表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第三章 騎士編
122/130

119_


 いざ戦闘が始まると、中悪魔はミーシャへ、小悪魔はロディマスへと向かってきた。


「貴様も分かっているではないか!」


 そう言いながら、ロディマスは右手のショートソードを右から左へと横に薙ぐ。その一撃を腕で止めた小悪魔は笑みを浮かべた。


「グッゲッゲ!!」


 恐らくその剣撃の軽さに嘲笑しているのだろうとロディマスは察した。そして、小悪魔はロディマスになら勝てると踏んだからこそこちら側に来たのだと、空いている右手でロディマスを指差して笑っていた。


「癪に障るが、好都合だ。【サンダーバインド】!!」


「グゲゲゲゲ!?」


 悪魔が受け止めていたショートソードに電撃を流し込む。今回の魔法は拘束を目的とした雷魔法で、この雷属性に関しては、魔法への耐性が非常に高い悪魔に対しても有効だと先日確認済みである。

 そして、何故魔法が通じるのか。それは上位属性故だろうとロディマスは仮説を立てていた。


「さて、実証実験と行くぞ。【アイスボルト】!!」


「ゲゲゲゲ!!!」


 ロディマスの小指ほどの小さな針が左手のトンファーから四つ現れ、それが小悪魔に突き刺さる。

 ダメージ自体はそれほど大きくはなさそうだが、それでも突き刺さっている所から無効化されているような様子がなかった。


「やはりな!悪魔自体の絶対数が少なくて誰も検証した事がなかったのだろうが、これで確信したぞ!!貴様らには、上位属性が通用する!」


 そう叫び、ロディマスは次にもう一度右手を振るった。さすがに二度目は食わないと小悪魔はバックステップで回避しようとするが、すかさずロディマスは右手を引っ込めて腰を右に捻り、左手のトンファーを前に突き出した。


「【マジックブースト】、【サンダーボルト】!!」


 闇魔法の増幅魔法を用いて、己が最も得意な雷属性の魔法を強化する。【サンダーボルト】の弾速は早く、ただ後ろに飛んだだけの小悪魔を見事に貫いた。

 しかし小悪魔は軽く蹴られた程度の衝撃だったのだろう。テンテンと転がった後で停止し、次にはユラリと起き上がった。


 平気そうな顔をして、ロディマスを挑発しようと真正面を見た小悪魔は、目の前にロディマスがいない事に気が付いた。

 その直後に左側からの衝撃を受け、そして凍り付いていく腕を見て悪魔は叫びをあげた。


「ゲギャギャギャギャーーー!!」


「今更命乞いか?容赦するはずがなかろう!!貴様は油断をしすぎだ!」


 ロディマスは悪魔がゆっくりと、余裕を見せつけるかのように起き上がると予測し、即座に左側に回り込んでトンファーを叩き付けたのである。そしてそれを見事に食らい、もがき逃げようとする小悪魔に追撃で、【マジックブースト】で増幅した【アイスボルト】を更にぶつける。それを五度ほど繰り返して、小悪魔を氷漬けにした。


 だが、氷漬けにしたはずの小悪魔が、もがきあがいた末に氷の檻から脱出した。それを予想していたロディマスは少しばかり距離を取ってから、愚痴を零した。


「弱らせることは出来るな。だが、それでも俺の魔法をただぶつけるだけでは決定打にはなり難い。やはりショートソードをヤツの体内に埋め込んで、内部で暴走させねば倒せぬか」


 以前ミーシャがフーリェの街の西の魔物の森で小悪魔を倒した時のように、悪魔の内部にミスリルをねじ込んだ上でそれを魔法で破裂させ、内部から爆散するのが最も悪魔に対して有効である。そしてその手段があるからこそロディマスは小悪魔なら倒せると踏んでいたが、それが思いのほか難航していた。


「刃が通らんぞ!アズキバーはどうやってこれより柔らかいミスリルの剣を悪魔の腹に突き立てたのだ!!」


 フーリェの悪魔の際に、傭兵であるアンダーソンが悪魔の腹部にミスリルの剣を突き刺した。そして今はそのミスリルの剣よりも強い剣を持っている。しかも当時よりも己は強くなっている。だから自分にも出来るはずだとロディマスは考えたが、どうやらその考えは甘かったようである。


「何という事だ。急がねばミーシャの【獣魔招来】が切れるぞ・・・」


 その焦りが顔に出ていたのか、あるいは態度に出ていたのか。

 空気を敏感に感じ取ったであろう小悪魔は、大きく暴れロディマスから距離を取った。そして、両手を握り、捻じり、開いて閉じて、まるで印を結ぶかのように動かすと、小悪魔の地面が盛り上がった。


