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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第一部 実家編
48/130

45


「あ、ロデ坊ちゃん!!ミーシャ、ありがとよ!!」


「ロディ君~~~、働くって、大変だよ~~~」


「ふん、当然だ。もう少し耐えろ。俺が多少マシにしてやる。あと、俺は泣かんが倒れるな。ミーシャを利用して各員、順次休憩を取らせる。もう少し待て」


「はーい。って、え?ロディ君も手伝ってくれるの!?」


「そっちはミーシャがいれば十分だ。俺は、こっちを使う」


 パン工房の面々に声をかけた後でロディマスが向かったのは、食堂用に併設されたもう一つの厨房である。

 そこには様々な調理道具と、結局オープンには間に合わなかったものの、日持ちのする野菜や果物が貯蔵されたスペースがあった。

 魔法が使えるこの世界なので、氷で冷やすタイプの原始的な冷蔵庫は一般的である。それの大型版を設置してあるので、かなりの量の食材が入っている。


「このまま腐らせる可能性もあったが、ならばこそ逆に都合がいい」


「ねぇ?何するの?」


 そう独り言を呟いていたロディマスは、急に声をかけられて驚いた。


「な!?・・・、アリシアか。ここは厨房だ。そんな鎧姿で入ってくるな」


「え?なんでよ!!」


「ふざけるな。汚れた姿で入れば、食材が痛み、あるいは病気の元となる。それを人に食わすなど、この俺が断じて許さんぞ」


「う、そ、そうなの。思ったよりも真剣なのね。ごめんね」


「ふん。貴様はそこで座って待っていろ」


 そう言ってロディマスが食堂の椅子を指差せば、素直にアリシアは従い席に着いた。


 それを見届けることなくロディマスは手を洗い、野菜と果物を数種類取り出してまな板に並べ始めた。

 ドミンゴに作ってもらった特製の包丁を取り出し、野菜と果物の皮を剥いていく。

 何個も何個も剥いていき、山のようにボールに積み上げていく。

 粗方皮むきが終われば、次は縦二つ、もう一度二つと4つに切り、中の種をスプーンで取り除く。


「あなた、料理が出来たのね」


「ただ皮を剥いて種をほじるのが料理というのならな」


「え?違うの?」


「ミーシャが聞けば憤怒するぞ」


「うぇ!?そ、そうなのね」


 お嬢様はさすがに料理をしたことがなかったようで、ただただその姿を興味津々に眺めるばかりだった。

 そんなしおらしいアリシアの様子に、これは手間がかからなくていいと気分が乗ってきたロディマスは次々と下処理を行い、ボール10杯分の処理を終えて満足していた。


「よし、第一陣はこんなものだろう」


 そのタイミングで、先ほどのパンが焼けました、とのミーシャの声を聞き、もう30分経ったのかと驚きつつも一刻も早く仕上げるべく動き出した。


「これを潰して、ふぬっ、ふぬっ、ふぬっ」


「坊ちゃん、外の整理は終わりましたよ」


「何?なら手の空いた者を一人、こっちに寄越せ。着替えは小屋にあるのを使え。身体も清潔にしてからこいと伝えろ」


「手が空いてるって、たぶん俺ですよねぇ」


 そう言ってアンダーソンがそのまま小屋へと行き、なぜかそれにアリシアがついていった。

 恐らく暇だったから遊びに行ったのだろうと楽観視したロディマスは、その他に必要なものを次々と用意していった。


 果物の中でも酸味の強いレモンと、甘みの強いオレンジは別にして、それぞれを布で包み、巨大な筒の上で搾り始めた。

 しかし腕力に自信のないロディマスは、早々に諦めた。


「この量でもつらいか。これは全部ヤツにやらせよう」


 力仕事は全部丸投げだとロディマスは考え、適材適所だと言い訳しつつ次を考えた。


 作りたいものは野菜ジュース的なもので、必要なカップの数もある。あとは何が必要かを考え、窓の外に広がる人の列を見て想像力を働かせる。

 そして想像力のなさに定評のあるロディマスは、結局何も浮かばないまま戻ってきた人物に作業指示を出す。


