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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
91/130

88


 拠点を作ってから早三日。

 ロディマスたちの魔物狩りは順調で、当日の戦利品とその売却額を聞く傭兵たちの顔は綻んでいた。


「あいつに付いてきて正解だったな!!」

「こんなオイシイ仕事、他にはないぜ!!」

「拠点っつっても、朝までにいりゃいいんだし、その間は頂いた金を使って街で酒や女と豪遊だ!!まったく、坊ちゃんは最高だな!!」


 本日の給金を受け取った後で好き勝手言っていた傭兵たちは、今日も夜の街に繰り出すようで、日が落ちる前に街へと急ぎ消えていった。

 その姿を見送りながら拠点の周りに最低限の見張りを立てたロディマスは、思わずため息を吐いた。


「下品な連中め。扱いやすくていいが、どうしてあのような俗物をキースは飼っているのだ」


「あいつら、アレでもキース団長と大旦那様には敬意を払うんですよ。それに、街中の警護なんかは無理な連中ですが、こういった荒事には向いているんで今まではそれなりになんとかしてこれたんです」


「そうか。まぁ、仕事をしている分には問題ないか。街にしても、それとなく根回ししておいて正解だったな」


「そうですね。しかしまさかそこから色町まで作ってしまうとは驚きでしたよ」


「元はただの宿だが、街の連中にしてもこれだけ(さび)れていては働き口がないし、道中の街も見ただろう?ペントラルより西側はあまりにも悲惨すぎるからな。俺は普通に真っ当な職を斡旋し、物資を適正価格で提供しただけだが、やはり手っ取り早く稼ぐ手となれば、酒を売るか女は体を売るかになるな。ま、路地裏で訳の分からん売女(ばいた)相手に妙な病気をもらってくるよりははるかにマシだが、それでもこの惨状は困ったものだな」


「本当にそうですね。しかしこの国は、この先どうなってしまうのでしょうか」


 アンダーソンがそう愚痴るのも無理はなく、ペントラルと王都、そして製塩業が盛んなランク領までの東西一直線の街道を外れると、途端に貧困層にぶち当たるこの国の在り様は、はっきり言ってロディマスから見ても異様だった。

 そして、先日までそれらの仲間だったベルナント領の事を思い出して、眉を寄せた。


「これでは先代のベルナント公爵もさぞ苦労しただろう。何故あんな強引な手で国から資金援助を受けてたのか、今ならば良く分かる」


「はい、そうですね。・・・、あの、この領地もロディマス様がお助けするんですか?」


 それは今あるような戦力的な援助ではなく、今聞いたベルナント領のように経済援助をするかと言う問いかけだろう。

 そんなアンダーソンの何気ない質問に、ロディマスは首を横に振って答えた。

 ロディマスの否定を確認したアンダーソンは、言いにくそうな表情を作り、ぐっと拳を握り締めていた。

 そのアンダーソンらしくない姿に疑問を持ったロディマスは、率直に聞いてみた。


「何だ?言いたいことがあるならはっきり言え」


「いえ、ですが」


「貴様にはやってもらわねばならぬことがあるのだ。心残りなど残すくらいなら今すぐ白状しろ!!」


 半ば強引に、それこそ脅迫しているのではないかと言う勢いでロディマスが恫喝すれば、アンダーソンは渋々と言った調子で語り始めた。

 そしてその話を聞いて、ロディマスは直後に後悔する羽目となった。


「はい。実は俺、この街出身なんです。騎士になったのはもう少し東南側の子爵家にお仕えしていた時なのですが・・・」


「が、なんだ?」


「その子爵家のすぐ南にも魔物の森がありまして、パンデミックほどではないのですが、魔物が大量に発生しました」


「ほう、そうなのか」


「それで、領民の大半が亡くなり、領主様は責任を追及されて斬首されました」


 いきなりの重たすぎる話題にロディマス、思わず沈黙。

 己が無理に聞き出したとは言え、話の内容の衝撃に心も顔も微動だにしなくなったので、ロディマスはアンダーソンの話を黙って聞くしかなくなってしまった。



「俺、それが悔しくて、悲しくて!!それで魔物相手に俺一人でも立ち向かって一匹でも多くこの世から消し去ってやる!!って考えた時に、団長に拾われたんです。俺と一緒に行こうって。当時の団長はなんと言うか、かなり尖っていましてね。俺の話を聞いて、憤怒の表情で魔物たちを蹂躙するんですよ。本当に、団長が通った後には魔物一匹見当たらない。それはもう、驚きましたよ。こんな人がいるんだって!!」


