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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
94/130

91_魔物の森とミーシャの決意


「文句はあろう。だが、異論は一切認めん。それにまだ仕事は終わっていない!!騒ぐのも後にしろ!!」


「なんだと!?てゆーか、まだ終わってないってどういうこった!!まだ悪魔がいやがるのかよ!!」


 ロディマスが強引に話を次へもっていこうとすると、それに傭兵の一人が食いついた。


 正直、ロディマスとしてはここでの問答には何の意味も成さないと思っていたので、この傭兵の食いつきには感謝の気持ちさえ浮かんでいた。


 その思いが表に出ていたのか、ニタリ、と言う笑顔でその傭兵の方を向いた。

 するとその顔を見たその傭兵は、ヒッ、と短く悲鳴を上げていた。


「解せぬ・・・。いや、いい。とにかくまだやるべきことは四つあるのだ。それも緊急だ、文句はそれらすべてが終わってからだ。貴様らも、自分たちの職務を全うしろ!!」


「チッ、あとで絶対訳を聞かせてもらうぞ!!」

「坊ちゃんだから、何考えてんのか分からんが・・・」

「あれだけ甘い汁吸わせてもらったんだ、少しくらい様子見てもいいんじゃねーのか?」

「まずは話を聞くんだ!!判断はそれからだ!!」


 そんな意外と前向きな意見が出てくる中、ロディマスは傭兵たちが落ち着くまで応急措置として左手に当て木をするようミーシャに指示を出した。

 その指示を受けて、ションボリしたままのミーシャは、それでも手早く措置を行ない、ロディマスの左側を庇うように立った。


 左手に当て木をしたロディマスのその痛々しい姿を見てか、一人の傭兵が騒ぎの中から抜け出してきて、眉を寄せながらもロディマスに問いかけてきた。


「それで坊ちゃんよ、やるべき四つの事ってのは、なんだ?」


 ミーシャにどう声をかけようか悩んでいるロディマスだったが、その声を聞いて意識を切り替えた。

 ミーシャの件はまたも保留と言う事にして、ロディマスは現状を確認すべく傭兵たちを見回した。


 20人近くいる傭兵のうち、半数は使い物にならないほどのケガを負っている。

 これからそのケガ人たちを護送しなければならないので、どう人数を割り振るか考えた。


 そして、ロディマスは更なる危険を冒す決心した。


「まず第一に、拠点へケガ人を運ぶ。そして拠点で新たな人員を迎え入れる準備をしてもらおう」


「まずケガ人を運ぶ、か。まぁお優しい坊ちゃんらしい話だが、新たな人員を迎え入れるってのは、なんだ?」


「これも貴様らには他言無用を誓わせた部分だが、エルフ共を迎え入れる」


 本来ならアンダーソンからそれとなく言ってもらう計画だったが、アンダーソンは未だに目が覚めていない。

 悪魔からの呪いとも言えるような深手を負わされた上に、大量の血を流したのである。

 いくらポーションと回復魔法で傷を塞いだとは言え、血は中々戻らない。

 その為にアンダーソンの復活にはいくばかりかの時を必要とした。

 そしてその結果、口下手なロディマスが説明をする羽目となったのだが、今の話を聞いた傭兵たちの反応は様々だった。


「エルフ!?エルフって、あのエルフか!!」

「ヤツら、臭いんだろ!?大丈夫なのか?」

「坊ちゃんは異種族大好きだな・・・いや俺もミーシャちゃんに助けられたんだが、それでもエルフはなぁ」

「獣人ならともかく、森人はダメだろ?」


 このような調子で傭兵たちは概ね否定的な意見が多かったのだが、ロディマスはその予想通りの展開に、正直な所、ほっとした。



 なお、この世界におけるエルフは、獣人と同じで劣化人間種と言う扱いである。

 理由はとても簡単で、獣人もエルフも、光属性を持つ者が生まれないから。

 その件は回りまわってミーシャの件に返ってくるので、ロディマスも迂闊なことは言えなかったが、幸いにもこの事実を知る者は少ない。

 そしてこれはかなり古い情報であり、今は皆が皆その本来の差別の意味を忘れて、ただ相手を見下すだけとなっていたのである。


 その為に、黙っていれば先ほどの光魔法を使った獣人(・・・・・・・・・)について忘れてくれるかもしれないと淡い期待を抱きつつ、このまま勢いで押し切るとロディマスは改めて決意した。



