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「ポレロ様よ。最後に言い残す言葉はないか?」
「い、いきなりなんだなもし!!最後ってなんだなもし!!」
「うるさい!!死ね!!」
「死なないんだなもし!!むしろお前がタダで済むとは思わん事だなもし!!」
「いいや、貴様の方こそ終わりだ。後ろを見ろ!!」
散々挑発してきたロディマスのその言葉と差した指の方向へポレロが釣られて振り向き、店の入り口を見つめだす。
そんな素直なポレロの反応にロディマスは呆れつつ、その間に後ろ手でミーシャに合図を送った。
いいから引っ込め。
そのジェスチャーが効いたのか、ロディマスの視界の端にわずかに見えていた銀や茶色の髪が消えたので、安堵した。
「な、なんだなもし!?何もないんだなもし!?」
疑問を投げてくるポレロに、ロディマスは冷ややかな目線を向けた。
ライルは既にロディマスの隣におり、キースはポレロとの間にいつでも割り込めるような位置で待機している。
つまり、店の入り口には誰もおらず、何もなかった。
ただミーシャたちをポレロの視界に入れたくなかったが為に適当にそれらしい態度で誘導してみたのだが、思ったよりも効果があったと、ロディマスは頭がよろしくないポレロに向かって盛大にため息を吐いた。
「はー、分からんのか。所詮貴様は、その程度なのだな」
「一体なんなんだなもし!!」
叫びながら何度もロディマスと店の入り口を繰り返し見る間の抜けたポレロの姿を睨みながら、ロディマスは開いた手の平をポレロに向けて、大仰に告げた。
「そこが、出口だ!!」
「そんなの、知ってるんだなもし!!バ、バカにしているんだなもし!?」
「どう思う?そこのポレロ様の護衛よ?」
「・・・、クッ。ポレロ様、ここは分が悪い。さっさと引き上げましょう」
「な、何を言うんだなもし!!女が欲しいんだなもし!!あの銀髪の獣人が!!」
「なんだと!?」
ただの女好きの下種野郎かと思っていたロディマスだが、獣人嫌いのこの国でそのようなことを言い出す貴族がいるとは思っておらず、激しくのけぞって驚いた。
それだけには飽き足らず、そんな、まさか、なんて奇特な、と呟きながら両手を上げてワナワナしてみたり、頭を抱えたりと大げさに驚いて見せた。
そうやって、ロディマスは密かに今朝のミーシャから受けたストレスを発散していた。
しかし調子に乗って盆踊りめいた動きをしていた所、背後からの強烈な怒気を浴びて、ロディマスは硬直した。
冷や汗が、ロディマスの頬を伝う。
そんな確かな緊張感をロディマスが感じている中、ポレロと護衛は言い合いを始めていた。
「ポレロ様、あなたの特殊な性癖は存じておりますが、ここは退くべきです。あの連中は、ヤバいです」
「性癖じゃないんだなもし!!獣人は見て愛でるものだなもし!!特にあの銀色の髪と変わった衣装がかわいいんだなもし!!」
「確かに銀髪の獣人は珍しいですが、だからと言って伯爵様に黙ってこれ以上の事をしては、叱られてしまいます」
「じゃぁ代わりに金だなもし!!可愛い獣人の奴隷が欲しいんだなもし!!い、いや、両方なんだなもし!!アイツみたいにするんだなもし!!」
そう言ってポレロが指をビシっとロディマスの方へ向けた。
それを向けられたロディマスは、背後を振り返った。
誰も、いなかった。
「あいつ?おらぬな」
「アイツ、なるほどねぇ」
「アイツ、ですか。その物言いは、万死に値しますね」
一体誰の事なんだとロディマスはとぼけてみたが、キースとライルの視線が突き刺さっていた。
おまけに背後から壁越しに伝わる怒気が一つから三つに増えているのに気が付いて、ロディマスは鳥肌が立った。
慌てたロディマスはポレロに向かって叫んでいた。無意識の行動だった。
「おい、ポレロ様よ。言いがかりはよしてもらおうか!!」
「な、なんだなもし!!何が言いがかりなんだなもし!!あの娘っ子といっつもイチャイチャラブラブしてたんだなもし!!」
「それは、普通に心当たりがないな」