「よし、アーンダ、スン!貴様はこの布にくるまれたものを絞れ。これらを組み合わせてジュースを作る」


「はい、アンダーソンです」


「分かったわ」


「よし、各員速やかに・・・待て」


「ええ、やるわよ!!」


「これですね、よしっと。はー、すごいですね。露店で売ってるのは見たことあるけど、まさかそれを自分で作るようになるなんて」


「ちょっと、待て」


「はい、何か間違えました?あ、これ搾っちゃダメでした?」


「アンダーソンはいい。うむ」


「は、はい!!アンダーソンです!!間違いなくアンダーソンですよ!!」


「やかましい」


「はい・・・ギュー・・・」


 厨房で調理中に騒ぐなと言う意思を込めてアンダーソンを睨んだロディマスは、次にしれっと参加しているアリシアに向いた。

 アリシアは手慣れぬ様子で布を絞っており、乱暴にした為か布を引きちぎっていた。


「貴様は、あれだな。俺の想像をはるかに超えるな」


「うふふ、そう?」


「退場だ。いすに座って待っていろ」


「仕方がないわね。従ってあげるわ」


「邪魔しておいて、何様だ・・・」


 結局アリシアが破壊した分は、改めて布で漉す事になり余計に手間がかかったが、中のものはしっかりと砕かれていたので慣れれば戦力にはなるなとロディマスは考えてしまった。



「ロディマス様!!こちらにおいででしたか!!」


「む、村長か。丁度良いタイミングで来たな」


「はい、ありがとうございます。他の者は外で待たせておりますが、すごい盛況ぶりですね。さすがロディマス様でございます」


「世辞はいい。貴様らの中で皮むきが出来るものを数名用意しろ。いや、そもそも何人で来たのだ?」


「34名です」


「工場で作業している者以外の、ほぼ全員ではないか!!」


 緊急事態だと言うことで数人駆け付けてくれれば良い方だと思っていたが、まさか動ける村人のほぼ全てが来るとは思ってもいなかった。

 そこでロディマスは作業の手を止めて、少し考えた。


「村長よ、人を割り振る。まず、包丁を扱える者。皮むきが出来るなら十分だ。そして見かけが良い者。アンダーソンレベルであればいい。数人いたはずだ。そして裏方、体力のあるものがいい。そして銀貨までの計算が出来る者。そしてそれ以外の5種類に分けて報告しろ。優先度は先に言った順だ」


「はい、包丁を扱えるのは全員です。見かけが良いのは男女合わせて5人です。体力があるものは11人です。ただ、ここの工場の午後勤の者もおりますが、いかがいたしましょう?」


「午後勤の者は除外だ。それで7人か。結構いるな」


「はい。そして計算が出来るものは私を含めて8名おります。そして残りは10名です」


「その10人はなんだ。年寄り連中ばかりか?」


「はい。それとマニカですね」


「マニカも来たのか・・・」


 美少年でしかも純粋な、それでいて(したた)かでもあるマニカがいるのであれば、並んでフラストレーションを溜め込んでいる連中にあてるのも悪くないと、ロディマスは悪い考えが頭を過ぎり、実行することにした。


「よし、まず包丁を扱える者5人と見かけが良い者5人は全員、ここの制服を着用させろ。マニカは上とエプロンだけ着せろ。ヤツも表に立たせる。・・・、アリシア?何を見ている」


「はぇ!?・・・、うっ。えっと、その。何か、手伝えないかなって思って」


「むぅ。貴様、護衛は何処へ行ったのだ?」


「我らはこちらに」


「いたか。なら貴様らとアリシアで村人を更衣室まで案内しろ。おいアンダーソン、貴様もついていけ」


「はい!はい!はいはい!!アンダーソンです!!やりますよぅ!!」


 殊勝なことを言い出したアリシアと、何故か盛大に張り切っているアンダーソンに数人の村人を任せる事にして、ロディマスはさらに状況分析を行い、計画を練っていく。


「よし。体力があるものは倉庫から外用の椅子を持ってこさせろ。形は今あるコレよりもシンプルなものだ。一目見ればわかる。それと店先から近い順に、客に渡して座らせる。ただし全部渡すのではない、数脚残せ。並ぶうちに体調が悪くなってきた者に優先して渡す用だ」


