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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第三章 騎士編
118/130

115_ロディマスと悪魔の一騎打ち


 完全な人型の黒い中悪魔が姿を現すと、眷属であるトロールの数が爆発的に増えた。一体どこにこれほどの数をしまい込んでいたのか不思議になるほどの量で、一気にその場を埋め尽くす勢いで地面から湧き出して来た。

 それを必死で撃退する神官戦士と騎士たちは、次第にいくつかのグループに別れ、あるいは孤立していった。


「ミーシャ!孤立している連中を助けてこい!この場を凌がねば未来はないぞ!」


「ッ!?は、はい!」


 泣きそうな顔でロディマスの元から離れるミーシャを横目で見送りながら、ロディマスは悪魔を見た。以前見た小型の悪魔と異なり、この度の悪魔は一段階成長した人間大のサイズである。ただし相変わらず腕が長く、足がやや短い。背中にはコウモリのような羽が生えており、わずかな時間だけ空を飛べる。空を飛ぶには大量の魔力を消費するので、飛んでくれる方がロディマスにとってはありがたかった。


「タクヤは近くの騎士と連携してトロールを叩け!ミヤコとマイカは、・・・、そこのバカを守れ」


 ロディマスが腕を貫かれた時に腰を抜かしたマコトを他二人に任せ、ロディマスは悪魔と対峙した。

 本来であれば無謀以外の何物でもないが、しかしロディマスにはある考えがあった。


「貴様はさぞ愉快だろうな。人間をここまでコケにしてっ」


 そのロディマスの言葉に、ニヤリと笑う黒い人型は、その醜悪な表情の通りに性格がすこぶる悪い。前の小型の悪魔は無邪気な悪意と言うべき存在だが、知恵を付けた中型のこの悪魔は邪気のある悪意を放つ。つまり、人に嫌がらせをしたり、長く痛めつける事に快楽を見出すタイプである。


 同じような存在に、犬と猿がある。前世において、盲導犬がいて盲導猿がいないのは、猿が犬よりも賢いために、いたずらや嫌がらせと言う知恵を働かせてしまうからである。賢くなるという事は、生きること以外の余計なことを考える能力を身に付けるのと同意である。大悪魔ともなると今度は利害と言う概念が生まれるので、場合によっては未来のロディマスのように共に行動する事も不可能ではなくなる。


「そう言う意味では、この状態が最も厄介だが、逆に言えば、無駄に抵抗すればするほどヤツは喜び、時間を稼げる」


 つまり、ロディマスが派手に傷つき、無茶苦茶に抵抗をすればするほど目の前の悪魔はロディマスを痛めつけ、他に目をくれなくなる。ロディマスは自分が弱いからこそ、自分のするべきことがはっきりと見えていた。


「脇役が出来ることと言えば、主役(『勇者』)が来るまでの時間稼ぎだろう!!」


 そうしてロディマスは決して勝てない戦いに身を投じた。



〇〇〇



「ハァ、ぐっ、ハァァァ」


 あれからロディマスは右手にショートソード、左手にトンファーの構えで中悪魔に突撃した。攻めに入らなければ悪魔がロディマスに飽きて余所へ目を向けてしまう危険があるからである。近くには異世界勇者たちがおり、後には退けない状況だった。


 ロディマスはまず小手調べに悪魔まで近寄り、ショートソードを右上から左下へと振り下ろした。それを軽く受けた悪魔に【サンダーボルト】をぶつけ、不意を打ったところに左から右へショートソードを振う。その剣にはロディマスが得意とする雷をまとわせており、ダメージは低いもののピリピリとした不快な感覚を悪魔に与えていた。

 そしてそのピリピリとしたしびれを嫌がり大振りとなった悪魔の攻撃にカウンターを合わせるかのようにロディマスは左手のトンファーで受けて数歩下がった。


 まるで今の一撃が効いたかのように左手を大きく振って、その衝撃でしびれたと大げさな演技をしつつ、ロディマスは再度果敢に攻めた。

 突き、突き、払いとショートソードで連携をしつつ、悪魔がピリピリを嫌がり回避するのに合わせて立ち位置を少しずつ変える。人が少ない方向へと誘導するが、これは悪魔にもばれているだろうとロディマスは考えていた。だが、悪魔がそう察したとしても、それ以上に不快な思いをさせ、それ以上の快楽を与えれば己から目を離さなくなるはずだと歯を食いしばり、ロディマスは何度か悪魔の攻撃をいなし続けた。


