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『王都 学園編』なのに王都にも学園にもいないなんて・・・。(゜Д゜;)
前日の晩の作戦会議は、悪い方向で大いに盛り上がったと、ロディマスは嘆息した。
伝えた内容に珍しくアンダーソンが猛反発した為である。
しかし事態は一刻を争うと冷酷に告げれば、アンダーソンは押し黙ったのを思い出して、ロディマスは苦い顔をした。
「優秀なヤツだが、騎士根性が抜けないようではキースには今一歩及ばんな」
キースであればここまで先読みしたうえで、先手で打開策を練ってくるだろう。
例えば、事前に父バッカスにロディマスの無茶を止める裁量権を承認してもらうとか、ライルに根回しをしているとか、色々あっただろう。
今のアンダーソンのように待ち一辺倒とはならないのである。キースのそこが煩わしくもあり、頼もしくもあるとロディマスは複雑な心境だった。
ロディマスが眉に皺を寄せていると、アンダーソンが声をかけてきた。
「坊ちゃん、本当にやるんですか?」
「当然だ。おい、傭兵たちが集合し終わったぞ。貴様も並べ」
「はい。気が変わったらいつでも言ってくださいね?」
「うるさい、黙れこのヘッポコピー。おい、貴様ら、俺がロディマスだ。今回の主だ。忘れるな!!」
「いきなりなんだ、坊主よ。俺らの主はバッカス様だぞ」
上から目線で威圧的にロディマスがそう告げるも、アンダーソン以外の傭兵たちは全く意に介さない様子だった。
それもそのはずで、今いるメンツは大半が普段からロディマスとは絡んでいなかった組だからである。
ある者は睨みを利かせ、ある者は斜めに体を構えている。座り込んでいる者もいるほどで、まるでヤンキーのようだとロディマスは今いる傭兵たちをそう評価した。
しかしそんな彼らに臆することなく、ロディマスは手に握っていた書類を広げて見せた。
「フン、貴様らの意見など知った事ではない。これが委任状だ。俺に従え、でなければ契約違反で全員処罰が下る」
「なんて強引な野郎だ!!しかも話を聞きやがらねぇ!!」
一方的な物言いしかしてこないロディマスに対して憤慨しつつも、契約に重きを置く傭兵たちは、父バッカスからロディマスに傭兵団の一部を任せると言った書面を見て納得せざるを得なかったようである。
苦渋の表情で苛立っていたが、それでも即座に暴力で訴えかけてくることはなかった。
「今回は俺の立案した作戦の元、この西の魔物の森での魔物掃討作戦を実施する」
「テメーがかよ!!俺らはさすがにテメーに命までは預けられんぞ!!」
そう反抗される理由はとても簡単で、彼らにとってロディマスは、約2年前の横暴で気に食わないガキのままだからである。
これを知った当初は、ロディマスも彼らと交流を深めて誤解を解こうと思ったのであるが、出発前に立て続けに起こった問題により、その時間が取れずに今日と言う日まで来てしまったのである。
そこでロディマスは、簡潔に逆らわない程度の命令を下すことで彼らと折り合いを付けることにした。
肩をすくめ、彼らに対して同情するかのような仕草で委任状の上を指でつまんでピラピラと揺すった。
「その意見は想定内だ。俺も、商会を営む身だ。無茶な命令をして、貴様らを失うのは損失が大きすぎると思っている。何よりも貴様らを失っては、父上やキースに顔向けできん」
「な、なんだそりゃ。話が分かるのか分からんのか、訳分からんぞ」
「何、簡単な話だ」
ロディマスは右手人差し指を立てて、注目するように仕向けた。
そこに見事に視線を集めたロディマスは、可能な限り個人感情を抑えた声で淡々を話しかけた。
「いいか、今回の話はビジネスだ。俺にとって利となり、貴様らにとって利となる。そう言う関係であろうと言うだけだ。その為に、今、貴様らの主となるのが最良と言うだけだ」
「わ、訳分かんねぇ・・・。おいアンダーソン、こいつ、大丈夫なのか!?」
「そうだ!!テメーが大丈夫って言うからついてきたんだぞ!!」
「頭おかしいんじゃねえのか?何が主だよ!!アンダーソンは責任取れよ!」
そんな情けない事を言い出した傭兵たちをロディマスは一瞥して、最低限の分だけ働くならばいいかと、彼らとの意思疎通を諦めかけたその時、アンダーソンがそんな彼らを一喝した。
昨夜よりもはるかに強い口調と大声で、彼らを威圧し始めたのである。
「黙れ!!納得いこうがいくまいが、ロディマス様は決断なされたのだ!!それに黙ってついていくが、俺たちだ!!違うか!!」
「アンダーソン、騎士被れが治っていないのかよ!!今はもう俺たち騎士じゃねーんだぞ!!こんなクソガキの為に命張れるか!!」
「なんだと!!」
そうして盛り上がりかけた所で、ロディマスは氷と風の複合魔法【コールドブロウ】を両名の顔面に振りかけた。
