93_魔法少女と戦いの決着
ミーシャがピンクのフリフリ衣装をまとい、魔法少女と化していた。
「何が起こっているのだ・・・。いや、そもそもこれは、何だ?」
そんな疑問を発するロディマスに、しかしミーシャは何も答えずに拳を前へと突き出していた。
そこは派手なピンクや白の衣装とは大きく異なり、最初から嵌めていた武骨な手甲が装着されたままだった。
ただし、色は赤一色。
「ご主人様、申し訳ありません。【獣魔招来】は持続時間が短いのです。だから行ってもよろしいでしょうか?」
「え?あ、うん。よろしく」
「はい!!不肖ミーシャ!!突撃してまいります!!」
「あ、うん、がんばってね」
「はい!!」
ロディマスがロディマスらしからぬ返事を返すものの、それを全く気にする事なくミーシャは魔物の群れの中へと突撃した。
そして、魔物の群れが、爆ぜた。
「え?は、はぁぁぁぁ!?」
ミーシャが右拳を前へと突き出すと、光の奔流とも言える魔力の塊が放出され、直線状の魔物を宙へと舞い上がらせた。
左拳を前から左へと薙げば、その腕の延長線上にいた魔物たちは突き飛ばされたかのように、やはり宙へと舞った。
そして左へ開いた体を今度は乱暴に右へと捻り、その勢いを利用して左手でアッパーを繰り出した。
魔物は宙を舞った。
「魔法少女・・・ではあるが、これは・・・予想外だぞ!?」
前世の知識にある魔法少女とは似ても似つかないその姿に、呆然と呟いたロディマスだが、ある意味ではきちんと『魔法少女』である今のミーシャを否定する事などできなかった。
そして何度となく振るわれたミーシャの拳により、魔物の大半が消滅した頃、ミーシャに変化が訪れた。
光の粒子が周囲に漂い始め、ミーシャの衣装が明滅していたのである。
振るう拳から発せられる魔力の量も大幅に減ったのも考慮すると、時間の限界が近づいたのだろうと、ロディマスは推察した。
そしてロディマスは、急ぎミーシャに指示を出した。
「ミーシャ!!塀の近くの魔物を優先的に排除しろ!!そいつらさえいなくなれば、この場はどうにかなる!!」
「分かりました!!ハァァァ!!」
そう言ってフリフリの衣装のまま気合を込め始めるミーシャを見て、この血なまぐさい戦場になんて不釣り合いな格好なのだとロディマスは場違いな事を考えてしまった。
しかもそれがピンクのフリフリで魔物を蹂躙するミーシャだと言うのが、余計に頭が痛かった。
「なんであんなに可愛い恰好で・・・。いやしかし、そもそもあの衣装はなんだ?・・・、待てよ?どこかで見たぞ、アレ」
ミーシャが遠い上に暴れるのでよく見ていなかったが、あんな衣装を着たミーシャを自分は見ていたような気がする。
ロディマスはその感覚に従い、己の記憶を探っていった。
前世、ではない。
未来、でもない。
「一体どこで・・・、って、あ!!あれはメイド服か!!」
そう、よく見れば今のミーシャの衣装は、去年ミーシャに渡したメイド服のアレンジバージョンだったのである。
目を凝らせば、ミーシャの頭にはヘッドドレスが乗っていた。
ロディマスが耳を目立たせなくしつつも、お洒落さをと若干気を使った部分だが、どうやら【獣魔招来】にもそれが反映されているようであった。
「学園では庶民服で、この旅の間はその上から皮鎧を着ていたから気が付かなかったぞ・・・」
久しぶりのメイド服で、しかもまさか戦うメイドを間近で見ることになるとは思っておらず、ロディマスは気付くのに時間がかかってしまった。
そして近くにいたゴブリンを始末しながら盛大にため息を吐いた。
「何故キースが黙っていろと言ったのか理解できた。あいつめ、俺の趣味を分かっているのか!!」
正確には前世の趣味であるメイドさん萌えが、よりにもよってキースにバレていたと知ったロディマスは、帰ったらどうやって口止めしようかと真剣に悩んだ。
もっともこの悩みはアリシアに告げ口されていた事により意味をなさなくなるが、それは戻ってからの話である。
「ヤァァ!!これで、全部です!!」
「やったか!!だが、ミーシャの変身が解けた!?」
「フッ!!ハァ!!ヤァ!!」
「いかん、すぐさまミーシャと合流せねば。おい、ミーシャ!!戻ってこい!!」
「はい!!」