「貴様の攻撃など効かんわ!!」


 そう叫びながら突撃し、敢えて隙を晒して悪魔の攻撃を受ける。悔し気な表情をして、痛がる様子を悪魔に何度も見せる。

 すると悪魔はロディマスがやせ我慢をしているのだと考えたようで、最初は機嫌が悪かったものの、今は嫌らしい笑みを浮かべご機嫌な様子だった。


 実際の所、ロディマスはやせ我慢をしていた。最初に貫かれた左腕は、そもそも完治とは程遠い状況なのである。闇魔法の【ヒール】は止血能力に優れるものの、肉体を瞬時に再生させるような力はない。

 そして悪魔もそんな左手が痛いのだと気付き、執拗にロディマスの左側を攻めてくるようになった。


「グッ、ガッ!!」


 本来痛みに強いロディマスは、この程度では悲鳴を上げない。しかし悪魔を誘導する為に、自ら囮となるために無茶苦茶に振るわれるその悪魔の腕を受け止め、声を絞り出す。左、左、上、左と振るわれる悪魔の腕を回避し、左で辛うじて受け、次の二手を右手のショートソードで受けた。

 そのお返しにと【サンダーボルト】で攻撃するが、悪魔はピリピリに慣れてきたのか、あるいはテンションが上がってきたのか、そのまま受けて耐え、ロディマスに腕を振り下ろす方を優先していた。



「ぐっ、な、中々やるではないか」


「グッゲッゲッゲッゲ!!」


 パシンパシンと両手の平を打ち付け、小躍りするようにはしゃぐ悪魔を睨みつつ、ロディマスは早く誰か来ないものかと焦り始めた。この悪魔の様子ではあと少しは持つ。しかし脅威は悪魔以外にもトロールが存在する。そちらに対して有効な手を示し、神官戦士や騎士たちの統率を取り戻し、一気に戦況を打破しなければ、今度は周囲の者たちが疲弊して総崩れとなってしまう。

 そんな焦りが隙を生み、さらに奇抜な攻撃方法を悪魔が用いた事でロディマスはそれをさばききれなかった。


 悪魔の、ドロップキックであった。


「グハァ!?」


 左側にモロに受け、ロディマスは地面を転がった。二度三度、四度と転がり、五度目で起き上がったものの、左腕は完全に折れていた。それに脇腹にも痛みが走り、肋骨にヒビが入ったのも分かった。


「【ヒール】。しかしこれはまずいな」


 新陳代謝を活発化させる【ヒール】は、骨折とは相性が悪い。痛みを一時的に和らげる効果が、骨折には不十分なのである。腕であればまだ我慢が効くものの、肋骨ともなれば影響が非常に大きいのも、悪い要素であった。


 足に力を込め、ロディマスは右手一本で悪魔と対峙する。

 背後には、いつの間にか異世界人の少女たちがいる。

 どうやらうまく誘導していたと思っていたものの、今の一撃でまんまと元の位置へと戻されてしまったようであった。


「貴様の方が一枚上手か・・・。やるではないか」


「ゲッゲッゲッゲッゲ!!」


 まるで当然だと言わんばかりにはしゃぐ悪魔に、ロディマスもいよいよもって腹を括った。

 前回は奇跡が起きた。本来光属性の回復魔法を受け付けない己の体が、その魔法を受け入れたのである。しかしそれは二度も起こるものではないし、それに頼るつもりもなかった。


「最悪は左手一本、貴様にくれてやる。【セメントバンド】」


 ロディマスは土魔法の骨折治療の魔法を使い、一時的に骨を仮接合させた。そのままであれば1時間放置すれば骨がつながるが、そこまで待つ時間もない。よって、一時的に動くようになった左腕を上げた。

 トンファーは持っていない。先ほど飛ばされた際に手放してしまったから。


「ロ、ロディマス様・・・」


 背後から、少女の気弱な声が聞こえる。元々日本人で、このような修羅場などとは無縁の彼女たち。可能であれば心穏やかなまま元の世界へと戻ってもらいたかったが、それも叶わない。ならばせめてこの世界の者たちは、彼女たちにとっての敵ではないと、己が身で証明するのが筋であると、ロディマスは考えていた。