秋に差し掛かったとはいえまだ暑さの残る中、心地よい風が吹いた両名の顔は微妙に緩んだ。
その絶妙なタイミングでロディマスは口を挟み、両者を仲裁した。
「文句はあろう。だが、異論は認めん。その代わり俺の命令に従うならば、貴様らにとっては悪くない展開となる。訓練は積める。金も入る。そして、貴様らの経歴に箔が付く。俺に従えば、得る物は多いぞ?」
「ど、どう言うこった!?」
ロディマスは腕を組み、先ほどから絡んでくる傭兵を見た。
頭はツルピカリンと禿げ上がり、頬には傷がある。
いかにも傭兵です、と言う印象を受けるその男は、しかし見た目と異なり恐らくアンダーソンと同じ元騎士。ただしライルからの前情報通り、元々傭兵寄りの考え方を持っている者なので、今となってはそこいらの傭兵と精神構造は変わらない。
見栄も張りたい、楽して金が欲しい、女を抱きたい、酒を飲みたい、などなどと思っている、本当の意味で傭兵らしい連中である。
そんな『暁の旋風』らしくない連中に対して、ロディマスは薄ら笑いを浮かべながら両手を体の前に出して、まるで神託を述べるように告げた。
「今回の作戦は、父バッカスと貴様らの団長キース監修の元に練られたものだ。それが、貴様らにとって悪いものではないと言う事だ」
「何!?今回の作戦はテメーが考えたんじゃねーのか!?」
「基礎は考えたが、父上とキースに相談した上で決定されたものだ」
「団長が絡んだって点が一番納得いかねーんだが」
「安心しろ。俺の命令に逆らうと言う事は、二人の命令に逆らったのと同意だからな」
「あ、安心できねーよ!!それに、そりゃ脅しかガキンチョ!!」
「その通りだ」
その傭兵の言葉にロディマスが頷いて即答すれば、ハゲたその傭兵は自分の頭を叩いてから、肩を落としていた。
「な、なんてヤロウだ」
「使えるものは何でも使う。それも可能な限り、長く、な」
「グッ!!くっそ!!誰だよこいつを「アボート家の残りカス」だなんて言ったヤツは!!残りカスどころかモロにアボートの血じゃねーか!!」
「褒めても何も出んぞ?」
「褒めてねーよ!!クソガキのお守りだと思ってたのに、まさかこんな事になるとはよ!!」
「ふん、遺憾だが、それでも貴様らには俺のお守りをしてもらう。そこに変更はない」
「はぁ!?」
薄ら笑いをやめ、ロディマスは腕を組み直して傭兵たちを睨みつけた。
その眼光にやや気遅れしている者たちがいたものの、それに構わずロディマスは口を開いた。
「俺の戦闘能力は低い。知恵は回るし金も回す。だが、基本的に戦闘は貴様らの領分だ。そこを間違える気はない」
「威張りながらなんて主張をしだすんだこのガキ・・・、恐ろしすぎるぜ」
「あ、ああ。さすがバッカス様の子供だな。いろんな意味で恐ろしい存在だ」
「あいつが何考えているか分からなくて怖いぜ」
口々に好き勝手言い始めた傭兵たちに、ロディマスは狙い通りだと心の中でほくそ笑んだ。
実は、元より傭兵たちにはある程度、好きにさせるつもりだったのである。
ロディマスよりも戦闘能力が格段に上で、実戦経験も豊富な彼らをロディマスの下につけてもまともに機能しない。
だからこそ自ら考えて行動するように促したのだが、結果的には問題がなかったようである。
その事に安堵しつつ、ロディマスはさらなる一手を加えた。
「俺が貴様らに求めるのは二つだけだ。まず、今回の遠征については一切他言無用だ。もし逆らえばキースが直々に処刑すると言っている。それがこの確約書だ」
「あ、ああ。俺らもそれは書かされたが、マジかよ」
「この中には誰が何を倒したか等も含まれるし、どんな魔法を使ったのかも入る。いいな?」
「なぁ坊主。俺らの取り分についてはどうなるんだ?」
「そこは公平な判断の元で分配を行なう。俺はあくまで学園の宿題としてここに来ているのでな」
「学園の宿題?」
「俺が王都の学園に通っているのは知っているだろ?そこは騎士を養成する場所だが、実質的には騎士になりたくない者や、なれない者が集まる場所だ」
「なりたくねーのに、養成する場所?おかしくねーか!?」
「なれないのに養成するって、変だな」
「だが、それがこの国の現状と言うものだ。最前線では人手が足りず、ここでもまた、人手が足りていない。だが、貴族共は可愛い子供たちを戦地へは向かわせたくないそうだ」
「汚ねぇ!!なんて連中だ!!」
「それを可能にする権力もまた、筋力とは異なる力の在り方だ。それで、そこの宿題に「魔物の討伐に参加する」と言うものがあるのだ。今回の遠征はその一環だ。つまり、お守りしてもらいながらでも討伐の宿題は達成する、と言う話だな。実に下らんが、そう言う決まりである以上、俺は従うのみだ」
そう言うロディマスに対して、傭兵の一人が声をかけてきた。
見た目は普通で、なんでこんな男が傭兵やっているのかと思うほど、普通だった。