ポレロの指摘にロディマスがそっと視線を外して下方向を見れば、その様子にさすがのポレロも戸惑った。
「そ、そんなはずはないもし!!ないはずもしよね!?」
「本当に心当たりがないのだ・・・」
「じゃ、じゃぁベリス工房で「はいアーン」とかしてないもし!?」
「ないな、あり得ない。それに、そもそも俺は半年ぶりに王都から帰ってきたのだ。貴様の言うそれは、別人だろう」
「な、なんてこったなもし・・・」
そう言ってがっくりと膝をつくポレロに、こいつ一体何しに来たんだ?と疑問を顔に浮かべつつ、ロディマスはこのまま帰ってくれないかと思い、黙って動向を見守ることにした。
「そこまでです!!」
「ハァ!?」
すると何故かこのタイミングで話題の人であるミーシャが飛び出してきていた。
耳の毛を逆立て、良く見れば尻尾もピンと張っていた。
ミーシャにしては珍しいその様子に、ロディマスも注意するのを忘れて呆然としてしまった。
するとミーシャが、ロディマスの腕を取り、全体に響くように告げた。
「私とご主人様は、今朝も一緒にお風呂に入る程度の間柄です!!」
「な、なんだと!?」
「なんだなもし!?」
「なんですってーーー!!」
「坊ちゃん・・・アンタってヤツは・・・」
「うん?俺も孤児院の連中とは一緒に風呂に入るぞ?」
「羨ましい・・・ミーシャよ。帰ったら特訓です」
辺りが違う意味で騒がしくなる中、ミーシャが更に大声で言った。
「でも、・・・、お背中をお流ししただけです。本当に、他には何もありません。従者として当然の事をしたまでです」
「あ、ああ。そうだな。そうだったな。だが、何故、今それを言った?」
「エリスとベリスをけん制したくて・・・」
「ヲイ」
事もあろうにこの事態に便乗して、帰ってから特に距離感の近い二人をけん制したかったとミーシャが言い出した。
しかもポレロを完全に無視しているので、余計に事態の収拾が困難となっていた。
ロディマスが呆然と、誰か助けて、と心の中でつぼやけば、そこに登場したのは救いの天使、ではなく悪魔だった。
「わ、私だって昨日、同じベッドで寝たよ!?」
「アタイもだね。あんなに一緒だったのに、つれないねぇ」
「き、貴様ら・・・面白そうだからと言ってしゃしゃり出てくるな!エリスもミーシャに対抗して腕を掴むな!!ベリスぅ・・・、背後から抱き着くな!!」
「な、なんだなもし!!貴様、銀髪の子だけに飽き足らず、こんな美人たちともなんだなもし!!も、もう貴様は男の敵なんだなもし!!!」
ポレロがキれてそう叫ぶと、店内の男性客が全員頷いていた。
「何故だ!?」
「いやいや、誰もがそう思うわ。あれはないな」
「しかもあれ、ベリス工房のベリスさんじゃないか」
「ならあっちの子は、エリスちゃんか!!」
「マジかよ、ペントラル新聞調べで嫁にしたい女トップテンの上位二人を侍らせてるのか。許すまじ!!」
え?何それ?とゴシップ記事を扱っている謎のペントラル新聞とやらが気になったロディマスだが、女三人にもみくちゃにされた為に反論する事が出来なかった。
それが更に周囲からの敵愾心を集め、場が違う意味で盛り上がり始めていた。
するとそんな騒ぎの中、一人の男がエリスの近くへと歩み寄り、告白していた。
「エリスちゃん。俺、準男爵なんだ!!嫁に来てくれ!!」
「お断りします!!男爵って、筋肉好きそうなイメージなんで!!」
「なんだそれはぁ!?」
しかし準男爵は即座に玉砕。
しかも奇妙な理由でフラれていた。
周囲の男たちは、その哀れな準男爵を見て、同情の為か男泣きしていた。
「おい、パックたちは別格だぞ。すべての男爵があんなだと思うな!?」
ロディマスが辛うじてそうフォローをするも、四つん這いになった準男爵は立ち直れず、そのまま這うように自分の席へと戻っていった。
しかしこのままではラチがあかないとロディマスが必死になって頭を巡らせていたら、更にもう一人現れた。
その男は、サラサラの茶髪をかき上げて、ロディマスの背後にいるベリスを見つめていた。
