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エリスとベリスのポートマン姉妹が己の年齢を聞き絶叫した。
そして、そこまで驚くようなことかと眉をひそめたロディマスの様子に気付いたベリスが言い訳を始めた。
「身体強化系の技能を持ってると、若いうちにガタイがデカくなるんだよ。でもロデ坊ちゃんは魔法使いだから、普通にその、年齢通りの身長なのかって思ってよぅ」
「なんだと?」
最初は年嵩に見られた事に機嫌が悪くなったロディマスだったが、この世界の新たな謎現象を聞き意識が切り替わった。
身体強化系の技能には、身体の成長補正もあるのか?
「そんなものが、本当に?」
「博識なロデ坊ちゃんが、まさか知らなかったのかい!?」
エリスの病気を治してくれたロディマスの知識を絶対的に信用していたベリスが驚いていた。
その様子からしても、本当に何と言う事のない話だったようである。
ロディマスはそう考え、机の上の書類から目を離してベリスに顔を向けた。
そこでベリスに声をかけようとした所、ミーシャが割って入ってきた。
「ロディマス様は、興味がないものは知ろうとすらしません。覚えもしません」
「確かに、興味がなかったな」
割って入ってきたミーシャの発言が事のほか的を射ていたのでそのまま同意したロディマスだが、同時に違和感も覚えて尋ねてみた。
「ミーシャは知っていたのか?」
「いえ、存じませんでした」
「そうなのか」
知っていて話に割って入ってきたのかと思い尋ねたが、ライルとメルトランデに教育を施されているミーシャが知らなかった。
ならば、そこまで一般的な話ではないのかもしれない。
そして、知らないのに何故ミーシャは堂々と割り込んできたのか。
分からない。
仕方がないのでロディマスはミーシャを意識から追いやり、先の話についてベリスに説明を求めることにした。
「先の話は、どの程度の者が知っているような話なのだ?当たり前の話なのか?」
そう聞くと、ベリスは一瞬だけ目を丸くしてキョトンとした表情となり、そのまま答えた。
「え?傭兵になる時に言われるんだよ。『お前、身体が小さいから魔法使いか?』って。そこで歳を言うと、年齢と魔力量で大体の違いが分かるんだ。それは子供の方が分かりやすいらしい」
「なるほど。傭兵どもらしいやり方だ。しかし、今の言い方からすると、魔法使いは傭兵になれないのか?」
「いんや。魔法使いでもなれるさ。ただ、誓約書や遺書を書かせたり、だね。魔法使いの方が死にやすいからさ、仕事だって請けられないものもあるよ」
ロディマスはベリスのそんな言葉の中に、世の中の理不尽さを垣間見た。
死にやすい魔法使い。
それは子供であっても当然のように適用されるようである。
剣士の素質を持つ子供は、荷運びや配達などに重宝され、魔法使いの素質を持つ子供は、あまり仕事が回ってこない。
雇う側の立場である自分でもそうするとは思うが、しかし、世の中は不公平に溢れすぎている。
ロディマスはそんな世の中に呆れつつ、この世界の住人はそんな世界に不満はないのかと肩を竦めた。
「ままならんものだな」
「そうだね。ああ、でも坊ちゃんの魔法はすごいからな!!ああいうのが本当の魔法使いなんだって、アタイも感動しちゃったよ」
「うん!私は魔法を全然見れなかったけど、すごかったよ、煙!!」
「私のご主人様ですから」
「エリスの煙は意味不明だが、何故ミーシャが威張っているのかも分からんな。だが、確かに俺はそれなりな魔法使いだ」
そう言いながらもロディマスの意識は既に違う話題へと移っていた。
『身体強化系の技能を持ってると、若いうちにガタイがデカくなる』
ベリスの発言であるが、とても興味深かった。
それと言うのも、己は10歳の今時点で身長が150cmもある。
前世では120cm程度、今のミーシャくらいの身長だったはずである。
クラスの中でも前から3番目だったので、決して高い方ではない。いや、明らかに低い方である。
それが今世では150cmと、それなりに高い。
この館に働きに来ている孤児たちを見ていても、同い年の男子と比較すると己の方がヘタをすると頭一つ高い。それなりどころではなかった。かなり高い。
今まで不思議に思っていなかったが、それはもしかすると前衛系の技能を持っているからなのかもしれない。
それはつまり、もしかすると前衛系の技能を得ているのかもしれない。
いやもしかすると、自分は実は、前衛だった?