 興奮しているアンダーソンの話を聞きながら、ロディマスは気分を変えるべくハーブティをすすった。

 心をいやす効果のあるペパーミントティだが、本来であればミントの仲間なのでそれなりに刺激的なのに、今のロディマスには味がさっぱり分からなかった。


 そんな中、アンダーソンは大いに盛り上がり、とうとう椅子から立ち上がって両手を振り上げ、振り下ろしてキースの戦いぶりをジェスチャーし始めた。


「団長の一撃が、こう!!森を切り裂いて中にいる魔物を炙り出したんです!!オークの大群、オーガに、ウェアウルフもいました!!それらを手に持った剣で横に薙いでは真っ二つ、斜めに払っては真っ二つ!!空を舞う首、胴、手足!!あれはもう、英雄と呼べるほどの所業でしたよ!!」


 聞いているロディマスの方は、なんだかむしろ虐殺している悪逆非道な悪党だな、と言う感想しか出てこない。だがロディマスはそう思いはしたが、さすがにそれを口に出す気にはなれなかった。

 その代わり口の端が痙攣を起こしており、アンダーソンに気付かれたら気まずいと思い、己で何度も頬を軽く叩いて矯正していた。


 そしてアンダーソンが語る事30分。

 ミーシャが夕飯の用意が出来たと言う事で呼びに来て、やっとロディマスはそれから解放されたのだった。



□□□



「今日こそ目当ての物を見つける。索敵は二手に分かれ、俺は南へ向かう。貴様らは西へと向かえ」


「北は空振りでしたからね。本命としては、西ですか?」


「ああ、恐らくな。この四日で調子も出てきた頃だが、そろそろ油断をする頃でもある。気を引き締め直させろ。それと、多種族を見かけたら襲うなよ?襲ったらその瞬間、処刑だ。これは国の法律に関わる話だから、くれぐれも守らせろ」


「分かりました。彼らもさすがにお上に逆らう気はないようなので、ご安心ください」


「ならいいが」


「坊ちゃんこそ、お忘れないように。『森の中では時々振り返って道を確認』ですよ」


「ああ、バイバラの言葉か。そうだな、忘れてはいないが意識が他へ向いていた」


「ミーシャちゃんがいれば迷う事はないとは思いますが、それでも不測の事態と言うものは起こりますからね」


 出発前に木鎧を渡してきたバイバラが、森について軽くロディマスに忠告していた事がある。

 それが先の言葉で、彼が言うには森の中の木々は前後で『顔』が違うと言う話であった。


 最初は意味が分からなかったロディマスも、いざ森の中へと入ればその言葉を十分に理解出来た。

 それと言うのも、森の中では日光の当たる場所が限られており、また、湿度も高い。

 その為、日の当たる部分は乾燥気味な上に成長も良く、反面、日陰の部分は苔むして枝ぶりも悪い。


 前と後ろで、同じ木なのに見た目が全く異なる。

 つまり、この枝ぶりのこの木を目印に、と進んでも、帰りは逆に苔むした枝の少ない様子を見せてくるので遠目からすると同じ木には見えず、そこで森に詳しくない者は目印を見失って迷っていしまうのである。



「それはともかく、例のブツとカチあったら、絶対に防御に専念しろ。そして信号弾を放て。全員で対処すれば問題はないが、貴様一人では太刀打ちできまい」


「そう、ですね。さすがに隊長ほど強くはないので・・・、悔しいですが時間を稼ぐだけにします」


「そうしておけ。アレへの対処は俺と貴様の二人でやるのだ。いいな?」


「はい。坊ちゃんこそ無茶をしないで下さいね。絶対に、約束ですよ」


「フン。元より無茶などする気はない」


 そう断言したロディマスを、アンダーソンとミーシャは「ええ~~?」と言う顔で見つめていた。

 半眼で半開きの口、眉を寄せて「どの口が言うんですか?」と顔面全体で表現していた。


「き、貴様ら・・・俺とて好き好んで無茶をしている訳ではない!!」


「本当に頼みましたよ。キース団長も、アグリスさんもいないんですからね」


 十分に念押しして、それでも気がかりなのか森へと入っていく最中でもロディマスの方をチラ見するアンダーソンに呆れつつも、ロディマスは森の中層部に向けて歩き始めた。


 なお、アグリスが不在の件については、ベリス工房の守りに入ってもらっている為である。

 あの日、ポートマン姉妹とのデートの際に領主の三男坊であるポレロにロディマスが絡んでしまったのが原因である。


「何も手出ししてこないだろうが、万が一俺の留守中に何かあれば資金源が消えてしまうからな」


「そうですか」


 そんな淡白なミーシャの答えにロディマスは拍子抜けしつつも、森の中を進んでいく。


 ちなみに、浅い部分の探索は既に終了している。

 そしてロディマスの予想通り、あるいは未来の記憶通りに、その部分ではまだ雑魚ばかりで悪魔の影は見当たらなかった。

 更にはエルフにも全く会えておらず、バイバラが言うには森の深部にいると言うのだが、具体的な位置は分かっていないのがロディマスには少々気がかりだった。


「歩けども見覚えのある場所には辿り着かない、か」


「何の話で?」


「いいや、こっちの話だ。しかし、南側が本命だと思っていたが、何故いない?」


 ブツブツと呟くロディマスに傭兵の一人が声をかけてきたが、それをあっさりといなして引き続き考えに耽る。

 かつての自分は、この国の南側にある神聖国から魔物の森を北上してこの西の魔物の森に辿り着いている。未来の記憶を漁り、そこまでは読み取れたものの、実際にどの地点からどこに向かったかなどは分からなかった。

