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今、ロディマスは馬に乗り、近くの村を目指していた。お供は護衛のアンダーソンのみ。
本日、ライルとミーシャは忙しく付いてこれなかった為に、アンダーソンが手配されたのである。父バッカスの命令はロディマスより上位に位置する為に、二人は命令に逆らえなかったのだ。
これは仕方の無い事だったが、いつか二人の給金を絶対に己の懐から出して父に干渉されなくしてやると、ロディマスは新たな野望を抱きながら、今度は側についたアンダーソンを観察した。
アンダーソンは有能で、いざ外仕事となれば無駄口を一切叩かない。
道中、獣が姿を表せば足並みを乱す事無く、小さな動作のみで威嚇をし追い払う。
そして胸を張って馬に乗るその姿は力強く、その辺の騎士よりもよほど騎士をしている男と言う印象であった。
アンダーソンは、普段の頼りない様子から一転して、意外と出来る男であるようだった。
アンダーソンをそう見直したロディマスだったが、しかしそんな有能すぎるアンダーソンが今度は得体の知れない何かに見えて、道中は気を緩める事も、警戒を怠る事もなかった。
実に小心者なロディマスであった。
村までの距離はロディマスが歩いておよそ30分、3km程度の移動である。馬の歩みならば半分の15分で着く。街とは目と鼻の先にある場所でもある。
ただし自宅である館から街を出るまでには10分以上かかるので、家からは30分を見なければならない。とは言え、それでも近いことに変わりはなく、この世界には獣のみならず魔物もいるのに外壁のない場所に村とは、なんとも風変わりな所にあるものだとロディマスは何とはなしに考えていた。
何故、今回はそんな村を目指しているのか。
それはロディマスが経営する工場とも近く、歩いて5分程度の場所でありロディマスの目的に沿う場所だったからである。
ただし、工場の従業員はこれほどまでに良い立地にある村にも関わらず、その村には誰一人としていない。
従業員たるマッチョメンズたちは高給取りなので、常に街から通っていた。
そんなマッチョメンズは今現在、金が欲しいロディマスの一番の頭痛の種となっていた。
街から通っているだけでも馬車代や護衛費などの交通費が掛かるのに、移動で時間を取られるから働いている時間も短く、結果として現在のあの工場は生産性がとても低い事になっていた。
人力で元より低い生産性が、怠惰な彼らの所為で利益が出るどころか赤字続きなのである。
よくもまぁ父バッカスはこんな工場を息子にやって寄越したなと、ロディマスは少しばかり呆れた。
赤字の補填はバッカスが行なっているが、ここは名実共にロディマスの工場なのである。
それが、赤字。
その事実に、なんとも良く分からないモヤモヤとした感情を抱いたのも仕方の無い事であった。
何故赤字なのかは資料から一目瞭然で、人件費が小麦の購入費と小麦粉の売却費の差額を上回っているからである。
ただしその赤字も数字上はほんのわずかなマイナスではある。
しかし少しでも数字が分かる人間が見れば一目瞭然の事態で、これは小麦の購入額が低いためで、バッカスの手腕あるいはロディマスを優遇したが為のサービス価格である可能性が高いと伺えた。
つまり、いつ何時小麦が値上がりするか分からないのである。
だから早々に生産性を上げなければこの工場は近いうちに破綻する。そんな未来が、ロディマスには見えていた。
実際に未来の記憶ではこの工場はロディマスの成人前になくなっているので、あながち考えすぎでもないだろう。
当時は全てを従者たちに任せていた為に、ロディマスが経営に関与してはいないが、今世は別である。
そう考えたロディマスが、人件費の見直しを行なったのが事の発端である。
そして改善策を練り実行したロディマスに降りかかった問題が、元剣士のマッチョメンズ従業員の横行問題であった。
いざ彼らに勤務態度の改善を促しても、従業員の中には高貴な身分の者も混じっている為か、雇い主の自分に対しても横柄な態度を取り、余計な主張をするのがロディマス的には大層頂けなかった。