さすがに先ほどの【獣魔招来】の時よりも幾分か遅いスピードで、しかしそれでも十分に速く移動してきたミーシャは、やはり先ほどの通りに帰りすがらもゴブリンやオークを跳ね飛ばしてきた。
そしてロディマスの元へと辿り着き、即座に周囲の警戒と万が一に備え、素早く構えた。
そんな油断なく周囲を警戒するミーシャに、ロディマスは聞いた。
「ミーシャ、余力はどれくらいだ?」
「はい、あと30分ほどこのペースで戦うと魔力が切れます」
「30分、あれだけ暴れておいてまだそんなに・・・」
「まずかったでしょうか?」
「いや、いい。むしろ上出来だ。では今からエルフの里の内部へと向かう!!ミーシャは先行して道を作れ!!」
「内部、ですね!!分かりました!!」
そう言うや、今度はジグザグに走りながら残敵を吹き飛ばすミーシャの後を追って、ロディマスも駆け出した。
「早いな!!だが、【ウィンドラン】!!【グランドコンディショニング】!!これでどうだ!!」
ロディマスが風と土の魔法を使い、己の機動力を上げて魔物の死体の隙間を縫って走り抜ける。
途中の雑魚はミーシャが吹き飛ばすが、数がかなり減ったとはいえ、それでもまだ百は下らない数がこの場にはいる。
しかも森から更なる魔物の増援も来ており、事は一刻を争う事態となっていた。
だが、幸いにも先ほどのミーシャの変身により、完全に魔物化した手ごわいゴブリンやオークなどは消え去っており、さほど苦戦することなくエルフの里の塀まで辿り着いた。
「ミーシャ。アレを出せ」
「はい、こちらです。フッ!!ハァ!!」
「よし、これを・・・おい、エルフ共よ!!誰でもいい、いないのか!?」
ロディマスがそう声をかければ、塀の上から一人が顔を出した。
女性のエルフだったが、顔には焦燥感がありありと浮かんでいた。
頬はこけており、髪もボサボサ。何日もロクに寝れていないのだろう。それなりに距離があるにも関わらず、目の下には深いクマが見て取れた。
一瞬、会話そのものが成立しないのではと危惧したロディマスだったが、エルフの女性が声をかけてきた事で少しばかり安堵した。
「あ、アンタら何者なんだ!?味方か?それとも・・・」
「そんな無駄な問答をしている暇などない。貴様はバイバラと言うエルフを知っているか?」
「え!?バイバラ!?なんでアンタがバイバラの名前を知っているんだ!!」
「知っているんだな。ならこれを受け取れ!!ヤツから渡されていたものだ!!」
ロディマスがもはやただの木片と化したトンファーだったものを空へと放り投げれば、エルフの女性は慌ててそれを受け取った。
そしてエルフの女性がそれを見て驚きの表情を浮かべたのを確認したロディマスは、大声で叫んだ。
「バイバラは俺の知り合いだ!!そして俺は、貴様らを利用しに来た!!だからとっとと中へ入れろ!!全滅するか、俺に利用されるか、今すぐ選べ!!」
「知り合い、って、ええええ!?利用!?利用って何さ!?そんなの私じゃ決めれないよ!!」
「カウントダウンするぞ!!5、4、3・・・」
「わわ、待って!!待ってよ早いよ!!なんでさ!!あー、もう!!」
「いや、開けるんだ。そこの人、入ってくれ!!」
ロディマスの言葉に混乱していたエルフの女性の横から、先ほど砲撃の際に忠告してきた声の主が現れた。
そして中へ入るように言い出したので、ロディマスはそれに乗ることにした。
「分かった!!ミーシャも、行くぞ!!」
「はい!!でも私は全力で飛べば塀を乗り越えられるので大丈夫です!!」
「はぁ!?いや、そうか・・・。なら俺だけか・・・うーん、まぁいい。やってくれ」
「ああ。では行くぞ!!」
合図と共に塀が突如割れて中へと入れるようになった。
そしてまさかそんな何もない所が開いて入れるようになるとは思いもしていなかったロディマスは、驚き、戸惑いながらも体を中へと滑り込ませた。
そしてその隙間が閉まったのを確認したロディマスは、次に頭上を見た。
上には、塀の縁に立っているミーシャの姿が見えた。
「なんて身体能力だ・・・」
「あれは君の友人か?さすが獣人だね」
「友人ではなく従者だが・・・いや、いい。とにかく今は見通しのいい場所へ案内しろ!!今、すぐにだ!!」
「え?」
「貴様がいたあの高台だ!!急げ!!今しかチャンスはないのだ!!」
「わ、分かった!!こちらに来てくれ!!」