「そのように伝えてきます」


「計算ができるものは、待機だ。あとで店先でも物を売れるようにする。やり取りは見た目がいいものに任せ、計算はそのものが行う。いいな?」


「はい、仰せのままに」


「残りの者は、ここで待機させろ。ここまで歩くだけの体力はあるのだ。店内で店員の給仕をさせる。では村長、アリシア、アンダーソン、護衛の騎士ども・・・」


 ロディマスは己の計画に穴がないかを何度も頭で反芻し、危機的状況をうまく切り抜けられるか考えた。そして、とにかく穴があっても無理やり押し通すと決意し、彼らに宣言した。


「この危機を乗り越える。皆の者、やるぞ!!」


「はい!アンダーソンです!!」


「分かったわ。仕方がないわね、本当にもう、もう。ふふふ」


「お嬢様、体調がすぐれないのであればおやめ下さい。お顔が真っ赤です」


「ちょっと!!私は大丈夫よ!?」


「人間、大丈夫と思っている時が最も危ないのです」


「・・・、貴様ら、やる気がないなら座っていろ」


「あるわよ!!もう、ヘレンが妙な事言うからよ!!ほら、行くわよ」


 護衛騎士の、どこかで聞いたことがあるようなセリフを聞きながら、どこの騎士連中も言うことは同じなのだなと呆れつつも、彼女らを見送ったロディマスは急ぎ次の支度に取り掛かった。