その主張の中には、前世日本では労働者の権利として普通にある要求も多いが、ここは日本とは異なるのである。死が身近にある危険な世界で、後方に下がり甘い汁にたかるアリが如き彼らの存在に、ロディマスは憤慨していた。
力ある剣士のクセに前線にも出ず、同じ人間相手に威張り散らしワガママを言う。
後方でそんな甘い事しか主張できない連中など、切って捨てたいとロディマスは考えていた。
そうでなければ、最低でも前世日本人の半分ほどでいいから勤勉に働いてもらわねば困るとも、考えていた。
憤慨している割に少し甘いロディマスだが、だからこそライル他従者たちはロディマスを気に入っているのであり、同時にマッチョメンズが増長する結果になっているのを彼は知らない。
しかし、そんなマッチョメンズの怠惰な問題を解決する策が、例のベルト式歯車石臼であった。あれであれば、剣士でなくても重い石臼を回せる。
そうなれば、彼ら怠惰なメンズに頼りっきりにならずに済むし、競合相手がいれば彼らも発奮するのではないかとロディマスが予想しての事だった。
そしてその新型石臼を稼動させる為の人足を求め、ロディマスはその寒村を目指していた。
その村には特に特産品などなく、農地もわずかで、それなのによくこれだけの人数がいるなと思わせるほどの、一種のスラム街にも似た状況の村であった。
実に都合よく、実に運命的である。
ロディマスはそう感じ、人の運命を勝手に弄繰り回しているであろう神に嫌悪感を抱きつつ、その村に、降り立った。
辿り着いた村は、聞いていた以上に寂れた様子が滲む、見た目から貧しさが溢れ出る簡素な場所だった。まさに、寒村である。
木の枝を地面に突き刺しただけの柵が村全体を覆うのみで、門すらない。家も木製のしっかりとしたものなど見るだけで2軒しかなく、他は三角錐の形状で小枝などを壁代わりにしているテントのようなものが乱立している。
雨の少ない地域とは言え、中世よりも以前の世界に迷い込んでしまったかのような光景に、ロディマスは不快感を露にしていた。
聞いていた以上である、と。
そして、聞くだけと実際に見るのではこうまで違うのかと、ロディマスは感じ入った。
それは恐らく、己の抱える未来の記憶にしてもそうなのだろうと、ロディマスは未来が自分が感じていた以上に、もう少しだけ大惨事だったのではないかと意識の上方修正を行なった。
しかし今は未来よりも目の前に集中しなければならないと意識を戻したロディマスは、普段通りのしかめっ面のまま村に入った。
すると、事前にライルから連絡が行っていたからか、一人の老人が歩み寄ってきた。
そして有能執事がアポイントを取ってくれていた為に、ロディマスは村に入って早々に、すんなりと村長に会う事が出来た。
「こちらでございます。ロディマス様」
ロディマスの姿を確認するや、そう言って村長は他の村人が多く見つめる中で自分の家へと案内しようとした。そこは村で数少ない木製の家で、なるほどやはり村長の家だったのかと言うのがロディマスの感想である。
そして、案内をする村長を留めて、ロディマスはその場で早速交渉に入った。
決して気が急っていた訳ではない。
今ここで、村人の注目を浴びる中で交渉するのが最も効果的だと、ロディマスが判断したからである。念の為にライルとも相談した上での話なので、ロディマスは尚更に自信満々であったから注目されるのも厭わなかった。
「いや、ここで交渉を行なう。おい、貴様ら」
そう言ってロディマスは集まってきた村人たちに声をかけた。
幸か不幸か、ロディマスの前評判など知らない村人たちは、尊大な態度から貴族か何かと勘違いして、何を言おうとしているのか怯えているようでもあった。
ここまで想定どおりだと、ライルに相談した事が間違っていなかったと確信したロディマスは、まず自己紹介を始めた。
「俺は、ロディマス=アボート。あそこに見える工場の、所有者だ」
途端、ざわりと周囲が騒がしくなる。
そしてそれが何に対してなのかよく理解できていたロディマスは、可能な限りの笑顔で告げた。
「今、俺の工場は、働ける者を探している。どうだ貴様、そうだ、貴様だ。働く気はないか?」
ドーン、と言った調子でロディマスは一人の青年を指差した。差された青年は驚き、戸惑っている。
それも無理のない話である。
