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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
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3/20 誤字を修正しました。


「ではまず、剣士とそれ以外に分ける。ロディマスとレイモンドはここに座れ。君たちは境界線の代わりだ」


「はい」


「はいっ!!」


 元気よく返事をしたレイモンドが壁際へ寄り、左側へ座り、ロディマスは右側へと座った。


「ではレイモンド側を剣士、ロディマス側を魔法使いに分ける。それは自己申告だが、見栄を張れば、死ぬぞ?」


「ヒィ!?」


「学友を友人殺しにさせたくなければ、きちんと考えて動くのだ」


「おい、さっさと行くぞ!!」

「お、俺、剣士だけど弱いんだ!!さっきのだっていっぱいいっぱいで・・・」

「剣士なら剣士だろ!!弱いとか遅いとか関係ないから!!」

「しかしレイモンド様の方ってのは、ちょっと不安だよな」

「ああ、指揮官にするなら向こうの方がいいんだが・・・」

「次期伯爵様は、頭が残念でいらっしゃるみたいだからな」

「聞かれたらまずいって!!いくら真実だからって!!」



 王子の脅しに恐怖した生徒たちが、次々にレイモンド側とロディマス側に分かれた。それぞれ好き勝手言い合っていたが、ロディマスは聞こえないふりをした。これ以上誰か問題児を押し付けられても困るからである。


 そして分かれ終わった後になって初めて、この場にロディマス含めて五人の魔法使いがいると判明した。


 しかし、先ほどヘバっていた魔法使いは三人である。どうやらあとの一人は先ほどのランニングを無事に切り抜けたようである。

 ロディマスはそれが気になったので座っている面々を見てみれば、先ほどは見なかった少年が座っていたのに気が付いた。


 その少年は兜を被り、眩いばかりの銀色の鎧を着ていた。

 真正面を向いて体育座りをしており、伸びた背筋も相まって、育ちの良さが伺えた。


 そんな、いかにもいいところのお坊ちゃんと言う風のその少年を見て、ロディマスは鎧が何かを悟った。


「なるほどな。表面に薄く伸ばしたミスリルでコーティングをした皮鎧か」


 全身鎧に近い構造だから、その少年はてっきり剣士だとロディマスは思ってたが、どうやら外れだったようである。

 そして、確かにその加工ならば見た目によらず軽いだろうと感心した。

 魔法は禁止されているが、魔力を流すのは一般的なので禁止されていなかった。

 だからミスリルに魔力を流して身体能力を上げたと言うのが容易に想像できた。


 こいつは中々やるなと感心していたら、ロディマスの隣が騒がしくなった。



「レイモンド、邪魔よ」


「来ていきなりそれかよ!!酷いな!?ってか、さっきロッディに抱き着いてたみたいだけど、君はロッディの何なんだい!?」


 気が付けば全員が座っている中で、アリシアだけがレイモンドの近くで立っていた。

 そして何故かレイモンドに文句を言っていた。


 その様子に呆れつつも、この場を納めるべくロディマスは口を開いた。


「アリシア、まずは座れ。・・・、こいつは俺が住むペントラルの隣の領地の領主の娘だ。公爵家だから貴様より身分は上だが、気にするな」


「ちょっと!!肝心な部分が抜けてるわよ!!私、あなたの婚約者でしょ!!こ・ん・や・く・しゃ!!」


「黙れ、ここでは俺がルールだ」


「俺がルール、すげぇカッコいいセリフだ!!いいね、覚えたぞ!!」


「・・・、冗談だ。ここのルールは教官殿だ」


「その通りだ、ロディマス。そろそろいいか?」


「はい」


 王子が無言のプレッシャーをかけてくるのに耐えながらアリシアをあしらった結果、王子からの嫌味を頂戴したロディマスは、それでもなんとかこの場を乗り切った事に安堵した。