そんな妄想がロディマスの脳内で荒れ狂い、のた打ち回った。
今夜、久しぶりに確認してみるか。
ロディマスは、あの神に与えられた加護を忌々しく思っていた為に今まで見ないようにしていた【ステータス】を、ほぼ2ヶ月ぶりに確認しようと考えたのだった。
そのような複雑な心情が出ていたのか、表情が怖くなったり怖くなくなったりを繰り返していたロディマスを、それでも何故か笑顔で見つめていたエリスが、ポツリと呟いた。
「ロディ君が、まさか年下だったなんてねー」
「・・・、なんだ?」
ロディマスが現実に戻ってきた瞬間に言われたその言葉に返事をしたが、エリスは笑顔で首を振るだけだった。
「なーんにも、えへへ」
「そうか。どうでもいいが、机に座るな」
「はーい。ロディ君は姉さん女房とかどう?好き?」
「貴様らはどこでそんな言葉を覚えてくるのだ」
12歳の小娘の口から『姉さん女房』などと言う言葉が飛び出るとは思わなかったロディマスは突っ伏した。
以前のミーシャの「ノーコメントです」と言い、そろそろ情報の発信源を特定し、必要ならば排除する必要があるのではないかと、ロディマスは二人の少女の行く末を案じ、そして同時に危惧し始めていた。
「あ、これ探してたヤツだね」
軽く返事をして机から飛び降りたエリスは、その際にロディマスが探していた書類を見つけたのだろう。
足元に落ちていたそれを掴んでロディマスへと差し出していた。
「む、助かる」
それを受け取ったロディマスは、やる事山積みなんだから弛むんじゃないと心の中で己に喝を入れ、改めて書類と格闘する事にした。
そしてエリスが拾った書類を早々に片付けたロディマスは、次に期日の近い書類を捜し始めた。
だが、その捜索もわずかの間で終了した。
「ロディマス様、こちらが優先度の高い書類になります」
「む、それだったか。助かる」
「いいえ、当然の、当然の事をしたまでです。当然の」
その後、丁度いいタイミングでミーシャが書類を見つけ出す。ロディマスが書き終わると同時にその次も、その次もである。
ミーシャがいつも以上にやる気を見せていた事を少しばかり不審に思いながら、しかしこれは捗るなと、ロディマスは細かい事を考えないようにした。
その為に予想を上回る処理速度を出せたので、ミーシャは秘書として使うのも悪くないのかとロディマスは考えた。
奴隷から解放したら、秘書として雇われてはくれないだろうか。
そう考え、その案を即座に破棄した。
それはミーシャへの恐怖心からではなく、獣人差別の酷いこの国では奴隷でなくなればまともに生きていけなくなるかもしれないと言う懸念からだった。
だが、いつか彼女も奴隷から解放されて欲しい、そして真っ当に生きて欲しいとロディマスは考えている。
勇者候補の一人となれば、それもあるだろうが、それはまだ5年以上も先の話である。
それまでにどうにか出来ないだろうか。
貴族であれば従者は立場を保証されているが、大商会の御曹司と言えども平民には違いない。
どうにかして貴族とのコネクションを作ってミーシャを解放してやれればいいのだが。
しかし、情が移ると言うのも、案外と悪くない感情だとロディマスはふと思った。
未来に焦ってばかりだったロディマスは、穏やかなこの時間を大切にしたいと思い始めていた。
そんな心境だったので、またも机に腰掛けたエリスを今度は咎めなかった。
そうやってロディマスがオッサンくさい事を考えていた所、ミーシャがエリスに声をかけた。
「ところでエリス。あなたはベリスのところへ行く時間でしょう?」
そう言ってミーシャが懐から時計を取り出してエリスに見せれば、エリスは舌を出していた。
「あちゃー、もうそんな時間?まったねー」
ミーシャに時間を指摘されたエリスはそう言って腰掛けていた机から身軽に降りて、手を振って立ち去っていった。
その勢いを呆然と見送ったロディマスは、ぽつりと呟いた。
「元気になったのはいいが、あれはなんだ?」
「私には良く分かりませんが、きっと、嬉しいのだと思います。自由に動く身体も、人と接する時間も」
奴隷であり自由などほとんどないミーシャが言うと説得力がありすぎて自分に突き刺さるなと、ロディマスは時折見せるこのミーシャの的確すぎる言動に内心では畏怖しつつも、それを表に出さずに平然と短く答えた。
「そうか」
「はい」
「そう言うものか」
「・・・、はい」
それに、最近特にロディマスが思うのは、あまり穿った物の見方ばかりするものではないのかもしれない、と言う事だった。
だから、同じような年頃のミーシャがそう言うのであれば、そう言うものなのだろう。
ロディマスはそう思う事にした。
ロディマスは己に分からない事は周りに聞くようにしている。
それが普段は話をあまりしないミーシャからの助言と言うのであれば、無碍にする事はない。そう判断した。