あの工場を、力仕事しかない製粉工場だと知らない者は、この村にはいない。
理由は想像すれば分かるとおり、近場で職を求めればあそこに行き着くからである。
しかしそうやって求めて頼った結果は、門前払いだったとロディマスは聞いていた。
『お前のようなヒョロガリなど不要。我らのような筋肉を纏ってから来るのだな』
そう言って追い出されたのだと聞き、ロディマスはそれがどういう意図であるのかを考え、察した。
恵まれた体躯の剣士でなければ勤まらぬ高貴な職であると、労働最底辺の連中が吠えたのだ。
実に愚かな連中だと、前世日本のホワイトカラー職の数々を思い出すロディマスだが、しかし当時はそれが正義だったと、彼らの言い分はその時であれば最もな意見だったと、認めた。
事実として、やせ細った彼らでは、魔法使いで非力な彼らには、既存の石臼は重たすぎたのである。
ただしそれは直接石臼を四人がかりで力任せに回す以外の代案を出せない当時なら、と言う話であるとも認識していた。
今世のロディマスは、生きていく為に働きたいと願う彼ら村人を利用する代案を、用意できたのである。
これでもう、あの阿呆共をのさばらせないで済む。
ロディマスも、彼ら村人と同じく魔法使いである為にマッチョメンズを実に忌々しい連中だと、言う事を聞かないかの者達を大層恨んでいた。
そんな、本来なら自分の従業員である剣士一同に恨みを抱きつつも、それを表に出す事なく、目の前にいる戸惑っている青年に優しく、本人はそう思っている調子で声をかけ続ける。
「何。貴様如きが想像できるような安い偽のスカウトではない。俺は本気で、貴様でも出来る仕事を用意したのだ」
「ほ、本当ですか!!!」
「こ、これマニカ!!」
復活した表情のコントロールが上手く行っていないのか、死んだような目と口の両端を吊り上げた悪魔のような笑顔を称えたロディマスに、青年は若干引いていた。
だがすぐさまその恐れは消え、その形相のインパクトを凌駕するほどの魅力的な話に、青年が顔を輝かせた。
しかし声を上げたのは、その青年の後ろにいたマニカと呼ばれた少年だった。村長に嗜められていたが、それでも怯む様子はなかった。
恐らく、自分と同年代の少年だろうとロディマスは考え、その少年を観察した。
痩せてはいるが、他の者よりも若干肉があるようで、それは恐らくこの村唯一の子供だから大事にされ、食事を多少なりとも優遇してきたのだろうと容易に想像ができる姿であった。
貧しい村で、それでも皆で協力して生きている証がその少年の姿であろう。それに好感を持ったロディマスは、悪魔のような顔をしたまま救いの手を、その少年に差し伸べた。
「ああ、貴様のような痩せたワンコのような者でも働ける」
「ワンコですかい!?」
「黙れ。いいから、黙れ。アンドロメダ、黙れ」
「は、はい。アンダーソンですけど、黙ります」
先ほどまでずっと黙っていた有能すぎて不気味だとロディマスが感じていたアンダーソンが、『ワンコ』と言う単語に食いついた。そして叱られ、シュン、とうな垂れる。
こいつこそ『ワンコ』だなと、恐れる必要など何もなかったと頭の片隅で思いつつ、ロディマスは改めて少年に告げた。
「工場の一部を新築して、新たな装置を付けた。そこでは、貴様らのような本来、役立たずでも」
役立たず。
彼らのトラウマであろうその言葉を敢えて出して挑発し、奮起させてから、神の啓示が如き宣言をした。
「俺の工場に来れば、働ける。俺の元に来れば、貴様らは誰一人として、役立たずではなくなる」
「嘘だろ・・・」
「そんな、そんなぁ」
「ああ、神よ」
崇めよ、崇めよ。
今とても、俺は気分がいい。
予定通りに事が進んだ為に、ロディマスは増長した。
しかしそれでさえライルの想定どおりであり、その調子のままロディマスは交渉を続けた。
「もし働くと言うのであれば、そうだな。まずは一ヶ月の契約だ」
「一ヶ月も!?」
「そんな、奇跡でも起こっているの!?」
「ああ、神よ」
誰だ、先ほどから「ああ、神よ」しか言わないヤツは、と、例の自称神を思い出して若干イラ立ち始めた心を抑えつつ、ロディマスは言葉を続ける。
「まずは一ヶ月だ。そこで貴様らがまともに働けるなら、その後は継続して契約を行なう。しかし俺の計算に狂いはない。ダメな場合は貴様らの根性が足りないだけだ」