駆けだしたエルフの男を追いロディマスも走り出す。
途中で10人ほどのエルフの戦士らしき者たちとすれ違ったが、一切を無視した。
彼らの視線がまるで親の仇を見るようで、恐らく実際に人間そのものが親か親族の仇なのだとロディマスも分かっていたから声をかけることをしなかったのである。
そしてそんな怨嗟の声が聞こえてきそうな鋭い視線に晒されながらも、ロディマスを邪魔するものはいなかった。
恐らく、この危機的な状況を打破するにはロディマスの手を借りなければならないと、本能的に察しているのだろう。
「いや、そもそもそう言う気概のある連中は既に死んだか」
「何か言ったかい!?」
「いいや、こちらの話だ。ふむ、ここだな?」
「ああ、ここなら見渡せるが・・・、まだあんなにいるのか・・・」
「ご主人様、こちらにおいででしたか」
「うむ。さて、ではもう少し待ったらアレをやるぞ、ミーシャ」
「はい。こちらですね」
続々と広場に集まり、また一大軍勢を築き上げようとしているゴブリンとオークを見て青ざめているエルフの男性のそんな呟きに、しかしロディマスは動揺することなく集まる様子を見降ろして、着々と準備を進めていた。
ミーシャが取り出したのは、丸い金属球。その大きさは砲丸投げの砲丸ぐらいの大きさで、これは実際に砲丸である。
ただしロディマスには砲丸を作成する知識などなかったので、なんちゃって砲丸である。
「まずはこれを剥がして、強度は問題ないな。よし・・・」
「いつでも放り投げれます」
保護用に縦横に巻いていた毛皮を剥いて、片手で砲丸を持つミーシャの怪力に呆れつつ、ロディマスは時を待った。
砲丸は、中に実の兄ハワードが開発した油と魔石を砕いたものを混ぜた特殊な火薬を詰め込んだ物である。
「火薬なんぞ知識がないから作れんとは思っていたんだがな・・・。さて、実際の威力はどれほどのものか」
周囲に聞こえない程度の小さな声で呟いたロディマスは、ミーシャが握っている砲丸の威力を考えた。
実家にいる際に試作した砲丸は、今の物よりも二回り小さい野球ボールサイズだった。
それを二重構造にしたのが今の砲丸だが、野球ボールサイズでさえ威力は大魔法並だったのである。
「想定される威力は、この広場を覆うほどだ。む、そうだ。おいそこのエルフ!!」
「私の事かい?私はネメルと言うのだ」
「そうか、俺はロディマスだ。今から大魔法並の爆発が起こり、それに伴い爆音も響く。合図と共に耳を塞ぐように伝えておけ」
「何をするのかは知らないけど、分かった。皆に伝えてこよう」
そう言って、ネメルと名乗ったその男は、ロディマスの要求に素直に従い階下へと降りて集まってきていたエルフの面々に話をしていた。
それを者御台の上から見下ろしながら、ロディマスは思ったよりも数が多いエルフたちのその姿に安堵した。
「まだ50人近く残ってるか。男も女もバランスよくいるな。これなら連れて行けばどうにかなるだろう」
「連れて行くってどういう事でしょうか?」
「む?貴様は誰だ?」
「あなたに名乗るほどの名は持ち合わせていませんよ、人間」
「そうか。ならいい」
「よくないわ!!あなた、何を考えているの!!ネメルがいきなり引き込んだかと思ったらこんな所で何をしているの!?それにこれから何をしようと言うの!?連れて行くってなんな!?ヒッ!!」
ヒステリックに叫ぶその女性エルフを冷ややかな目線で黙らせたロディマスは、これ見よがしにため息を吐いてから、冷酷に告げた。
「ここで野垂れ死にするか、俺についてくるか、選べ。ただそれだけの話だ」
「ど、どこによ・・・」
「ここよりはマシな場所だ」
そして、いつものロディマススマイルで威圧してエルフ女性を完全に沈黙させたロディマスは、振り向いたついでとばかりに里の様子を見てみた。
木造の平屋が多く並び、エルフらしさなど微塵も感じさせないそこは、はっきりと言えばボロボロだった。
しかもその平屋はログハウスのようなもので、木材の手入れなどがほとんどされていなかった。
「これが、木工が得意なエルフ共の里か・・・。この程度とは・・・」
「すまないね。金属の刃物が中々手に入らなくて、外見に気を遣う余裕がないんだ」
「ネメルか。ふむ、ならば金属の短剣でもあれば、貴様らは腕を振るえると見ていいのか?」