それでいいじゃないかと。
そしてロディマスはエリスのその幼い行動の数々を黙認する事に決めたのだった。
□□□
「【ステータス】」
夜中、ロディマスは自室で一人、魔法を使っていた。人に見られたくないので誰もいない時間帯を探っていたら、結局この時間となったのである。
そしてロディマスがほぼ2ヶ月振りにそう呟くと、【ステータス】が発動した。
空中に大きな青枠と小さな黒枠が現れ、様々な情報を表示し始める。
相変わらず旧世代のパソコンのような起動速度だと、以前と同じ感想を抱きつつも、今回は逸る気持ちを抑えて待った。
そして、表示された内容に唖然とした。
ロディマス=アボート
年齢:10
性別:男
血縁:非表示(on/off)
技能:【身体強化(微妙)[NEW]】、【頑強(微妙)[NEW]】、【料理[NEW]】、【脅迫[NEW]】、未、未、未、未・・・
魔法:基礎、闇、火、土、水、風、雷、氷、未、未
加護:【魔王の卵】、【ステータス】、【トリックスター[NEW]】
称号:【運命を変えそうな者[NEW]】、【脅迫する者(無自覚)[NEW]】
賞罰:なし
「なんだこれは!?」
久しぶりにステータスを見たロディマスは、驚愕した。
それはいつの間にか生えていた各種内容についてである。
まず【身体強化(微妙)】、【頑強(微妙)】についてはベリスが示唆していた通り、存在した。
だが、その件については、突っ込みどころが多すぎた。
「(微妙)だと?小ですらないのか?」
思わず素の調子で疑問を持ったが、説明文を読んで納得せざるを得なかった。
【身体強化(微妙)】
前衛の基本技能。
魔力により身体能力全般が強化される。
(微妙)
100m走11秒の者が、100mを10秒99で走れる程度の強化に繋がる。
【頑強(微妙)】
前衛の基本技能。
魔力により頑丈になり、痛みに強くなる。辛さにも強くなる。
(微妙)
4万スコビルの赤唐辛子が3万9990スコビルの赤唐辛子程度に感じる程度の補正が入る。
「効果が千分の一では、確かに微妙と言わざるを得ない、のか」
前衛の基本技能と言う一文だけが希望の光だったと、すでに過去のもの扱いすると決めたロディマスである。
それ以上に気になる技能があったからだとも言えるが、そちらは前向きに検討できない名称であった為に、ロディマスも平静では居られなかった。
「【脅迫】!?脅迫だと!?一体何がどうしてこうなった!!」
【脅迫】
他者を脅して自分の意を貫く行動を起こした際に、状況が少しだけ自分に有利に働く。
脅迫行為を繰り返した末に得ることが可能な技能。
自動発動。
「はぁ!?」
ロディマスは脅迫を繰り返した覚えなどないと憤慨し、このままでは己の精神が持たないと判断して、気を逸らす為に加護の項目を見た。
【トリックスター】
とある神が与えた加護。
この加護を得ていても、特に何か効果がある訳ではない。
「何もないのか!!」
大仰な名前のクセに何も与えてこないと言うふざけた神の加護を見て、ロディマスの怒りは頂点に達していた。それ、もう加護でも何でもないだろ!!、と。
そのためか、次の称号である【脅迫する者(無自覚)】は、スルーした。
それはそれで正解で、どう見てもロクな内容ではなかった。それを読んでいたら間違いなくロディマスの脳の血管は切れてしまっていただろう。
最後に、唯一前向きになれそうな称号を見た。
【運命を変えそうな者】
運命を変えそうな者に与えられる称号。
たいていの場合、その運命の結末は死である。
「来た、これだ・・・。これを待っていた」
今までのふざけた内容など全て吹き飛ばす、希望の光。
それがようやくロディマスの元に降り注いだ。
しかしロディマスは気が付かなかった。
称号を与えるのが神であり、その神が予見する未来こそがロディマスの死である事を。
その称号を持ったからと言って、神々の思惑を飛び越えた己の生存ルートに辿り着いた訳ではない事を。
むしろその称号には、『変えそう、いや、やっぱりダメだった者』と言うオチが待っている事を、ロディマスは気が付かなかった。
そして【魔王の卵】が更新されていた事にも気が付かなかった。
前世の登場により幾分か猶予を得て、なおかつ今回の【運命を変えそうな者】の称号に安心しきったが為の油断であろう。
後に彼は、この時に確認しなかった事を後悔をする。
【魔王の卵】
汝、口外する事なかれ。
口外する事なかれ。
是、生まれ出ずる時よりの宿命也。
己が命と引き換えに、その全てを捧げ、魔の極地を刮目せよ。
汝、資格を得し者よ。全ての欠片を回収し真なる魔へと至れ。[NEW]
口外する事なかれ。
汝、口外する事なかれ。
特殊技能【ミドルブースター】が解放されました。[NEW]