すると今まで様子を見ていたのであろう。黙っていた村長が、ロディマスに手を挙げて自己主張を行なった後に質問を投げた。
「あのー。どうして一ヶ月なのでしょうか。一日毎ではなく?」
至極自然に前世での雇用契約を想定して一ヶ月単位がいいだろうと思っていたロディマスに、まるで日雇いの工夫のような反応を示した村長。
なるほど確かにそう言われればと、ライルでさえ見逃していたであろう指摘について、考えた。
考えたが、大して意味のない話だったので適当にスルーして理由をでっち上げる事にした。
「大勢を一度に雇う必要がある。ならば日雇いではなく、月単位で契約するほうが早い」
こちらも予定を立てやすい、と言う最後の言葉は、足元を見られる危険もあるから伝えなくて良いかとロディマスは判断した。そしてそれは正解だったようである。
今の一ヶ月単位での雇用と言う条件でさえ、安定した収入のないこの村ではどう考えても好条件でしかなかった。その上に、今の話はロディマスにさほど利があるとは思えない程、村人重視の理由だった。
そんなロディマスの話に、村人全員が目を丸くして、それから言葉の意味がようやく脳に浸透したのか、口々に騒ぎ出した。
「大勢を!?」
「まさか本気で村全員分の仕事が!?」
「ああ、神よ」
だからさっきから誰だよ「ああ、神よ」を繰り返しているのは、と周囲を睨んでみれば、手を組んで祈りを捧げていたのは先ほど挙手してから質問をした村長だった。
その姿を見て、これは指摘できないとロディマスは諦めた。
滅び行く寒村に、大商会の息子であり近場の工場のオーナーたる自分が来て、ここまでの提案をしたのであれば、村を支え導く立場にある村長であれば、確かにこのような大げさな反応にもなるだろう。そう考えての事だった。
しかも村長は事前にライルから話が通っている。
あの抜け目のないライルのことであれば、今の条件やこれから示す条件よりも一段か二段低めの情報を渡していたとしても不思議はない。
その結果、己は事前に村長の耳に入っていた好条件よりも、さらに良い条件を持って来た、まさに神の御使いにでも見えたのだろう。
ああ、なるほど。こうやって新興宗教は作られるのかと、ライルの恐ろしいまでの手腕に身震いをした。
弱者の弱みに付け込み、最大限利用をする。そして利用されたほうにも一利があるように仕向け、それで満足させる。これで安くて忠実な、自分だけの兵隊の出来上がりである。
本当に、ライルが味方であってよかったと、ロディマスは心底思ったのであった。
「細かな契約については後日だ。工場自体の工事もまだ少しかかる。よって今俺が示せるのは、労働条件、給与についてだ」
「給与、給金については分かりますが、労働条件ですか?」
「そうだ」
「私も働けるんですか!ねぇ!?」
・・・、私?
近くまで寄ってきて、あったら間違いなく尻尾をブンブンと振り回しているであろう少年、先ほどのマニカは、笑顔でロディマスに尋ねつつ近寄ってきた。
そこでロディマスは、己は思い違っていないかと疑問に思った。
こいつ、女か?
やせ細っている上に幼くて分からなかったが、どうにも女のようにも見える。
長い睫毛に整った顔立ち。ともすればエリスよりも美人に見える。
しかし確証が持てず、つい尋ねてしまった。
咄嗟にこう言う疑問を思いつくと、質問が口を衝いて出るのはロディマスの悪い癖であった。
「貴様、女か?」
するとそれを聞いたマニカはキョトンとして、それから笑った。
どうやら今の疑問に思う所はなかったようで、朗らかな笑みを浮かべてロディマスに返事をした。
「私は男だよ!!」
「そうか、そうか。男か」
正直な所、ロディマスはその返事を聞いて、ほっとした。
最近喧しい女子二人と出会ったばかりである。これ以上女が増えたら溜まったものではないと、あの喧騒を思い出してげんなりしていたのである。
そんな思いの末に、なんとか「良かった」と言う言葉を飲み込み、ロディマスはマニカに告げた。
「男ならば、なお都合がいい。貴様もあそこで働き、腹が膨れるほど喰らい、力を付けろ。そうすれば、俺が末永く雇ってやる」
「本当ですか!!やったよ、爺ちゃん!婆ちゃん!!」