 そしてアリシアに目を向けて、固まった。


 正確には彼女の近く、レイモンドの隣に陣取っている少女を見て硬直したのである。


 その少女にはなんだか見覚えがあるとロディマスは思っていたが、『勇者』ご一行の一人だと今、気が付いた。


 きつい目つきに活発そうなベリーショートの真っ赤な髪に、動きやすそうな軽装の鎧をまとった少女。

 ミーシャではない『勇者』の仲間の一人で、杖かハンマーのどちらかの使い手だったはずであった。

 しかしそのどちらなのかは、分からなかった。


 そしてロディマスの視線に気付いたレイモンドが、小声で言った。


「彼女はスーだ。彼女は俺の婚約者なんだが、めっちゃおっかないんだ、怒らせたらダメだぞ。絶対に、ダメだ。ダメなのです」


 そう言って身震いするレイモンドに、あれ?もしかしてこいつとは仲良くできるんじゃね?とロディマスは思ってしまったのであった。



「今から何を行なうか説明する。ルールは簡単だ。戦う事に慣れてもらう為に、二人で戦ってもらう。ただし、全力の半分程度の力で戦え。魔法は無し、武器はそこにあるものを使え」


 そう言って親指で背後を指差して、王子は説明が終わったとばかりに腕を組んでいた。

 あまりに端的過ぎるその内容にロディマスは手を抜きすぎてはいまいかと眉をひそめたが、隣の少年の感想は違っていたようである。


「教官!!俺、俺が最初に行ってもいいですか!?」


「順番はこちらで指定する。まずは、君と君だ」


 はしゃぐレイモンドを特に注意するでもなく、淡々と仕事をこなし始めた王子に、そろそろレイモンドの相手をするのが面倒くさくなったのかと、ロディマスは考えた。

 そして、さもありなん、と同意した。

 まさかレイモンドがこんなにも面倒くさい性格だとは知らず、どうしたものかとロディマスも悩んでいるのである。王子の苦悩も手に取るように分かってしまう。


 夏の終わりから始まる長期休暇に、エルモンド領へ私兵である傭兵団を連れて行く。

 その為にレイモンドを利用できるかと思っていたが、こんなアホでは役に立たないと諦めつつあったからである。



「なー、ロッディって、ピリピリするよなー。あー、気持ちいい」


「レイモンドは失礼なのね。でも確かにロディマスはピリピリするわね。もう慣れたけど」


「悪いわね。レイってばガサツで無頓着だから」


「ロディマスなら怒らないし、いいわよ、ね?」


「その程度で怒りはしないが、それよりもなんだ?ピリピリするのが気持ちいいとは?貴様は変態か?」


 ロディマスの近くにいるとピリピリするのは、ミーシャもアリシアも言っていたので今更であった。

 それだけであればロディマスもスルーした。

 しかし、気持ちいい発言だけは聞き逃せなかった。


「変態じゃないって。ほらあれだ。うちに湧いてる温泉がこんな感じでピリピリーって、おお!!今の一撃、すっげーー!!」


「おい、説明するなら最後までしろ。しかし今のは見事だったな。間合いの取り方が絶妙だった」


「温泉は地面から湧いて出てくるお湯よ。そうそう、私、スザンヌよ。よろしくね、ロッディ君」


「ロッディではないが、そうか、スザンヌだな」


「ロディマス?この子、レイモンドの幼馴染で許嫁(いいなずけ)なんだからね。手を出しちゃダメよ?」


「出すか!!」


「囲うなら恋人がいない子にしなさい。それと、私の許可を取ってね」


「しないと言っているだろう!!」


「へぇ?ロッディの婚約者は寛容なんだな。スーは、コワインダゾ・・・」


「そうか。・・・まぁ、試合を見ようではないか」


 カクカクと震え出したレイモンドに、過去に一体何があったのか気になるものの、眼光が鋭くなってきたスザンヌを見て興味が失せた。

 そして何かに怯えるように時折体を揺らすレイモンドを気遣って、試合に注目するよう促した。

 これで少しでも気がまぎれるといいのだが、と何故かレイモンドに気を使いながらロディマスは試合を観戦した。



 スザンヌとアリシアは、二人でキャッキャしていた。 


 そもそもアリシアはいつの間に、このスザンヌと仲良くなったのか。

 そしてアリシアのこのコミュ力はなんなのかと、出会った当初のコミュ障っぷりはどこへ行ったのか。

 ロディマスはそんな疑問を抱きつつ、考えても分からないので試合を眺めることにした。



「魔法使い同士の戦いは見ていられんな。しかもあの銀色は何故こちらをチラチラ見ていたのだ」


「武器と鎧に振り回されてるわ。あれじゃダメね。あと銀色の子は、何なのかしら、ね?」


「そうだな、何なのだろうな。しかしアリシアよ。・・・、近くないか?」


「そんな事ないわね」


「いや、ちけーって!!なんで二人だけ肩寄せて座ってるのさ!?隣にいたの、俺だよね!?なんでいつの間にアリシアが隣にいんの!?しかも、眩しいくらいアツアツなんですけど!?」