その男が口を開いた途端、ロディマスはその理由を理解した。
「んだべな、なんちゃらかっしてかんだ?」
「どこかで聞いた方言だな・・・」
「おいズビーラ!!お前は黙ってろって!!」
「いや、いい。恐らくその男は「どうしてこんな場所で?」と聞きたいのだろう。違うか?」
「んだな。ぼっちゃずんげだなべあ」
「学友に似たような方言を使うものがいるのでな。それでその質問の答えだが、それこそが先ほど言った箔の問題だ」
そしてロディマスはこの森で今、魔物が大量発生している事、その中には強敵であるゴブリンやオーク、更にはオーガまで出現している事を告げた。
なお、ゴブリンやオークについては、単体はロディマスでも余裕で対処できるものの、何と言ってもその数が膨大なのである。一匹見たら百匹はいると思え、なんて言葉があるように、ゾロゾロワラワラと湧いて出てくるのである。
ただし、それについても脅威となるのは戦う術を持たない人たちだけであり、戦闘訓練を積んだロディマスの敵ではない。囲まれなければ、の話ではあるがそれでも近くに傭兵の誰か一人でもいれば大丈夫な程度である。
「貴様らであればこの程度は楽に蹴散らせるだろう。だが、それと名声と言うものは別問題だ。ならば名声はどこで得るのか。答えはここ、この場所で狩りをすると言うのがポイントだ」
「つまり、俺たちゃ楽して数こなして、その上でゴブリン共があぶれ出る前に街を守ったって名誉を得るのか!?」
ハゲた傭兵のこの言葉に、ロディマスは目を瞑って頷いた。
その返答に沸き立つ傭兵たちに呆れつつ、ロディマスは続きを話した。
「そうだな。そして俺たちは魔物の素材を大量に得て、それを換金して貴様らに金をやる。ここの領主は貧乏だから、褒賞などは期待するな。その代わり、ここで儲けた分に税をかけないよう既に交渉済みだ」
「まじかよ!!そりゃ最高だな!!魔石なんざ8割方税金らしいから、ボロ儲けじゃねーか!!」
「お、おい坊主!!嘘じゃねーだろうな!!」
「これで引退して、ベリスさんにアタックできる!!」
「おいそりゃ俺のセリフだ!!いやしかしマジかよ!!付いてきてよかった!!」
「すいません。こいつら、あとでよく教育しておくんで」
アンダーソンが申し訳なさそうに、それでいて怒気を孕んだ気配を一切隠さずにロディマスにそう言ってくるが、ロディマスは首を振った。
その様子を見て怒気を霧散させたアンダーソンが、ロディマスの言葉を待っていた。
その様子に、こいつの忠犬度も上がってきたなと場違いなことを考えつつ、ロディマスは静かに自分の考えを述べた。
「やる気があるのはいい。問題になるは、他言無用の件と、撤退の指示は絶対に聞け、と言う命令に従わない場合だけだ。だが、それも数日以内に解決するだろう」
「そうなのですが、それでも俺は納得しかねます。それに、あく」
「それ以上は言うな。貴様こそ、俺の命令に逆らうのか?」
「い、いえ!!そんな!!でも本当にいいのですか?」
「時期が来れば奴らにも知らせる。だが、それまでに脱落者など出したくはない。彼らには悪いが、今は少しでも戦力が必要なのだ」
この先に悪魔がいるなどと知れば、この中の半数は間違いなく逃げる。
そしてそれを誰も責められない。
それだけ悪魔は世間一般の常識の範疇でも十分な脅威なのである。
「弱点であるミスリルのショートソードもある。討伐実績のあるキースを連れてこれなかったのは痛手だが、手持ちの札で勝負をかけるしかないのだ。それに貴様もプレリーの話を聞いただろう。猶予は、本当にないのだ」
そう言うと、唇を噛み締めてアンダーソンは引き下がった。
そこでふと、視線を森に向けようとしたとき、ミーシャの姿が目に映った。
ミーシャは動きを阻害しないような簡素な黒トゥレント金属の胸当てを装着し、一点、ただロディマスの顔面だけを見ていた。
何事かと思いロディマスが見つめ返すも、全く逸らす様子がないのでロディマスは背後に目をやった。
しかし、何もなかった。
つまり、ミーシャはずっとロディマスの顔を見ていたと言う事であり、目が合っても逸らさないのは、それを全く悪いと思っていないからでもある。
不審に思ったものの、ミーシャに絡むと碌なことにならないと判断したロディマスは、気にかけつつも様子見をする事にした。
「では貴様ら、納得が行った所で作業に掛かれ!!このままでは昼までに拠点作りが間に合わんぞ!!」
「了解!!」
最初の頃とは一転して協力的な傭兵たちの態度にひっそりとため息を漏らしつつ、ロディマスはこの森のどこかに隠れ潜んでいる脅威に向かって静かに宣言した。
「今から貴様を狩りとってくれる。首を洗って待っていろ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。