「眷属を召喚したのか!?」


 ロディマスの予想通り、この小悪魔が眷属召喚の能力を持つ悪魔だったが、このような短時間で新たな眷属を生み出せるのは、ロディマスの予想外だった。


 トロールは確かに弱いが、それでもゴブリンよりは強い。オーガ程ではないが、複数を同時に相手はしたくない程度には苦戦をする魔物である。その魔物が三体。そして、召喚を終えた悪魔の四体を同時に相手せざるを得なかったロディマスは、対処の方法を考えた。


「ミーシャには頼れん。うむ、ならば俺が戦う他ないな」


 早々に次の手を打つことを諦めたロディマスは、腹を括った。

 上手くいけばミーシャが来るまでに生き延びれる。あるいは、前線側からレイモンドやタクヤが気付いて駆けつけてくれるかもしれない。

 そう若干甘い想像をしながらも、ロディマスはこの絶望的な戦力差を前に、希望を捨てずに挑んだ。


「来るなら来い!この俺が、相手だ!!」


「どりゃああああああああああああああ!!!!」


 ロディマスが格好良く決めた直後、白い何かがロディマスの近くを通り過ぎ、ついでとばかりにトロールを一匹なぎ倒した。


「は?」


「うりゃあああああ!!」


 その次に現れた風は、青の風だった。ヒュウッと言う風切り音と共に現れ、そのままトロールを一匹葬り去った。


「はあ!?」


「なんでウチだけーーー!!」


 そして最後には、上を白のTシャツのようなものに、下は下着に類似した紺色の履物を履いた痴女らしき人物が、トロールにドロップキックをしていた。


「はぁぁぁあ!?」


 駆け抜けてきたモノをよく見ると、白い何かはマコトで、青い風はミヤコで、痴女はマイカだった。

 なお、マコトはナース服、ミヤコは婦警のような制服、そしてマイカは何故か体操服とブルマだった。


「コスプ・・・むぐっ」


 余りの光景に迂闊にも「コスプレ」と発言しそうになったロディマスは、辛うじて己の口を自らの手でふさぐことに成功した。彼ら異世界人たちに己が転生者だと告げていないからである。

 そしてそんな挙動不審なロディマスの一切を無視して、マコトが叫んだ。


「ロディマス様!!見ないで!!」


「無茶を言うな!それよりも前を見ろ!小悪魔が・・・死んでいるだと!?」


「んもー、何なん?なんなん?こんなんイヤやわー!!!」


 そう叫ぶマイカの足により、小悪魔は粉々に打ち砕かれていた。その蹴りは光をまとい、確かにあれなら小悪魔を滅する事など容易いだろう。そう思えるほどの力強い光をマイカの足は放っていた。

 恐らく勇者としての力だろうと納得した。


 しかし、彼女らの恰好の意味は、分からなかった。首を捻り、彼女らの服装を観察する。

 すると比較的冷静だったミヤコが、ロディマスの前に出てきた。


「あ、あの・・・、実は勇者の力と言うのをミーシャさんにお聞きしまして、試してみたんです。そうしたら私たち、こうなっちゃって・・・」


「勇者の力?」


「はい。ミーシャさんから【天馬招来】と言うスキルがあると教えて頂いたので、それを使おうとしたのですが、何故か名前も変わっちゃって、こんな姿になっちゃったんです!!」