「・・・、なら貴様もスザンヌとすればいい。これは、そう言うものだ」


「ア、ハイ、スミマセン。・・・、ロッディも苦労してんだな・・・」


「言うな・・・」


 ロディマスとレイモンドは、お互い視線を交錯し、同時に肩を落としてため息を吐いた。

 そして徐々に本性を現しつつある、と言うよりも取り繕わなくなってきたレイモンドにも呆れた。


 レイモンドは完全に子供である。

 言葉遣いもなっておらず、空気も読めない。


 これが二年後には『勇者』候補筆頭となっているのだから、そちらの方もまるで意味が分からなかった。


 しかし、そんな事を考えていたロディマスの頭は、次の瞬間に真っ白になった。


「へぇ、それはどういう意味カシラ? あ・な・た ?」


「レイも一端(いっぱし)の口を聞くようになったものね」


「あ、ああ・・・アリシ・・・ア・・・サン?」


「ロ、ロッディ・・・お、俺・・・・・・ガチガチガチガチ」




 ロディマスとレイモンドが余計な口を叩き婚約者たちを怒らせている傍らで、男子生徒たちがポツリと呟いていた。


「あそこだけ、なんか空気が違う」

「スザンヌ様って、あれだろ?子爵家の令嬢で、第三騎士団長の娘さんだよな?」

「アリシア様なんてベルナント家だぞ。最前線に四人も息子を送り込んでいる、あの」

「ああ。『笑う凶器』に『泣く凶器』、『叫ぶ凶器』に『爆ぜる凶器』の四兄弟だろ?とんでもない家系だ」

「何それ!?怖いな」

「そうだな、関わりたくないな」



 聞こえているぞ!!と叫びたい気持ちを抑えながら、ロディマスは彼女たちの機嫌を取った。


「いや、今は訓練中だ。弛んだ空気ではいかんのだ!!だから、ほら、頭を撫でるから機嫌を直せ!!スザンヌも、ああ、そうだ!!そいつは今、照れただけだ!!」


「スザンヌの事はレイモンドに任せなさいよ!!それに、どうせなら抱きしめて!!」


「どうしてそうなる!!そもそも鎧を着ているのにそんなもの、意味がないだろう!!」


「気分の問題よ!!」


 レイモンド側も似たようなもので、少女たちの押しが強すぎて二人とも参っていた。

 そして、ロディマス達は無意識に王子に救いを求め、視線を投げていた。



 すると、冷たい視線を寄越していた王子が、ロディマス達に言い放った。


「よし、では次は君と、君だ。最後はレイモンドとロディマスにする。ではそこの二人、来るように」


「よっしゃぁ!!」


「何故だ!?」


 拳を振り上げて喜んだ前者がレイモンドで、四つん這いになりうな垂れているのがロディマスである。

 その姿を見ながら、命拾いしたわね、と捨て台詞を吐いてアリシアは武器が積まれた山へと向かった。


 むしろ次世代最強候補のレイモンドと対戦するこのカードこそ、最も命がない選択肢だった。

 これなら手加減を覚えたアリシアの相手をしていた方がましだったと、ロディマスはがっかりしていた。


 アリシアもロディマスの事情は知った上でのセリフなので、つまり、レイモンドにボコボコにされろと暗に言ったのである。


「恐ろしい女だ」


「ああ、まったくだ」


 未来において不倶戴天の敵同士だった二人は、いつの間にか、意気投合していたのだった。




 アリシアとスザンヌは淡々と武器を選び、手に取った。

 アリシアは細剣を、スザンヌはハンマーを数度振り、重量を確認していた。


「そうか、ハンマーの方だったか」


「何がだ?」


 スザンヌの得物を見て、ロディマスはそう呟いた。

 その呟きを聞いたレイモンドにそう問われたが、どう説明したものかと悩み、適当にでっちあげることにした。


「騎士団の噂は俺も耳にしていてな。あの第三騎士団長の娘とやらが、ハンマーか杖かを使うと聞いていたが、どちらだったか分からなかったのだ」


「あーそっか、スザンヌは双子だしなー」


