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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
79/130

76


 ロディマスとレイモンドの、因縁の二人の試合が始まった。


「うおおおお!!」


 雄叫(おたけ)びと共にレイモンドが近寄り、ロディマスに袈裟(けさ)切りの一撃を繰り出してきた。

 その速さは、前世で見た動画の達人たちのソレと変わらないものであったが、この世界の住人たるロディマスにとっては普通の速さだった。


 そしてロディマスはレイモンドの一撃を見切り避けようとして、しかしいつも通りに読み損なって失敗した。


「どぅりゃあ!!」


「ぬぅぅ!!」


 レイモンドの剣筋が途中で変わり、ロディマスを突き破るように切っ先を前に押し出してきたのである。


 剣の速さからしてだいぶ手を抜いていたのはロディマスも感じていたが、まさか手に持った鉄塊を木の棒を扱うようにここまで自在に動かせるとは思っていなかったのである。


 突き出された切っ先は、しかし幸いにもロディマスの左側、盾を持つ方だったので防御が間に合った。


 盾で見事に受け止めて、間に合ったと思った直後に、しかしロディマスは吹き飛ばされていた。


「ぬぅぅぅぅ!!」


「っしゃー!!」


 どうやらレイモンドは最初からこの突きを狙っていたようで、体重の乗ったその突きは、間に挟んだ盾ごとロディマスを容易く宙に浮かせた。盾がなければ即死だったと思わせるだけの、十分に威力の乗った一撃であった。


 そしてロディマスは空を飛んだ。


 しかしそんな事態にもロディマスは慣れている(・・・・)ので特に動揺する事はなく、レイモンドを油断なく睨んでいた。

 すると、ロディマスが飛んだ直後に勝ち誇った顔をしたレイモンドが見えたので、呆れた。


「寸止めは、どこへいったのだ」




 派手に吹き飛び、地面を二度転がったロディマスは、三度目でクルリと回転して二本足で立った。


「え!?何!?」


「フン、この怪力きんに君めが。だが、甘い」


「盾、砕けてますよ!?」


 外野から突っ込みを受けて左腕を見れば、盾の一部が欠けていた。そして、左腕もすごく痛かった。

 しかしまだ無視できる程度の痛みだと判断し、外野の声も無視しようとするも、その外野の人物がスザンヌだったので、無視せずに返事をした。


「腕は折れていない。問題ない」


「いやいやいや!!そう言う問題じゃないでしょう!!」


「大丈夫だ、問題、ない!!」


 そう言ってから、今度はロディマスから仕掛けた。


 レイモンドも初撃を防がれた返礼なのか、避けずに受ける構えを取っていた。

 正眼の構えから剣をやや斜めにした姿勢で待ち構えており、ロディマスの振り上げた右手から繰り出される袈裟切りに対して、真っ向から打ち合おうとする意思が読み取れる。


「だが、付き合いはせんぞ!!」


 そう言ってロディマスは右肩から左腰へ向けて、袈裟切りを放つ。

 リーチの短いショートソードなので、切っ先をかすめる程度の浅さで切り付けに行くように調整された一撃がレイモンドをかすめる。

 そしてロディマスの予想通り、レイモンドが筋力に物を言わせてロディマスを弾き飛ばそうと全身に力を込めた。


 剣同士がかち合うその瞬間、ロディマスのショートソードはレイモンドの剣をスルリと抜けた。


「あれ!?なんで!!」


 ロディマスは真っ向からかち合うのを避けて、手首を寝かせてショートソードを水平にした。切っ先をレイモンドから遠ざけたのである。


 そしてレイモンドの剣の表面をなぞるように左側へと抜けたロディマスのショートソードは、そのまま左からの払いへ変化して、レイモンドを襲う。


「なんだあれ!?カウンターが不発した!?」

「どうなってんだ?え?剣と剣がぶつからなかった!?」

「それが本命か!!すげぇ!!」


「フン!!喰らえ!!」


 先ほどスザンヌが声をかけた影響からか、それを呼び水にしたように外野がにわかに騒がしくなる。

 しかしそれを無視して、ロディマスはレイモンドのがら空きな左側の脇腹へ、左から右へショートソードを払った。


「こなくそ!!今度はカチ上げてやる!!」


 それに対して、レイモンドは驚異的な反応速度で対応する。

 上げかけた剣を、手首で無理やり切っ先を下げて、それから全身を使って切っ先が円を描くように右下から右上、左上から左側へと振ったのである。



 しかし、それも空振り。



「手ごたえがない!?」


「バカめ、これが本命だ」


 先ほどと同じくショートソードの切っ先を自分の方へと引き寄せてレイモンドの剣の有効範囲から外したロディマスは、振り切って己の右側にあるショートソードの刃を立てて、そのまま突きを見舞った。


