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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
93/130

90_悪魔との一戦、決着


 ミーシャの怒涛(どとう)のラッシュにより、悪魔はロディマスの眼前より後退を余儀なくなされた。

 そしてこの隙にとロディマスはミーシャに向かって叫び、そして這いずってアンダーソンの元へと向かった。


「ミーシャ、少しだけ堪えろ!!」


「倒します!!」


「無茶を言うな!!くっ、問答する時間が惜しい!!おい、アンダーソンはどうだ!!」


「ぼ、坊ちゃん、それが・・・」


「これは・・・、悪魔の魔力で血が止まらないのか。とても動かせる状態ではないな。だが!!」


 アンダーソンの元へと辿り着いたロディマスは、想像通りのアンダーソンの状態を確認するや、即座に己の左手に巻いていた聖布を無理やりはぎ取った。

 その際に折れた腕が痛み「ヒグゥ!?」と言う悲鳴を上げたが、それを突っ込む者は誰もいなかった。

 今更ロディマスが来てアンダーソンの状況がどうにかなるとは思えなかったからと言う視線も中にはあったが、それ以上に常に先を読み続けていたロディマスに期待する面もあったのだろう。

 近くにいる傭兵は期待するような眼差しでロディマスを見つめていた。


 そんな複数の視線に晒される中、ロディマスは考えた。

 確かに、ロディマスには策があった。

 ただし使えば最悪は己が今後神聖教会に吊し上げられる危険性もあり、可能であれば使いたくなかった手でもある。

 しかしこの期に及んで躊躇するほど、ロディマスは臆病者ではなかったので、考えるのを直ぐにやめて行動に移った。

 特に今救う対象がアンダーソンなのは、ロディマスの中では大きかった。



「貴様ら!!ここで見た事は一切他言無用だ!!誓えないものは、屍となってもらう!!」


「なんだって!!」


「時間がないから行くぞ!!グッ!!腕が痛むが・・・、気合いだ!!むぅぅぅぅぅ!!」


 闇属性と特に親和性が高い左手をアンダーソンの傷口に当てて、ロディマスは魔法を行使する。

 その際に用いる魔法の媒体は、予備として装着していた腕輪である。

 その腕輪にロディマスは闇の魔力をまとわせ、意識を集中させる。

 手の平に感じるぬめりとしたアンダーソンの血の感触に少しばかり気後れしたものの、ロディマスは「人の命がかかっている」をキーワードに、己に発破をかけて意識を集中させる。


 魔力が切れた今、自分の生命力を魔力に変換して魔法を行使しようとしているのが、ロディマスには良く分かった。

 以前無意識に使用した【ミドルブースター】の能力である。


「命を削って、魔力に変える!!これで戻ってこなかったら一生恨むぞ、アンダーソン!!【ドレイン】!!」


 叫び、初級の闇魔法【ドレイン】を使ったロディマスの左手からは黒い魔力の(もや)が出て、アンダーソンの腹部の傷口にまとわりついていた悪魔の魔力を吸い出した。そしてその魔力はロディマスの周囲を回って、それから立ち消えた。


 意識を薄れさせながらもロディマスはアンダーソンの傷口を確認して、悪魔の闇の魔力の気配が去ったことを悟り、すぐさま叫んだ。


「今だ!!この傷口にポーションと回復魔法をありったけ、かけろ!!」


 左手を押さえながら頭を揺らしている苦し気なロディマスのその大声に、今の光景を見て呆然としていた傭兵たちが我に返り、指示通りの行動を行なった。

 一人がポーションをぶちまけ、一人が水の回復魔法【ウォーターキュア】を使った。

 すると先ほどまでは全く塞がらなかった傷が、見る間に修復されていく。

 アンダーソンは剣士であり、元々回復力が高かった。それが悪魔の魔力により身体の修復を阻害されていたのだが、それが排除され、更に薬と回復魔法の力を得たので一気に傷を塞ぎにかかったのである。


