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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第三章 騎士編
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124_祭りの準備と初日


 元傭兵のアンダーソンとエルフの木工職人バイバラの結婚を聞き、ロディマスがまず最初に連絡を取ったのは実の父バッカスである。

 そしてバッカスの元にいたライルと共に連携し、更には母カラルも巻き込み盛大な祝いをしようと話を持ちかけたのである。何の説明もなしに。

 ロディマスは五年以上もの歳月を経ても、未だにいつも通りであった。


 だが、いかに親バカのバッカスとは言え、一介の元傭兵にそこまでする必要を感じなかった。バイバラについてもかつては腕を見込んで工房を提供していたが、すでにアーカイン領へと移動していたので過去の人物と言う認識。その為にバッカスは儲けが出なさそうなその提案を冷たくあしらおうとしたが、ロディマスの提案によりそれは見事に覆された。

 ロディマスがドミンゴの最新作をお披露目する機会だと判断した旨と、かなりの儲け話であると告げ、その内容を聞いてバッカスが親心抜きに儲けが出ると判断してしまったからである。そのために、バッカスもノリノリで参加する事となった。



 そしてペントラルでの準備期間である一週間の間に、ライルから連絡を受けたあきれ顔のアリシアと困惑顔のエリスと合流し、ロディマスは未来の妻たちと共に祭りの準備を行なった。


「あなたね。久しぶりに帰ってきて真っ先にするのが人のお祝いとか、どうなのよ?私たちには何もない訳?」


「あ、あはは。ロディ君らしいよね」


 二人に呆れられつつも、ついにはアンダーソン達が住むアーカイン領の領主モンタナ男爵とその妻ゼフィラも巻き込んでの一大イベントと化したその祭りを、誰も止めることは出来なかった。

 さらにはゼフィラにより話を聞かされたバイバラ以外の、以前ロディマスにより救出された元エルフの里のエルフ達もノリに乗ってしまい、瞬く間に準備は完了した。


 ロディマスが思いついてから実に二週間、ロディマス滞在日程のほぼ半分を準備に消費した上で、盛大にアンダーソン達は祝われた。はずであった。



□□□



 アーカイン領のアーカインの街では、盛大なお祭りが三日間開催される事となった。


 洋風の街並みに似合わぬ和風な祭りで、道には数多くの屋台があった。ロディマス考案のキュウリの串刺しに、焼きそば風の麺、定番のクレープにお好み焼き風の焼き物の屋台。食べ物関連だけでも二十を超す屋台が立ち並び、それ以外にもロディマスが提案したくじ引き屋に輪投げ屋、ダーツ当て屋、エルフの木工小物売りが食べ物屋をはるかに上回る数の露店が連なっていた。

 そこにはさらにロディマスの予想外の出店である、住人が日ごろ内職で作っていたアクセサリーや服などを置く露店も数多くあった。普段は商売をしない者たちまでものがこぞって参加をしていたのである。

 その為に祭りの賑わいは国や都市が開催する厳かなものとは遠い、異国情緒あふれる、言い方を変えるなら喧しい祭りとなっていた。


 なお、人気を独占してしまう為にベリス工房は出店を見送った。


 ロディマスは祭りの光景をモンタナ男爵の屋敷の玄関から眺めつつ、予想外すぎる盛り上がりっぷりにため息を吐いた。


「はぁ、これはまた。うーむ、庶民共がここまでするとは思わなかったが、しかしある意味でバザーのようなものだと考えれば納得か?」


「バザーですか?」


 ロディマスの呟きに返したのは領主であるモンタナ男爵であるが、それに答えたのは何故かラフィエラだった。


「バザー。帝国ではそれなりに行なわれている、庶民の慈善市場みたいなものでしたか」


「そうだな」


 そう素っ気なく答えたロディマスは、以前この世界に来て思った事を再び思い出していた。

 この世界は、街がとにかく綺麗である。最近になって父バッカスが公共事業的にゴミの除去や街の清掃に力を入れている事を知ったが、それを抜きにしてもきれいすぎるのである。

 露店は店先を伸ばしたようなものばかりで、どちらかと言うとテイクアウト用の出窓のようなものばかりだった。ロディマスが想像する、押し車に屋根を付けた簡易の露店などない上に、そもそも店と言う体裁を整えてしまうと営業許可を取るのが非常に面倒だったのである。


 この世界のその他の露店はと言えば、地面に物を直接置いて売るような形ばかりだった。小物や古物ならともかく、食べ物を売るには適さないスタイルだったのである。

 そこでエルフに、既存にある荷車を改造して屋台に使える組み立て式の荷車を多数用意させた。そしてそれを祭り中は露店代わりに使うように指示を出したのである。その荷車式屋台そのものが、許可証の代わりとなったので管理が簡単だとモンタナ男爵は喜んでいた。