 初耳すぎてロディマスは思わずレイモンドを見てしまうが、その視線を受けたレイモンドは勘違いをしたようだった。


「あ、ああ。その双子の姉ポーラも、俺の婚約者なんだ・・・」


「そ、そうか」


「うん・・・」


 一瞬、リア充爆発しろ、と叫びかけてやめた。

 婚約者の事を告げたレイモンドに哀愁が漂いすぎていたからである。


「貴様も、いや、これ以上は言うまい。試合を見よう」


「うん・・・」


 しっかり尻に敷かれているレイモンドに同情しつつ、ロディマスは気を紛らわせる為に、試合を見ることにした。



 そして試合の方はと言えば、さすがに半分の力で振るわれているので派手さはなく、また、二人ともかなりの実力者だからか、見どころは一切ないまま終わっていた。


「どうだったかしら?」


「ノーコメントだ」


「なんでよ!!」


「いや、二人が強すぎて、俺もロッディも言う事ないって。はぁ」


「なんでレイは落ち込んでるの?」


「聞いてやるな」


「そ、そう。それにしてもあなたたち、随分と仲良くなったのね」


「気のせいだ」


 こういう方向での仲良くなり方は全く想定外であり、ロディマスにとっては大変に不本意である。


 まさか、お互いが同情しあって友情が芽生えるなど、ロディマスは男としてどうかと思ったのであった。



「さて、最後の対戦だが、ロディマスとレイモンド、君たちには皆の見本となってもらう」


「いやな予感しかしない」


「よっしゃ!!よっしゃ!!やっと体を動かせる!!」


 隣で大はしゃぎのレイモンドを見て、人選間違っていないかと王子に問いただしたくなったロディマスは、半眼で王子を見つめた。

 そしてその視線を受けて、そっと目を逸らした王子の態度に唖然とした。


「なん・・・だと・・・!?」



「いいか?君たちには寸止めをしてもらうが、力については8割だ。戦場における全力と言ってもいい」


「はぁ!?」


「キターーー!!」


「ロ、ロディマス・・・」


「・・・!?」


 あまりの事態に呆然としたロディマスに、アリシアがそっと近寄って囁いた。


「最後のお別れに、キスを」


「するか!!それに誰の最後だ!!」


 思わずの爆弾発言に場が静まり返る中、ロディマスは猛反発した。

 そう言うのはこういう場面で聞きたいセリフではないと、憤慨した。

 しかしその姿を見て、アリシアは微笑んだ。


「うん、その元気があるなら大丈夫ね」


「ぬあ!?」


 そしてロディマスの背中に張り手を食らわしたアリシアは、ロディマスに言った。


「行ってらっしゃい!!」


「・・・、ふう。貴様と言う女は・・・」


「どう、いい女でしょ?」


「ああ、まったくだな。・・・、交代してくれたら最高なんだがな」


「しないわよ!!しまらないわねぇ・・・」



 呆れたアリシアに見送られながら、ロディマスは左手に小さな盾、右手にショートソードを持って戦場へと向かった。


「へぇ、それがロッディのスタイルか。それで俺を止められるかな?」


「貴様こそ、本来ならもっと大きな得物だろう?使い慣れない武器で大丈夫か?」


「ヘッ、俺は武器を選ばないんだよ!!」


「そうか。どうか、くれぐれも、寸止めをしろよ?」


「え?あ、あー。がんばる!!」


「二人ともいいな?では、始め!!」


「いや、そこは寸止めするって断言しろよ!!」


「うりゃあああああ!!」



 こうしてロディマスの物理的な試練は始まった。

 この結末が分かり切った勝負がどうなるのか、ロディマスは迫りくる危険を肌で感じつつ、何事もなく終わるように今日一番の努力をするハメになるのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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