「ベリスさん。どうかこの僕のお嫁さんになって欲しい。地位も金も、そんなにはないけど、ほら、僕ら、お似合いだろ?」
ベリスにそう声をかけた長身の男は、堀が深く繊細そうな顔のつくりをしており、誰がどう見ても美形だった。
同じく背が高くて、しかも今は美形であるベリスと並べば、確かに似合いのカップルとなるだろう。
街行かば人々が振り返るような、羨望のまなざしで見られること間違いなしのベストカップルとなるだろう。
しかしそんな男相手を、ベリスは一刀両断した。
「男はねぇ、顔じゃないんだよ!!なぁロデ坊ちゃん!!」
「ベリスもそれは何だ!!この前の仕返しか!!俺はブサイクではない!!俺に同意を求めるな!!」
「お、男は顔じゃない・・・、クッ、至言だ。分かりました。残念ですが顔の悪いその少年に、今は譲りましょう」
「誰が顔の悪い少年だ!!ふざけるな!!」
そう言って毒を吐きつつも爽やかに立ち去る男に、ロディマスは吠えた。
そうして次々と独身男性と思われる面々が二人に告白していき、フラれていた。
気が付けば、店の外からも人が入ってきており、二人に告白する為の行列が出来ていた。
「なんだこれは・・・」
「はい、いらっしゃい。ベリス工房の美人姉妹に告白出来る絶好の機会ですよ。チャンスはこれをお買い上げいただいた方のみになっております」
「しかもちゃっかり便乗して商売しているし」
「悪いね、坊ちゃんの方がそこそこ格好いいよ」
「ごめんなさい!!おじさんよりも若い方がいいの!!」
「いやしかも貴様ら、容赦がないな・・・」
こうして言い寄る男どもをバッタバッタとなぎ倒していくポートマン姉妹に戦慄しつつ、どうしてこうなったのかと考えた。
考え、店の端で震えているポレロと護衛を見た。
「元はと言えばあいつらが原因なんだが、この状況ではもう手を出してはこれないだろうな」
気が付けば、エリスとベリスがロディマスを巻き込んでミーシャに抱き着いていた。
そしてその様子を見た面々が、ミーシャを見て納得して立ち去って行った。
予想外の展開になったが、それでも様々な者たちの思惑により、ミーシャはエリスとベリスの友人だと認識された。
そしてエリスとベリスは、これほどまでに街の者たちに受け入れらている。
ならば、ミーシャにこれ以上の無体を働くような真似は出来ないだろう。
「何とかなるものなのだな」
「覚えてるんだなもし!!」と捨て台詞を吐いて逃げ帰ったポレロを見送った後、ロディマスは疲れが出たのか思わず椅子にドカリと座っていた。
そこへ近づいてきたのは、この店の店員だった。
そっと手を差し出してくる。
「まさか・・・」
「ええ、壊したドアの弁償代をしてください」
人差し指と親指で輪っかを作っているのを見て、この世界でもそのジェスチャーは同じなのかと呆れつつ、ロディマスは店員を睨んだ。
「ほう・・・、いい度胸だ」
「と言うのは冗談です。今回は儲けさせてもらったのでいいですよ」
その返しに肩透かしを食らったロディマスは、思い切り肩を落とした。
今まで張り詰めていた精神が緩み、思わずぼやいてしまった。
「本当に、いい度胸だな」
「いえいえ、それほどでも」
そう言って釣り目な店員は奥へと戻っていった。
「何がしたかったんだ、あいつは」
「ご主人様・・・」
「ん?」
「申し訳ありませんでした」
ミーシャが神妙な顔で謝ってきていた。
その姿に、最初は許そうかと思ったロディマスだが、今までの態度の理由はもしかすると、今まで己が甘やかしすぎていたのではないかと考えた。
それはライルにも忠告されていた事だった。
未来の記憶のトラウマにより、ロディマスはミーシャに対して臆病になっていたのである。
そしてその結果、招いたのが今回のミーシャの暴走であった。
つまり、何から何まで自分の所為だった。
「反省せねばならんのは、俺の方だな」
「え?」
「何でもない。忘れろ」
そう言ってロディマスはミーシャへの対応を考え始めた。
そして、騒ぎもあったのでこれでお仕舞だとデートを切り上げて、ロディマスは館へと戻った。
□□□
