表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第一部 実家編
59/130

56


「男爵よ。恐らくこいつがトゥレントだ」


 そう言って周囲の木と代り映えしないその木を、まるでドアをノックするかのような気楽さで叩くロディマスに、モンタナが目を剥いていた。


「まさか、もう判別法を確立されたのですか!?」


「それが合っているか、今から答え合わせだ」


 念の為、これから実験すると仄めかして、密かに領主からの了承を得たように周囲に見せかける。

 さすがのモンタナも先の言葉に動揺していたようで、何か反論してくることはなかった。


 計算通り。


 口には出さなかったが、ロディマスの顔には月も真っ青なほどの笑顔が浮かんでいた。



「では行くぞ。【ウォームブロウ】!!」


 そう言って、目の前の自分の2倍以上の大きさを誇る木に、ドライヤーばりの温風を吹かせた。


 しかし、効果はなかった。


「火力が足りん・・・」


「当然かと」


「ぬぅッ!?」


 冷たく吹いた風と共に、冷たいミーシャの突っ込みが入った。


 だが、それもそうであるとロディマスも冷静になった。

 ハンディタイプのドライヤーで、これほどの大きさの木が温まるほど温風を吹かせ続けるなど、正気の沙汰ではなかった。



「ではライル、改めて、やれ!!」


「畏まりました」


 結局従者二人に頼る形となった。

 二人はロディマスがやることを察知して事前に準備を行なっており、瞬く間に目の前のトゥレントらしき木の上部は木の枝などでデコレートされた。


「まさか森の中で火を使うとは。皆、延焼には気を付けて欲しい!!」


「では、参ります」


 モンタナが周囲に警戒を呼び掛けた所でライルが火打石に手をかけ、デコレートした木の枝に着火した。

 それと同時に高さ3mになる木の頂点から飛び降りたライルに、なんで着地で何も音がしないんだとロディマスは改めてこの執事の身体能力の高さに驚き、そして本題のトゥレントらしき木を眺めた。


「まさか・・・そんな!!しかし、あのトゥレントは火に強いはずでは!!何故ああも苦しんで・・・」


「やはりな」


 一見何の変哲もなかった木が、上部を燃え上がらせた途端に、突如としてうねり出した。その姿はまるで身もだえしているかのようで、明らかに自分がトゥレントだと自己主張をしていた。


 そんな完璧な結果に、ここは当然ドヤ顔だろうとロディマスが胸を張れば、何故か両脇にいた従者二人がドヤ顔をしていたので、己は真顔になってしまった。

 なんだか手柄を横から取られらような気分になりながら、ロディマスはトゥレントを見つめ、呟いた。


「予想通りだ。アレは恐らく寒くて休眠していただけなのだろう。それが、急に暖かくなり驚いて目覚めただけだ」


「寒くて休眠・・・、冬にトゥレントを見かけなかったのは、ヤツらが冬眠中だったからなのですか!?」


「つまりは、そう言う事だな。男爵よ、魔物と言う存在は、いきなりは発生しない。今あるものが徐々に魔力に蝕まれ、変異していくのだ」


「そうだったのですか!?」


 かの『黒の英雄』が生きた時代よりも、今は遥か未来である。

 『黒の英雄』が治療法を示した『魔過症』も、それの差別的な名称である『魔獣化病』も、時の流れに埋もれてしまった。『黒の英雄』の本全般が禁書扱いなので致し方がない事ではあるが、偉人の努力が後世に受け継がれていない点は嘆くべきだと、ロディマスは驚くモンタナを見てそう思った。


 なお、『黒の英雄』が生きていた当時では仮説に過ぎなかったその魔物化を、どこかの誰かが実際に実証していたのを知ったのは出発間際の話であった。

 その資料はロディマスの家にはなくロディマスは特に気にしてはいなかった。しかし、アリシアが興味を持ち、調べて、該当する資料をアリシアの家で探し当てていたのであった。


 ロディマスはその時を思い出す。



□□□


「ねぇ、ロディマス。私も『魔過症』について調べたの」


「そうか。それはともかく人のベッドに乗るな。俺はお寛ぎ中だ」


「あなた、妙な所でケチ臭いんだから・・・。いいじゃない!!広いんだし、二人で乗っても問題ないでしょ?それでさっきの話の続きなんだけどね、ほら、これ」


「ご、強引なヤツめ。言っても無駄か・・・。で、なんだ?それは貴様の家の本か?公爵家の秘蔵本なぞ見たら罰せられぬだろうな・・・。ぬ、なんだと!?」


「ね?魔物化とその原因。魔力が過剰に貯まり引き起こされるのを証明したってあるのよ」


「症状はまさに『魔過症』で、魔物の発生は『黒の英雄』が予見していた通りだった訳か」


「ええ、そうね。幸いにも人は魔物にならないってあるけど、でも、怖いわ」


「貴様の方が怖いがな」


「なんですってぇぇぇ!!」


かだだうぉ(からだを)うばばばば(ゆばばばば)・・・・」


「やりすぎちゃったわ!!ちょっと、大丈夫!?・・・、じ、人工呼吸をするべきかしら・・・?」


「息はあります。アリシア様はどうかお下がりください」



□□□


「はぁ」


 最後の方は薄れゆく意識の中でなんとなくそんな会話があったような気がしただけだが、それでもアリシアに「溺れた訳じゃない!!」と突っ込みたかった。ロディマスはこの直後に気絶したので、そんな余裕はなかったのだが。