「当たれば、痛いぞ?」


 そう言って、かつてライルが使っていた突き技の【サイレントピアス】、己が習得している中で最も威力の高いその技能、それのもどきを放った。


 技能は使用を許可されていない上に、本当に【サイレントピアス】を発動してしまえば、金属鎧の上からでもレイモンドにケガを負わせてしまう。

 よって、単なるそれっぽい動きだけに留めたのである。


 そしてロディマスから見て大きく右へ体を傾けていたレイモンドは、当然それに対応できないと思われた。

 外野も、そう思ったのだろう。


「決まった!!」

「おお、すげぇ!!」

「レイモンド様はバカだ!!なんであんなに何度もフェイントにかかるんだ!!」


 お前ら好き勝手言ってんな、と貴族の子弟にあるまじき生徒たちの対応に呆れつつも、油断することなくレイモンドのがら空きの胴体に腕を伸ばした。


 そして次の瞬間、ロディマスの体はまたも宙を舞った。



「ぬお!?」


 驚きはしたが、やはり、とも同時に思ったのでロディマスはなんとか対処が出来た。



 あの『勇者』がこんな簡単に手玉にとれるわけがない。むしろこういった反射が問われる場面でこそ、真価を発揮する。



 ロディマスはそう思い警戒を怠らなかったので、辛うじて左手の盾で、レイモンドの蹴り(・・)を受けることが出来た。


「うそだろ!!」

「あの状況で側転して蹴りとか、おかしいって!!」

「人間業じゃねー・・・」

「レイ!!寸止め!!忘れてるわよ!!」

「ロディマスは前よりも技にキレがあるわね。うんうん、さすが私たちの旦那ね!!ミーシャもそう思うでしょ?」

「アリシア様、離して頂けませんか?」

「だーめ。あなたは私とここで見守るの。うーん、相変わらずいい抱き心地ね!!」

「あうう・・・」



「本当に外野が好き勝手にやりすぎて、気が散る・・・」


 後方に飛ばされながらもなんとか着地したロディマスは、強張った身体を(ほぐ)すために少し力を抜いた。

 いつの間にかアリシアがミーシャを抱き枕のようにしていたのが、とても、すごく気になったが、考えるのは後にした。



 頭を戦闘用に戻して、実家で鍛錬を行なっていた時の事を思い出す。


 戦う際には、体には余裕を持たせ、肝心な時にだけ力を入れる。

 ライルやキース、アンダーソンに傭兵たちと、様々に鍛錬をした日々を、教えられてきた事を思い起こしながら、ロディマスはショートソードを構えた。



 迫るレイモンドの一撃を避けて、受けて、吹き飛ぶ。

 そしてトリッキーな動きでロディマスも反撃する。

 それを避けたレイモンドが、カウンターを食らわそうとして、回避され、小手を打たれ、金属の篭手が甲高い音を立てる。

 そうやってすかさずスキを突くロディマスを、レイモンドが超人的な反射神経を用いて手足で反撃し、ロディマスは先読みしてその打撃を防御する。



 一見して互角の良い勝負に思われた。



 しかし、拮抗はすぐに崩れた。




 元々魔法使いで、剣士ほど体力も筋力も防御力もないロディマスに限界が訪れたのである。

 落ちることのないレイモンドの勢いに、防戦一方となり飛ばされる回数が増えたロディマスは、すでに満身創痍だった。


「おい、あれやばいんじゃないのか?」

「レイモンド様が止まらないぞ」

「ロディマスのヤツ、何が起こったんだ?」


「ダメよ、ミーシャ。私たちは、見守るの。あいつがどれだけ無茶をしても、どれだけ歯がゆく思っても」


「アリシア様・・・」


 騒がしい中でも耳に届いた二人の少女の泣きそうな声に、ロディマスは朦朧としていた己に活を入れた。


「フン、レイモンドよ、こんなものか?」


「いいや、まだまだだ!!いいね!!最高だね!!」


 そう言って髪をかき上げたレイモンドは、更にロディマスに追撃を加えていく。

 強力な剣の攻撃を辛うじて回避し、時々飛び出てくるレイモンドの早すぎる手足を防御する。


 レイモンドは意識していないようだが、その飛び出たけん制程度の、何の鍛錬も積んでいない無造作な一撃こそが、最もロディマスにとって有効な一撃なのである。



