 しかも面倒なことに、あの『勇者』レイモンドの妹でもある。関われば関わるほどロクな目に合わないと言うのは、火を見るよりも明らかなのであった。

 そんな少女に付きまとわれる事を思えば、アリシアの方が2割くらいマシだとロディマスは思っている。

 

「妙ではないが、機嫌は直ったのか?」


「フン!!」


「ぬう。不貞寝するなら自分の家へもどブヘ!? ガハッ!?」


 飛来した枕を顔面で受け止めたロディマスは、そのまま引き飛ばされ壁に激突した。

 枕を投げる為に布団から出てきて、背中を強打してのたうち回るロディマスを冷ややかな目で見つめていたアリシアは、再び布団の中へ入っていった。


「ぐ、くぅ・・・、キくな。だが、うーむ、これはアレで解決するか。ならば、よし!!メイドはどこだ!!」


「え?ちょっとロディマス!!また部屋から飛び出して、今度はどこへ行くのよ!?」


 部屋の中で叫ぶアリシアを無視して、ロディマスは裁縫を担当しているメイドを捕まえ、作案を共に作った。

 作る予定の服はフリフリのゴテゴテが付いた洋服、ロリータ。

 ゴスロリ服などである。


「さすがにそのものを作る訳ではないが、そこは工夫次第だな」


 そんな服が全くない訳ではないが、この世界の貴婦人はほとんどが体のラインが出るような服を着る。

 当然腹回りはコルセットで締め上げ、胸回りはパッドで嵩増しをする。


「だが、このフリルを適所で使えば、その問題も解決する!!ノーコルセット、ノーパッド、だ!!そしてこれは、売れる!!」


 天高く拳を突き上げてしょうもない事を言い出すロディマスを、メイドたちは呆れため息を漏らしつつも指示に従い、服を作っていったのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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