「申し訳ありません。私が不勉強でした」


「いや、今のはそういう意味ではない」


 思い出しため息を吐いていたら、モンタナがうな垂れていた。

 そのうな垂れたモンタナに一言違うと告げてから、火が消えたトゥレントを見た。


 トゥレントは、己の身に何が起こったのか分かっていないようで、しきりに左右を見回すような動きをしていた。

 そして徐々に動きが鈍くなっていくのを見て、ロディマスは慌てて指示を出した。


「ライル、ミーシャ!!やるぞ!!」


「はい!!」


「お任せ下さい。ミーシャには負けませぬ!!」


「何故ライルがミーシャに張り合おうとしているのだ!?」


「私めも、頭なでなでして頂きたく!!」


「なんだそれは!?貴様、変態か!!」


 いつの間にか己の知らぬ所でライルの新たな一面が開発されてしまったようだとロディマスは頭を抱えたが、即座に切り替えた。

 トゥレントは、動きを鈍くしたが未だにあの剛腕が如き枝は健在である。

 いかに従者二人が強くても、あれの一撃を受ければタダでは済まない

 油断をすれば、いかにあの二人と言えどもケガを負うだろう。


 ロディマスは気合を、入れ直す。


「二人で!?無茶です!!ロディマス様、止めて下さい!!」


「いいや、三人だ」


 そう言ってロディマスは両腰からトンファーを抜き放ち、長手方向を手に持つ杖スタイルで構えた。

 二刀流ならぬ二杖流である。

 もっとも、これで殴り掛かる訳ではないので、見かけだけである。


「見ているがいい。俺たちがあっさりとトゥレントを倒すさまを!!」



 ロディマスはそう言うや、弱点であろう属性の魔法を解き放つ準備をする。

 そしてタイミングを合わせる為に、従者二人に声をかけた。


「行くぞ、ミーシャ!!ライル!!」


「ご主人様の想定外の事態が起こるのも想定内です」


「お坊ちゃま、フォローはお任せください」


「何故二人とも失敗する前提なのだ、うんこちゃん共め!【アイスボルト】!!」


 上位属性である氷の初級攻撃魔法【アイスボルト】がロディマスの杖から各二本ずつ射出された。

 太さはロディマスの指ほどで、とてもではないがトゥレントの堅い体を貫けるとは思えない大きさと勢いである。

 険しい表情をしたモンタナがそんな皆の心境を如実に物語っており、氷針の行方を皆が目で追っていた。


 しかし、それはロディマスの狙い通りにトゥレントの根本に深々と突き刺さった。

 更に追加効果として、刺さった周囲を冷やしていく。


「なんと!?しかし、どうして!?」


「ミーシャ、ライル!!倒す方向に気を付けろ!!」


「無論です。ミーシャ、こちらを削ぐ」


「了解です」


 そう言ってアサシン師弟二人は右側へと周り、ライルが両手に持った短剣二本で深く下から斜め上へと削り、ミーシャが水平に持った短剣で一気に薙いで駆け抜けた。

 二人が通った後には、木の半ばまで三角に切り取られたトゥレントがおり、倒れるのも間近と言った様子であった。

 しかしそれでもわずかにぐらつくのみで、トゥレントが倒れることはなかった。


 従者二人が戻ってきて、申し訳なさそうに告げた。


「お坊ちゃま。【アイスボルト】が刺さっていた前面部は柔らかかったのですが、背面部が堅かったので一太刀で倒すには至りませんでした」


「前に倒すなら出来ましたが、それでは危険ですのでやめました」


「そうか、前から魔法を放ったからな。ならばもう一度、今度は側面から行なうか」


 多少の危険はあるが、トゥレントは中途半端に起きたからか依然として動きが鈍い。

 だからか、ユラユラと揺れるだけで、先ほど獣人たちが戦っていたトゥレントのような激しい動きがない。その為に自爆をしてくれない。


「危険です!!あとは我々だけでどうにかなります!!」


「あっさり倒すと言ったのだ。それに、ここで見本にならなければ何の意味もないパフォーマンスになってしまう」


「いえ、もう十分にすごいのですが・・・」


 モンタナが何やら恐ろしい物を見るような目でロディマスを見ていたが、下に見られるよりはいいかと放置した。


「男爵様。ロディマスは自分に厳しいお方です。こうなっては何を言ってもお聞きにならないのです」


「君は、ミーシャと言いましたか。ええ、そうでしたか。確かに、そう言う方のようですね」


「フン。では行くぞ。次で確実に仕留める」


 そう言ってブルブルと震える電池切れ寸前のロックンフラワーのような動きをしているトゥレントにトドメを刺すべく、ロディマスは先ほどから90度の角度となる位置に移動した。