「ハァハァ。さすが剣士だな。俺ではこうはいかん・・・。が、フゥゥゥ。それはともかく、魔力ポーションを寄越せ・・・」


「は、はい!!これです!!!」


 傭兵の一人から貴重な魔力を回復させる飲み薬を受け取り、その親指ほどの小瓶の蓋をあけて、中の数滴をロディマスは飲み込む。

 その薬の苦さにえずきながらもロディマスは耐え、魔力ポーションのお陰で若干魔力が回復し、次第にはっきりしてきた頭で今度はミーシャを見た。


 そして、悪魔に対して攻勢を仕掛けているミーシャに次の指示を出した。


「ミーシャ!!アンダーソンは持ちこたえた!!緊急事態は去ったのだ!!だから貴様は無理をするな!!」


「ご主人様にこれ以上触れさせない!!あなたなんていなくなればいい!!粉々に打ち砕いてチリ一つ残しません!!その身体を引き千切り、切り裂き、この世に出てきた事を後悔させてあげます!!」


「全く聞く耳もたんか。だがミーシャならあるいは・・・しかし・・・」


 かなり物騒なことを言い始めているミーシャに呆れつつも、ロディマスはミーシャならば倒せるだろうと踏んでいた。

 ただしそれはロディマスが思う中でも最悪の展開である。


 ミーシャが悪魔を倒してしまうと、ミーシャが『勇者』認定されかねない。


 『勇者』候補であればまだ自由は利くが、『勇者』そのものとなってしまうと神聖教会の手駒になる。

 それはキースも言っていた通りで、兼任は可能だが、実際には悪魔が発生したら何をおいてでも駆け付けなければならない上に、教会の作戦に口出しできない。

 人々を囮に作戦を完遂すると言われれば、神の意思か何なのか、とにかく一匹でも悪魔を倒さなければ逆らう事が出来なくなる。


 そしてロディマスは、この先にこれほど倒しやすい悪魔がいないのを知っている。

 だからミーシャが『勇者』を自発的に降りれなくなる未来が見えたので、それを怯えているのである。

 そうなると、いずれロディマスに牙をむく可能性が高くなる。


「もしこの展開になれば、最悪だ・・・。どうすればいい?どうすれば、誰もが納得のいく未来を迎えられる?」


 そうぼやきながらロディマスはミーシャの戦いぶりを見た。



 ミーシャの戦い方はヒットアンドアウェイと言うのも生ぬるいほどの一方的な攻撃一辺倒の早業だった。

 まず右手に持った短剣で悪魔の脇腹を薙ぎ、そのまま通り抜けて身体を回転させながら左手で悪魔の背中を下から上へ薙ぐ。

 そして頭から腰まで上へ下へと薙いで、悪魔の体を中心とした螺旋(らせん)を描くように前へ後ろへと移動しながら切り付ける。 


 素早いそのミーシャの攻撃に、鈍重な悪魔はその素早い動きに対応できず、目で追う事すら困難な様子だった。

 時折腕を空振りさせては見失うミーシャに怒り、空中で地団太を踏むと言う器用な行動をとりつつ、悪魔は毛のない頭を掻きむしり苛立ちを募らせているのが伺えた。


「しかし、ダメだ。悪魔が硬すぎて決め手に欠けている」


 そう、先ほどからミーシャが掠めている短剣での一撃は、その(ことごと)くが表面をなぞっているだけだった。

 最初は切り刻む為にそうやって動いているのかと思っていたロディマスも、刃が通らなくて滑っているだけだと気が付いた。


 そこでロディマスはアンダーソンの手から折れたミスリルのショートソードを奪い、ミーシャの元へと投げつけた。


「受け取れ!!それならまだ傷がつく!!」


「ッ!!はい!!」


 ミーシャは折れたミスリルのショートソードを空中で受け取り、やや扱いにくそうにしているもの、折れずに残った5cmほどの刃部分で積極的に攻撃した。


 すると悪魔に浅く傷が入り始め、先ほどまで苛立つばかりだった悪魔に若干の焦りが生じていた。大振りな攻撃が増えて、隙も増えたのである。

 それを幸いにとミーシャはより一層攻撃の手を増やし、ミスリルのショートソードの残った短い刃で次々と悪魔を削いでいく(・・・・・)


