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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
76/130

73



 訓練実習のその日。

 ロディマスは屋内訓練場へと、ミーシャを引き連れて来ていた。

 普段、実家で鍛錬を行なうような動きやすい服に、木鎧をロディマスは装着している。最初の訓練なのだし、可能な限り機動性を重視し、それから師事を仰いで最適化しようと考えたからである。

 そしてそれは皆同じだろうと、タカを括っていた。



 しかし、訓練場に入って見たのは、周りの者たちの全員が金属鎧をまとっていた姿だった。


「なんだと!?」


 さすがに全身鎧の者はいないが、それでも全員が最低でも金属の胸部鎧を付けていた事に、ロディマスは驚きを隠せなかった。

 まさかこの場にいる全員が剣士なのかとロディマスは思ったが、しかし、よく見ればフラついている者も見られたので安堵した。


 恐らく彼らは魔法使いなのだろう。


「しかし、無理をして重い鎧を着るなど、あり得んな。非効率的だ」


「ロディマスは商人だけど、ここにいる人たちは騎士を目指しているの。だから無理にでも着こなせないといけないのよ」


「そう、か・・・。しかし貴様はいきなり現われるな、アリシアよ」


「あなたがいつも、私がいるタイミングで独り言を言っているからじゃない」


「いや、ミーシャに話しかけていたのだが?」


「そうなの?ミーシャはさっきから向こうを向いていたけど?」


「何!?おいミーシャ、どういう事だ」


「ナンノコトデショウカ」


 しれっとした顔でとぼけるミーシャに、ロディマスは愕然とした。

 どうやら本当に今の今までただの独り言を発していたようだと気が付き、頭痛がした。


「はぁ。まぁいい。ところでアリシアよ」


「何よ?」


「そのヤる気満々な装備は、なんだ?そして、その色はなんだ?」


 アリシアの装備は、胸部鎧に篭手、足も金属製の膝まであるグリーブ。腰にはレイピアを差しており、右手にはヘルムを持っていた。

 それ自体は割と許容できる範囲だったが、問題は見た目であった。


 その色、なんと青色。

 はっきり言えばあり得ない色で、この色を鎧で表現するならば塗料は必須。

 そして塗料とは、使えば剥がれていくもので、つまりその鎧の整備には、ものすごくお金がかかると言う事でもある。


 貧乏貴族なのに、何故にベルナント家はこんな鎧をアリシアに持たせたのか。


 そんなロディマスの心配をよそに、アリシアは胸を張って答えた。


「どう?あなたのお抱えの鍛冶屋さんが作ってくれたの。『アポイタカラ』と『黒トゥレントガラス』を使った、全く新しい素材で出来た新しい鎧よ?ものすごく安く作れたからって、もらっちゃったの」


「ドミンゴか・・・。ならその色は地金の色なのだな。しかしヤツは一体何をしてくれているのだ・・・。黒トゥレントガラスの研究をしてくれるはいいが、勝手に他人に渡してもいいとは言ってないぞ」