 その為に、悪魔の所在地も、エルフの里の位置も手探りで探さねばならず、その調査はかなり難航していた。


「滞在期間も残すところあと三日。なんとしてでも今日中にアタリを付けたいのだが・・・何故こうも見覚えのない場所ばかりなのだ?」


 森に入ればある程度記憶にある場所に出るかと考えていたロディマスだが、南へと進んでいっても見覚えのない場所ばかりだった。

 未来の記憶は今から5年後なので、もしかするとその5年で劇的に変化したのかとロディマスは思った。

 だが、いくらなんでも全く見覚えがないとなると、いよいよもって自分が何か思い違いをしているのではないかと考え始めた。


「何故だ。何が足りない。どういう事だ・・・、ん?」


「ご主人様、そろそろ分岐です」


「ミーシャか。ふむ、そうか。ならミーシャよ、道を覚えておけ」


「はい」


 ミーシャが簡潔に状況を説明して、簡潔な返事を返す。

 その事に心地よささえ覚えつつあるロディマスは、立ち止まり振り向いたミーシャを見て、己の盛大な勘違いに気が付いた。


 未来の自分は、南側から森へと入り、北上した。

 今の自分は、東側から森へと入り、南下した。



「通りで見覚えがない場所ばかりだと思ったわ!!」


 そう叫ぶや否や、ロディマスは振り返った。

 そしてそのまま森の深部、西側へと北を見ながら走り出した。


 傭兵たちにミーシャまでもがその唐突な行動に焦り、その姿を追いながら叫んだ。


「おい坊ちゃん!!いきなりどうしたんだ!!」


「ご主人様、危ないです!!」


「いいから貴様らもついてこい!!事は一刻を争うのだ!!」


 そうして森をかけること数分。

 ロディマスはやっと見覚えのある場所へと辿り着いた。


 そこは、地図上ではおよそ森のど真ん中。そしてその位置から北上すれば、丁度今、アンダーソンたちが進んでいる進行方向にぶつかる地点でもある。


 嫌な予感が頭を過ぎり、冷たい汗がロディマスの背筋を這う。


「おい、貴様ら!!貴様らにお仕事をくれてやる!!」


「な、なんだよいきなり!!」


「いいか、俺はこれからこの場から北上する。そして、恐らく魔物の大群とカチ合う!!数は、百は下らん!!しかもその先には、・・・、アンダーソンたちがいるのだ」


「なんだって!!」

「そいつぁまずいな!!」

「今回は部隊を二分してるから、ッチ!!さすがに百を超えたら持たんぞ!!」


 ロディマスの話を聞き、ざわつく傭兵たちに更なる言葉の追撃を加えた。



「さらに悪い知らせだ!!その先には、悪魔がいる!!」


「なんだって!!」

「そら無理だ!!」

「おい、アンダーソンたちを見捨てて逃げるぞ!!俺は魔物になんてなりたくねーよ!!」


 最後に叫んだ傭兵の言う通り、悪魔にはある特性が備わっている。

 それは、悪魔が傷つけたものは、魔物になると言うものだ。

 最も人が魔獣化するのはほんの一部である。しかし、それこそが『魔過症』がかつて『魔獣化病』と呼ばれていた所以である。


 そして、最も悪魔が恐れられる原因でもあった。


 歴戦の傭兵たちが怯えるのも致し方のない話であった。

 しかしだからと言って、ロディマスはアンダーソンたちを見捨てるつもりはなかった。

 むしろ、合流地点が分かっただけでも幸運だったとさえ思っている。


 ロディマスは、怯え竦む傭兵たちに淡々と告げた。


「いいか、悪魔の相手は俺とアンダーソンで行なう。貴様らは周囲の雑魚を蹴散らしておけ。俺たちに一切近づけるな。そうすれば・・・」


 今まで興奮していた様子から反転して、いきなり冷静になったロディマスのその声に戸惑い注目した傭兵たちに、ロディマスは自信満々な態度で答えた。


「貴様らに、悪魔退治の補佐をしたと言う称号をくれてやる」



 不遜にニヤリと怪しく笑うロディマスに、誰もが圧倒された瞬間であった。


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