ロディマスは、エリスとベリスに別れの挨拶を告げた後は終始無言で部屋へと戻った。
怯えているミーシャ、静かに付き従うライルに向き合い、こう告げた。
「今日からフーリェに行くまでの間、ミーシャの俺専属と言う制限を一時的に解除する」
「そんな!?」
「畏まりました」
「その間は適当に館の仕事をさせておけ。ライルはしばらく俺に付け」
顔を青ざめてフルフルと震えるミーシャに庇護欲を掻き立てられるも、一時の感情に流されてはいけないとロディマスは歯噛みして堪えた。
そして、珍しくロディマスは気遣いと言うものを発揮して、その命令の真意について語り始めた。
「ミーシャ、良く聞くがいい」
「はい・・・」
俯きながらも返事を返すミーシャに、さすがにこの辺りの教育は行き届いているなとロディマスは感心した。
だが、それで十分かと言われたら、良く考えれば今までのミーシャに対する判断基準が甘すぎたのだと気が付いた。
主に言葉をかけられたら返事をするのは当たり前で、従者だろうが従業員だろうが、それは変わりなかった。
それがいつしか、未来のマイナス方向に感情が吹っ切っているミーシャを基準にして、並の主従ではありえないような事も許容していた。
ミーシャが増長してしまうのも無理はない。
ロディマスはそう改めて感じて、慎重にミーシャに投げかける言葉を探した。
「俺は、ミーシャの事を大事な従者だと思っていた」
「!?」
ロディマスは、少しだけミーシャの不安を煽るように、今の思いを過去形として話をした。
すると案の定、ミーシャは己が捨てられるのかと思ったのだろう。
目に涙を浮かべていた。
正直、今のミーシャは見た目だけなら150㎝のロディマスと変わりがない。
11歳なのにもう高校生くらいであり、どれだけ規格外な存在なのかとロディマスも驚いた。
そして同時に以前より150㎝から全く成長していない己にも泣きそうになったが、ぐっと堪えた。
「だが俺は、勘違いをしていたのだ。ミーシャが大事だと、大切などと思いながら、な」
「え?大事?大切・・・?」
続いた言葉が思わぬ内容だったのだろう。
ミーシャは意外そうに復唱して、その言葉が聞き間違いではなかったのかと、首を捻っていた。
その様子を見たロディマスは、肩の力を抜いてから、優しく語るようにミーシャに告げた。
「ああ、だがミーシャの将来を思えば、ここは距離を開けるが最善だと判断した」
「距離を開ける、ですか?」
またもオウム返しに聞いてくるミーシャに、困ったものだとロディマスは肩をすくませた。
今のミーシャには、いつものような理論的に考える力が欠落している。
だが、それも納得した上で今の話をしているので、ロディマスは特に動揺する事も、その不甲斐ない姿に憤ることもなかった。
見た目に騙されて度々忘れそうになるが、ミーシャはまだ11歳と思春期真っ盛りの子供なのである。
「ああ、そうだ。今の貴様と俺は、あまりにも距離が近い。これは、個人の関係ならいざ知らず、主従と言う間柄には相応しくない」
「そう、ですね。それは以前からライル様よりご注意を受けておりました・・・」
「そうだろう。そして俺はそのライルの教育の邪魔をしていた、と言う訳だ」
「はい・・・」
風呂場に乱入してきた際も思ったが、見た目と中身が合っていないのである。
本来のミーシャは今ある通りであり、異性のいる風呂場に裸で乱入してくるほどに精神が幼い。
よってロディマスは、幼子を相手にするような気持ちでミーシャに話しかけた。
「しばらく、お互い距離を取り、己のすべきことを見つめ直すいい機会だ。貴様は貴様で励め」
「はい、分かりました。あの、申し訳ありませんでした」
「そうだな。今回の貴様の暴走で受けた俺の被害はかなりの物だ。十分に、反省するように」
そして、失敗する事を恐れないで欲しい、とロディマスは心の中で思いながら、ミーシャを見つめる。
しかしミーシャは顔を上げることなく、辛うじて返事をしただけだった。
「はい・・・」
ロディマスは、今日の所はもうこれ以上言っても無駄だろうと判断して、ミーシャに退出を促した。