 そして屋台を出した者たちには、その売り上げの八割を今回の祭りの出資費用として徴収する代わりに、商人でなくても商売をしてもいい事になった。八割と言うと相当な額で、原価率を考えれば実質的には慈善事業とそう変わりない。だから庶民は参加せず、そこそこの商会の店を持てない中堅店員や物好きな貴族が追加で多少参加する程度だとタカを括っていたのである。


 しかしいざフタを開けてみれば、領地の大半の人間が参加するほどの賑わいを見せている。露店の数も多すぎて大通りだけでなく、一本筋を外れた裏通りや、なんと正門付近にまで出店する者が出るほどだった。


「まさかバイバラやアンモニア臭がここまで慕われていたとはな」


 思わずそう呟いたロディマスに、大げさに顔を向け驚いた表情で口を開けるモンタナとラフィエラ。その二人の微妙なリアクションに、思わず眉をひそめてロディマスは首を傾げた。


「なんだ貴様ら?言いたいことがあるならはっきりと」


 はっきりと言え。


 そう言おうとしたロディマスだが、続く外からの叫び声に、声を失い続きを口にすることが出来なかった。男爵夫人であるゼフィラの口から祭りの開幕の宣言が出された後、その市民たちの声が離れたロディマスにも聞こえたからである。


「ロディマス様、バンザーイ!」

「ロディマス様がお戻りになられてるぞー!!」

「我らが英雄、ロディマス様ー!!」

「ロディマス男爵様!サイコー!!」



「・・・、は?」


 当然のように叫ばれる己の名前。


 何故?今日の祭りはアンダーソンとバイバラを祝うものだったはずでは?


 そう言う気持ちを込めてモンタナとラフィエラを見れば、二人はそっと目を逸らしていた。


「どういうことだ?」


「ヒャ!?い、いえその・・・」


「どういうもこうも、このお祭りはその、「ロディマス様のご帰還を祝う祭り」だからではないでしょうか。バイバラと言うエルフがそう喧伝して回っていたので、庶民はそう認識しているそうですよ」


 ラフィエラの言葉を聞き、今度こそ完全に固まったロディマスは、自分に悪事は向かないのだとつくづく思い知らされたと、そのまま後ろ向きに倒れた。


「ロ、ロディマス様ー!?」


 自分より上手だったバイバラの所為で矛先が代わり、祝われる本人となったロディマスが気絶する中、祭りは大いに盛り上がっていた。



〇〇〇



 その後意識を取り戻したロディマスは、手短にあった布でほっかむりをしてから祭りの中へと入っていった。、お付きがモンタナと言う超有名人に、金髪が明らかに王族の血であると自己主張するラフィエラを見て固まる民衆を余所に、ロディマスはある露店へと足を運んだ。



「あなたね、そんな事で気絶しないでよ。本当にもう。はい、これね」


「あ、ありがとうございます!アリシア様!!」


「材料が少なくなって来たので裏に回ります」


「ありがとう、ミーシャ」


 ロディマスが気絶した事を実の兄から聞かされたアリシアは、心底呆れたと肩を竦めつつも調理と接客を行なっていた。なお彼女が作っているのは塩焼きそばである。


「貴様こそ何故ねじり鉢巻きにハッピまで来て、たすき掛けまでしているのだ!?俺の知る公爵令嬢はどこへ消え失せたのだ!?」


 しかも妙に似合っている、とロディマスは額に手を当てて呟いた。

 先ほど入れ違ったミーシャも同じ格好をしており、二人とも元々元気な性質なので似合っていたのだが、そこを褒めていいか悩んだ末に、とりあえずいつも通り悪態を吐く事にしたのである。


 だがアリシアはそんなロディマスの反応もいつもの事だとあっさり流して、両手で持った鉄ヘラをチャキンチャキンとすり合わせて、野菜を炒め始めた。


「いいじゃないー。私なんてもう男爵様に嫁ぐの決まってるんだしー、公爵令嬢もあとわずかだしー。ゼフィラ様を見習って、庶民派男爵夫人目指してますからー」


「いや、アリシア。それはさすがにないんじゃないかな」


「お兄様こそなんでハッピを着ないのよ・・・」


「え?」


 軽装とは言え騎士として軽く装備を整えているラフィエラに、そんなものは無粋の極みだとアリシアは氷点下の視線をぶつけていた。その視線を受けて、ラフィエラは心底怯え震えた。