「それはそうよ。だって私、他人じゃないから。ウフフ」


 そう言って笑うアリシアに、人間開き直るとここまで変わるのかと呆れた。

 一晩経ち、ロディマスも落ち着いたのでアリシアの挑発に乗ることもなかった。


 そしてアリシアから目を逸らしつつ、鎧について考えたが、ロディマスはそこである疑問が湧いて出た。


「『アポイタカラ』は魔法に弱い。『黒トゥレントガラス』は衝撃に弱いはずなのだが、その二つを組み合わせて、本当に鎧としての役割を果たせているのか?」


 そう言うロディマスだが、好奇心に負けてアリシアの鎧を指で突いていた。


 そうしたら、ロディマスの指にプニプニとした感触が返ってきた。


 プニ、プニプニ、プニ。



「は?」


「あははははは!!これ、面白いでしょう?なんでも、魔力を通すことによって柔らかくなって、衝撃を吸収するんですって」


「なんだと!?」


「魔法を受けても靴から地面へ逃がすの。重すぎる黒鉄なんかよりも、とても使いやすいわ!!柔らかいから、動きもほら、こんなにも自然なのよ!!」


「なんだそれ、無敵ではないか!!」


 ロディマスがそう叫んでしまうのも無理のない超性能に、しかしアリシアは肩をすくめていた。


「そうでもないわね。一点突破の突きには脆いの。それでも鉄製の鎧並の強度はあるけどね」


「それでも、そんなもの、反則だろう・・・」


 まるで理想のゴムで作った究極の鎧のようだと思ったロディマスは、では何故己には用意されていないのかと思った。


「それ、俺の分はないのか?」


「ないわね。そもそもあなた、着れないと思うわよ?」


「何故だ?」


「魔力の消費量がすごいらしいの。私以外に着れたのは、あなたの所のキース団長だけよ。アンダーソンは干からびかけてたわね」


「さらりと恐ろしいセリフが聞こえたが、そうか、それなら仕方がないか」


 己の代わりに実験台になってくれたアンダーソンに黙とうを捧げつつ、ロディマスはアリシアを再度見た。

 アリシアの髪は上でまとめてあり、普段とは違う様子だったが、ロディマスは何も言わないことにした。


 別にバンダナにショートポニーの髪型がヒットしたからではない。


 そうロディマスが心の中で言い訳をしていると、訓練場の扉が開いた。

 そこから現れたのは、使い込まれた騎士団の鎧を着た、精悍で屈強な男だった。


 そして、王家特有の金髪だった。




 その姿を、特に髪の色を見て周囲がざわめきだした所で、その男が口を開いた。


「俺が、諸君らの教官である、王国騎士団第七騎兵団所属、副団長ギルバートだ。見ての通り、王家の者だ。巷では、第四王子と呼ばれているな」


「なんだ・・・と?」


 今年は入学者の中に公爵家の人間、アリシアがいる以上、それなりの地位の人間が教官として抜擢される。それはロディマスも聞いていたので、教官が大貴族であった点については驚きはしなかった。

 しかしそれがまさか、最前線で戦線を維持している第七騎兵団の、それも副団長で、更に王位継承権第六位の王子が出てくるなど夢にも思わなかった。

 予想の斜め上どころか、ロディマスの主観からすると、ヘタをすれば異世界を飛び越えるよりもレアで異常な事態である。


 当然、周囲の者たちも同じように動揺していた。



 そんな生徒たちの動揺を見た王子は、しかし、皆が落ち着く暇を与えずに、一方的に指示を出して来た。


「さて、早速だが諸君らには整列を行なってもらおう。並びは、低い者から前へ、高い者は後ろへ。この砂時計が落ち終わるまでにやり給え。では、始め!!」


 そして唐突に始まった指示に戸惑いを隠せない一同は、とにかく王子の命令に逆らっては命がないと感じて即座に行動した。


 お前はそっちだ、君は向こうだとそれぞれが乱雑に動き回る。従者は基本的にサポートでしかないので、壁際に寄っている。ミーシャもそれに倣い、脇に寄った。

 そして、ロディマスとアリシアは、全体を見ると背の高い方だと気付いたので、最後の方で動くべきだと考え動かないでいた。

 しかし、結果的にはその気遣いも全くの無駄に終わった。


「終わりだ。さて、諸君らはこれが整列と呼ぶものだと、俺に主張するのか?」


 予想以上の混乱で、小さい順どころか、各列が真っすぐにさえなっていなかった。その惨状を見て、王子は鋭く眼光を飛ばした。



「諸君らには罰を与えなければならん」


「え!?」


 唐突の指示に、滅茶苦茶な内容、そしていきなりの罰にさすがの生徒たちも面食らい、反論しようとした。

 しかしそれを王子は手で制した。


「命令に従えなかった以上、罰は必要だ。罰は、そうだな。このグラウンドを10周だ。さぁ行き給え」


「そんな!?なんでですか!!」


「命令だ、行き給え」


「お、おい、王子様に逆らっちゃまずいって」


「で、でも・・・」


「王子ではなく教官と呼べ。ではさっさと行くように」


 そう冷たく言い捨てて、王子は腕を組んで生徒たちが走り出したのを見届けた。




 ロディマスは走りながら、ポツリと感想を漏らした。


「なるほどな。理不尽な状況での理不尽な命令に慣れさせる為か。あの王子、中々やり手だな」


「はぁ?どういう事よ。と言うか、私、納得いかないんだけど」


 ロディマスの呟きを聞いて、アリシアが反論するも、それに対する答えを持っていたので、ロディマスはすんなりと答えられた。


「軍隊と言うのは、上司の命令が絶対だ。それは、時に理不尽な物も多い。この場で死ね、と言うような命令もな」


「何よそれ」


「命令した上司が無能であれば、無駄死にもあるだろう。だが、例えば、ここで自分たちが踏ん張って敵を食い止めたら、背後にいる民間人の避難が完了する。そう言う状況なら、どうだ?」