「心配をする必要はない。貴様らは、俺が必ず守る」


「う、うん・・・」


 格好いいセリフを自然と吐いたが、これが物語のイケメン主人公であればヒロインは惚れたであろう。しかしロディマスは主役ではない。この世界では、主役は『勇者』である。レイモンドや、あるいは異世界から来た彼女らなのである。よって、彼女らはロディマスに対して、その言葉に対して何かリアクションを取ることはなかった。

 昔はそれで捻くれていたが、それを是正してくれた女性たちがいるので、ロディマスはそんな事実にも心折れずにいた。


「アリシア、ミーシャ、エリス、ベリス。力を貸せ」


 己の婚約者たちの名を呟き、ロディマスは悪魔に特攻を仕掛けた。

 左手に黒いモヤ、闇魔法の【ドレイン】を展開し、それを盾とする。右手のショートソードには雷を這わせ、それを振う。


 悪魔との一進一退の泥臭い戦いが続く。


 しかし、能力の低いロディマスの限界は近かった。


「ぐっ、これまでか」


 左腕の骨も砕け、魔法を用いても完全に回復するには相当な時間がかかる状況で、右手のショートソードが折れた。そのタイミングで悪魔はローキックを放ち、ロディマスは運悪く悪魔の足先で自分の足を切り裂かれた。脛に真横に刻まれた傷からは血が流れ、その深い傷が骨にまで達しているのが分かった。


 片膝をつき、抵抗する手段は弱い魔法と右手の折れたショートソードのみ。この状況でやっと悪魔はロディマスを殺す気になったようである。右手を針のように変形させ、ゆっくりとロディマスに近寄って行った。



「ロディマス様が、負けちゃった・・・」


「私たちどうなるの?ねぇマコちゃん!?」


「どないすんのー・・・」


 ロディマスとの付き合いが三か月以上にも及び、ロディマスが強くないと知っていた彼女らだが、それでも何かと知恵を絞り難題を解決してきた頼れる人物だと思っていた少女たちが、ロディマスの敗北を知り呆然となっていた。

 左足を切られ、左手もダラリとぶら下がり、右手の剣も折れている。そんな状況でも未だにロディマスの闘志は衰えていないように見えるが、それでも少女たちが絶望を感じるには十分な状況だった。


「フン。死ぬにしても、タダで死ぬものか」


 そんなロディマスの悲痛な言葉を聞き、少女たちが唖然とする。この期に及んでまだ逆転の手を持っているロディマスに驚いたのと、その手段が己の命と引き換えであると言う事を、だった。

 なお、ロディマスの最終手段は例の寿命を削る【ミドルブースター】である。これを用いれば悪魔にも手傷を負わせられるし、自身の身の回復も図れる。ただしマリーが言うには、相当に寿命を縮める行為だろうとの事。彼女が何を知っているのか細かくは聞き出せなかったものの、十分注意すべき魔法である事は理解が出来た。よって今の今まで使わずにいたのである。


「吠え面をかかせてやヌオ!?」


「やらせるかよ!!」


「その通りだ!!待たせたな、ロッディ!!」


 ロディマスが意を決したその瞬間、風のように現れたのは『勇者』レイモンドと、『異世界の勇者』タクヤであった。


 そして二人はロディマスと悪魔の間に割って入り、攻撃を行なった。

 同時に仕掛けたように見えたそれは、見事に息の合った連携だった。

 レイモンドが悪魔に正面から切りかかり、その隙を埋めるようにタクヤがけん制をする。重く大ぶりなレイモンドの一撃に、手数でフォローし、時に悪魔の退路を断つタクヤの攻勢。レイモンドが右へと立てば、タクヤは左を攻撃した後でレイモンドと同じ右へ移動し、攻撃の余波に巻き込まれないように立ち回る。

 右へ左へ、時には下がり間合いを取った上での突撃に、レイモンドの振りかぶった剣を見て悪魔の顔が引きつった。しかしその隙すらも見逃さないタクヤが果敢に攻め、その隙をさらに大きなものにする。


「レイに、タクヤか・・・。全く、遅いぞ」


「悪いな!でも言われた通り、雑魚は片づけた!あとは、任せてくれ!!」


「ロディマスは今のうちに手当を!ここは俺たちが!」


 そう言われ、ロディマスはなけなしの魔力を用いて出血を抑えるために【ヒール】を用いた。



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