「ああ、大丈夫だ。もしかしてそれが、ここに来た理由かい?」
「その通りだ。そして」
「ご主人様!!森からの魔物が途絶えました!!」
「何!?よしネメル、今から特大のをぶちかます!!」
「え?ああ、分かった!!みんな、耳を塞いでくれ!!高台にいる者も屈んでくれ!!」
「よし、いいな。ミーシャ、あそこだ、あそこへ投げろ!!」
「はい!!」
ネメルが不安そうに高台を見上げていたエルフたちと高台にいた数名に指示を出し、それに素直に従ったエルフたちを確認したロディマスは、改めてミーシャに着弾点の指示を出した。
なおこの砲丸には雷管や導火線と言ったものは存在しない。
そんな繊細な物を短期間では作れなかったのと、ロディマスにその知識がなかったからである。
よって、そんなロディマスの取る行動は一つだった。
「ごり押しだ!!やれ、ミーシャ!!」
「はい!!行きます!!」
ミーシャが精度優先で投げたその砲丸は、それでも一直線に広場の中央の、やや森寄りの場所に見事に着弾した。
途中で三匹ほどゴブリンを撲殺したその砲丸は、地面の上に転がった
何事かとゴブリンたちがその砲丸に注目しつつも、恐れ、結果として砲丸の周囲に小さな空間が出来た。
そして上手く射線を取れたロディマスは、その砲丸目掛けて魔法を行使した。
「行くぞ!!【サンダー】!!」
雷の初級魔法【サンダー】は、静電気を強くしたような魔法であり、当たると麻痺の効果を得られることがある。
しかも今のように射程が長いので、対生物においては、初級魔法にしては規格外に強い魔法である。
なお雷の初級魔法には他にもより強力な【スタン】と言う魔法もあるが、こちらは射程が3mと短い。
ロディマスの【サンダー】は、アポイタカラ製のその砲丸に見事に当たった。
すると砲丸の外装である金属を雷の魔力が走り、魔力が通った事によりアポイタカラを一時的に軟らかくする。
そして更にロディマスの【サンダー】は内部へと浸透し、今度は込められている火薬に引火する。
柔らかくなった外装と、引火した爆発物。
それはつまり、どうなるかと言えば、大爆発である。
辺りに四度、轟音が鳴り響き、エルフの里の堀も、高台も、盛大に揺れた。
地面も揺れて、高台の下にいたエルフも何人か屈みこんでしまったほどである。
「これは予想外の威力だ・・・、だが、これでどうだ!!」
そう叫び立ち上がったロディマスは、眼前の光景を見て固まった。
ミーシャもその光景を見ていたが、特に動揺はしていないようだった。
ネメルが呆然と、感想を漏らした。
「森の入り口が無くなっている?魔物が、跡形もなく、いなくなっている・・・?」
そんなネメルの呟きを聞いて、かつて森だった部分を見れば、ロディマスがここに来た当初に隠れ潜んでいた部分も一緒に吹き飛んでいた。
木が何本も吹き飛ばされており、その威力の高さを十二分に物語っていた。
「なんてことだ。これはやりすぎた」
「そ、そうなのかい?」
「ここまでとはな。まったくドミンゴのヤツはいい仕事をしすぎだ」
「ドミンゴ様はロディマス様の作品を作るのが大好きですから。ロディマス様の仰られていた「ハナビ」を元に改良を加えたと仰っておられました」
「気合を入れすぎだろ!!なんだあれは!!俺が考案した二重構造ですらなかったぞ!?」
爆発音を聞いたロディマスが思った疑問。
何故爆発音が四度だったのか。
答えは明白だった。
「あのジジイめ。四重構造とか誰も求めてなかったわ!!」
「よ、良く分からないけど、私たちは助かったのかな?」
「ハァ!?あ、ああ、そうだな。これでさすがに残るは少数だろう。最低限の危機は去ったと言える、か」
「お、おお。ロディマスよ、感謝するよ。なら、鬨の声を上げないと!!」
ネメルは振り向き、他のエルフに向かって拳を突き上げて高らかに宣言した。
「私たちは、勝ったぞ!!」
「う、え?お、おおー?」
外も見えず、いきなり爆音が響いたと思ったら、いつの間にか勝利していた。
その事に戸惑い、なんとも微妙な声を上げたエルフたちを見て、ロディマスは嘆息した。
「なんとも締まりのない鬨の声だな」
しかし、こうしてエルフの里全滅の危機は去ったのだった。
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