 剣士が強い理由は、魔力を身体能力に当てるからである。

 しかし筋力が増え、素早く鉄塊を振り回せたとしても、体はそのままなのである。

 主流となっている黒鉄のロングソードは、重さが0.5t(トン)もある。

 そして、そんな重量の鉄塊を空中で振り回せば、踏ん張りが利かず軽い体の方が逆に振り回されてしまうのである。


 そこで剣士は、重い一撃を食らわす時ほど動作が緩慢になり、移動も遅くなる。無意識のうちに魔力を地面に這わせて、踏ん張れるようにしているのだと、ロディマスは知っている。

 そして、その為に力を入れた一撃の後は、踏み込みもワンテンポ遅れるのである。


 つまりレイモンドが力を入れれば入れるほど動きが遅くなり、それならロディマスでも対応が出来るのである。



「う、らぁ!!はぁぁ!!とや!!はぁ!!てい!!」


「ぬ、ぬう!!ぬお!?ぬうう、ぬああ!!」


 しかし、いくら遅いと言っても基本のスペックが違うのである。ロディマスの全力の速さが今のレイモンドの力が入った速さなので、ロディマスは振るわれる剣先を避けるだけで精いっぱいだった。

 そしてチョコマカと避けるロディマスに対抗するために、レイモンドは何度も何度も、小突き回してくるのである。


「ぬ、ぐぬぅぅぅ!!こ、こいつめ、ボコスカと遠慮なく殴りおって!!」


「こんな軽いのじゃ、まだまだだぁぁぁ!!」


 こうやって勘違いした剣士に、ロディマスは成す術もなくボッコボコである。実家でもこんなのあったな、と、当時を思い出して若干ロディマスの気持ちが萎える。


 剣士にとって、殴打など軽く小突かれた程度の衝撃でしかない。

 しかし魔法使いにとっては、青アザが出来て、骨が折れ、肉が砕ける一撃なのである。


 結果、ロディマスはボロボロになった。



「い、いい加減止めないのか?」

「あれじゃ、弱い者いじめだ」

「早く参ったと言うんだ!!」

「レイも問題だけど、ロッディ君も負けず嫌いなのね。そろそろ止めないと危ないかもしれないわ」

「ロディマスは結局いつも通りね」

「ええ、そうですね」

「なんでアリシア様はそんな平然としているのかしら・・・」




「外野がうるさいな・・・」


「俺は気にならないぜ!!行くぞ!!」


「この、戦闘狂のうんこちゃんブラックめ」


 悪態を吐きながらロディマスは再度防衛に入る。

 しかしもはやろくに力の入らない体では、レイモンドの剣を避けることすら叶わず、辛うじて出した左手で防御をする。

 もはや留め具だけと化した盾が吹き飛び、ロディマスも宙に舞う。


 受け身は取ったものの、落下のダメージは顕著であり、足が震えていた。

 また、左手も上がらなくなっていた。


「これはいよいよ、か」


「おりゃぁ!!」


「だが、死んでたまるか!!それに、隙だらけだ!!」


 追い打ちをかけようと大きく振りかぶったレイモンドの脇を起きざまに抜けて、ショートソードを突き出すも、レイモンドは最初と変わらぬ速度で回避する。

 そしてトドメと言わんばかりのレイモンドの横薙ぎに、ロディマスは右手のショートソードを犠牲にして防御をする。


 ひしゃげたショートソードが宙を舞い、ロディマスが吹き飛び壁に激突した所で、ようやく王子が動いた。



「そこまでだ。レイモンドの勝ちだな」


「よっしゃぁぁぁ!!」



「そ、そりゃそうだけど・・・」

「いや、敵が相手ならこんなもんさ」

「魔物相手に手加減なんて出来ないしな」

「でも、酷くないか?」

「俺、あんなに受け切れないぞ」




「あなた!!」

「ご主人様!!」


 終わりの合図を受けて、様々な反応を示す生徒たちを見ながら、ロディマスは壁に寄り掛かった。

 そこに駆け付けたアリシアとミーシャに、ロディマスは体を支えられた。


「あなた、意識はある?あるわね。なら、教官!!魔法の使用許可を!!」


「ご主人様は無茶をしすぎです!!」


「う、おお、ミーシャ、そこは痛いぞ。いや、少しだけだが、ほんの少し、手をよけてくれ。痛いぞ、うむ、いや、大丈夫だ。だが、そこは痛い、いや、痛くないが、手を、な?」