「この森の奥にエルフの里とやらがあるそうだが、連中は恐らく今、魔物の群れに襲われて全滅の危機に瀕している。そこで颯爽と俺が現れ奴らを救い出し、恩を着せてベルナント領で働かせるのだ。これも異論は認めんし、ベルナント公爵様にも了承を得ている案件だ。貴様ら如きが口を挟む余地はないし、頭を悩ませる必要も、ない」


 ここで公爵の名前を出して、反対意見や否定意見を封殺する。そうすれば権力者に従順な彼らは文句を言ないだろう。ロディマスは今いる傭兵たちの心をそう読んでいた。

 ただしこのまま言い切ったのみでは不満が大爆発しかねないので、彼らの為にこのタイミングで褒美も提示すべきだろうとも考えたロディマスは、褒美の件も併せて告げた。


「何、これは単なる仕事だ。貴様らは俺と、ベルナント公爵様からの依頼を受けているだけにすぎん。細々とした面倒事は全て俺に任せておけ」


「そ、そう言うなら・・・」

「それであの大量の物資だったのか」

「テントの量、多いと思ってたんだよ」

「坊ちゃんが責任取るってんなら、まぁいいか」


「そして、これが無事に完遂できた暁には、貴様らに臨時賞与が渡される」


「なんだって!?」


「しかも貴様らが選ぶのだ。金銭か、ベリス工房の新作パンの試食の権利か、だったかな?」


 ロディマスが遠征から帰ってくるまでに新作を一つ作っておくと言っていたベリスに、なら傭兵たちにも試食させてみようと提案したのである。

 その意見に最初は渋っていたベリスも、ロディマスの為になるならと了承している。

 ロディマスはベリス工房のパンが想像をはるかに超える人気を出しているのを知り、この人気もまた利用できないかと考えたのである。

 特に、今のように傭兵たちが不満を募らせた中での切り札として使えないかと考えていた。


 そして、そのロディマスの読みは半分当たった。

 傭兵たちはその後半の賞与の話にかなり乗り気となったようである。

 切り札を使うタイミングを間違わなかった己を心の中で褒めつつも、現状目の前に広がる傭兵たちの反応にロディマスは少々戸惑った。


 何故ロディマスが戸惑い、その読みが半分だけ当たったのかと言えば、こうである。


「ま、まじかよ!!あのベリスちゃんの手作りパンが!?」

「新作の試作品!?え?そんなのアリかよ!!」

「俺ぁ、絶対試食の権利を選ぶぞ!!ついでに、アーンとかしてもらいたいね!!」

「え、エリスちゃんはどうなんだ?あの子のアーンなら俺はむしろ、今回無報酬でもいいぞ!!」

(みなぎ)ってきた!!おう、お前ら、やるぞ!!」

「おおーー!!」



「予想外の盛り上がりだな。正直そこまで食いつくとは思わなんだぞ」


 右手で頭を抱えて、ロディマスは呻いた。

 しかしロディマスの魔力の回復待ちとは言え、そろそろ時間も押してきたのでロディマスは傭兵たちに改めて指示を出す事にした。


「やる気があるのは結構。ならばまず無事な五人はケガ人を拠点まで護衛しろ。そして拠点で待っている者たちに50人ほどを迎え入れられるように伝えて、共に準備をしておけ。寝る場所と、食事、それと水だな。鍋にスープでも作って待っていろ」


「ならこっちは、俺と、お前とお前とお前と、お前だな。アンダーソンがぶっ倒れた今、こうするしかないわ。坊ちゃんも、これでいいな?」


「ああ、それでいい。貴様を帰還組の暫定的なリーダーにするぞ。戻ったら待機組にもやることを伝えて、行動しろ。そして残る五人はここら周囲の魔物の掃討だ。いいか?ゴブリン共は殺せば自然に還る。だが、生物を一定以上殺すと、完全な魔物となるのだ。だから草の根を分けても探し出して、絶対に殲滅しろ」