 その光景を見ながら、咄嗟に最善の行動を考えて無意識にミスリルのショートソードをミーシャに渡したロディマスは、直後に後悔した。

 他に手がなかったとは言え、ミーシャの行動を後押しするような事を仕出かした自分を思いっきり責めたのだった。


「何をやっているのだ。俺は・・・」


 わざわざミーシャが『勇者』になるような道を自ら進ませているのである。

 後悔もしたくなると、ロディマスは肩を強張らせた。


 『勇者』との敵対は不可避の未来であり、その道の先には己との敵対が待っている。


 理由は明確に説明できないものの、未来の己は確実に「神の使徒」である『勇者』と敵対する。

 それは相手が「神の使徒」であるからである、と言う直感的な部分によるものだが、それを否定する事が出来ないでいた。


 とは言え、己の作戦の甘さが今回ミーシャが無茶をする原因となった以上、ミーシャの判断には感謝こそすれ非難する気など全くなかった。

 すべては己の見通しが甘く、中途半端な真似しか出来なかった為である。



 ロディマスが己を責めている中、状況に変化が生じた。

 ミーシャに渡していたミスリルのショートソードが、根本から完全にポッキリと折れてしまったのである。


「何!?いや、しかしそうか。ミスリルはそもそも柔らかいのだ。むしろドミンゴ作だからこそ今まで持ったのか。だがこれで悪魔に対抗するには強力な魔法で内部を破壊するしか手がなくなった。俺はまだ魔力が回復していないのに、どうする!!考えろ、俺!!」


 過去を振り返っていても、未来を見据えていても、結局は今を切り抜けれなければどうしようもない。

 何度も頭を右手で殴りつつ、無理やりに意識を切り替えてロディマスは考えを巡らせた。


 しかし妙案など出ず、最悪はまた【ミドルブースター】に頼り、生命力を魔力に変換してもう一度先ほどの雷の大魔法【サンダーブラスト】を食らわせるしかない。

 既に左側に見える前髪が茶髪から白髪となっているのがはっきりと分かる今、更に生命力を削れば今のように元気がなくなるばかりか、今度は確実に寿命を縮めるのは分かっていた。


 だが、やるしかない。


 ロディマスがそんな悲痛な決意を固めるその頃、ミーシャの顔にも焦りの表情が浮かんでいた。

 そしてミーシャは時折ロディマスの方をチラ見してきたので、ロディマスはその視線は何か打開策はないかと己を責めるものに見えた。

 だからロディマスはすぐさま切り札を切るべく、無理やり立ち上がり、立ち上がっただけで切れた息を整えた。


 するとミーシャは剣柄で悪魔を殴ると言う奇天烈な戦いで悪魔にダメージを与えながら、そんなロディマスを見て目を見張った。

 さすがにそんな反応をされるとは思っていなかったロディマスは、今のミーシャの感情が理解できず首を傾げた。


 だがその疑問は次のミーシャの雄叫びにより消え去った。


「ご主人様が無茶をしようとしている!!そんなの許せません!!あなたはもうここで消えて下さい!!うわああああああああああああ!!」


 そう言ってミーシャは背後から思い切り悪魔の頭を剣柄で殴りめり込ませつつ、後ろに気を取られ手を頭上へと上げた悪魔の前面へと回り込んだ。


 ロディマスは後頭部に剣柄が突き刺さっている悪魔を見て呆気にとられたものの、直後にある属性(・・・・)の高まりを感じて、即座に叫んだ。


「全員、今すぐ小さくなって目を瞑れ!!魔法が飛んでくるぞ!!目を焼かれたくなければ手で目を覆え!!」


「なんだって!!」

「こっちは倒した!!」

「俺もいけるぞ!!」

「何が起こるってんだ!!」

「神よ!!」


 最後の叫びにイラっとしたものの、ロディマスは右手で目の周りを覆いつつ、指の隙間から左目でミーシャの様子を見た。


 ミーシャは悪魔の腹から突き出た白トンファーを右手で握り、白い魔力を白トンファーに次々と注いでいく。

 その力はロディマスから見ても圧倒的で、先ほど悪魔に対して使用した【サンダーブラスト】の際は風船のように膨らんだだけの悪魔の体は、ミーシャの光魔法を受けるや一部分が内側からの熱を相殺しきれずに火傷の水ぶくれのようにボコリボコリと膨らんでいた。


 そして全体がボコボコボコと(いびつ)に膨らみ、もはや原形を留めずジャガイモのようになった悪魔は、爆発四散した。


「まだ生まれたての若い悪魔とは言え、天災の象徴をこうも圧倒するとは、なんて力だ。これが神とやらに愛された『勇者』の力か」


 ロディマスは『勇者』と言うものを舐めていたのだと思い知らされた。

 そんな『勇者』の力に身震いしつつ、あるもう一つの事実に気が付いて顔を青ざめさせた。


「これ以上の力を持つ『勇者』をもってしても相打ちでしか仕留めきれない大悪魔は、一体どれほどの力を持つと言うのだ!!」


 圧倒的な力を持つ未来での元『勇者』のキースや、『勇者』候補筆頭だったアリシアが相打ちにしか持っていけない。『勇者』レイモンドとその仲間が四人がかりでしか倒せない。