 厨房は3人程度ならまだ作業スペースはある。

 しかし今呼んでいるのは5人である。そこでロディマスは食堂の客席の一部を念入りに掃除して、特設の調理台とすることにした。


「新築なのに、すでに汚れるか。いや、考えても仕方がないな」


 そう独り言をつぶやいてから、アンダーソンとアリシアが残していった搾り汁を適当な割合で混ぜ、そこに水を足していく。さらに一匙の塩を混ぜ入れた。

 そうして出来た物を大型のピッチャーに入れ、スプーンで掬って味見をした。

 レモンの酸味とオレンジの甘みが疲れた体に染み渡るおいしさである。わずかに感じる塩味も甘さをうまく引き出している。

 そして赤みのある野菜で統一された色合いは、前世で言うキャロットジュースに近いもので、見た目もうれしい事になっている。

 ただしカップが木製なので、それが少しもったいないとロディマスは思ってしまう。


「だが、これ以上コストは上げられん。仕方がなかろう」


 そして出来たジュースをカップに入れ、ロディマスは隣のパン工房の厨房に顔を出した。


「おい、貴様ら。これを飲め。どうせ朝から何も飲んでいないのだろう?手を止めても構わんから飲め」


「ああ、坊ちゃん。助かるよ」


「ロディ君~~~」


「エリスは大丈夫なのか?まぁいい。そこの女子連中も交代で休憩だ」


「「はい、ロディマスお坊ちゃん!!」」


「お坊ちゃんはよせ。キースのヤツめ・・・」


 明らかに、孤児たちにロディマスをお坊ちゃん呼ばわりするよう教育したのは傭兵団団長のキースである。

 遠目からして真面目に働いていたので油断していたが、こんな所で罠に嵌めてくるとはさすが傭兵であった。


「奴は油断も隙も無いな」


「はひ~~、生き返る~~~」


「おい、お代わりはあるが、一人2杯までだ。いきなりそれ以上の水分を取れば腹を壊しかねんからな」


「ロデ坊ちゃんは相変わらず優しいなぁ。ふう、生き返ったよ」


「優しくはない。このほうが効率的なだけだ。それと、エゴ村から救援が来た。これから一人ずつ本格的な休憩と食事だ。順番は追って伝える」


「は~~い」


「・・・、最初はエリスだな・・・。ミーシャ、しばらく持ちこたえろ。貴様であれば念押しする必要もないだろうがな」


「信頼に応えられるよう、最善を尽くします」


「そうか、では頼むぞ。行くぞ、エリス」


「は~~~い・・・」


 そうしてエリスを引きずるように食堂へ戻れば、着替えが終わった面々が集結していた。

 その人数を数え、11人で間違いがないのを確認した後は、先ほどの予定を伝えた。


「まずそこの2人とマニカは、外で接客をしてもらう。とは言っても簡単なものだ。売り物は一つ、あのパンだけだ。一つ銅貨10枚。10銅貨1枚で出すものもいるが、計算できない場合は計算ができるものを近くに配置するので聞きにいけ」


「はい!!」


「任せて下さい、ロディマス様。私、やります」


「頼んだぞ、マニカ。うまく連中を宥めすかしてこい」


「はい!!」


「残る3人は、今から作るジュースを客に配る。これは一杯目は無料だ。ただし、お代わりは銅貨1枚で引き受けると言え。その際は一杯目よりも多く注ぐから、最初の一杯はコップ半分程度だ。注ぎすぎるな」


「はい」


「それとそこの5人は厨房だ。見ての通り果物と野菜の皮を剥いて、刻んで布にくるめ。絞るのは全部アンダーソンにさせる」


「はい!!」


「ぜ、全部ですか!?」


「貴様以外に適任がいない」


「は、はい。骨が折れそうですが、頑張りますぅ」


 そもそも外で待っている50人程度の行列に対応するまでなので、1巡目は先ほど絞った分の2倍程度で済む。

 アンダーソンが懸念するほどではないのだが、ロディマスはそれを伝え忘れた。


「計算できるものにはすでに村長から話が行っている。では外組はさっそく事に当たれ」


「はい!!」


「私はどうするの!?」


「アリシアは座っていろ。貴族というものは、こういう時こそ優雅にしておくべきだ」


「そ、そうなの?」


「貴様が、そうだな。椅子に座り優雅にジュースでも飲んでいればそれなりのインパクトになる。連中も、ゆったりするのが普通なのかと思うだろう。だからとりあえず着替えてこい。従業員がゆっくりしていたら逆に恨まれかねんぞ」


「わ、分かったわ!!さっき着替えればよかったわね」


 往復させるのも時間稼ぎの作戦の内だとは言えず、ロディマスはそのアリシアの小声を無視した。

 何せ手伝うと言って破壊活動をする女である。

 本気でただ座っているだけにして欲しいと、ロディマスは扱いに困っていた。

 一応、外で騒ぎが起きた時用の権力要員としても期待していない訳ではないが、公爵家ご令嬢を盾に使うのも憚れたので、彼女には最終兵器となってもらう事にした。


「よし、残る連中も料理だ。ただし賄い、つまり店内にある客には出さない食材の切れ端などで店員用の簡素な料理を作る。店で出すものではないから見た目は気にするな。食べやすく、ボリュームがあり、旨い物だ。貴様らエゴ村の連中も、家で昼の準備をしていないならば一緒に食え」


「はいですじゃ。村ではまだ誰もお昼を食べてないですじゃ。それに下拵えだけなら晩に回せるので大丈夫ですじゃ」


「よし、ならば50人前近い量だな。大量だが、全員同時ではないから無理のないペースでやれ」


「はいですじゃ、ロディマス様」



「ねぇ、ロディ君」


 全員に指示を出し終わったところで、力なくテーブルに突っ伏していたエリスが声をかけてきた。

 その声色は重く深かった。

 いつものような朗らかさもなく、疲れによる疲労感も鳴りを潜めていた。

 後ろで留めていた髪を開放していたからか、セミロングの茶色い髪が前にかかり顔が隠れていた。

 まるでそう、ホラー映画に出てくる幽霊のような、そんな見た目と雰囲気に、ロディマスは大いにビビった。


 そして、そんなエリスが、口を開いた。


「今の女、誰?」



 ロディマスは新たな波乱の予感を感じ取った。



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