「なんだそりゃ?そもそもゴブリンってのは魔物じゃねーのか!?」


 帰還組がロディマスの指示を受けてさっさと準備に取り掛かる中、討伐組から疑問の声が上がっていた。

 ロディマスは若干戻ってきた魔力を使い、土の回復魔法である【セメントバンド】で左腕の折れた骨をくっつけながら、彼らにどう説明するべきかと頭を捻った。


「うーむ、そうだな。簡単に言えば、奴らは元々妖精だ」


「妖精!?妖精って、あの小さくて羽の生えた、あの?」


 この世界でも一般的な妖精と言えば、手の平サイズで虫のような翅の生えた少年少女と言うイメージである。

 到底先ほどまで戦っていた醜いゴブリンやオークとは結び付かない。

 だが、ロディマスは知っている。


「それはあくまで「一般人でも見える妖精」だ。ゴブリンやオークにオーガは、よほど特殊な状況でなければまず見ることが出来ない種類の妖精だ。森の番人や森の守護者とも呼ばれている存在で、エルフしか視認できないそうだ」


「ほー、坊ちゃんは相変わらず何でも知ってんだな。あれ?てーと、もしかして坊ちゃんはエルフに知り合いでもいるのか?」


「いない、・・・訳ではないな。だがそいつから聞いた話ではない」


「マジか!?って、それでエルフを助けるって話になるのか」


 傭兵の一人がそう納得したような声を出していたが、ロディマスは即座に否定した。

 右手を前面に出して、態度からも圧倒的な否定感を醸し出して、傭兵のその言葉を一刀両断した。


「いや、それは違う。これはあくまで俺の都合であり、エルフの知り合いの件とは全く別物で、今回にしてもただ偶然だ」


「え?どういうこっちゃ?坊ちゃんが訳分からん」

「そんなのいつも通りだろ」

「そりゃ坊ちゃんだしな。分かろうってのが無理だわ」


「き、貴様ら・・・!!いいか!!連中は木工が得意なのだ!!それを俺は利用しようと、それだけの話だ!!ふざけたことを言っていないで、貴様らも早く準備をしろ!!」


「お、おう」

「やべぇ、あれ絶対坊ちゃんの照れ隠しだぞ」

「なんだよそりゃ・・・、坊ちゃんにそんな可愛げがあるとは思えないんだが」


 本人の目の前で好き勝手言うこの世界の人間にもいい加減慣れたかと思ったロディマスだったが、やはり慣れることはなく、憤怒の表情で傭兵たちを睨み、低い声で告げた。


「二度はない。いいからさっさとヤれ」


「ヒィッ!?わ、分かった!!」

「お、おい、可愛げの欠片もねーぞ!!」

「急げ!!何されるか分からん!」


 そうして残った傭兵たちも手早く準備をして、残敵掃討の為に移動し始めた。


「ふう。そして俺たちだが、ミーシャ、行くぞ」


「・・・、はい。ご主人様がそう仰られるのであれば、私はどこまでもついていきます」


「何だか考えが重くなってないか?」


「私はいつも通りです」


「そ、そうか?」


 少し離れれば気持ちが離れると言ったのは誰だろうか。

 そう考え、それは自分が思っていただけだったと気付いたロディマスは、改めてミーシャを見た。

 感情が抜け落ちたような無表情でロディマスをじっと見ている。

 ただしそれは以前のような無気力から来るようなものではないのは、姿勢や仕草からは読み取れた。


「だが、何を考えているのかわからん」


「・・・、何か?」


「い、いや、いい」


「そうですか。ところで、ご主人様はこれから拠点へと戻り、それからどうなさるおつもりですか?」


 ミーシャにそう問われ、そこで誰にもこの後の予定を伝えていなかった事に気が付いた。

 アンダーソンも倒れた今、ロディマスが次にどんな行動を取るのか知らない者たちばかりだったからでもあるが、それでも誰一人として聞いてこなかったのは、少しばかり謎だった。


「ぬ?いや、先ほども言ったが、エルフの里へ向かう」


「え!?」


 その言葉を聞いて、無表情なのにビクリと体を強張らせて驚くと言う器用なミーシャにロディマスも驚いた。

 その際に左手を揺らしてしまい、苦痛に呻きながらもロディマスは森の奥を見た。


「ぐ、ぬぅぅ。いいか?事は一刻を争うのだ。それに、ゴブリンやオークなんぞ、今の俺でも十分に対処が出来る。ヤツらは悪魔同様に魔法はほとんど効かないが、物理面では貧弱だからな。ショートソードで余裕をもって倒せる範疇だ」