「ご主人様!!」


「あ、あー。そうだな。治療目的での魔法を許可する。医務班は行ってやれ」


「大丈夫だ。【ウォーターキュア】、【ウォームアップ】に、うぐっ、骨もヒビが入っているのか。滅茶苦茶しおって、何が寸止めだ・・・。【セメントバンド】。ふう、これで1時間もすれば元に戻るな」


「無茶苦茶なのはあなたもでしょ。こんなにボロボロになって」


「そうです!!もっと言って下さい、アリシア様!!う、ううーーー!!」


「う、唸るなミーシャ。分かった、分かったから・・・」


 そうしてロディマスは自分で治療を終えた。

 そこで次の指示に従うべく周囲を確認した所、王子、アリシア、ミーシャ以外の全員が固まっていた。




 誰もが言葉を忘れたかのように静まり返る中、真っ先に動いたのは、やはりと言うべきか、空気の読めないレイモンドであった。


「お、おい、ロッディ、大丈夫か?」


「貴様に負けた事には、遺憾の意を表明させてもらおうか。次は負けん」


「お、おう・・・。いや、そうじゃなくって!!お前、魔法使いだったのかよ!!」


「・・・、なんだ?それがどうした?」


「え、いや・・・」


「フン。魔法さえ使えれば勝てたなどと生ぬるい事は言わん。だが、次は負けん」


「あ、ああ」


 そうした問答で唖然とするレイモンド、いや、レイモンド含めたほぼ全員をロディマスは視界に入れ、冷たい視線を返した。

 それを見て、バツが悪そうに顔を背ける面々に、ロディマスは剣士と魔法使いの因縁を感じた。



 そんな重い空気の中、王子が口を開いた。


「今、聞いての通り、ロディマスは魔法使いだ。しかも三属性を扱う稀有な魔法使いだな。だが、魔法使いだからと言って、彼の事を弱いと思った者はこの中にはいないだろう?」


「そ、そりゃぁ」

「俺も、勝てるだろうけど、弱いとは思えないわ」

「まじか?魔法使わないでアレだぞ?」

「う、そうか。魔法使われたら勝てるか怪しいな」

「使われる前に倒せばいいんだよ。もしくは邪魔をする」

「今の戦いを見ていたら無理そうだけど。それに、それが初見だったらきついな」



「言っておくけど、レイ相手にここまでもった人なんて、騎士団でも少ないのよ?それでも彼に勝てるの?」


「魔法使いなんかにはさすがに負けないんだから、勝つだろ」


「あら、そう?私たちのロディマスに勝とうだなんて、いい度胸ね」


「何故当人である俺は一切無視されているのだ、解せぬ」


 勝手に盛り上がっている外野に、心底迷惑だと悪態を吐いたが、全く効果はなかった。



 ロディマスがそれについて落ち込んでいる所で、王子が声をかけてきた。


「ふむ、これは今後が楽しみだ。実に良い試合だったぞ、二人とも」


「は、はい・・・」


「フン。負けは負けだ。良い試合も何もない。だから、次は負けん」


 そして自分の言葉にまたも落ち込むロディマスだが、褒められたら図に乗りそうなレイモンドの歯切れが悪かったのが気にかかった。


 一体何だと言うのだろうか。


 ロディマスがそう思った次の瞬間、レイモンドに手を掴まれていた。

 そして、キラキラした目でレイモンドはロディマスを見ていた。



「すげぇ!!すげぇよロッディ!!まじですげぇ!!俺、ほとんど本気だったのにロッディはまだまだ手抜いてたんだな!!」


「・・・、は?」


「いや、まじですげぇよ!!魔法、魔法見てみたい!!ロッディの魔法、見てみたいぜ!!うおおおお!!燃えてきたああぐお!?」


「ロッディ君は、レイが寸止めしなかったから(・・・・・・・)ケガ人なのよ。だから、かけるならもう少し、違う言葉があるでしょう?ねぇ?」


「あ、あわわわわわ」


 そうして、レイモンドはスザンヌに襟首を掴まれて、端の方へと移動していった。


「た、助けてロッディぎゃ!?ぐおおおお!?」


 そして時折聞こえる、「ぐあ!?」「ぎゃぁぁ!!」「そこはダメだ!!」「ギャ!?」「た、タマが・・・」などの悲鳴を聞こえないふりをして、ロディマスは体を休めたのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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