 彼が怯えたのも仕方のない事で、彼が実際にアリシアと会ったのはついこの前、一度王都に戻った際にロディマスの事を頼まれた時だけだった。それより前は彼女が病に倒れた後で、それからラフィエラは己を鍛えるのに夢中であり、鍛え終わったらそのまま最前線に騎士として赴いていたのである。


 つまり、社交的な場所で丁寧に妹からお願いされたのが直近で、それより前の記憶では深窓の令嬢と言う有様だった妹の姿なのである。健康になったとは聞いていたものの、まさかここまで勝気な性格だったとは思っていなかったのである。可愛い妹が豹変してしまった事実に、恐れ慄いたのである。


 するとそんなラフィエラに声をかける人物がいた。

 それは、言わずもがな、彼女の勝気な性格の最も身近な被害者であるロディマスだった。


「愚か者め。これでもヤツは幼い頃に魔物を倒している剛の者だぞ。それがか弱い女であるはずがなかろう」


「そ、そうだったね・・・、う、うん・・・」


 バカにしているかのようなロディマスの言葉の内容に反して、その弱弱しい声色に何を察したのか、ラフィエラががっくりと肩を落として返事をしていた。

 あのか弱く可憐な妹など、自分の幻想に過ぎなかったのだと思い知らされた兄の顔であった。


 その情けない兄の顔と姿を見て余計に冷たい視線を向けてくる妹に、今度はロディマスの影に隠れるように移動した兄。面目など何一つないその行動を見て、モンタナは自分に飛び火する前にと逃げ出した。


「それでは私は妻のいる本部へ様子を見に行ってきます!祭りをどうかごゆるりとご堪能下さい!」


「え?ちょっと待ってくださいアーカイン男爵!!」


「それでは!」


 シュタっと手を挙げて立ち去るモンタナを、まるですがるようにロディマスの影から手を伸ばすラフィエラは大層情けなかった。

 しかし感傷に浸る間もなく、伸ばされた手に布が手渡された。渡した主は、当然、アリシア。

 ラフィエラが救いを求めるようにロディマスを見るが、ロディマスは既に鎧を抜いでハッピを着ていた。


「は、早いですね・・・」


「ここの強者は俺ではないのだ」


 まるで悲痛な叫びを聞いたかのようなラフィエラの表情にロディマスは堪え切れずに立ち去るように裏で野菜を切っているミーシャの元へと駆け寄った。


「ちょ、待って下さい!」


「お兄様、早く焼きそばを渡して、お金を受け取って下さい。先ほどからお客様がお待ちでしてよ」


 そんな大本領主である公爵のご令嬢とご子息にあるまじき仕事を始めた二人の声を聞きながら、ロディマスはミーシャに声をかけた。


「どうだ、祭りは?」


「・・・、その、楽しいです・・・」


 野菜を切る手を止めて静かに微笑んだミーシャを見て、ロディマスは安心した。


「そうか、無理やり手伝わされていた訳ではないのだな」


「最初は無理やりでしたよ?」


「・・・、あいつも相変わらずだな」


 強引さではロディマスをも時に凌ぐアリシアに、やはり今回も振り回されたミーシャに同情の声をかけようとするが、それよりも先にミーシャに祭り開催について指摘され口をつぐむことになった。


「ロディマス様の方が相変わらず強引です。何ですか、祭りをするなんて。そんなの聞いてませんでしたよ」


「うっ」


 ミーシャが一時的に帰ってきているのは、ロディマスと休みを合わせる為である。それを道中で聞かされていたはずなのに、ロディマスはそれを忘れ完全に祭りに集中していた。辛うじて微笑んでいるミーシャの表情から怒っている訳ではないのが汲み取れたが、かと言って軽率だったことに違いはないと、ロディマスは頬を掻きながら謝った。


「それはその、済まなかった」


「そう思うなら、これを」


 そう言って間髪入れずに差し出されたのは、麺棒だった。


「は?」


「麺もそろそろ切れそうなので、伸ばしてください。切るのと茹でるのは私がやりますから」


「は、はぁぁぁぁぁ!?」


 てっきり同じく野菜を切る、つまり一種の共同作業が出来ると密かに淡い期待をしていたロディマスは、思ったよりも重労働を押し付けられたとうな垂れた。


 そしてロディマスは、その日遅くまでひたすらタネを伸ばす作業に追われた。


「切った麺に小麦粉をまぶして玉にして保管しているのかと思ったぞ」


「そんな手段があったのですね」


「・・・、今日はもう、タネ伸ばしはやらんぞ?」


 案は提示したので対応は頼むと言い残して、ロディマスは撤収した。


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