 そして狙いを定めて、今度は二本の氷の針を打ち出した。


「行け!!【アイスボルト】」


 今度も狙い通りに根元に命中し、その周囲を冷やしていく。


 しかしそこで、予期せぬ、あるいは想定通りにアクシデントが発生した。


「何!?もう倒れるだと!!しかもこっちに!!ちょっと、ちょっと待てええええ!!」


 まるで「あ、もうだめー」と言わんばかりの体勢でトゥレントがロディマスの方へと倒れてきた。

 距離は取ってあるので直撃はしないが、トゥレントの巨体が地面に激突した衝撃で、落ちていた木の枝や土、石や落ち葉が勢いをつけてロディマスを襲ってきた。


「ぬぅぅぅ!!んぬぅぅぅぅぅ!!!」


「ご主人様!!って、ライル様!?」


「お坊ちゃま、お助けします!!」


「ブベッ!!落ち葉が口に・・・ベベッ、って、おいライル!!どうして貴様が俺を担ぎ上げているのだ!!それとお坊ちゃまと呼ぶな!!」


「畏まりました!!」


「全然、畏まっていない!!


 畏まると言う言葉の意味は、相手を敬い慎んだ態度を取ると言う意味である。


 ライル、全く慎んでいない!!自重しろ!!

 と、心の中だけで叫び、ロディマスはモンタナ男爵の元まで運搬された。


「クッ。とにかく今は口を洗う。【ウォーター】・・・、ガラガラガラ、ンベッ」


「は、はぁ。ロディマス様、ご無事だったのですね」


「あ、ああ。男爵よ。締まらぬ最後ではあったが、どうだ?この通りトゥレントなど目ではないだろう?」


「そ、そうですね。しかしロディマス様ほど優秀な魔法使いなど、そうはいないかと思いますが・・・」


 てっきり喜んでくれるかと思っていたモンタナの反応が妙で、思わずロディマスは問うてみた。


「俺は優秀ではない。攻撃魔法もアレより強い物は使えん」


 そう答えると、腕を組んで首を捻っていたモンタナが、重々しく告げた。


「僕も博識ではありませんが、火、風、氷、水の属性を扱える魔法使いなど、聞いたこともありません・・・」


 え?そこなの?とロディマスは己の意外な才能を今、知った。

 ついでに雷も使えますと言ったら、どんな反応をするのだろうか。

 少し怖くなり、ロディマスは黙ることにした。


「それも氷は上位属性。我が領にも使い手はおりますし、さほど珍しい属性ではありませんが、その者たちは大抵氷と水しか扱えないのです。それが、火や風と言った全く異なる属性も扱えるとは・・・、さすがとしか言いようがありません」


「しかし、氷にしてもあの威力だぞ?特別に効くあの黒いトゥレントだったからこそであって、並みの魔物にはまず抵抗されて霧散する」


「そ、そうですね。確かにそうなのですが・・・」


 なんとも歯切れの悪いモンタナの言葉ではあるが、とりあえず問題なのは氷属性の魔法を使える人材の方だろう。

 ロディマスは自分をあまり詮索されたくないので、矛先を目先に向けさせた。


「俺の事は今はどうでもいい。それよりも、数名の火魔法と氷魔法の使い手を集め、先の手順で獣人たちに下を切らせば、今よりも早く、今よりも楽に、そして何よりも今よりも危険が少なく討伐出来るのが、これで証明できたな?」


「そ・・・、そうです!!そうですね!!本当にロディマス様にはなんとお礼を申し上げてよいのか・・・。これで民が傷つく機会も減ります」


「そうだな。それはともかく、爺、そろそろ降ろせ」


「畏まりました」


 そしてようやく本当の意味で畏まったライルにゆっくりと地面に降ろされ、ロディマスは一息ついた。


「全く、貴様は暴走するとアレだな。ポンコツだな。あと頭を差し出してくるな、なでなではしない」


「そんな!?」


「あれでされると思ったのか!!人を小麦の入った袋のように運びよって」


「では次は、いわゆるお姫様抱っこで・・・」


「そうなれば二度と口を聞かん」


「などとは一切考えておりませぬ」


「そうか・・・」


 なんだか張り切りすぎているライルの相手にするのがすごく疲れたと、ロディマスはライルから視線を外した。

 そこにミーシャが寄ってきて、頭を差し出してきた。

 だから思わず、撫でてみた。


「なんですと!?ミ、ミーシャ・・・あなたと言う者は・・・」


「ライル様。ロディマス様は猫なのです。強く寄れば引いてしまうのです。そっと近づかねばなりません」


「そ、そうだったのですか・・・。クッ、私もまだ未熟ですね」


「師弟揃って何を言うか・・・」


 そして相変わらずこいつらは当人の目の前でこういう話をするのだなと呆れ、ロディマスはミーシャの頭から手を離した。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