 だからこそ魔法使い主体のエルフでは数の暴力を前に蹂躙されてしまうのだが、と言おうとした所でミシャの様子を見た。

 先ほどまでの無表情に、ほんのわずかに眉が寄っているように見えるが、それがどの感情から来る変化なのか、ロディマスは読みかねていた。

 するとミーシャは、こう尋ねてきた。


「では何故傭兵たちを連れて行かないのですか?それならば戦力は多い方がいいと思います」


「そうだな・・・」


 その最もな意見にロディマスも同意した。

 しかしだからと言って連れていけない理由があったので、ロディマスはそれをミーシャに説明した。


「アフターヌーンがいればその手も考えたが、今の連中は烏合の衆だ。到底連れてはいけん。今のエルフ共がどうしてこの森の奥地に隠れ潜んでいるのかを、よく思い出してみろ」


「あ・・・。そうでした。彼らは拉致されて無理やり戦わされていた者たちの生き残りの子孫でしたね」


「そうだ。当時の連中など誰も生きてはいないだろうが、それでもそう言う思いは親から子へと受け継がれているものだ。そこに、統率の取れていない傭兵を連れて行くなど却って危険だ」


「な、なら私一人でも行きます!!先ほどは悪魔も倒しましたし、私一人で十分です!!」


 相変わらずほぼ無表情を貫いてるミーシャだが、その表情とは裏腹に口調が強くなっていた。

 そのポーカーフェイスっぷりに驚きつつも、ロディマスは良くない兆候を感じ取った。

 ミーシャがまた増長しているのかと思い、一喝した。


自惚(うぬぼ)れるな!!貴様一人で出来ることなど、戦う事だけだろう!!ヤツらとの交渉はどうするつもりだ!!」


 と、ここまで言ってロディマスは後悔した。

 ミーシャが怒鳴られて、俯いてしまったのである。


 これはまずい。


 ミーシャが消沈してやる気を無くしてしまったのか。

 あるいは、怒りのあまり拒否するのか。

 いずれにしてもロディマスが望んでいた展開ではない上に、先ほど頑張ったミーシャを怒鳴ってしまったのである。

 中身アラフォーのする事ではないと、ロディマスは大変に後悔した。


 しかしその後悔も、顔を上げたミーシャの強い意志が込められた表情を見て、即座に消え去った。


「分かりました。そうまで仰られるのであれば、私は従うのみです」


 そう宣言したミーシャをよく見れば、耳はピンと立っており、目にも力が入っていた。

 強い意志を感じさせるその姿に、こんなミーシャは初めてだとロディマスは戸惑った。

 そして戸惑うロディマスを無視して、ミーシャは背負っていたバックパックから一対の手甲を取り出していた。


 見た目が真っ黒のどこかで見た金属と、そこに数本銀色の線が入ったその手甲をミーシャは腕に嵌めて、腕を何度か捻り付け心地を確認していた。

 そして二度ガンガンと、金属製の両拳を胸の前で打ち付けつつ、ロディマスに言った。


「ご主人様が無茶をなさった際は、私が最も得意なコレで手助けするよう大旦那様とライル様よりご命令されております。それに、何よりも」


 キリっとした男前の表情でロディマスを見つめつつ、ミーシャは宣言した。


「ご主人様の敵は私の敵です。私は、あなたの為にこの拳を振るいます」



 ミーシャのその声色と態度から、その宣言とその忠誠心に疑う余地はなかった。


 そしてその事実に、ロディマスは身震いした。


 何がそこまでミーシャを駆り立てているのか分からなかった。

 何故改変したと思っていたミーシャのバーサーカー化への道を止められなかったのかも、よく分からなかった。アサシンメイド化はどうしてしまったのか。


 そんな思いがロディマスの内を巡ったが、しかし、その何よりも、今の断固とした決意を秘めたミーシャが格好いいと思ってしまったからと言うのが、身を震わせた最も大きな理由だった。


「そ、そうか」


「はいっ」


 簡素にしか返事が出来なかったロディマスだったが、その力強いミーシャの返事に細かいことを考えるのをやめた。


「なるように、なるしかないか・・・。ならば行くぞ、ミーシャ!!」


「はい、お任せください!!」


 そうしてロディマスとミーシャは、傭兵たちが気付かぬまま森の奥地へと向かい進んでいったのだった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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