 そんな凶悪な存在が、この世にいずれ生まれ出ずると言う事実に、ロディマスは気が遠くなった。


「例えミーシャやレイ、アリシアが『勇者』となるにせよ、従来のようなたった一人で悪魔に向かわせるのは自殺行為だ。何か、手を打たなければ!!」


 未来における『勇者』レイモンドがパーティを組んでいた理由は、メンバーのうち二人が幼馴染や許嫁だったからだろう。それに、『勇者』候補の時点では、レイモンドは恐らくさほど期待されていなかったようにも思う。だからこそ光属性を持つ『勇者』候補が集まってパーティを組んでいたのだろうし、そこにミーシャが入っているのも獣人故に期待されていなかったのだと、レイモンド本人について知った今ならそう推察できる。


 だが、今のミーシャやアリシアにはパーティを組めそうなメンツがいないので、ロディマスの今の予想のままでは、彼女たちが『勇者』候補として白羽の矢を立てられてしまえば、確実にソロ活動を強要されるようになってしまう。


「その未来は是が非でも回避せねばならん。俺はヤツらに死んで欲しい訳でも、不幸にしたい訳ではないのだ!!」


 そう叫び、しかし相変わらず突発的な事態には弱いロディマスは、こんな状況では良い案など出るはずがなかった。

 意気込んだものの良案が出ない以上うかつに手を出せないので、この件は保留にする事にした。

 そして今は目の前の問題を片づけるべきだと、目の前で白トンファーの残った部分を握りしめて佇んでいるミーシャを見た。

 ミーシャはただそのトンファーの慣れの果て、そうだった棒を握りしめて呆然と立ち尽くしていた。


 だが、そんなミーシャの姿などお構いなしに叫び出す者たちがいた。


「お、俺らは助かったのか!!」

「やったぞ!!おい、リーダーも無事だ!!」

「こっちも死人はいない!!重傷だが、助かったぞ!!」

「やったー!!最高だ、ミーシャちゃん!!」

「ミーシャ!!ミーシャ!!ミーシャ!!」


 人類に、いや、生命すべてに反逆を繰り返す暴虐の存在である悪魔を見事に討伐したとあって、傭兵たちの盛り上がりは凄まじいものだった。

 口々に生の喜びを叫び、ミーシャを褒め称えていた。


 そんな周囲の様子に、しかしミーシャは耳をヘンニャリと下げて、尻尾も垂れ下がっていた。

 その後姿は、やってしまいました、と言う感じだろうか。

 ロディマスはやっと事ここに及んで、ミーシャが何を考えているのかが分かった。


「反省しているなら、今は余計なことを言う必要はないか。この先もやらねばならん事があるし、歯がゆいがミーシャのやる気を削ぐわけにはいかん」


 ロディマスはそう呟き、そして立ち上がってから騒ぎ立てている傭兵たちに釘を刺す為に、大声で宣言をした。


俺の奴隷(ミーシャ)は俺の物だ!!そして、奴隷の戦果は、俺の物だ!!つまり、俺が、悪魔を倒したのだ!!異論は一切認めんぞ!!褒め称えるのであれば、俺を褒め称えろ!!」


 そんな暴論とも呼べるロディマスの主張に、現場での評価を第一に考える傭兵たちは騒ぐのを辞めて呆然とロディマスを見た。

 そして次第にその言葉の意味が理解できたのだろう。先ほどまでとは一転して剣呑な空気が漂い、そして傭兵たちはそんな中、ロディマスを睨みつけながら呻くように反論した。


「ぼ、坊ちゃん、そりゃどういうこった!?俺ら、アンタの公平さが好きだったってのに、なんでいきなり横からかっさらうなんて真似を!?」


 その最もな意見に対して、しかしロディマスは譲らなかった。

 いや、譲れなかったとも言う。

 そしてその断固たる意志を貫くべく、もう一度宣言をした。


「もう一度言う!!悪魔は俺が倒した。他の誰でもない、このロディマス様が倒したのだ!!それ以外の事実を口にする事は、絶対に許さん!!公平さなど、この世にはないのだ!!」


 ロディマスがそう恫喝すれば、先ほどまで沸いていた雰囲気は完全に消し飛んでいた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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