そう言って、ロディマスの隣にいた老人、村長に抱きついたマニカに呆れた。
お前、村長の孫だったのかよ、と。
少しばかりしてやられた感の残った形ではあるが、結果として村人の表情も和らぎ、誰もが期待に満ちた目をしている。
自分の想定外の出来事が多少あったものの、状況はかえっていい方向へと向かった。
これは、成功する。
そう確信したロディマスは、最後の交渉へと移った。
「雇う形式だが、まず一ヶ月毎に契約を結ぶ。いずれは1年、2年、終身と考えているが、今は工場も試運転を考えている段階だ。いつ再工事で休業となるか分からん。そこは、覚悟しておけ」
「はい」
「では次に、給与だが。一度に銅貨5枚だ」
そう言うや、またもざわつく面々に、正負どちらの動揺なのかロディマスは図りかねていた。銅貨5枚とは、街に住む一般家庭の平民一人の一日分の、食費その他諸々込みでのおおよそ使用される生活費と同等の金額である。そんな彼らの日当は銅貨10枚~20枚程度である。
それと比較すれば分かるが、つまり、かなり安い。
それでもこんな場所であれば上等だろうというロディマスの予想に対して、今の反応はどうにも不満があるのだろうかと、悪い想像が働く。
しかし直後のマニカの反応で、よく理解できた。
こいつと先に知り合えたのは案外に悪くなかったと、ロディマスは素直にそう思った。
「本当にそんなにもらえるの!?」
「何を言うかと思えば、そのような事を。当然、働く時間により金額は異なるぞ」
「それでも、銅貨5枚って、5枚って・・・、すごいや!!」
「落ち着け。・・・、アンドロメダ、こいつを押さえろ。ヨシヨシしておけ」
「はいはい、アンダーソンですよー。ほら坊主、坊ちゃんの邪魔すんなよ、ヨシヨシ」
「はーい。兄ちゃん、くすぐったいってば」
そう言ってアンダーソンの脇に素直に抱えられ頭を撫でられされるがままになっているマニカを見て、こいつら似ているなと益体のない事を考えたロディマスは、今度は村長に向き直って続きを話した。
「労働形態は日に二度、交代させる形を取る。二部制で、午前の人間と、午後の人間に分ける予定だ」
「え?それでも一度に一人銅貨5枚なのですか!?午前と午後、両方だと銅貨10枚なのでしょうか?」
「そうだ。そこまでの体力が貴様らにあるのであれば、それも構わん。そもそもあそこで働いている脳みそまで筋肉で出来ている連中は、半日しか働かないくせに、一日分の銀貨1枚を要求してくる。ならば貴様らの方がよほど安い。最も、時間辺りの生産能力はあちらが上で、荷降ろしや倉庫管理もさせている。本来なら比べることなどない程度には、有用さは違うがな」
そうやって早口でまくし立てるロディマスを、目を丸くして見つめていた面々だが、他の単語はよく分からずとも、「一日分の銀貨1枚」と言うワードを聞いて固まっていた。
そして、誰もが信じられないと言った様子で工場を眺めた。
そうだろう、俺もそう思うぞ、とは言えず、心の中で同意するに留めたロディマスは、次に細かな内容を伝えた。
「理解したか?時間がかかり、連中よりも半分程度の生産能率しか出せずとも、それでも貴様らの方が利益が出る。何せ貴様らであれば丸1日分でも4人が午前午後の2部で8人分、それぞれ銅貨5枚だから全部でも銅貨40枚だ。銀貨1枚が銅貨100枚なので、筋肉ダルマたちは4人で1日銅貨400枚。連中の半分しか小麦粉を作れずとも銅貨200枚分の価値を、貴様らは銅貨40枚で成せる。だからこそ、貴様らを雇うのだ」
「え、えーと?」
今度は意図的に早口でまくし立てたロディマスに、内容も分からない上に聞き取りづらかったのだろう。
村人たちは一斉に首をかしげた。
そして一方でロディマスは、計画通り、と心の中で悪く笑い、彼らに告げる。
「とにかく、全部を考えれば貴様らの方がいいと、この俺が結論を出したのだ。小難しいものは、全て俺に任せておけ。貴様らは黙って付いてこい」
「す、すごいです。ロディマス様!!」
「当然だ」
そう言って胸を張った所、村人の全員が跪いたのは想定外であったと、やりすぎた事を後悔したロディマスであった。
そしてもし失敗したらどうしようかと、工場が稼動した時は内心震え上がっていたのは、ロディマスだけの秘密であった。