「分かったのなら、今日はもういい。部屋で休め」
「はい、失礼致します」
そしてしょぼくれたミーシャが退出した後で、ロディマスはライルに部屋のドアを閉めるように指示を出した。
「しかし、よろしかったのですか?」
「何がだ?」
「差し出がましいようですが、お坊ちゃまにとってミーシャはその、特別なのだと思っておりました」
歯切れの悪いライルの物言いに、機嫌が悪いロディマスは貧乏ゆすりをしながら急かすように聞いた。
「つまり、なんだ?」
「ずばり物言いますと、愛妾になさるのかと思っておりました」
「ずばり言い過ぎだろ!!しかも俺はまだ12歳で、ミーシャはまだ11歳だぞ!?早すぎるだろう!!」
ライルの発言に、ロディマスは椅子から立ち上がって猛抗議した。
そしてその剣幕に押され、珍しくライルが動揺していた。
「さ、左様でございましたか。しかし、早い、のですね」
「言葉尻を拾うな。元々俺にその気はない。ただ、思うところがあっただけだ」
「そうだったのですね。それは今までとんだ勘違いをしておりました」
「そうだな、とんでもない勘違いだ」
ミーシャとは友人レベルでいいのだと、そのつもりでロディマスも今まで動いていた。
それが何やらいつの間にやら愛人にするだどうのと言う話になっていた。
「全く、どこでそんな勘違いをしたのか」
「ミーシャを初めて見ておられた時から、そうではないかと思っていたのですが・・・、誠に申し訳ございませんでした」
「あ、ああ。ああ!?ア、ソウ、ソウダナ!!勘違イ、仕方ナイナ!!気ニスルナ!!」
「寛大なお言葉に、感謝を致します」
「う、うむ。まぁ今日の所は残った時間で仕事をこなそう。ライルも、いけるな?」
「はい、ただいま資料をお持ち致します」
「そうか、頼む」
「はい、それでは御前、失礼致します」
そう言って出て行ったライルを見送った後で、ロディマスは頭を抱えた。
頭を抱えるハメになった案件の一つは、ベリスが去り際に残していった言葉である。
彼女曰く、女三人が飛び出したのは、店内の他の客と示し合わせての行動だった、との事。つまり、あれらは全部演技だったと言う話である。
あの短期間でよくそこまで、と思う一方で、歴戦の傭兵ならアドリブ力はかなりのものかと同時に納得もした。
その割にはフラれた連中の哀愁の漂い具合が半端なかったなと、ロディマスは物悲し気だった男衆の背中を思い出して少しだけ笑った。
「連中が、ベリス工房の常連となっている元騎士や元傭兵の年金暮らし組、か」
ロディマスにとってはほとんど初対面の者たちではあったが、それでも快く協力してくれたのは、恐らくエリスとベリスの人望によるものだろう。
その結果、彼女たちまで危険な目に合わせたのは不本意ではあったが、そもそも一人で全てをこなすなど不可能だったのである。
学園での生活が順調だったが為に、どうやら己自身、勘違いをしていたようだとロディマスは猛省した。
それともう一つ、ロディマスがミーシャに惚れていた事を匂わせるライルの発言についてだった。
「ミーシャを初めて見た時から、か。それは、俺ではない以前の俺の話だな」
前世ロディマスの来世的な少年。
傍若無人で破天荒、ロクデナシや残りカスと揶揄された少年。
そして、自称神との接触し、過酷な未来の記憶を無理やりに植えつけられ、その光景に耐えきれず自殺したあの少年。
その少年の残していった負の遺産が、今回のライルの勘違いの原因だったようである。
まったくもって厄介な遺産を残してくれたものだと、もはや以前とは別人となっているロディマスは、周囲にそれが悟られないようにするのが大変だとため息を吐いた。
そして、更にその以前の少年の思いに対して、ロディマスはポツリと否定した。
「初恋を実らせたい気持ちは分からんでもないが、勘弁しろ。俺には子供に手を出す趣味はないのだ」
そう呟いたが、ロディマスの胸にはしこりが残る形となったのだった。
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