「え?それでもイヤだけど?」


「ヲイ」


 思わずそんなアリシアを半眼で見つめてしまったロディマスだが、その視界の先に王子が見えたので慌てて前を向いた。


「だって、全部蹴散らせばいいじゃない?」


「そうか、そう言う意見もあるな。だが、もしその敵が貴様を恐れて散り散りになったとしたら、どうする?」


「蹴散らすわ!!余すことなく、蹴散らすわ!!」


「例え話なのだから、同意しろ!!あと、蹴って散らしたら意味がないだろ!!とにかく、蹴散らすな!!」


「分かったわ。もう、わがままなんだから」


「どっちがだ・・・」


 ロディマスの呟きに、近くにいた男子生徒も頷いていた。

 どうやら己の感性は特に外れてはいなかったのだと分かり、少しだけ安心した。



「話を戻すが、大体において軍ではそう言う大きな状況を知れるのは指揮官クラスだけだ。俺らのような末端には、ただここで敵を食い止め、死守しろ、としか命令されない」


「そう、それで?」


「貴様が敵を食い止め、その場を死守するのは構わんが、力のない者たちにとっては、どうだ?」


「なるほどね。それがさっき言ってた『理不尽な命令』って話に繋がるのね」


「そうだが、貴様、途中から分かっていたな?」


「何の事でしょうかねー?」


「クッ、一体何の理由があってこんな、っと」


 ふざけた様子のアリシアを見たが為に前方への注意がおろそかになっていたロディマスは、目の前の男子生徒に危うくぶつかりかけた。

 その男子生徒は進みが遅く、その上、ふらついていた。

 その理由は一目瞭然で、重すぎる鎧に振り回されていたのだった。


 見れば他にも二人ほど同じ有様でへばっていた。


「おい、貴様ら、何をチンタラやっているのだ。早くその鎧を脱いで追いつけ。周回遅れなど洒落にならんぞ」


「す、すでに・・・遅れて、ハアハァ、いるんだ・・・」


「なんだと!?」


 本来なら放っておくロディマスだが、今は軍事訓練中である。

 前世でのとある映画の知識からすれば、ここで仲間を見捨てるのは最悪の展開を招くだろう。

 そう思ったロディマスは、急ぎ彼らが鎧を脱ぐのを手伝った。


「おい、いいから脱げ。遅れたら最悪全員が追加で罰を受けるぞ!」


「そ、それはダメだ・・・ハァハァ・・・」


 ロディマスに焦らされた面々は、慌てて鎧を脱いでいったが、そこに王子から声がかかった。


「脱ぐのはいいが、その鎧は持っていくように。置いていくことは許さん」


「なんだと!?」


「なら、私が持っていきましょうか?」


「いや、アリシア一人では3人分は持ちきれまい。その所為でアリシアが遅れては本末転倒だ」


「でも一人分ならいけるわねね。その子、女の子だしそれは私が持つわ。あとの二つはお願いね、あなた?」


「いや、無理だから」


 思わず素で返したロディマスだが、悩むだけ時間を余計に食う。

 そして走っている他の面々は、誰もこの集団に声をかけてこなかった。


「あいつらめ。連帯責任と言う言葉を知らんのか」


「何なの、それは?」


「・・・。簡単に言うと、一人の失敗で全員が罰せられると言うものだ」


「あー、さっきの話の続きみたいなものね」


「そうだな。まともに出来ている者にとっては理不尽ではあるが、軍隊とはそう言う組織だからな」


「へー、そうなんだ。なら、残りは俺が持つよ。さぁ、行こうか!!」


「は?」


 唐突に話に割り込んできた少年が、これも唐突に地面に転がっていた鎧二つを持ち上げた。

 鉄製の胸部鎧とはいえ、それでも一つ10kgの代物を、その少年は片手に一つずつ軽々と持っていた。

 そして颯爽と走り出した。


「はぁ!?って、いかん、貴様ら、行くぞ!!」


「あ、ああ。すまん、本当に、すまん」


「助かりました。本当にあのままだとどうなっていたか」


「いいから話をする前に走れ。すでに2周遅れだ!!急ぐぞ!!」


「はい!!」


 そう言ってロディマスは彼らを急かしつつ、鎧を二つ持ちながらも軽々とステップを踏むかのような足取りで駆けていく少年の後姿を見た。


「まさか、こんな所にいたとはな。探す手間が省けたと言えばいいのか・・・」


 己が、かの男を見間違う訳がない。

 未来の自分にとって、ミーシャの次に因縁の深い人物。


 爽やかな黒髪のイケメン。


 『勇者』レイモンド=フォン=エルモンド



 ロディマスはそんな男と、偶然の邂逅を果たしたのだった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。

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