「そ、そうか」


 全く意味が分からなかった。しかし力があるなら利用しない手はないと、彼女らを宥めてなんとかミーシャに加勢させるように言った。


「ミーシャがこの前の中悪魔と戦っているのだ。あれをどうにかせね・・・」


「ミーシャさん!!これどういうことですか!!!」


「私も聞いてませんよ」


「ウチ、こんなんあかんてー」


 ロディマスが言い終わる前にミーシャの元へ走り寄った少女三人は、光を肉体に宿し、近くにいた中悪魔を三人がかりで粉々にした後で、ミーシャに詰め寄っていた。


「は、はは・・・なんだこれは・・・」


 ロディマスが決死の覚悟で挑んだ悪魔を瞬殺。しかも今ミーシャが戦っていた悪魔も瞬殺である。その実力は、ロディマスの理解を超えていた。


 力なく笑うロディマスの元に、困った様子のミーシャが戻ってきた。


「あの、申し訳ありませんご主人様。少し宜しいでしょうか」


 変身を解いたミーシャが困り顔でそう問いかけてきたので、ロディマスは現実逃避を辞めて話を聞く事にした。


「なんだ?」


「実は、彼女たちに【招来】系のスキルについて説明したのですが、どうやら彼女たちは使う事には成功したようですが、その制御が出来ていないようなのです」


「制御が出来ていない?」


「元に戻れないんです!!」


「私もキャビンアテンダントの制服から元に戻らなくて・・・」


「ウチ、もうお嫁にいけへんー」


 ミヤコの発言を聞き、婦警ではなくスチュワーデスの制服だと知ったロディマスは、もはや訳が分からなかった。


「そうか・・・、ふむ」


「おいロッディこっちに・・・、っているじゃん!」


「本当だ。どうしたんだ三人と・・・も?」


「見んといてー!!」


「アボー!!」


「グエー!!」


 そして現れた男の勇者二人は、照れたマイカの手により吹き飛ばされた。

 大切な戦力である勇者二人の悲劇を目の当たりにして、ロディマスはようやく正気に戻った。


「待て、とにかく今は魔物の殲滅が先だ!力があるなら使え!」


「もう終わってるから」


「はぁ!?」


「はい。私たちがトーロル?を全部倒しちゃいました。さっきの悪魔?で最後なら、あれで終わりです」


「なん・・・だと・・・」


 レイモンドたちが吹き飛んだ方向、先ほどトロールが沸いた方を見れば、確かに続々と騎士や神官戦士たちがこちらへ向かってくるのが見えた。彼らが急いでいる所を見るに、確かに前線側は殲滅が終わり、次にロディマスが向かった後方へ支援をするために駆け付けようとしているのだろう事が伺えた。


 そしてその状況を察した少女三人の落ち着きがなくなってきたので、ロディマスは頭を巡らせる事にした。


「ひとまずは状況を整理だ」


 ある意味で時間がない状況だと悟り、ロディマスは簡潔に要点をまとめることにした。


「まず、前方の敵軍は殲滅したのか?」


「はい!しましたですよ!!」


「マコトは少しばかり情緒が不安定になっているな・・・。次に、貴様らの姿は勇者専用スキルの【招来】系のものか?それともミーシャのようなオリジナルスキルか?」


「分かりませんが、たぶん、勇者専用じゃないでしょうか」


「ミヤコ、その根拠はなんだ?」


「え、えーと、何か、神様の声?みたいなのが聞こえたんです。あなたたちに力を授けましょうって」


「神、か」


 その単語を聞き、ロディマスはわずかに顔をしかめたが、それを直ぐに振り払い最後の質問をした。


「その恰好は、あまり人に見られたくないのか?」


 すると三人が即座にYesと答えた。


「ならばとにかく、今すぐにあちらのテントへ入れ!」


「わ、分かりました」


 そうして少女たちは物置代わりになっているテントの一つへと入った。

 それから少しして、騎士の一人がロディマスの元へと駆け付けた。


「ロディマス様、ご無事でしたか!!」


「ああ、無事だ。小娘三人も無事だ」


「おお、彼女らはすごいんですね!さすが異世界から参られた勇者様方です!」


「ふむ、俺は現場にいなかったので分からんが、貴様は何を見た?」


 すると興奮したその騎士が詳細を語ってくれたが、ひとまず大事な事として、彼女らの姿、その服装については早すぎて確認できなかったと言う話が聞けてロディマスはほっとした。


「なるほどな。では貴様には指令を与える。悪魔は全て退治した。あとは予定通りに明後日帰るだけだ。それを皆に伝えてこい」


「はい!分かりました!!」


 そう言って騎士は走り去って行った。

 その後姿を見届けながら、ロディマスはテントの近くへと近寄り、中にいる人物たちに声をかけた。


「そう言う事だそうだ。良かったな、誰も見ていなくて」


「そうですね。はぁーー、なんだったのよ」


「だったのよ?」


 テントの中のマコトの言葉が過去形だったのが気になり、思わずおうむ返しに問いかけた。

 するとマコトは変身が解けたと伝えてきたので、改めてテントの外で会った。


「ふむ。確かに三人ともいつもの鎧姿だな。そうなると先ほどのは魔力で編み込まれた魔力鎧か」


「マリョクガイ?」


「簡単に言えば、光属性の魔力が寄り集まった鎧のようなものだ」


 そんな事が出来るんですね、と言うミヤコの率直な感想に頷きつつ、ロディマスは先ほどの一件を考えた。そして早々に結論が出た。


「制御に関しては要練習だ。格好については慣れるか、人目のない場所で使うべきだろう。そして万が一自ら効果が切れなくとも、今の感じでは30分が限度のようだ。心配する必要はないな」


 ロディマスがそう言えば、少女たちは安堵の表情を見せたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